幸運なノービス物語   作:うぼのき

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第40話 ジュノーへ

 朽ち果てた教会での生活を始めてどれくらい経っただろうか。

 正確な日数を数えていないが、たぶん1ヶ月近くここにいると思う。

 

 つまりランドグリスの影と戦い始めて1ヶ月だ。

 このマップをモンスターのようにうろつくランドグリスの影の数は……あいかわらず15匹である。

 1匹も減っていない。

 

 これには理由がある。

 僕が負けたわけじゃない。

 負けたら死んじゃうしね。

 

 こいつら何度でも蘇るのだ。

 まさにモンスターなのだ。

 そして蘇る度に強くなっているのだ!

 

 なんちゅ~仕様にしたんだよ! ランドグリス!

 倒せば倒すだけ強くなるランドグリスの影を相手に延々と戦い続けて1ヶ月。

 終わりは見えてこない。

 

 ランドグリスの影を倒すと「ワルキューレの鎧」といった、ワルキューレシリーズの防具が手に入る。

 カードスロットは全て4だし、基本性能もとんでもなく高い。

 さらにシリーズ全ての防具を装備すると、セット効果も得られる優れものだ。

 ただ、残念ながら僕は装備できない。

 ノービスやスーパーノービスは装備不可なのだ!

 

 ちなみにランドグリスの影は食料も落としてくれるので、それを食べて腹を満たしている。

 

 しかしいつになったら僕をジュノーに導く光とやらが現れるのだろう?

 カプラーさん達心配しているかな。

 みんなからしたら、プロンテラに戻ったはずの僕が消えてしまったことになる。

 プロンテラの教会にすらその姿が見えなかったはずだけど、もしかしたら僕が姿をくらましたと思われているのかな。

 手紙スキルがここでは使えないので、みんなと連絡を取ることも出来ないでいる。

 

 今日もランドグリスの影は元気にうろついている。

 いま目の前にいる「ナイト」の影なんて、槍で超広範囲のブランディッシュスピアとか、超遠距離射程の「スピアブーメラン」とか飛ばしてくるから、堪ったもんじゃない。

 

 その横を通り過ぎていく「プリースト」の影は、自分にヒールを連発したり、セイフティーウォール張ったりと、倒すのに最も時間がかかる面倒な存在になっている。

 

 この1ヶ月で15の天職のスキルは把握できた。

 あまりに多いスキルなので全てを使いこなしているわけじゃないけど、自分に合うスキルで頻繁に使うものはだいたい決まってきたのだ。

 使いたくないスキルは不適用にできるので、ダブルアタックは不適用にした。

 クローキングでいつの日か女子風呂を覗きたいと思う。

 もうランドグリスの影の水浴びを覗くのは飽きた。

 

 朽ち果てた教会の裏手にある泉で、なぜかランドグリスの影が水浴びするのだ。

 それも一斉に。

 ランドグリスは風呂好きだったのか?

 

 最初こそかなり興奮して覗いてしまったが、毎日見放題の状態が1ヶ月も続けばさすがに飽きてしまう。

 やはり人間は「許されない行為」に興奮するのであって、それが当然に許されてしまうと興味がなくなってしまうのだろうか。

 この1ヶ月でいろいろ思うところがあり、なんだか哲学者になった気分である。

 

 新しいスキルもいいのだが、やはり最も使い勝手がいいのは宝剣スキルだ。

 3本以上の自己制御もだいぶ上達したけど、自動で戦ってくれる2本もその動きはさらに速く強力になっている。

 

 ランドグリスの影達と戦い続けたことで僕の戦闘技術もかなり向上した。

 ウィンザーにどこまで通じるか分からないけど、前のように何もできない状態にはならないはずだ。

 

 飽きたといいつつ、ランドグリスの影の水浴びを当然のごとく見ながら、ぼ~っといろいろ考えていたのだが、いきなりランドグリスの影が水浴びから出て僕の方に向かってきた。

 

「え?」

 

 覗いちゃだめだったの!? だって今までガン見してもよかったじゃん!

 君達のその素晴らしいスタイルで水浴びしていたら覗きたくなるじゃん!

