「では作戦通りにいきましょう。無理しないで数が多くなったら、入口方面に向かって戻りましょう。まずは入口付近のモンスターを倒して安全地帯を確保しましょう」
3日目。
僕達は5人で騎士団にきた。
はい、1人増えています。
なんと! プーさんが僕達のPTに来てくれたのだ!
ダンデリオンのPTには他にウィザードが1人いて、プーさんは僕達の方が面白そうだから、という理由で向こうのPTを勝手に抜け出してきてしまった。
ダンデリオンのPTがプーさん抜きで本当に問題ないならすごく助かるんだけど、ただ問題なのが僕のドロップ率のことだ。
プーさんには伝えていない。
というより、ダンデリオンには内緒にしてある。
今日、僕達が少人数で狩りを行うのは、アルデバラン奪還作戦の時に少人数強襲PTとして動くため、とダンデリオンには説明してある。
グラリスさんとソリンさんがプーさんの登場に慌てていたけど、僕が「これから見たことを内緒にしてもらえますか?」と聞くと、もちろん! とプーさんが返事をしたので、僕が「プーさんなら大丈夫です。信頼できますから」と2人を説得した。
僕のドロップ率のことは一部の人達だけが知る秘密となっているけど、国やギルドにカプラ社が無償で提供している装備、カード、アイテムのことを考えると、いつまで秘密にできるか分からない。
国が僕の秘密を知れば利用しようとするかもしれないけど、カプラ社が守ってくれれば早々手出しは出来ない……と思っているけど甘いかな?
騎士団1階に入るとすぐ大きな広間となっている。
左右に崩れた騎士の彫刻が並んでおり、ゲームと違って間近で見ると本当に彫刻が動きだすような気がして恐い。
彫刻の影からモンスターが本当に出て来るんだけどね。
「きます」
ライドワードが彫刻の影から出てきた。
本のモンスターで、どういう原理なのか分からないが宙に浮いている。
本を開くと凶悪な牙が並んでいて、噛みついてくるのだ。
動きが早くHPも多いのだが、ドロップアイテムがいまいちなのでゲームではあまり人気がないモンスターだったな。
ライドワードの攻撃を避けながら、スティレットで斬っていく。
斬る度にクリティカルの感触が手に伝わる。
このクリティカルの感触は、何というか癖になる感触なのだ。
手に伝わってくる相手のHPに強烈な一撃が入る感触が堪らない。
ライドワードとの戦闘音に気付いたのか、レイドリックアーチャーがやってきた。
その名の通り、レイドリックが弓を持って遠距離攻撃してくるモンスターだ。
弓使いだけあってレイドリックアーチャーの命中は高い。
そのためゲームではアサシンなどのAgi型には辛い相手だ。
しかしニューマがあれば話は違う。
遠距離攻撃を無効化してくれるこの素晴らしいスキルのおかげで、レイドリックアーチャーはまったく恐くない。
ニューマとホーリーライトでレイドリックアーチャー狩りをするアコライトの姿がゲームではよく見られたものだ。
ソリンさんがすぐにレイドリックアーチャーに突進していった。
ティアさんがソリンの真後ろにニューマを展開する。
これでソリンさんが攻撃をもらうことはない。
グラリスさんはソリンさんの後ろから鞭で攻撃する。
鞭の射程は長いので、ソリンさんの影に隠れながら攻撃することができるのだ。
ライドワードを倒して終えた僕はレイドリックアーチャーに向かおうとした。
しかし広間の奥から、にゅ~っと出てきた奴がいた。
巨大ウィスパー。
ウィスパーをでかくしたこのモンスターは念属性である。
ティアさんはアスペを覚えていないので、ホルグレンさんに作ってもらった属性短剣に切り替える必要があるのだが、こっちは精錬も中途半端だしスロットも少ないためカードもあまり刺していない。
攻撃力がガタ落ちなのだ。
なので、こんな時は!
「ソウルストライク!!」
プーさんのソウルストライクが炸裂する!
念属性モンスターの弱点属性は、何故か同じ念属性なのである。
召喚された古代の聖霊(念属性)が巨大ウィスパーに打ち出されていく。
かなり高レベルなソウルストライクに見える。
前にセイフティウォールを使っていたのを見たことがあるから、レベル5以上のはずだ。
「レイドリックです!」
グラリスさんの声が響く。
レイドリックアーチャーの後方からレイドリックが2匹走ってきている。
「左をやります!」
倒されたレイドリックアーチャーの光りの粒子を切裂くように駆け出し、左のレイドリックに向かっていく。
レイドリックが上段から振り下ろした両手剣を紙一重でかわすと、肉体のない鎧を短剣で斬っていく。
右のレイドリックが僕に向かって突き出した両手剣をソリンさんのシールドが防ぐ。
グラリスさんの鞭も飛んできて、おまけにプーさんのファイアーボルトも飛んできていた。
右のレイドリックはあっという間に倒される。
ソリンさん達が周囲を警戒してくれる中、僕はレイドリックと戦い続ける。
プーさんはクァグマイアを使えるのだが、ピンチの時以外は使わないようにお願いしてある。
カードや防具やアイテムも重要だけど、グラストヘイムで狩りをする最大の目的は、神力範囲外での戦闘訓練だ。
僕もアルデバラン奪還作戦の時に戦力として貢献したい。
命を賭けた戦いに臆することなく挑めるようになりたい。
レイドリックの両手剣を紙一重でかわす。
もっと余裕を持ってかわせるけど、最小の動きでかわし反撃する。
相手のどこを斬ろうと、クリティカルなら最大ダメージを与えることができる。
剣を振るために伸ばされた手、無防備な脚、どこだっていい。
とにかく相手の攻撃を最小の動きでかわし、斬り続ける。
手数を多く、もっと速く動けるように!
