幸運なノービス物語   作:うぼのき

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第3章
第25話 馬乗り


 最高難易度ダンジョン「グラストヘイム」。

 ここで狩りをするとなれば、強豪ギルドが大人数PTを組んで狩りを行うことになる。

 例外的に神力範囲外で狩りを行う冒険者達がたまにいるそうだが、僕らはその例外的な部類に入るのではないだろうか。

 

 僕らの戦力は僅か3PT。

 しかもそのうち1つは僕がリーダーのPTであり、幸運なドロップ率でレアアイテムを狙うためPT人数はたった4人である。

 残りの2PTは12人とフル人数だ。

 

 今回の狩りには「ダンデリオン」の人達も参加することになった。

 アルデバラン奪還作戦時には協力してくれることになっている人達だ。

 そしてプーさんが所属する組織でもある。

 

 その幹部連中はみな神力範囲外で狩りを行う実力者揃い。

 そのことを聞いた時、もしかしてみんなプーさんみたいに2次天職の上位職持ちなのか? と思ったけど、そのことは秘密とプーさんと約束しているので何も聞かなかった。

 カプラーさん達が2次天職の上位職の存在を知っているのかどうか分からないが、僕から話すことはできない。

 プーさんが自分から話してくれるといいんだけど。

 

 第1PTのリーダーはなんとカプラーさん。

 カプラーさんも実は戦闘スキル持ちだったのだ。天職はカプラ執事という職だ。

 主に楽器を奏でて戦うという特殊なスタイルの天職で、補助的なスキルが多かった。

 その中でもブラギの詩というスキルはかなり強力だ。

 一定範囲の味方のスキル詠唱時間を短縮してくれるので、ウィザードとの相性が抜群に良い。

 さらに、真の力はカプラ嬢達の踊りと合わさった合奏スキルといわれるもので、様々な効果を発揮してくる。

 第1PTはカプラ社と秘密の羽のメンバーで構成されており、アイリスさんとナディアさんも第1PTだ。

 アイリスさんはハンターの天職を得ているし、ナディアさんはナイトの天職を得ている。

 

 第2PTのリーダーはレイヤン・ムーアさん。

 ターバンと外套を着ているので、どんな人かよく分からないが声からしてまだ青年と思われる。

 ダンデリオンの実力者で天職はアサシンらしい。本当はアサシンの上位職なのかもしれないけどね。

 その他のメンバーもダンデリオンで構成されている。

 プーさんももちろんここだ。

 

 そして問題の第3PT。

 リーダーは僕。

 メンバーは、グラリスさん、ソリンさん、そしてティアさんだ。

 

 ティアさんが僕のPTとなった。

 プリーストはいた方がいいだろうということで。

 

 ティアさんはプリーストの天職を得ている。

 明日のグラストヘイムの狩りに備えて、今日はゲフェンの宿に泊まるのだが、久しぶりに今からティアさんと会うことになっている。

 ナディアさんやアイリスさんから聞いている限りでは、「普通」に戻ってきているらしいのだが……。

 

 僕の部屋に集まって明日の打合せを行うことになっている。

 女性が3人も自分の部屋にやってくると思うと、ちょっと緊張してしまうな。

 

 コンコン、とドアをノックする音が聞こえたので「どうぞ」と声をかけると、ドアを開けて入ってきたのは……ティアさんだった。

 し、しかも……目隠ししていない。

 足鎖も鉄球も引きずってない。

 あ、あれ? 本当に普通だぞ。元の清楚で可愛らしいティアさんに戻った?

 

「お、お久しぶりです」

 

 おそるおそる声をかけると、

 

「お久しぶりです」

 

 おお! 普通だ! 普通に返事してくれたよ!

 よ、よかった~。元に戻ったんだ。清楚で可愛いティアさんが戻ってきたんだ!

 

 いや、ただ戻ってきただけじゃない。

 あいかわらずのビックマウンテンに、どこかエロティックなプリーストの服を着たティアさんは妖艶なフェロモンを漂わせている。

 どうしてプリーストの衣装はこんなにもスリットが深いんだ?

