幸運なノービス物語   作:うぼのき

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第21話 幸運な日

 いつの間にか雨が降り始めていた。

 窓に当たる雨の音が部屋に響き始める。

 プーさんが「雨だね~」と呟く。

 

「今度は僕が聞いていいですか?

 プーさんは何者なんですか?」

 

 僕の漠然とした質問に、プーさんはちょっと間を置いて、

 

「もしもプーちゃんが、すっごい悪者だったらどうする?」

 

「え!?」

 

 予想も出来ない返答に驚く。

 プーさんが悪者?

 何か秘密があるとは思っているけど、悪い人だと思ったこともなければ、考えたこともない。

 

 プーさんがいきなり僕の両手を握りしめてきた。

 そしてぐっと身体をさらに密着させてくる。

 胸が! 巨乳の胸が当たっていますよ!

 

「プーちゃんがすっごい悪者でもグラちゃんは味方になってくれる?」

 

 耳元で囁く悪魔の誘惑?

 吐息がかかっているし、顔を少しでも動かせば唇と唇が重なってしまいそうな距離だ。

 石になったように固まってしまう僕。

 

「くすくすっ! あははっ! 冗談だよ~冗談。

 もう~グラちゃんったらそんなに固くなっちゃって。

 ストーンカース唱えてないからね?」

 

 すっと身体を離したプーさんがケラケラと笑っている。

 本当にストーンカースで石になったような気分だ。

 プーさんの大爆笑で石化も解けたけど。

 

「プーちゃんが何者なのか。

 プーちゃんの天職はウィザードではなく、ハイウィザードなんだよね。

 グラちゃんの推測でほとんど当たっているよ。

 ウィザードの上位天職みたいなものだね」

 

「ハイウィザードになる時の詠唱に、「ユミルの書」という言葉がありました。

 ユミルの書とは何ですか?」

 

「う~~ん、上位天職を得るために必要なものだね。

 シュバルツバルト共和国の首都ジュノーにあるの。

 あれの本当の価値を知っている人がどれだけいるのか、それはプーちゃんにも分からないけど」

 

「プーさんはどうやってその本当の価値を知ったんですか?」

 

「……プーちゃんもね、夢の中で会ったことがあるの。

 オーディン様ではない、別の神様だけど」

 

「え!?」

 

 プーさんも転移者!?

 

「プーさん……ニホンって知ってますか?」

 

「ニホン?」

 

「い、いえ、何でもないです」

 

 転移者ではないのか。

 

「ニホンってところが、グラちゃんの本当の出身地なのかな~?

 そこがどんなところか分からないけど、同じく神様と会ったことがあるプーちゃんがもしかしたら同郷かも? って考えたんでしょ」

 

 その通りでございます。

 でも違うのか。

 プーさんの出身はゲフェンって言ってたよな。

 あれ? でもジュノーにあるユミルの書を読んでいるはずだ。

 本当の出身はジュノー?

 

「プーさんの出身はゲフェンではなくジュノーなんですか?」

 

「ジュノーではないわ」

 

 ジュノーではない。でもゲフェンだとも言わなかった。

 つまりゲフェンでもない。

 なら、いったいどこ出身なんだ?

 

 僕がこの世界にきた時、すでにアルデバランは陥落していた。

 僕が転移してくる半年前のことだ。

 アルデバランが陥落した以降は、シュバルツバルド共和国へ行く手段はなくなった。

 必ずアルデバランを通るからだ。

 

 プーさんがジュノーでユミルの書を見たのはいつだ?

 普通に考えたらアルデバランが陥落するよりもっと前だろう。

 その後にゲフェンかプロンテラに来ていたのか?

 

 あまり考えたくないケースが、プーさんがユミルの書を見たのがアルデバラン陥落後の場合だ。

 ボット帝国に支配された後にプーさんがジュノーでユミルの書を見て、そしてアルデバランを越えてプロンテラにいるってことは、プーさんはボット帝国のスパイということになる。

 

 プーさんがノービスの天職を得たのは、あの新人研修の時だったはずだ。

 それ以前はただの人。

 ただの人が、ボット帝国が占領しているアルデバランを越えてプロンテラにやってこれるわけがない。

 いや、でも神に会っているんだ。

 特別な力をもらっていれば可能なのか?