「すごい……」
ティアさんの声だったような気がする。
目の前のレイドリックに集中し過ぎて、誰の声だったか不確かだ。
これはいけない。
確かに目の前の的に集中することも重要だけど、周りが見えなくなっているようではだめだ。
自分のことだけ考えて動くと、他のメンバーの負担が重くなる。
特にプリーストのティアさんに負担をかけることになってしまう。
入り口付近のモンスターを倒して安全地帯を確保すると、右回りで騎士団の中を歩いていく。
この騎士団の建物、ゲーム感覚よりかはずっと広大だけど、それでも他の場所より狭く、モンスターがいなければ歩いて一周するのに30分もかからない。
僕がレイドリックを倒すのに時間がかかってしまうので、一周するまでに何時間もかかるだろうけど。
騎士団には何故か低級モンスターのマンドラゴラが生息している。
ヒドラのように触手を伸ばして攻撃してくるので、女性陣に触手が伸びないか期待したけど、女性陣もマンドラゴラに近づくのを避けているので、そんな素敵な場面を見ることはなかった。
騎士団の右上には庭がある。
なぜ建物の中にこんな庭のようなスペースがあるのか不思議だ。
ここにはブリライトが多く生息しているので、特に中に入ることなくスル―である。
騎士団1階の北にある階段までやってきた。
これを上れば騎士団2階なのだが、今回は行く予定はない。
最初の二日間で深淵の騎士見たけど、あんな馬鹿でかいモンスターを相手したくないしね。
ここでちょうど中間地点だ。
ここまで来てしまったら、入り口付近が安全かどうか分からない。
新しいモンスターが湧いている可能性が高いからだ。
危険な状況になった場合には、蝶の羽で脱出する。
さらに進んで騎士団の北西まで進んだ。
そういえば、ゲームではこっちに隠し通路があって、騎士団1階の中央スペースにワープできるんだよな。
ここでも同じなのかな?
確かめたくて、奥に進んでみた。
「こっちは行き止まりでは?」
グラリスさんが眼鏡をくいっ! と上げて厳しい声で言う。
逃げ場のないところ向かって後ろから大量のモンスターに襲われる、なんて可能性もあるのだから、行き止まりに向かう僕を注意しているのだ。
それは分かっているんだけど……、
「ちょっと確認したいことがありまして」
確かゲームではこの壁を通り抜けられたはずだ。
しかし目の前には壁がある。穴が開いているわけではない。
そっと壁を手で押そうとした。
「うわ!」
そのままするりと壁を通り抜けてしまったのだ。
手が壁の中に埋まっているように見える。
ここに壁があるように見えるだけで、実際に壁は存在しないのか?
「グラちゃんの手が……」
「大丈夫です。これ、壁があるように見えるだけで、通り抜けられるみたいです」
身体ごと壁の中に入ってみた。
予想通り、そこは隠し通路だった。
この先にワープポイントがあって、そこから中央スペースに繋がっているはずだ。
でも行くべきだろうか?
遊びにきているわけではない。
でも中央スペースにモンスターが溜まっているかもしれない。
ワープポイントに逃げることも出来るし、プーさんに範囲魔法を使ってもらって倒したっていい。
経験値稼ぎも大事なのだから。
僕が迷っていると、壁からにゅっとプーさんが現れた。
「わ~。こっちに隠し通路があったんだね~。
グラちゃんよく分かったね」
「え? ええ、なんとなく、普通の壁じゃないな~って2日目の時に思ったんですよ」
適当に誤魔化していると、後ろからティアさん、グラリスさん、ソリンさんと続いてみんなやってきた。
「隠し通路! ……どうしてグライア様はここが隠し通路だと分かったのですか?」
あれ? さっきの言葉は聞こえていなかったのかな?
