突然のワープで僕達は洞窟の中にいる。
洞窟の中は明るい。
人為的に洞窟の岩を削ってランプが置かれている。
そのランプが明かりを灯してくれている。
「魔道具のランプですね」
ティアさんが教えてくれた。
魔道具のランプはゲフェンで作られるもので、レッドジェムストーンが材料となっており、長時間明かりを灯してくれるそうだ。
明かりが切れても、核となるレッドジェムストーンを変えることでまた明かりがつくとか。
そんな魔道具ランプが置かれているってことは、この洞窟は人が立ち入っているってことだ。
井戸から突然ワープしてしまったわけだけど、逆に戻れるワープが存在しない。
丸い部屋のような洞窟の中をあちこち歩いてみたけど、井戸の時と同じように突然ワープするような場所はなかった。
洞窟の先には道が続いている。
この先に進んでみるしかないのか。
「さ、先に進んでみましょうか」
「は、はい」
僕の情けない声に答えてくれるティアさん。
ティアさんも緊張しているようだ。
一本道を進んでいく。
魔道具ランプが定期的に置かれているので、視界に困ることはない。
どこからか地下水が流れているのか、道には水が溜まっていたりする。
道はそれほど長くなく、すぐに次の部屋に出た。
同じく丸い部屋のような空間。
天井までは僕の身長の倍ほどの高さだ。
「あ、これ……」
ティアさんが部屋の隅っこを指さす。
そこには「赤いきのこ」が生えていた。
僕の胸当たりまである巨大な赤いきのこ。
知っている。
このきのこを倒すとアイテムをドロップするはずだ。
「このきのこを倒すとアイテムをドロップするかもしれません。やってみましょう。きのこなんで反撃してこないですし」
「は、はい」
2人で短剣をきのこに突き刺す。
ゲーム通りなら、どんなに強力の攻撃でもダメージは1のはず。
2人で20回ほど短剣を突き刺した時だ。
きのこは光の粒子となって消え、アイテムをドロップした。
ここではアイテムが出るようだ。
「やりましたね」
やわらかな毛、きのこの胞子、毒きのこの胞子、レッドブラッドとたくさん落ちた。
やけにドロップアイテムが多いな。
「すごい。こんなにたくさん」
「ええ、運が良かったのかな? それともここに生息するきのこはアイテムを多くドロップするのかもしれませんね」
見ると部屋にはまだきのこが生えている。
僕達は一緒にきのこ狩りを始めた。
ザクザクときのこを刺すだけの仕事です。
簡単です。
ドロップアイテムを拾って喜ぶ僕達。
あっちの部屋に行ってはきのこを狩り、こっちの部屋に行ってはきのこを狩り。
夢中できのこ狩りをしながら、どんどん進んでいく。
「すごいです。アイテムいっぱいです」
「これだけのアイテムですからね。売ったらそこそこのゼニーになりそうですね」
ティアさんもちょっと興奮状態だ。
最初は見知らぬ洞窟で緊張していたけど、きのこ狩りが楽しくなってきたのだろう。
ティアさんの笑顔が見れて僕も嬉しい限りだ。
これはちょっと、好感度アップしている?
見知らぬ洞窟の中で2人きりとか、心理学で男女の仲が発展する場所じゃなかったっけ?
この世界に知り合いなんていない。
できればティアさんと仲良くなっておきたい。
もちろん下心もある。
だってビックマウンテンなんだもん!
これを見て、心ときめかない男なんていないはずだ!
きのこは「赤いきのこ」と「黒いきのこ」がある。
赤いきのこからはレッドブラッド。
黒いきのこからはクリスタルブルーがドロップする。
ドロップアイテムの中で一番高価なのが、このレッドブラッドとクリスタルブルーだろう。
今は交互にドロップアイテムを拾っているけど、ここから無事出ることができたら、ちょっと多目にティアさんに渡してあげよう。
そうしたらきっとさらに好感度アップするはずだ!