 

 思考がどんどん悪い方向に向かっている。

 プーさんを疑い始めている。

 プーさんがボット帝国のスパイなわけない。

 だってスパイならゴブリン村で僕を助けることなんてしないはずだ。

 あれ? でもボット帝国の戦士達がいる場所にあんなにタイミング良くプーさんが通りかかるなんてあり得るのか?

 だってゴブリン村だぞ? 何かのついでに通る場所ではない。

 ということは、僕を騙すために? やっぱりスパイ?

 

「くすくすっ。悩むグラちゃんも可愛いな~。

 もうちょっと悩むグラちゃんを見ていたい気もするけど、グラちゃんに嫌われたくないし~。

 だから1つだけ真実を教えてあげる」

 

 プーさんは顔を僕の顔の正面に持ってくると、優しい微笑みを浮かべて言った。

 

「プーちゃんはボット帝国のスパイなんかじゃないよ。

 ボット帝国はプーちゃんにとっても敵だよ。

 だから一緒にアルデバランを取り返そうね」

 

 プーさんはそっと僕の唇にキスをした。

 

 

♦♦♦

 

 

 夜の間に雨はすっかり上がったのか、太陽の光りが窓から差し込んでくる。

 僕は隣で寝ているプーさんを起こす。

 

「プーさん。プーさん。朝ですよ」

 

「ふにゃ~~」

 

 目覚めた場所はプーさんの部屋にあるベッドの中だ。

 昨日、僕達は大人の階段を上った……わけではない。

 

 生き地獄というものが本当にあることを僕は昨日知った。

 僕を抱き枕にして寝ると言っていたプーさんは、本当に僕を抱き枕にしたのだ。

 身体に押し付けられるプーさんの巨乳の柔らかさは最高だった。

 

 が、しかし。

 安全の確保のため、僕が少しでも妙な動きを見せたらストーンカースを唱えると言ってきたのだ。

 事実、夜中にちょっとだけプーさんの胸の谷間を覗こうと動いたら、プーさんは寝ながらストーンカースを唱えてきた。

 一晩中、プーさんの身体と巨乳の柔らかさに悶々としながら過ごす羽目になった。

 

 プーさんを起こすと1階の食堂で朝ご飯を食べて、僕はすぐにフェイさんの運び屋に戻った。

 今日は仕事が休みではない。

 昨日の休みの分まで働かないと!

 

 フェイさんは僕の身体の傷を心配してくれたけど、大丈夫ですと言って今日はフェイヨンまで荷物を運んでいった。

 荷物を運び終えて、フェイヨン近くで狩りをしていたら、ウルフカード、プパカード、ウィローカード、エルダーウィローカードと次々にカードがドロップした。

 こんな日もあるもんだな~と思って狩っていたら、プパからスロット4のガードがドロップした。

 

 キターーーーー!!

 

 プロンテラに戻ったらグラリスさんに預けている盗蟲の卵カードを早速刺そう!

 HP+400はノービスの僕にとって大きな効果だ。

 ボット帝国との戦いを考えると、盾にはタラフロッグカードは必須だろう。

 タラフロッグカードは人間型から受けるダメージを30%減にしてくれる。

 それとホルンカードか。

 ホルンカードは遠距離物理攻撃を35%減にしてくれる。

 残りの1枚は何を刺そうかな……。

 

 純粋にモンスター狩りを考えるなら、盗蟲の卵カードの他の3つは、ゲームで3減盾と呼ばれていた、タラフロッグ、ビックフット(昆虫型から受けるダメージ30%減)、オークウォリアー(動物型から受けるダメージ30%減)にしようと考えていた。

 それはそれで目指すとして、対人型の盾を優先に作るべきだろう。

 

 残り1枚に黄金蟲カード(魔法無効)かマヤ―カード(魔法を30%の確率で反射)を刺したいけど、さすがにボスカードを望むのは無理だろう。

 残り1枚はどうするべきか。

 

 

 フェイヨンの帰りに砂漠マップで子デザートウルフ狩りをした。

 するとスロット4のアドべンチャースーツきました!

 キターーーーー!!