そういえば、こっちに来たとき、壁の向こう側のみんなの気配がまったく感じられなかった。
何か特殊な魔法でもかかっているのかな。声や気配を完全に断っているようだ。
「2日目の時に壁を見たら何となく変だな~って思っただけです。勘です。
それより、この先にちょっと行ってみましょう。危険な場合は蝶の羽で脱出をお願いします」
「隠し通路のことを報告して、他のPTと一緒に向かうべきかと思いますが」
グラリスさんが正しい意見を述べてくれる。
やっぱりそうするべきかな。
「ちょっと見るぐらいなら大丈夫ですよ~。プーちゃんもいるし!」
プーさんは乗り気だ。
ソリンさんはグラリスさんの意見に同調している。
ティアさんは……僕の意思に従うようだ。
「ちょっとだけ覗いてみましょう」
3対2で僕達の意見が通り、ちょっとだけ覗くことになった。
少し進んだところにやはりワープポイントがあった。
「僕が見てきますね。ここで待っていて下さい」
ワープポイントに入ると、中央スペースの左上に出る。
モンスターが大量に湧いて固まっているかと思いきや、意外にもモンスターの気配がしない。
少し前まで進んでみたけど、見渡せる範囲にモンスターはいなかった。
一度ワープポイントに戻ってみんなを連れてくる。
モンスターの気配がなくとも警戒しながら進み、壁で囲まれた部屋が見えてくる。
隠し通路からこれる中央スペースには、さらにその中央を壁で囲った大きな部屋があって、ゲームではモンスターが大量に湧いていたりする。
僕がそっとその部屋の中を覗くと……おや?
部屋の奥にはレイドリック? いや違うな。鎧がかなり大きいし豪華だ。
まるでプロンテラの貴族騎士達が着ているようなフルプレートの鎧が、部屋の奥に鎮座されている。
そしてその鎧の前には3本の剣が床に突き刺さっている。
モンスターはいない。
ちょっと拍子抜けといった感じで、僕はみんなを手招きして部屋の中に入る。
もしかして、この中央スペースはモンスターが湧かないとか?
だとしたら、ものすごい発見だ。
ここで安心して休憩を取ることが出来るのだから。
気になるのはやはりこの鎧と剣だ。
いきなり動いたりしないよね?
「いた……」
プーさんの小さな声。
その声を聞きとったのは僕だけかもしれない。
グラリスさん達も鎧と剣を警戒している。
見るからに怪しいもんね。
これってやっぱり動き出すパターン?
「あの鎧と剣、怪しいですよね」
「怪し過ぎでしょう。おそらくモンスターかと」
「あれって魔剣モンスターじゃないですか?」
「形は似ていますね。でも魔剣モンスターより何ていうか豪華な感じがしません?」
「確かに剣の後ろにある鎧も、レイドリックの鎧よりずっと豪華ですよね」
一定距離を保ちながら、あれこれと話している。
僕はプーさんに話を振ってみた。
「プーさんはどう思います?」
「……モンスター。欠片を持つモンスター」
「え?」
欠片を持つモンスター?
また僕にだけ聞こえる小さな声で呟いたプーさんは、既に戦闘態勢に入っている。
そして次の瞬間、金属音と共に鎧が動き出した。
「グオオオオオオオ!」
装飾が施されていたとはいえ、錆びて赤黒くなっていた鎧がみるみるうちに真っ白な神秘的な鎧へと変貌していく。
そして何もなかったはずの鎧の中から、何かが生まれていく。
それは筋肉だ。
筋肉が鎧の中から生まれてくるように、人の形を造り出していく。
人の形はしているけど、顔すらなく筋肉の塊でしかないそれは、神秘的な真っ白な鎧を着たまま立ち上がる。
いったいどこから叫び声を上げているのか分からない。
しかし叫び声が部屋に響く。
「グオオオオオオオオオオオオオ!」
同時に部屋の入口が石で塞がれる。
扉なんてなかったはずなのに、いきなり石が現れて塞いでしまった!
「まずい! みんな蝶の羽を!」
僕は即座に蝶の羽で脱出を決めた。
この未知なるモンスターを相手に、逃げ場もなく戦うのは危険すぎる。
いったんゲフェンまで戻り、このことをカプラーさんに報告しないと!
グラリスさんとソリンさんが僕の指示に従って蝶の羽を使うと、光の粒子に包まれてセーブポイントであるゲフェンに戻っていく。
ティアさんは僕が戻らないと使わないだろう。
僕も早く蝶の羽を使って戻りたい。
しかしそれはできない。なぜならプーさんが戻ってくれないのだ。
「プーさん! 蝶の羽で脱出を!」
「グラちゃん達先に戻って。私はちょっとこの子と遊んでいくから」
「な、何言ってるんですか! こんな危険なモンスターと!」
「大丈夫よ~。プーちゃん強いから~」
「そ、そんな冗談言っている場合じゃ……うおっ!」
筋肉鎧は床に突き刺さっていた剣の1つを、僕に向かって投げつけてきた!
それをかわすと、さらに床に突き刺さっている剣を抜き、また僕に向かって投げてくる。
常人なら投げられた剣の速さに、剣を認識することなく貫かれていることだろう。
僕には見えている。
余裕はないけど、飛んでくる2本目の剣もかわした。
「あっぶね~!」
「ふ~ん、そういうこと。プーちゃんより、グラちゃんの方が……ま~いいわ」
筋肉鎧は3本目の剣を床から引き抜く。
さすがにそれを投げてくることはないだろう。投げたら武器無くなるし。
それよりプーさんをどうにか説得して……、
「キリエエレイソン!」「セイフティウォール!」
ティアさんのキリエと、プーさんのSWが同時に僕を守った。
筋肉鎧が投げつけた2本の剣が、背後から僕に斬りかかっていた。