ディフォルテーさんとの決闘当日。
場所は新人大会などが行われるコロシアム。
いくら払ったのか知らないけど、貸し切りらしい。
グラリスさんに案内されて、選手控室のような部屋に入る。
「15分後に開始となります。
……ディフォルテー姉様は強いですよ」
見るとグラリスさんは僕のことを心配してくれているようだ。
僕のドロップ率が異常であることを知っていて、秘密の羽への協力はスロット付き防具や、カード、素材、回復アイテムなどを提供してくれることを願っていたのだろう。
普通のノービスより強いと思っていても、僕が戦っている姿なんて見たことないし、僕に戦闘力を期待していなかったんだろうな。
「怪我しないように気を付けます」
「今日はHP0になったら負けで終わりですからね。
回復アイテムの使用も無しですし」
2度も神力範囲外で、HP0の状態で戦ったことがあるなんて人はそうそういないだろうな。
あっ……いるな……嬉々として戦っていそうな人が1人。
ま~やれるだけやるさ。
新しい愛剣と共に。
ホルグレンさんに製作してもらったスティレット。
最後に「クホホ」なんて呟くから失敗したかと思ったら、あれは単なる口癖だったのだ。
紛らわしい!
無事にスロット12のスティレットが完成。
貯めていた濃縮オリデオゴンを使って+10まですぐに強化した。
12個のスロットの内、すでに10個は埋まっている。
ウルフカード×4、スケルトンカード×4、ソルジャースケルトンカード×2だ。
ウルフカードは攻撃力(大)にクリティカル(小)の効果。
スケルトンカードは攻撃力(中)にスタン(小)の効果。
ソルジャースケルトンカードはクリティカル(大)の効果だ。
この3匹は共にフェイヨン方面に関連してくるので、フェイヨンへの荷物運びの際にずっと狙って狩っていた。
ウルフはフェイヨン近くのフィールドにいる。
スケルトンはフェイヨンダンジョンの地下1F。
ソルジャースケルトンはフェイヨンダンジョンの地下2F。
フェイヨンダンジョンは地下2Fまでは神力範囲なので、安全に狩ることができるのだ。
一番重要なソルスケカードはまだ2枚足りていない。
今度の仕事休みの時にフェイヨンダンジョンに籠るか。
狩りまくっていたコーコーからスロット4のフードは出た。
でもサンダルはスロット3止まりだった。
もともと刺せるカードが少ない靴で、安全に狩れるエギラを刺そうと考えたけど、SP回復力が上がったところで、応急手当と手紙ぐらいしかスキルを使わない僕にはほとんど影響ないのでスロット3でよしとした。
“あのスキル”頼りに神力範囲外の高難易度ダンジョンを散歩する趣味もないし。
僕の現状の装備は、
武器:+10スティレット
スロット12:ウルフ×4 スケルトン×4 ソルジャースケルトン×2
盾:+10ガード
スロット4:盗蟲の卵 ホルン
鎧:+8アドベンチャースーツ
スロット4:ロッダフロッグ プパ ピッキ(殻付) ポリン
肩:+9フード
スロット4:オークベイビー
靴:サンダル
スロット3:チョンチョン 雄盗蟲 ゾンビ
頭:ハット
スロット2:ウィロー エルダーウィロー
タラフロッグカードはまだゲットできていない。
イズルートダンジョンにも籠る必要がある。
2Fまでは神力範囲なので、こちらも安全に狩ることができる。
頭は靴以上に選択肢が少なく、とりあえずスロット2に2枚刺してある。
アクセのクリップは、ドロップモンスターであるアラームのいるアルデバランがボット帝国に占領されているので無理。
スロット付きロザリオを落とすミミックを狩るのも危険すぎて無理。
ベースレベルも38まで上がった。
兄貴村西でアイリスさんと一緒にハイオーク狩りしたので、かなりハイペースでレベルは上がっている。
このまま兄貴村が僕の住所となりそうだ。
でも僕は決してアイリスさんにハァハァすることはない。
だって当たり前のように太もも触れるから!
「お時間です」
グラリスさんと共に闘技場に向かう。
太陽の空の下に出ると……おや?
なんと観客席に見知った顔が。
どういうことだ?
「あの観客達は?」
「関係者ということでお呼びしております」
関係者ね~。
左の観客席にはナディアさんが座っている。
反対側の観客席には、ホルグレンさんとその隣にフェミニストな男性。
あれは誰だ?
「ホルグレンさんの隣に座っているのは誰ですか?」
「当社の社長でございます」
あれがカプラーさんか。
ホルグレンさんと仲良さそうに話しながら、僕と目が合うとにっこり笑って手を振っている。
一応カプラーさんが秘密の羽の総帥みたいな感じになるのか?