 なぜだ……何がそうさせるのか……。

 

「プリーストの天職おめでとうございます。

 ティアさんならきっとプリーストになれると思っていました」

 

「ありがとうございます。これも全て主の導きのおかげです。

 プリーストの天職を得たいま、身も心も主に捧げ、主のために生き、主のために私の力を使っていこうと思います」

 

 なんて信仰深い聖職者なのだろう!

 こんなに素晴らしい信者を持ったオーディンは幸せ者だな。

 

 僕のことを優しい微笑みの笑顔で見つめてくれるティアさん。

 あの新人大会の時の姿が嘘のようだ。

 どこから見ても立派なプリーストである。

 スキルもちゃんと回復補助系を取れているのかな?

 

「1つお聞きしたいことがあるのですが……」

 

 ティアさんが僕の側に寄ってくると、隣に立って聞いてくる。

 打合せのために椅子は人数分用意してあるから座ればいいのに。

 

「なんですか?」

 

「アイリスさんから聞いたのですが……その、アイリスさんと一緒に狩りをされた時、アイリスさんを肩車していたとか……本当でしょうか?」

 

「あ、いや、それは……」

 

 あれ~? なんでそのこと知っているんだ?

 アイリスさんが喋ったのか? でも本人も恥ずかしいとは思っているようだったから喋るとは思えないんだけどな。

 

「アイリスさんから聞いたんですか?」

 

「はい。先日ご一緒にご飯を食べた時、アイリスさんが珍しくお酒を飲まれてその時に……」

 

 あ~お酒か。

 アイリスさんはまったくお酒が飲めない。

 ドワーフって酒豪なイメージだけど、アイリスさんは違う。

 実際、酒豪なドワーフは多いそうだ。でも全員が全員そういうわけではない。

 納豆が嫌いな日本人がいるように……そう僕のことである。

 

「そうでしたか。確かにアイリスさんと狩りをする時に肩車をして狩りをしたことはありますね。ほら、アイリスさんって小さいじゃないですか。それで僕が肩車して逃げ回っている間に、弓で攻撃してもらってモンスターを倒していたんですよ。

 ま~最近はまったくしていませんけどね」

 

 当時はかなり有効な戦法だったと思う。

 僕も今ほど装備は充実していなかったし、戦う技術も高くなかった。

 アイリスさんの危険三角地帯と太ももの感触に魅かれていたのも事実だけど。

 

「そうでしたか……」

 

 ティアさんはどこか寂しそうな表情だ。

 変態とか思われちゃったのか?

 今まで好意的に思っていた相手が実は変態だった! とショックを受けているのだろうか。

 ティアさんは僕の顔を真剣に見つめながら、

 

「お願いがございます」

 

 

♦♦♦

 

 

 いま僕はドアを開けて固まっているグラリスさんとソリンさんと見つめ合っている。

 どうしてこうなってしまったのだろう。

 ああ……普通に戻っていると思ったら、全然そんなことなかったのだ。

 

「お邪魔でしたね。出直してきましょうか」

 

「そ、そうね……そうしましょうか」

 

「ち、違うんです! ま、待って!」

 

 何が違うのか、僕にも分からない。

 この状況を見られたいま、何を言っても説得力なんてないだろう。

 ドアをノックする音を聞き逃したのが致命傷となってしまった。

 いや、正直言うとちょっと興奮してしまい、完全に意識がこっちに集中してしまっていたのだ。

 

「ああ……主よ。私は幸せ者です。は、早く、私の首に……」

 

 四つん這いになって僕を背中に乗せているティアさんが恍惚な表情で嬉しそうな声を上げている。

 

 

 僕がアイリスさんを肩車していたことを知ったティアさんは、逆に僕を背中に乗せたいと願い出てきたのだ。

 僕は最初、頭の上に?マークが出ていた。ティアさんが何を言っているのか本当に一瞬理解できなかった。

 まだ、自分も肩車して欲しいと言ってくれた方が理解も出来ただろう。

 

 ティアさんは床に四つん這いになった。

 そして「主よ! 私にどうぞお乗りになって下さい」と言ってきたのだ。

 

 この時、僕はティアさんの言う「主」が僕のことだと気付いた。

 てっきり神に祈りを捧げる聖職者かと思ったら、僕に祈りを捧げる聖職者になってしまっていたとは!