そんな邪な? 考えをしながらどんどん道を進んでいった。
いくつか道が分かれているところがあったけど、分かれた道の先には行き止まりの部屋と、先に進める部屋があって、先に進める部屋は1つだけだった。
そのため、行き止まりの部屋を全部回ってきのこ狩りしながら先に進んでいる。
どれくらいの時間ここにいたのだろうか。
ついついきのこ狩りが楽しく時間のことを忘れていた。
カリス君達と別れて30分ぐらい狩りした後に、ここにワープしてしまったのを考えると、30分以上経過していたらやばい。
僕達が戻ってこないことを心配するかもしれない。
っていうか、ここから戻れるのか分からないんだけどね。
きのこ狩りの楽しさから現実に戻った僕はちょっと不安になった。
ティアさんはまだまだきのこ狩りが楽しいらしく、笑顔のままだ。
けっこう天然なのかもしれない。
っと、その時だ。
道の先から奇妙な音が聞こえてきた。
びよ~ん、びよ~ん、びよ~ん。
何かが跳ねるような音。
どこかで聞いたことあるような音。
なんだっけこの音……なんかまずい気がするぞ。
「ひぃ!」
その姿を見た時、僕は思わず悲鳴を出してしまった。
身体を飛び跳ねながら移動してきたそのモンスター。
スポア。
トゲのついた赤い傘に顔がある柄。
ティアさんより少し小さいぐらいだけど、ポリンなどに比べれば大きく、人の大きさに近いモンスターとの初めての対峙に恐怖を覚える。
これがスポア。
スポアは非アクティブモンスターのはずだ。
こちらから手を出さない限り安全。
ふとティアさんを見る。
「……」
顔面蒼白の状態で、今にも泡を吹いて倒れるんじゃないかと思うぐらいだ。
すぐに近寄って声をかける。
「ティアさん、ティアさん! 大丈夫ですか!」
「は、はい! グ、グ、グ、グライアさん! あ、あれ!」
「ええ、スポアですね。大丈夫です。非アクティブですから、こちらから攻撃しない限り襲ってこないはずです」
「ほ、本当に?!」
「はい。現に今も襲ってこないですよね。アクティブモンスターならとっくに襲ってきていますよ」
「あ、確かに……」
ティアさんは僕の身体に隠れると、顔だけ出してスポアを観察します。
僕の袖をぎゅっと握りしめているのが可愛い。
こうして見ると、ちょっとグロテスクだな。
スポアってゲーム画面で見る分には可愛らしい? とも思えるけど、実際に見ると可愛くない。
確か傘の部分が口になっていて、そこから舌を出してくるんだよな。
「と、とりあえず刺激しないように奥に進みましょうか。
きのこ狩りは一旦止めて、出口を探しましょう。
みんなが僕達を探しているかもしれないので、早く出口を見つけましょう」
「あ、そ、そうでした。ごめんなさい。私ったらきのこ狩りに夢中で」
「いえいえ、僕も同じでしたから。さあ行きましょう」
スポアの横を通り過ぎようと歩き出す。
すると、ぎゅっと手を掴まれる。
「あ」
「あ」
心臓がドクンと脈を打つ。
女の子に手を握られちゃった。
「あ、あの……手握っていてもいいですか?」
「え、は、はい。ど、どうぞ」
もっと頼りがいのある男を演じることができればいいのだが。
僕自身も余裕がなく、情けない返事をするので精一杯だ。
再び歩き出そうとした時だ。
じゅるり!
スポアの傘が開き巨大な舌が傘を舐め回した。
「ひゃっ!」
ティアさんが悲鳴を上げると同時に、僕の腕にしがみついてくる。
そのビックマウンテンの柔らかさを本来なら堪能したいところだけど、僕も恐怖で固まっている。
き、気持ち悪い。
スポア気持ち悪いよ~。
へっぴり腰のまま、なんとかスポアの横を通り過ぎる。
ティアさんは今にも泣き出しそうだ。
っていうか涙目になっている。
スポアの横を通り過ぎても、ティアさんは僕の腕から離れることはない。
むしろがっちりホールドしてしがみついている。
僕はようやく平常心が戻ってきたことで、ビックマウンテンの素晴らしさを感じることができた。
これは素晴らしい。
本当に素晴らしい。
いつかこのビックマウンテンに登ってみたいものだ、などと邪な考えを持ってしまう。
しかし、そんなお気楽な考えは一瞬で吹き飛ぶことになる。
道を進み次の部屋が見えてきた時だ。
びよ~ん、びよ~ん、びよ~ん。
びよ~ん、びよ~ん。
びよ~ん、びよ~ん、びよ~ん、びよ~ん。
びよ~ん。
びよ~ん、びよ~ん、びよ~ん。
嫌な音がいくつも重なって聞こえてくる。
そして見えてきたものは、
「ひぃぃ!」
その部屋を見てティアさんはもう僕に抱きついてきてしまった。
そこには、スポア、スポア、スポア、スポア、スポア。
スポアだらけだ。
ここはスポアを育てている場所なのか?