「ナディアさんも関係者?」
「秘密の羽のメンバーでございます」
なんと! ま~それなら仕方ないか。
闘技場の中央には既にディフォルテーさんが待っている。
その後ろの観客席には、他のカプラ嬢さん達がいた。
ビニットさん、テーリングさん、ソリンさん。
この3人にディフォルテーさんとグラリスさんを合わせた5人が、特に優秀だと評判なカプラ嬢である。
「本日はお手合わせよろしくお願い致します」
闘技場の中央に進むと、ディフォルテーさんがにっこりと挨拶してきた。
どこか余裕を感じさせる。
戦闘スキル持ちのカプラ嬢がどれほど強いか分からないけど、ノービス相手なら余裕と思っているのかな。
「こちらこそよろしくお願いします。
お手柔らかに」
お互い数歩後退して距離をさらに取ると、グラリスさんが審判を務めるようで手を上にあげる。
「始め!」
さて、そもそもカプラ嬢って何の武器を使うんだ?
スティレットとガードを構える僕に対して、ディフォルテーさんはまだ武器を見せてこない。
何か装備はしているんだろうけど、
どうやら僕が攻撃するのを待っているらしく、受けの姿勢だ。
それなら、遠慮なくいってみようかな。
僕は全力の半分ほどの速度で、ディフォルテーさんに向かって駆け出した。
舐めているわけじゃない。
相手の出方を伺うのだ。
あと2歩で僕の間合いに入るという時、それは“直感”だった。
何となく「やばい!」と思って、急激に横に逃げるように避ける。
ヒュン! と何かが僕のいた場所を通り過ぎる。
それは闘技場の石の床を軽く砕いていた。
マジですか!?
「速い……ですね。
初見でかわされたのは初めてかもしれません」
僕を称えてくれるディフォルテーさんの手に握られていたものは……鞭だった。
おいおい、カプラ嬢が鞭っていろいろ妄想しちゃうじゃないか!
「驚きました。
カプラ嬢の武器は鞭なんですか?」
「そうですよ」
にっこり笑いながら鞭を握りしめるディフォルテーさん。
うう……今度女王様プレイとかしてくれないかな。
「これならどうでしょう」
鞭を後ろに振りかぶると、絶対に届くはずのない距離なのに僕に向かって鞭を振ってき……。
「うお!」
これまた間一髪!
鞭から放たれていたものを、何とか避けた。
「私の方こそ驚きです。
身体の中心に向かって放ったのに……頭でしたら、頭を動かすことで避けることも可能でしょう。ですが身体そのものをあの一瞬で移動させるなんて……今の動きが最速ですか? それともまだ速くなるのでしょうか?」
「どうでしょうね……」
鞭から放たれたのは矢だった。
矢を鞭で巻いて放つのか。
防戦一方は面白くない。
僕も仕掛けていくか。
「いきますよ?」
本気の最速で駆け出す。
ディフォルテーさんの目が大きく開き、驚愕しているのが見える。
僕をとらえようと振った鞭は、僕の残像だけとらえて空を切る。
一瞬でディフォルテーさんの後ろを取った僕は、スティレットを首に向けて。
「チェックメイト」
静寂に包まれた闘技場に、拍手が響く。
パチパチと拍手をしているのはカプラーさんだ。
「いや~素晴らしい!
素晴らしい動きだね!
君はノービスと聞いていたけど、アサシンがノービスの衣装を着ているわけではないよね?」
「僕は正真正銘ただのノービスですよ」
ディフォルテーさんだけじゃない。
観客席にいる他のカプラ嬢も、そして僕の担当で審判をしているグラリスさんも驚きを隠せない表情で僕を見ている。
そしてナディアさんもね。
ホルグレンさんはカプラーさんと同じく、面白そうな顔で僕を見ていた。
「ディフォルテーでは相手にならないだろう。
でもまだまだ君の力を見てみたい!
そこでどうだろう、ちょっと変則的ではあるが、他のカプラ嬢を参戦させてもいいかな?
君にとっては複数を相手にすることになるが、あの動きならかなりいけると思うんだよね」
カプラーさんがにやにやしながら提案してくる。
僕の力を見るだけならもう十分だろうけど、せっかく闘技場を貸し切ったんだ。
これで終わりでは面白くないのかな。
「いいですよ」
僕の返事にカプラーさんがチラリと観客席にいるカプラ嬢を見る。
すると、ソリンさんが闘技場に上がってきた。
「よろしいので?」
「はい」
グラリスさんの確認に頷くと、再び始めの合図が響く。
「はぁぁ!」
ソリンさんが突進してきた。
手に持っているのは片手剣?
あれ? カプラ嬢の武器って鞭以外にもあるの!?
しかも……
「バッシュ!!」
驚いて避けるのを忘れて思わずガードで防いでしまった。
バッシュって!? え? ソードマン? ナイト? え? え!?
驚く僕にソリンさんは素晴らしい剣技で斬りかかってくる。
動きも速い。
上級冒険者のナイトだと言われても信じてしまうぞこれは。
カウンターで僕が攻撃すると、ソリンさんの左手にシールドが現れて防がれた。
カプラ嬢はぎりぎりまで武器と盾を隠すのか?
