幸運なノービス物語   作:うぼのき

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第34話 時計塔最下層へ

 左側の城壁にハシゴをかけてアルデバランの内部に侵入することに成功した。

 ここから僕らの部隊はさらに別れる。

 

 カプラーさん達のPTは正面の城門を内部から開けるために向かい、国の部隊を内部に引き入れた後は時計塔の最上階に向かう。

 僕達はすぐに時計塔の最下層に向かい、ボット戦士製造装置を破壊する。

 

 僕達は街の中を先行することになるので、当然ボット戦士や、洗脳されてしまった街の人達と遭遇することになる。

 街の人達をボット戦士と間違えないように慎重に戦いながら、ボット戦士だけを倒して時計塔に向かった。

 宝剣スキルは本当に優秀で、アルデバランの人達を傷つけることは1度もなかった。

 

 時計塔はアルデバランの中央にそびえ立っている。

 迫りくるボット戦士達をなぎ倒しながら、僕達は時計塔の中に入った。

 すると、それまで襲ってきていたボット戦士達の姿が見えない。

 時計塔の中は静寂に包まれていた。

 

「どういうことだ?」

 

 ホルグレンさんも戸惑っているようだ。

 時計塔の中の方が激しい抵抗が待っていると予想していただけに、拍子抜けである。

 

「ボット戦士はモンスターを攻撃してしまうので、時計塔の中には入れていないのでは?」

 

「グラリスの意見も正しいと思えるが、そのモンスターの姿すら見えないのはなんでだ?」

 

 ホルグレンさんの言う通り、なんと時計塔の中にボット戦士はおろか、モンスターすらいない。

 全てが予想外の出来事である。

 嫌な予感がする。

 

「とにかく最下層へ行きましょう!」

 

 嫌な雰囲気を吹き飛ばすように、ナディアさんが叫んで駆け出した。

 

「そうだな!」

 

 マルダックさんが応える。

 そしてみんなも頷き、一気に最下層へと向かっていった。

 

 

♦♦♦

 

 

 ゲームならあっという間に最下層だけど、現実はそうはいかない。

 巨大な時計塔地下の内部は基本的に細い道が続いている。

 ボット戦士もモンスターもいないのでどんどん先に進んでいるが、内部構造はゲームの知識とは違っていたのだ。

 時計塔に入って30分以上が経過したところで、ようやく地下2階のワープポイントに到達した。

 

 時計塔地下2階。

 ゲームではハイオークやオークアーチャーを狩る人達で賑わっていた。

 しかし、その姿は何処にも見えない。

 静寂の中を真っ直ぐ伸びる道に従って駆け抜けていく。

 

 道の先に石の柱が見えてきた。

 洞窟のような内部が、徐々に神殿のような造りへとなっていく。

 

「何かいるわ」

 

 ナディアさんが呟く。

 確かにこの先に強力な気配を感じる。

 ボット戦士ではない。この感じはモンスターだ。

 

 少し開けた空間に出た。

 地下3階に続く道は真っ直ぐいけばいい。

 開けた空間の右に見える石の神殿に寄る必要はない。

 しかし、このまま素通りすることは許されないようだ。

 

 石の神殿の奥には玉座が2つ。

 そこに縛り付けられたモンスターが2匹。

 

 右の玉座に座るのは、雄々しい羽をつけた輝く兜に、剣と盾と鎧を着たオーク。

 左の玉座に座るのは、鋭い3本の角が生えた兜に、屈強な肉体を武器とするオーク。

 

 右がオークヒーロー、左がオークロードだ。

 

 ボス級モンスターであるこの2匹がどうして玉座に縛り付けられているのか分からない。

 縛り付けた鎖の効果なのか声を発することもできないようだ。 

 ただただ僕達を睨みつけている。

 

「これまた恐ろしいものを縛りつけているな」

 

 この状況は当然、ボット帝国が仕掛けた罠としか思えない。

 僕達が侵入してきたこのタイミングで、

 

 

 ジャラリ

 

