道中はなんの問題もなく、グラストヘイムに到着です。
コボルトやプティットと遭遇したけど、これだけの実力者が揃っているのだから瞬殺である。
そもそもテントを張るのはこのプティットが生息しているフィールドだ。
見張り番を置いて当然に撃退できるからこそテントを張れるのである。
マルダックさんを含めた荷物持ちと見張り番役の人達は、ここプティットフィールドで狩りを行うことになっている。
ここは神力範囲内なので安全だしね。
ボット帝国に注意しつつ、僕達が戻ってくるまで、ここで狩りをしてレベル上げを頑張ることになる。
僕達はすぐにグラストヘイムの中に入っていった。
まずは玄関となるフィールドがある。
ここから古城、騎士団、階段、修道院などの場所に入っていく。
まずは古城に行った。
ウィスパー、セージワーム、ライドワード、ダークフレーム、ジェスター、ジョーカー、アリス、カーリッツバーグ、オウルデューク。
そして魔剣モンスターのオーガトゥースまでいる。
まさに強敵揃いである。
しかし、僕達は順調に狩っていく。
ゲームとは違い広大な城の内部と、そこに存在するモンスターの数は想像以上に少ない。
1匹でいることもあるし、多く集まっても3~4匹程度である。
当然、瞬殺となる。
もちろんここまで簡単に倒せるのは、メンバー1人1人の質が異常に高いというのもある。
みんなの動きを観察すれば、自分がどれだけ未熟かよく分かる。
もちろん、単純なスピードなら誰にも負けない自信があるけど、ただ速いだけではダメなのだ。
戦闘経験豊富な人達に囲まれる安心感はすごく、ここが神力範囲外だと忘れてしまいそうだ。
しかしここはまぎれもなく神力範囲外であり、HP0の状態で攻撃を受ければ死んでしまう。
気を抜くことなく、みんなについていった。
古城は2階もあるのだが、こっちは入り口付近を軽く見るだけとなった。
なぜなら、ここには悪魔が住んでいるから。
羊の悪魔バフォメット。
ゲームでも凶悪なボスモンスターである。
戦えば僕達が全滅してもおかしくない相手だ。
古城の後に地下監獄、修道院や、騎士団、階段と次々に見て回る。
ボス級モンスターがいるような場所は、入り口付近を軽く見るだけ。
今日と明日はお互いの連携を確認しながら、グラストヘイムでの狩りの経験のない者に経験を積ませるのが目的である。
無理はしない。
無理はしない、けど3日目から必然的に僕達は無理をすることになる。
レイドリックが1匹でいるのを見て、僕は1対1で戦わせて欲しいと願い出た。
今さら僕の動きをダンデリオンの人達に隠す理由もないので、本気で戦った。
結果は僕の圧勝だ。
クリティカルもよく出てくれたし、僕の攻撃速度はゲームの神速型のような攻撃速度を本当に再現している。
レイドリックの剣もよく見えて、かわすことに何の問題もない。
1対1なら余裕だ。
問題は倒すまでの時間がやはり少しかかることだろう。
ノービスがレイドリックに圧勝するのも異常だし、倒すまでにかかっている時間もノービスで考えれば異常なほど速い。
でも僕達にとっては問題だ。
僕1人で全部の敵を倒すのはやはり難しいと判断して、2匹目がきた時には即座にソリンさんに攻撃してもらうことにした。
3匹目はグラリスさん、4匹目は僕が2匹同時に引き受ける。
5匹目まで来てしまった時は、ティアさんに5匹目をお願いした。
まあ2匹目はソリンさんがタゲ維持で、グラリスさんとティアさんもすぐに攻撃する予定なので、そこまで多く敵を抱えることはない、と思いたい。
攻撃力だけみたら、もしかしたらティアさんが一番高いかもしれないけど、一応プリーストなので支援に専念してもらうことにした。
SP切れの際には遠慮なく使ってね、と青ポーションとか渡してあるし大丈夫だろう。
支援に専念することで、今後のティアさんの成長がプリーストらしい成長になることを祈るばかりだ。
腕試しに倒したレイドリック1匹目からS3メイルとエルニウムがドロップしてしまい、こんなこともあるんですね~ははは、とダンデリオンの人達には笑って誤魔化しておいた。
ティアさんが「さすがは主です」と言っているのを聞いて、そういえばティアさんに僕のドロップ率のことを話すのを忘れていたことを思い出した。
今夜にでも話そうかと思ったけど、そうなるとダンデリオンの人達がいない場所にティアさんを連れていかなくてはいけない。
またティアさんが暴走する機会を作ってしまうことになりかねないので、「さすがは主です」で済まされるならそれでもいいかな~なんて考えてしまっている。
地下水路と呼ばれる場所には行かなかった。
特に最下層と呼ばれる場所に近づくと「スティング」という危険なモンスターがいる。
泥が人間の手のような形を作っているモンスターなのだが、こいつが異常なほど強い。
ゲームではマジシャンやウィザードがファイアーウォールを使ってソロ狩りすることで、とんでもない経験値効率を得られるモンスターだけど、それはハエの羽なので飛び回りながらの狩り前提の話である。
場所もかなり奥に進む必要があり、今回の狩りでは行かない場所となっている。
地下水路の奥の最下層には「ごっついミノタウロス」と呼ばれるこれまた強いモンスターがさらにいるのである。
無理をしない狩りを続け、1日目と2日目が終わっていった。
何度か大量のモンスターが襲いかかってきて、ひやっとした場面もあったけどみんな冷静に対処して問題無く倒していった。
ホルグレンさんがアイテムを積んだカートをぶん回していたのが印象的だった。
あれは何かのスキルなのかな?