どうしてこんなにたくさんスポアが。
スポアが生息していると、あのきのこが生えるのかな?
もしかしてスポアって、あの赤いきのこが成長したモンスターなのか?
1度は見ているスポアの姿にちょっとは耐性を持ったはずだけど、これだけの数のスポアが部屋の中にいると、さすがにまた気持ち悪くなってくる。
それでも、抱きついてくるティアさんの腰に手を回してしまう。
いや、こうした方がティアさんも安心するだろうから。
しっかり腰を支えて、次の部屋の道に入っていく。
そこから先はどの部屋にいってもスポアだらけだった。
分かれ道もあり、スポアしかいない行き止まりの部屋にも当たりながら、どんどん前に進んでいく。
さすがに僕は徐々に慣れてきたけど、ティアさんは一向に慣れる気配がない。
プリースト希望だと言っていたけど、冒険者だからといって誰もが戦いに慣れているわけじゃないんだろうな。
そういえば、どうしてティアさんは冒険者になったんだろう?
「ティアさんってどうして冒険者になったんですか?」
「え? そ、それは、プリーストの天職を得るためですよ。希望通りにアコライトの1次天職を得られたらですけど」
「冒険者にならないと天職って得られないんですか?」
「はい。え? グライアさんは知らずに冒険者になったんですか?」
「え? あ、ああ、そ、そうなんですよ。とりあえず生きていくために冒険者になろうかと思いまして」
「あっ……ご、ごめんなさい。グライアさんの気持ちも考えずに私ったら……」
あ、あれ? 急にどうしちゃったんだろう?
どうしてそんなに申し訳なさそうにしているんだろう?
「え、えっと。1次天職を得るためには必ず冒険者にならないといけません。これは貴族の方でも同じです。まずは冒険者ギルドで経験を積んで2次天職を得られた者は国家に雇われることになります。騎士団とか魔術士団、それに神官団とか」
「騎士とナイトって違うのですか?」
「も、もちろんです。騎士は国家に忠誠を誓い、国家に雇われている者です。ナイトは天職のことですから」
なるほど。
騎士は職業で、ナイトは天職ってわけか。
「2次天職を得られない人達ってどうなるんですか?」
「冒険者ギルドに所属したまま生活する人もいますし、他の職業に就いて生活する人もいますね。そもそも1次天職を得られるかどうかもありますし」
「え? 1次天職って必ず得られるものではないのですか?」
「1次天職というか、そもそもノービスだって得られる人と得られない人がいますよ。ノービスのジョブレベル10の後に、神官様の前でオーディン様に祈りを捧げた時、資格無しとお告げを受ける者もいます。そうした人達は冒険者になることはできません」
ありゃ~。必ず天職を得られるわけじゃないのか。
僕は大丈夫かな?
そういえば、あのNPC老人のオーディンは、僕の天職はスーパーノービスとか言っていたけど、あれはどうなったんだろう?
会話を続けたせいか、ティアさんも少し落ち着いてきたようだ。
そのせいで僕に抱きついて、その柔らかさをこれでもかと知らしめてきたビックマウンテンが離れていってしまった。
「し、失礼しました」
ティアさんはちょっと恥ずかしそうに、ぼそりと呟いた。
スポアに慣れてはいないようだけど、何とか1人で歩けるようになったティアさんと共に、どんどん奥に進んでいく。
行き止まりの部屋からはすぐに引き返して、先へ先へと続く部屋を進んでいく。
かなり広大な洞窟だ。
これだけの魔道具ランプを維持するだけも、それなりのゼニーがかかるのではないか?
それに見合ったものが、ここにはあるのだろうか?
そんなことを考えながら進んでいった時だ。
また、びよ~んという音が聞こえてきたと思ったら、姿を現したのはスポアではなかった。
その傘は赤い色ではなく、毒々しい紫色のような傘だったのだ。
これはやばい。
こいつはやばい。
ポイズンスポア。
確かスポアよりレベルは低いけど、こいつはアクティブモンスターだ。
じゅるりと傘を舐めながら、ポイズンスポアがこっちに飛び跳ねてきた。
まずい、後退しないと。
「ティアさん戻ろう」
「え? あ、きゃっ!」
ティアさんの声に反応したのか?
そもそもアクティブモンスターが敵と認識するのは距離なのか?
ここはゲームではない。
きっとティアさんの声に反応してしまったのだろう。
いや、それを言うなら、先に声を出した僕の声かもしれない。
ポイズンスポアはあきらかな敵意を向けて、僕達に襲いかかってきた。