 

 当然のようにオークヒーローとオークロードを縛りつけていた鎖が解かれた。

 

「ブオオオオオオオオオオオオオオオ!」

 

「グオオオオオオオオオオオオオオオ!」

 

 解き放たれた2匹の化物が吠える。

 取り巻きはいない。

 

「僕がオークヒーローをやります」

 

 宝剣スキルを発動して前に出る。

 

「ははっ! 男になったな! マルダック! 俺達はオークロードをやるぞ!」

 

「おぅ!」

 

「ちょっと勝手に決めないでよ! まったく! ティアはグライア君の援護へ! 他全員でオークロードを全力で叩くわよ! 私達がオークロードを倒すまでオークヒーローは任したからね!」

 

「了解!」

 

 ナディアさんの指示も決まり、僕はオークヒーローに向かって2本の剣を飛ばす。同時に僕自身も駆け出した。

 

「ブオオオオオオオオオオオオ!」

 

 オークヒーローは宙を舞う宝剣を弾きながら、迫りくる僕に向かって大剣を振り下ろしてくる。

 しかし、それは筋肉鎧よりずっと遅い。

 

「はぁぁぁぁぁぁ!」

 

 スティレットでオークヒーローを斬り裂いていく。

 目の前の僕に気を取られると、宝剣が容赦なくオークヒーローを斬る。

 

「ブオオオオオオオオオオオ! ブオオオオオオオ!」

 

 宝剣を弾けば、今度は僕が神速でオークヒーローを斬り裂いていく。

 手に残る確かな感触は僕の攻撃のほとんどがクリティカルであることを伝えてくれる。

 

「グロリア!」

 

 ティアさんの支援を信頼して全力でオークヒーローを倒しにかかる。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

 3方向から斬られ続けるオークヒーロー。

 怒りが頂点に達したのか、大剣を天にかざすと雷を呼び起こした。

 

「くっ!」

 

 サンダーストームか!

 特大の雷が僕と宝剣に降り注ぐ。

 

「ヒール! ヒール!」

 

 ティアさんのヒールでHPが0になることはなかったが、それでもHPバリア越しに身体がビリビリと痺れるような感覚に襲われた。

 ボス級モンスターが使うスキルは最大レベルが10を超えるものがある。

 このサンダーストームはいったいレベルいくつなのか。

 

「ブオオオオオオオオオオ!」

 

「うおおおおおおおおおお!」

 

 連発はできないらしく、再び僕に斬りかかってくる。

 雷に打ち落とされた2本の剣はすぐに宙に浮かぶと、再びオークヒーローに向かっていく。

 僕も大剣を避けながら、オークヒーローを斬り続けていった。

 

 

 オークロードと戦うみんながどうなっているか見る余裕はない。

 サンダーストームを放つようになったオークヒーローから目が離せないのだ。

 

「ブオオオオオオオオオオオオオオ!」

 

 オークヒーローの動きはどんどん大雑把になっていく。

 余裕が無くなっているのだろう。

 サンダーストームを放つ動作も大振りで分かりやすい。

 大剣を天にかざした瞬間、僕は後方に逃げ出す。

 

 ズドンと黄金色の雷が一定範囲に降り注ぐ。

 範囲はそれほど広くなかった。

 小範囲な分、威力は高いのかもしれないけど。

 

「そろそろ倒れてもいいんじゃないのか!?」

 

 雷に打ち落とされた2本の剣は地面に転がったまま宙に浮かぶことはない。

 なぜなら僕が宝剣スキルを解除しているからだ。

 代わりにアイテムボックスの中から取り出した50本のスティレットが僕の目の前で宙に浮いている。

 

「セイフティウォール!」

 

 ティアさんが宝剣スキルに集中して動けない僕にセイフティウォールを唱えてくれる。

 これで何の不安もなく宝剣スキルに集中できる。

 

「いけぇぇぇぇ!」

 

 50本のスティレットが、オークヒーローに向かって真っ直ぐ放たれた。

 