2日目の夜。
明日からPTごとに分かれて狩りをすると思うと、緊張と興奮でなかなか眠れない。
ちょっと夜風に当たりに行こうとテントを出た。
「どちらへ?」
見張り番の人に声をかけられる。
ノービスの僕が1人でどこかに行くのを心配しているのだ。
一緒に狩りしてないので、僕のことをよく知らないのだろう。
「ちょっと夜風に当たってきます」
「ですが……」
「私も一緒に行くわ」
僕達の後ろから女性の声。
ナディアさんだった。
「私もちょうど夜風に当たりに行こうかと思っていたの。私が一緒ならいいでしょ?」
「は、はい!」
見張り番の人も納得したらしい。
ナディアさんが歩き始めたので、後ろからついていった。
このフィールドは草原が広がっているだけで特に何もない。
プティットは夜寝るらしいので静かなものだ。
見上げると空には星が輝いている。
この世界には太陽と月があり、そして星がある。
川沿いまで歩くと、ナディアさんが止まった。
「明日からPTごとに分かれて狩りね。
そっちは大変ね。貴方のドロップ率でアイテム収集するための少人数PTとはいえ、もう少し人員を割いてあげてもいいのに。
クァグマイアを使えるウィザードを1人、そっちに配置するべきだってカプラーさんに言ったんだけど……「グライア様なら問題ありません」だって」
「あはは。ずいぶん信頼されちゃってますね。
所詮はノービスなので過度に期待されても困っちゃいますよ」
「所詮はノービスなんて動きじゃないけどね。
新人研修の時に貴方の動きを見た時は、正直ひどいと思ったけど、今は違うわ。
1対1で戦って貴方に勝てる気がしないもの」
「そ、そうですか?
でもこの2日間でナディアさんの戦いぶり見ましたけど、すごかったですよ。
PTリーダーはカプラーさんだけど、ナディアさんの動きに合わせてPTが動いているって感じました」
「ありがとう。
本当なら、あいつとの結婚を賭けた砦戦があったはずだからね。
指揮することに関しては、ちょっとは自信あるのよ」
「カリス君、今ごろどうしてるでしょうね」
「国が作った神力範囲外の戦闘訓練所で、お稽古しているでしょう。
あんなところで訓練したって無駄よ。
私も一度行ったことあるけど、あれで命を賭けた戦いに臆することなく挑めるとは思えないわ。
まあ、私も明日からが本番だけど。
この2日間はみんなに守られていたからね」
「アルデバランを取り返したら、カリス君と結婚を賭けた砦戦って行うんですか?」
「その予定だけど、実際にはアルデバランの先のシュバルツバルド共和国がどんな状態なのかによるわね。
砦戦なんかしている場合じゃない、ってなれば延期になるでしょうし。
別に延期は全然構わないわ。それまでは間違いなくあいつ結婚することないのだから」
「カリス君って確かにプライド高くて女性好きに見えますけど、そんなになんですか?」
「ええ、それはもう……」
それからナディアさんから、カリス君がいかに変態なのか聞かされることになった。
小さい頃から大貴族の長男としてプライドが高く、外面は好青年だけど、本性は傲慢で女好き。メイドの子達に手を出したり、気に入った街の娘に手を出したり。
剣の腕は確かなだけに、非常に残念なことである。
カリス君の話をするナディアさんの顔が怒りに染まっているのを見て、ここまで嫌われているのにカリス君はナディアさんと結婚したいのかな? と疑問に思ったが、貴族の結婚は様々な事情で好きでない相手と結婚することもあるのだろう。
「ところで、貴方こそティアをどうするの?」
「え? ど、どうって言われても」
「いろんな女性にフラフラしているようじゃ、貴方もカリスと同類に成り下がるわよ。
気をつけなさい。
ティアは恋愛というより、崇拝の対象として貴方を見てしまっているから、貴方が誰と結婚しようと関係ないかもしれないけどね」
崇拝か……それも勝手に崇拝されちゃったんだよね。
僕の知らないところで、僕のことを勝手に神格化? してしまったティアさん。
どうしてこうなった!?