 

 今日はいったいどうなっているんだ?

 この幸運を神に感謝(オーディンに感謝)した。

 スロット4のアドベンチャースーツに刺すカードは決まっている。

 

・ロッダフロッグカード:最大HP+400、最大SP+50

・プパ:最大HP+700

・ピッキ(殻付):最大HP+100 体力(小)

・ポリン:完全回避(小)

 

 ポリンを刺しているのはある理由がある。

 僕の装備が整っていけば、1人でも狩れるとある中ボスカード狙いだ。

 マスターリングなんだけどね。

 ポリンを取り巻きにしている、ちょっと大きなポリンである。

 カードはフードに刺すもので、効果も完全回避(小)の効果しかない。

 でもポリンを刺した装備とセットで装備することで、なんと回避(大)の効果を得られるのだ。

 

 効果の高いロッダフロッグもその意味では同じ。

 中ボスのトードカードと一緒に装備すると、同じく回避(大)のセット効果を得られる。

 トードカードもフードに刺すカードで、効果はマスターリングと同じく完全回避(小)である。

 

 ゲームでの対人戦、特にGVGと呼ばれる砦戦ではマルクカードが必須だった。

 効果は水属性攻撃の耐性5%アップと、絶対に氷化しなくなるというもの。

 これはウィザードのストームガストによって氷化することを防ぐためだ。

 

 ボット帝国の2次天職ウィザードの中にはストームがストを使ってくる者もいるかもしれない。

 でも氷化しないってことは、ストームガストの魔法を全段受けることを意味する。

 氷化してしまえば、ストームガストの魔法は無効となるからだ。

 

 これは悩ましいところである。

 HPの少ない僕はストームガストの魔法を全段受けるのも死、凍結してユピテルサンダーもらっても死、凍結したところを斬られても死。

 どっちも死が待っているのである。

 つまりストームガストをそもそも受けてはいけないのだ。

 

 魔法は絶対命中ではない。

 ストームガストは範囲指定魔法なのでその範囲から逃げればいいし、単体魔法も襲ってくる魔法を避けることができる。

 ただ恐ろしく速いので、僕以外の人で魔法を避けようなんて考える人はいないだろうけど。

 

 

 盾と鎧が揃ったので、後は肩と靴とアクセだ。

 武器は中級冒険者になったらスティレット製作してもらうわけだし。

 

 肩のフードに刺すのは、

・コンドル:回避(中)

・マスターリング:完全回避(小)※セット狙い

・トード:完全回避(小)※セット狙い

・ドラゴンフライ:俊敏(小)※セット狙い

 

靴のサンダルに刺すのは、

・チョンチョン:俊敏(小)回避(小)※セット狙い

・雄盗蟲:俊敏(中)

・ゾンビ:HP回復力(中)

・エギラ:SP回復力(中)

 

 アクセはそもそも入手が難しいので保留となっている。

 

 本当はウィスパーとか、レイドリックとか、マーターとか欲しいカードはいろいろあるんだけど、神力範囲内で狩れる安全なモンスターから考えていくとこうなった。

 

 ボスの月夜花カードの無限移動速度上昇とか、僕が装備したらいったいどんなことになるのか是非試してみたいところだけど、残念ながら神力範囲外なんだよな。

 

 フードとサンダルはどちらもコーコーがドロップするので、当分はコーコー狩りだな。

 

 

 プロンテラに戻ると、荷物を倉庫に出してすぐにカプラ店に向かった。

 グラリスさんに預けているカードをもらうためだ。

 スキップしてしまいそうな勢いでカプラ店の中に入っていく。

 

「いらっしゃいませ、グライア様」

 

 すぐにグラリスさんを呼んでもらい、2階の部屋に案内してもらった。

 

 スロット4のガードとアドベンチャースーツを見たグラリスさんは、さすがにちょっと表情を崩して驚いていた。

 1日に2つもスロット4の防具をゲットするなんて普通の人では絶対に起こりえないような奇跡だろう。

 しかもカードも今日だけで4枚ゲットしているのだから。

 

 浮かれながら話している僕を、グラリスさんは眼鏡の奥から鋭い眼差しで見てきた。

 え? そんな風に見てもあげないですから!?