「ブォォォォ! ブォォォ! ブォオオオオオオオオオオオオオ!」

 

 剣と盾でスティレットを弾くも、まさに雨のように降り注ぐスティレットを防ぎ切れるはずもなく、オークヒーローの身体を串刺しにしていく。

 弾かれたスティレットもそれで終わりではない。

 僕の精神集中力が続く限り、何度でもオークヒーローに向かっていくのだ。

 それは一度突き刺さったスティレットも同じだ。

 オークヒーローを中心に円形の空間を作り上げるように、スティレットの波が渦巻いていく。

 

「うおおおおおおおおおおおお!」

 

 速く、速く、速く! と渦巻くスティレットを高速で斬り乱れさせていく。

 姿が見えなくなるほどに、オークヒーローはスティレットの渦に取り込まれていった。

 

「はぁはぁ……はぁはぁ……」

 

 精神力が切れると50本のスティレットが一気に地に落ちる。

 盛大に金属音を鳴らしながら落ちたスティレットの後には、ズタズタに斬り裂かれながらも膝を地につくことなく立っていたオークヒーローの姿があった。

 

「さすがはヒーローってことか……でもこれで最後だああああ!」

 

 地面に落ちている2本の剣に宝剣スキルを発動。同時に僕もオークヒーローに向かって駆ける!

 

「ブ……ブオオオオオオオ!」

 

 最後の意地とばかりに、オーキッシュソードを僕の頭に振り下ろした。

 その身体でよく動けるものだと感心しながら、オークヒーローの頭にスティレットを突き刺す。

 オークヒーローの象徴ともいえる兜が真っ二つに割れると同時に、ヒーローは光の粒子となって消えていった。

 地面に1枚のカードを残して。

 

 

 オークヒーローを単独で撃破した僕の目には、オークロード相手に有利に戦いを進めるみんなの姿が映った。

 ホルグレンさんとマルダックさんが交代でタゲを取り、ナディアさんが華麗なステップで動き回りながら斬りかかる。

 ソリンさんは前衛3人の誰かが危なくなるとディボーションで支え、ヒールを唱えながら隙を見て剣を振っていた。

 グラリスさんは踊りスキルを使い、ソリンさんの影から鞭を伸ばして攻撃している。

 アイリスさんは最大射程距離からDSを挟んで弓を射る。

 ロドリゲスさんはローラさんのサフラを受けてファイアーボルトを唱えていた。

 

 このままいけば問題なく倒すことができそうだ。

 宝剣スキルを飛ばしてしまうと、剣がみんなの邪魔になる可能性がある。

 僕はティアさんにみんなの支援に回って下さいと告げ、オークヒーローが残したカードと、地面に落ちた50本のスティレットを回収していった。

 

「グオオオオオオオオオオオオオオ!」

 

 僕が50本のスティレットを回収し終える頃には、オークロードの断末魔を聞くことができた。

 屈強な肉体のオークロードが光の粒子となって消えていく。

 さすがにカードは残らなかったようだ。

 僕が倒したわけじゃないから、幸運ドロップ率は適用されていないしね。

 

「ふぅ……お疲れ様」

 

「はっはっは! みんなやるじゃねぇか!」

 

「いや~みなさん強い。このPTは本当に強いね」

 

ローラさん、ホルグレンさん、ロドリゲスさんの3人は戦闘直後から嬉しそうに話し始めた。この3人はまだまだ余裕なのかもしれない。

 対照的に、ナディアさん、マルダックさん、グラリスさん、ソリンさんは肩で息をしていてかなりお疲れのようだ。

 アイリスさんは疲れこそ見せないものの、弓を射た指を見つめている。かなりの集中力と速度で弓を射ていたのだから、精神力はかなり消耗しているはずだ。

 

「それにしても、グライアとティアは2人でオークヒーローを倒しちまったのか。それも俺達より早く」

 

「全ては主の御力です」

 

「こんなプレゼントを残してくれましたよ」

 

「おいおい! そりゃ~カードかよ!」

 

 オークヒーローのカードを手に持って見せると、ホルグレンさんが目を輝かせながらカードを見てきた。

 あげませんからね?