ティアさんの行く末を案じていた時だ。
僕とナディアさんは同時に気配に気付き視線を向けると、木の陰からターバンを巻いたアサシンが現れた。
レイヤンさんだ。
さらにその後ろから真紅の髪の女性が現れる。
プーさんだ。
「こんばんは。いい夜だね。星空が綺麗だ」
「……そうですね。そちらも散歩ですか?」
「ああ、そんなところだ。
明日からの狩りのことを相談しながらね。
そういえば、君達はプーと新人研修が一緒だったね」
「はい。プーさんには新人研修で本当にお世話になりました。
僕の命の恩人ですから」
「えへへ~。プーちゃんったらグラちゃんの命を助けたんだよね~」
「ほ~それは知らなかった。
うちのプーが役に立ってとても嬉しいよ」
“うちのプー”という言葉に、なぜか僕の心がざわつく。
黒い感情と言えばいいのか……あまりよろしくない感情だ。
ダンデリオンに所属しているプーさんを、リーダーと思われるレイヤンさんが“うちの”と言ったとして、何もおかしくない。
おかしいのは僕だ。でも……気に食わない。
「それにしても、グライア君には驚いたよ。
天職がノービスというのもそうだが、何よりあの動き。
しかも戦闘訓練をほとんど受けていないそうじゃないか。正直信じられないよ。
本当はどこかで幼いころより英才教育を受けているんじゃないのかね?」
「いえ、本当に僕はただの素人です。
動きもレイヤンさんに比べたら全然だめですよ。ただちょっと俊敏の加護を強く受けているだけです」
「ふ~む。まあ余計な詮索はしないでおこう。
そういうことにしておくよ」
「グラちゃんはとっても強いんだよ~。
レイヤンより強いんだよ~」
ニコニコ笑顔でプーさんが爆弾発言をしてくれる。
やめてください。レイヤンさんを挑発するような言葉はやめてください!
でもちょっとだけ、レイヤンさんに勝ってプーさんにかっこいいところを見せたい気もする!
「ほほ~。確かにあの動き、私でも捉えきれるか微妙だな。
今度ぜひ手合わせ願いたいものだ」
「ナディちゃんもとっても強いんだよ~。
レイヤンより強いんだよ~。
この中でレイヤンが一番弱いんだよ~」
レイヤンさんをからかう様にプーさんが笑顔でまたも爆弾発言。
ナディアさんも苦笑い。
「ふむ、確かに私がこの中で一番弱いかもしれないな。
しかしアサシンには無限の可能性があることを忘れるなよプー」
レイヤンさんもなかなかの猛者だ。
プーさんの言葉を軽く受け流している。
レイヤンさんもアサシンの上位職を持っているのだろうか?
プーさんみたいに変身するのだろうか?
「それでは私達はこれで失礼するよ」
「まったね~。明日から頑張ろうね~」
レイヤンさんとプーさんがテントに戻っていく。
プーさんは最後に振り返ると、僕に向かって投げキッスをした。
「もてるわね……色男さん」
「え!? ち、違いますよ」
「何が違うんだか……それにしてもダンデリオンの強さは想像以上ね。
神力範囲外で狩りを行っているとは聞いていたけど、まるで訓練された軍隊のように連携が取れていたわ。
ソロでの狩りが多いと言っていたけど、あれは絶対に日ごろからPTとしての連携を深めているわ」
僕には1人1人の戦闘技術の高さは分かっても、PTとしての動きがどうであるかまでは分からない。
砦戦を目標に学んできたナディアさんには、いろいろと感じるものがあったのだろう。
アルデバラン奪還のためには、ダンデリオンの人達が強いのに越したことはない。
それが個の強さだけではなく、組織としての強さも高いなら尚更良い。
「私達も戻りましょう」
「はい」
僕はテントの寝袋の戻ると、すっと眠りにつくことができた。