シールドを持つソリンさんの後ろから、伸びて僕を襲ってくる黒い影。
ディフォルテーさんの鞭だ。
「くっ!」
強引に身体をひねり鞭をかわすと、ソリンさんが再びバッシュで斬りかかってくる。
後方に大きく飛んでバッシュをかわしながら距離を取った。
片手剣にシールドという装備からソリンさんの方がHPは高そうだ。
最初にディフォルテーさんを狙うか。
「うおおおお!」
ソリンさんに向かって突きを出す。
シールドで防ごうとした瞬間、後ろに隠れているディフォルテーさんに向かって駆け出す。
ソリンさんは僕の速さについてこれてない。
ディフォルテーさんも、ソリンさんの横からいきなり出てきた僕に対応できていない。
もらった!
ソリンさんの横を通り過ぎる僕の耳に、ソリンさんの声が聞こえた。
「ディボーション!」
聞いたことのないスキルに一瞬気を取られるが、今はディフォルテーさんを倒そうと斬りかかった。
が、しかし!
カン!
妙な手応え。
ディフォルテーさんを斬ったはずなのに、まるで別の何かを斬ったような手応えた。
これはいったい。
見上げるとディフォルテーさんが笑みを浮かべながら、鞭を振り下ろしていた。
「はぁはぁ」「はぁはぁ」
肩で息をしながら額の汗を拭く。
ディフォルテーさんとソリンさんがね。
ディフォルテーさんが僕をとらえた一撃は、幸運にも加護の回避により無傷で済んだ。
命中に自信があったのか、回避されたことを信じられないと呟いていた。
しかし信じられないのはこっちだよ、まったく。
ソリンさんの謎のスキル「ディボーション」は、僕の推測ではそのスキルをかけた対象のダメージを自分が受けるようにするスキルだろう。
ディフォルテーさんを攻撃しても、そのダメージが全てソリンさんにいってしまう。
しかも……。
「ヒール!」
ソリンさんはヒールまで使えるときたもんだ。
天職カプラ嬢のスキル構成ってどうなってんだ?
2対1となり膠着状態となってしまった戦いは、ソリンさんのSP切れを待って僕がひたすら2人の攻撃を避けながら、チクチクと2人を斬っていた。
僕はまだまだ余裕だけど、2人はさすがに疲れたのか息が上がり始めた。
観客席ではカプラーさんが「素晴らしい!」を連呼し、ナディアさんからは睨まれ、ホルグレンさんは楽しそうに見ている。
「君は本当に素晴らしいね! どうだろう? もう1人追加してみては!」
カプラーさんが1人勝手に盛り上がっている。
さすがにもう1人追加されたら、複数相手による加護の回避低下もあるし厳しくなってしまう。
でもまあ、勝つことが目的じゃないし別にいっか。
「どうぞ、ご自由に」
「素晴らしい! 君は本当に素晴らしい!」
カプラーさんはチラリと観客席……ではなく、グラリスさんを見た。
その視線に気づいたグラリスさんは一瞬驚いた表情を浮かべるも、すぐにディフォルテーさんの近くへ。
「よろしいですか?」
「グラリスさんも戦闘スキル持ちだったんですか?」
「……はい」
この場にいるカプラ嬢全員が戦闘スキル持ちだなこれは。
つまり数多くいるカプラ嬢の中でも、この場にいる5人が戦えるカプラさんってわけだ。
「グラリスさんの武器はまた違うのかな?」
「私はディフォルテー姉様と同じく鞭です。
というより、ソリンだけが特別なんですよ」
ソリンさんだけ特別。どういう意味か分からないけど、これで伸びて襲ってくる鞭が2本になるわけだ。
カプラ嬢3人は顔を合わせて頷くと、僕に向かって構えてじりじりと距離を詰めてくる。
さて、これはもう避けることに集中するしかないな。
3人の攻撃を避けることができれば、カプラーさんも文句ないだろう。
いつソリンさんが突進してくるのか、意識を集中していた時だ。
グラリスさんの大きな声が響いた。
「スクリーム!!!」
その瞬間、スタンの状態異常に陥った。
意識はあるけど身体が動かない。
ソリンさんが一気に突進してきている。
「バッシュ!!」
渾身のバッシュも加護の回避で僕は無傷。
横からディフォルテーさんの鞭がうなる。
バシィィン!
これは回避できなかった!
でも一撃でHP0にはなっていない。
HPアップのカードのおかげだな!
スタンの状態異常は数秒で解けた。
すぐに距離を取ろうとした時だ。
ディフォルテーさんが舞いと共にスキルを唱えた。
「私を忘れないで!」
ガクンと身体が重くなる。
な、なんだこれ!?
「ハミング!」
グラリスさんも同じく舞いと共にスキルを唱える。
ディフォルテーさんとは違うスキルだ。
これの効果はなんだ!?
動きが鈍くなった僕にソリンさんがバッシュを打ち込んでくる!
「バッシュ! バッシュ! バッシュ! バッシュ!!」
今までソリンさんの攻撃は当たっても加護の回避で無傷だったのに、バッシュを3連続でもらってしまった。
最後のバッシュは回避したのではなく、SP切れで実際にはスキルが発動していなかった。
ソリンさんのバッシュに重ねるように、2本の鞭が僕に襲いかかってきて、その攻撃も回避することなく全てもらってしまった。
そして僕のHPは0となっていた。