 

 2匹のボスを倒した僕達は少しの休憩を取ることにした。

 その間にグラリスさんがカプラーさんと手紙スキルで連絡を取った。

 

「カプラー様達は無事に城門を開けることに成功したようです。ですが、国の多くの騎士達は負傷してしまい、さらには戦死者の数もそれなりに出ているようです。

 ダンデリオンの方々がアルデバラン内へ入り、ボット戦士達を着実に倒しているようですので、行動予定に変更はありません。

 すでにカプラー様達は最上階に向けて時計塔内部に入り、さきほど時計塔2階に上ったようです」

 

 先行した僕達はまだ時計塔地下2階だ。

 時計塔1階 → 地下1階 → 地下2階 → 地下3階 → 地下4階と、実は時計塔の地下4階にいくまでには5つのフロアを進むことになる。

 それに対して時計塔最上階へは、時計塔1階 → 2階 →3階 →4階と4つのフロアを進むことになる。

 僕達の方が1フロア分多いのだ。それもあって僕達は先行しているんだけどね。

 

 カプラーさん達にもボス級モンスターの罠が待っているかもしれない。

 グラリスさんが手紙スキルでボス級モンスターが潜んでいる可能性を伝えているし、グリームさんとお師匠さんがいればきっと大丈夫だろう。

 

「そろそろいきましょう」

 

 ナディアさんの声に従って僕達は立ちあがり、再び時計塔最下層に向かって走り出した。

 

 

 時計塔地下3階は「ペノメア」という触手系モンスターが生息している……はずなのだが、その姿を見ることはなかった。

 かなり強力なモンスターなので、ヒドラと違い女性陣が触手に襲われたりしないかな~なんて呑気に考えていられないのだが、それでもちょっとだけ……本当にちょっとだけ残念だった。

 そんな僕にティアさんが近づいてきて「主よ、私は嫌いじゃありませんよ?」と耳打ちしてきたのだが、何も聞かなかったことにした。

 

 じめじめとした水路と、迷路のような道を進めばついに時計塔地下4階へのワープポイントに到着した。

 さすがに地下4階にはボット戦士がいるだろうと思い、気持ちを引き締めてワープポイントの中に入る。

 

「え?」

 

 しかし、そこはこれまでと同じく1匹のボット戦士もいなかった。

 当然モンスターもいない。

 

「どうなっているんだ? 本当にここにボット戦士製造装置があるのか?」

 

 僕も不安になってきた。

 もしかしたら敵の偽の情報に踊らされた?

 グラリスさんとソリンさんも半信半疑の状態に見える。

 

「とにかく進みましょう。いまここで不安に思っても、私達が成すべきことは変わりないわ」

 

 ナディアさんの声に頷き、地下4階の中央に向かって走り出した。

 

 地下4階は全体としては広大なマップだが、中央に向かうだけならそれほど時間はかからない。

 中央には大きな空間が広がっており、そこには闘技場のような四角い石の床が広がっている。

 その床の中央に奇妙な機械装置が見えた。

 なんとも寂しそうに置かれたあの装置が、ボット戦士製造装置なのか?

 

 その装置に近づいていくと、装置の前の床に2人の男が座っているのが見えてくる。

 1人はナイトのような姿で、もう1人は研究者のような白衣を着ていた。

 とっくに僕達のことは気付いているはずなのに、顔がはっきりと見える距離まで近づいたところで、ようやくナイトの方が立ち上がった。

 ナイトの衣装とは何か違う。ナイトより神聖で豪華な感じの鎧だ。

 そいつの身体からは白い半透明の煙は立ち上っていない。

 つまりクローンモンスターのボット戦士ではないのだろう。

 

「ようやく来たか」

 

 その声に反応したのはホルグレンさんだった。

 

「その声! それにその姿! まさか……ウィンザー様!?」

 

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