 

「グライア様、折り入って頼みたいことがあるのですが」

 

「頼み?」

 

「はい。ここでは何ですから、今夜、私の部屋に来て頂けませんか?」

 

「え?」

 

 モテ期到来?

 昨日のプーさんに続いて、二日連続で女性の部屋にお呼ばれとか!?

 

「お待ちしております」

 

 グラリスさんは眼鏡をくいっ! と持ち上げて言った。

 

 

♦♦♦

 

 

 晩御飯を食べた後、何となく公衆浴場で身体を綺麗にしてからグラリスさんの宿に向かった。

 グラリスさんの宿というよりも、ここはカプラ嬢の人達が泊まっている宿である。

 宿そのものがカプラ社のものであるので、社宅ってやつだな。

 教えてもらった3階の302号室のドアをノックする。

 

 ガチャとドアを開くと、グラリスさんがいつものカプラ嬢の服を着たまま迎えてくれた。

 

「お待ちしておりました。どうぞ中へ」

 

「お、お邪魔します」

 

 ドキドキしながら、グラリスさんの部屋の中に入る。

 あの知的なグラリスさんの部屋はいったいどんな部屋なの……、え?

 

「こんばんは」

 

 美しい声での挨拶。

 グラリスさんの部屋には先客がいた。

 

 その人を僕は知っている。

 カプラ嬢のディフォルテーさん。

 カプラ嬢のリーダー的存在であり、カプラ嬢の「戦闘スキル」を持っていると噂されている人だ。

 

 それにしても、どうしてグラリスさんの部屋にいるんだ?

 そして僕を呼んだんだろう?

 

「突然このような状況で、グライア様を困惑させてしまい申し訳ありません。

 グラリスより、グライア様がとても素晴らしい冒険者であるとの進言があり、今日お呼びした次第でございます。

 まずは私達のお話を聞いて頂けませんでしょうか」

 

 素晴らしい冒険者であるとの進言。

 つまり僕のドロップ率のことだろう。

 ディフォルテーさんの言い方からして、ドロップ率そのものが異常であることを聞いているわけではなさそうだ。

 グラリスさんの性格からして、例え同じカプラ嬢でリーダー格であるディフォルテーさんであっても、僕のことを言うとは思えない。

 ま~僕が一方的に信用しているだけなんだけどね。

 

「今から私が話す内容に嘘偽りはございません。

 事実のみをお話いたします。

 ですが真実が何なのか、それは私達にも分かりません。故に事実のみとなります。

 私達カプラ社が数年に渡り調査を進めていた、ある事実です。

 事の始まりは、シュバルツバルト共和国の大統領カール・テオドール・ワイエルストラウス様の密書が、カプラ社の社長カプラー・コンスタンティー・アンドレビチ様に届いたことから始まりました」

 

 ディフォルテーさんは美しい声で静かに語り始めた。

 キッチンでグラリスさんが珈琲を入れているのか、ほのかな香りが漂ってきた。

 




装備考察が楽しくて、筆が進み1日に2回更新となりました。

ゲームではあり得ない組み合わせを妄想すると楽しいですね!


活動報告にも書きましたが、以前の話で一部変更があります。
以下、同じ文を書いておきます。


設定の甘さから、説明の辻褄が合わない部分が出てきてしまい、修正となりました。


第14話

ま、まさかティアさんはHP0の状態で狩りをしていたのか!?



ま、まさかティアさんはHP0の状態で神力範囲外で狩りをしていたのか!?


神力範囲外でという文が追加されています。
これは、ゴブリン村の狩りで神力範囲内でHPが0になると、強制的に身体が地面に伏す状態になると書いておきながら、ティアがHP0で狩りしていたと書いてしまっていました。


さらに!


第12話

神力範囲内ではベースレベル60台が限界だ。



神力範囲内ではベースレベル80台が限界だ。


神力範囲内での狩りでのベースレベルを上げられる限界を60台ではなく、80台に上げました。
申し訳ありませんが、ご了承ください。


この他にも設定の甘さはところどころ見れると思いますが、馬鹿だな~と軽く笑って流して下さい。
致命的な部分は、メッセージでそっと優しく教えて頂けると歓喜します。
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