 そんな状態でもプリーストの天職を得ることが出来たのも驚きだけど。

 

 どうにかティアさんを説得出来まいかと頑張ってみたものの、ティアさんはどうしても僕を乗せたいと言うことを聞いてくれない。

 主の言うことを聞かないとか、それはそれでどうなんだ? と思う。

 しかし、そこは僕も男である。

 床に四つん這いになって、ちょっとお尻を振りながら、乗って欲しいなんて言われた日には、そりゃ~そうしたい! と思うわけですよ。

 ティアさんに、1回だけですからね? と言いながら、ついつい乗ってしまったのだ。

 

 なんていうか興奮してしまった。

 四つん這いの女性の背中に乗っていることに。

 しかも、ティアさんはアイテムボックスに入れていたのか、首輪を取り出してきた。

 

「これを私の首に……」

 

 その首輪からは鎖が伸びており、まるで手綱だ。

 こ、これはいかん! とさすがに僕の理性が働いた。

 でも興奮もしてしまった!

 

 鎖の手綱付き首輪を手に持ちながら興奮していた時だ。

 いつの間にかドアが開き、そこにはグラリスさんとソリンさんが立っていたわけである。

 

 

 2人が僕を見る目が痛い。

 グラリスさんは眼鏡をくいっ! と持ち上げて「そういうプレイがお好みなんですね」なんてボソッと呟いていた。

 ソリンさんはグラリスさんの背中に隠れて、顔を赤くしながらチラチラとこっちを見ている。

 知らない世界を見てしまった! みたいな感じなんだろうな。

 

 僕はそっとティアさんの背中から降りて椅子に座った。

 ふぅ~っと息をついて、何事もなかったように、

 

「明日の打合せをしましょうか」

 

 自分の胆力を少し褒めたいと思った。

 

 正気? に戻ったティアさんが椅子に座り、おそるおそる部屋に入ってきたグラリスさんとソリンさんも何とか椅子に座ってくれた。

 こうして何とかグラストヘイムでの狩りについて打合せを行うことができたのである。

 

 

 グラストヘイムでの狩りは1日ではない。

 予定では5日間行うことになっている。

 最初の2日間、3PTは一緒にグラストヘイムの各地を回る。

 グラストヘイムで狩りをしていた者達もいるので、お互いの情報を交換したり、確認したりする。

 また初めての者はこの2日間でグラストヘイムのことを学ぶ。

 

 3日目と4日目は、PTごとに分かれて各地を回る。

 つまり僕達はたった4人で回るのだ。

 最初の2日間で、誰よりも真剣に学ばなくてはいけないのは、間違いなく僕達だろう。

 僕だけじゃなく、ティアさん、グラリスさん、ソリンさん達もみんなグラストヘイムでの狩りは初めてなのだ。

 

 最後の5日目はメンバーを入れ替えて回る予定らしい。

 これは4日目が終わってからメンバーを考えるそうだ。

 

 神力範囲外なので、危なくなったら蝶の羽で離脱する。

 セーブポイントはゲフェンにしてある。

 狩りの失敗も想定しているので、とにかく死なないことを最優先にする。

 

 打合せでは、お互いの戦闘能力を確認していった。

 特にティアさん。いったいどんな風に成長したのか聞いてみたら……、

 

 ニュマあり。

 ヒール10、ブレス10、速度増加1、速度減少10、キュア、エンジェラス3、聖水。

 リカバリー リザレクション1 LD5 LA。

 

 プリーストのジョブレベルは15らしいから、恐らくSP回復力向上かメイス修練のパッシブが上がっているのではないだろうか。

 

 速度増加1が残念すぎる。

 そして速度減少10って……。普通ここ逆じゃね?

 

 アコライト時代は殴りアコだったし、Str型と思われるティアさんには速度増加で俊敏を上げるよりも、相手の動きを鈍らせる速度減少の方に才能が目覚めてしまったのかもしれない。

 それでも足鎖や鉄球を引いていたので、加護ではなく人として俊敏はそれなりに高いだろうけど。

 

 む……Str型?

 

「ティアさん……HPとSPって装備無しでいくつですか?」

 

 ティアさんのベースレベルは67。

 HP2800のSP600ぐらいだった。

 マニピも覚えてないし、これは装備で補強しないとSP切れの心配が高いな。

 僕が貯めている青ポーションとか、ユグ種、ユグ実を渡しておいた方がいいかもしれない。

 

 グラストヘイムで僕の幸運ドロップ率で期待されているのは、レイドリックカードだ。

 これは無属性攻撃の耐性をアップするカードで、対人戦で役に立つ。

 もちろんその他のカードやスロット防具にオリデオゴンやエルニウムとかも期待されているけどね。

 

 そのため、3日目と4日目はグラストヘイムで「騎士団」と呼ばれる場所で狩りを行う予定になっている。

 レイドリック以外にも強敵揃いなので今回はさすがに僕1人でずっと戦うことはない。

 グラリスさん、ソリンさん、そしてティアさんも攻撃に回ってもらう。

 レイドリックは出来るだけ僕1人で倒すという作戦だ。

 

 騎士団は1階と2階があるけど、1階で狩りをする。

 2階には「深淵の騎士」という強敵や「ブラッディナイト」という強いボス級モンスターがいるからだ。

 

 打合せも終わり、グラリスさんとソリンさんが部屋を出ていく。

 が、ティアさんが出ていこうとしなかったので、慌ててグラリスさん達を呼び止めて、一緒にティアさんを連れていってもらった。

 どうもまた僕に乗って欲しかったようだけど、僕も変な趣味に目覚めてしまう可能性を否定できないので、とにかくお引き取り願った。

 

 

 翌日、朝早くにゲフェンからグラストヘイムに向かって全員で出発した。

 ちなみにワープポタールは使えない。

 ワープポタールはゲームとは違う仕様なのだ。

 ワープポタールは登録した教会内にワープするスキルとなっている。

 好きなフィールドの地点にポイントを設置することはできない。

 また教会内をポイントとして登録するにも、その教会の神父さんの祝福を受けないと登録できないのだ。

 ワープポタールのスキルレベルが高いほど、登録できる数は増えていく。

 

 また誰でも教会内をワープポイントとして登録できるわけではない。

 プリーストの天職を得てワープポタールのスキルを得ていても、ギルドなどで信頼できる冒険者と認められなければ登録は拒否される。

 ボット帝国のスパイとかに登録されたら大変なことになるからね。

 

 

 グラストヘイムまで僕達の移動速度なら5時間ほどだ。

 僕1人なら1時間で行けるだろうけど。

 グラストヘイムの外のフィールドでテントを張るので運ぶ物資も多い。

 なので荷物運び用のブラックスミスがいると聞いていたけど、それがまさかマルダックさんだったとは。

 

 マルダックさんはつい先日、ブラックスミスの天職を得たそうだ。

 なのでまだジョブレベル3。

 僕達の知り合いということで白羽の矢が立ち、ホルグレンさんの指示? 脅迫? によって秘密の羽にも入っている。

 

 ちなみにホルグレンさんも第1PTに入っている。

 カプラーさん曰く、かなり強いらしい。

 

 ここにカリス君とグリームさんがいれば、新人研修の時のPTメンバー全員がいることになるのだが。

 カリス君は騎士として国が用意した神力範囲外の訓練所で鍛錬しているそうだ。

 グリームさんはカリス君のギルドを抜けた後、アサシンの天職を得るためにモロクに向かったところまでは行方が知れているけど、その後のことは分からない。

 モロクの街で見かけたという情報はあったので、元気にやっていることを願うばかりだ。

 




第3章開始となりました。

更新頻度は早いと3日程度、遅いと1週間から10日程度の予定です。
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