 

 ランドグリスの影達は僕の前に裸でやってくると、次々のお互いを同化させて1つの大きな影を作りだしていった。

 どうやら覗いていたことを怒りにきたわけではないようだ。

 なら、今から起こることは1つしかない。

 

「いよいよか」

 

 僕をジュノーに導く光りが現れるのだろう。

 そう思っていたのだが、同化して1つの大きな影となった中から、3本の剣と防具一式の装備品が現れたのだ。

 

 装備品を出した影はまだ消えていない。装備品の後ろにいる。

 まずはこれを取れということか。

 

「な、なんだこれ……」

 

 装備品を拾ってみると、

 

・スーパーノービスソード

・アイスファルシオン

・ファイアーブランド

・スーパーノービスシールド

・スーパーノービススーツ

・スーパーノービスマント

・スーパーノービスシューズ

・スーパーノービスハット

・スーパーノービスリング×2

 

 スーパーノービス装備一式に、アイスファルシオンとファイアーブランドの剣だった。

 アイスファルシオンとファイアーブランドは宝剣用ってことか。

 そしてスーパーノービス装備なのだが、カードスロットがおかしなことになっている。

 

 ∞

 

 無限? 何枚でも刺せるのか?

 いや多分武器なら同一カードは4枚までか。防具は1枚までだし。

 そうでないなら、とんでもないことになるけど……ここで検証することはできない。

 

 装備をスーパーノービスシリーズにした。

 今まで短剣のスティレットだったけど、スーパーノービスソードは短剣より長くて、片手剣よりちょっと短いといった感じだ。

 防具はどれも頑丈そうだが軽い。まさに羽のような軽さだ。

 

 装備のセット効果もあるのか、HPとSPもかなり上がっている。

 さらに自分の身体が軽くなったように感じられるのに、身体から溢れるほどの力強さも感じる。

 

「勘違いすると間違いそうだな」

 

 この1ヶ月、ランドグリスの影と戦い続けて、僕自身も強くなったと自負している。

 しかしこの装備により得られた強さは与えられた強さだ。

 それが悪いと思う必要はないだろう。

 でも勘違いしてはだめだ。この装備を使いこなさないといけない。

 

 スーパーノービスの天職だってそうだ。

 多くのスキルに振り回されてはいけない。僕がスキルを使いこなすんだ。

 

 

 決意新たに気を引き締めていると、影が渦を巻き始めた。

 黒い影はやがて光り輝く渦へと変化していく。

 ワープポタールのような光りだ。

 

「お世話になりました」

 

 光となった影に向かって挨拶する。

 もうランドグリスの意識があるとは思えないけど、この1ヶ月お世話になったことに違いはない。

 必ずユミルの書を手に入れて、スクルドに会います!

 

「いくぞ!」

 

 光の渦の中に飛び込んでいった。

 

 

♦♦♦

 

 

「うお!?」

 

 光の渦の先は戦場だった。

 ここがどこなのか分からないが、ルーンミッドガッズ王国の騎士達がボット帝国の戦士達と入り乱れながら戦っている。

 あちこちで悲鳴と叫び声が響いている。

 

「どういう状況なんだ!? おおっと!」

 

 後ろからボット帝国のナイトが斬りかかってきたのを避けると、一撃で光りの粒子へと返した。

 スパノビソードの切れ味は抜群のようである。

 

 しかし呑気に試し切りしている時間はなさそうだ。

 とりあえず、この状況を落ち着かせないと。

 

「ふぅ……うぉぉぉぉ!」

 

 50本のスティレットに宝剣スキルを発動。

 プーさんの魔力が流れてきた時のように、1本1本に自らの意思が宿るほど制御ができるようになっている。

 目標はボット帝国の戦士達。

 

「いけぇぇ!」

 

 50本のスティレットが宙を舞い、次々とボット帝国の戦士達を切り裂いていく。

 国の騎士達も、ボット帝国の戦士達も何が起こったのか分からないだろう。

 ボット帝国の戦士はどうせ光の粒子となって消えていくのだから知る必要もないけどね。

 

 ものの数分で見渡せる範囲でボット帝国の戦士の姿はなくなった。

 呆然とする国の騎士達の中で見知った顔を見つけた。

 

 カリス君だ。

 

 僕はカリス君に駆け寄ると、

 

「カリス君」

 

「お、お前はグライア! プロンテラに戻ったんじゃなかったのか!?」

 

 僕がプロンテラに戻らずに消えたことは知らないのか。

 カプラーさん達が伏せているのかもしれない。

 

「いまこれどういう状況なのか教えてくれないかな?」

 

「どういう状況ってお前何も知らないで来たのかよ」

 

「いろいろあってね。それで、いまはジュノーを攻めているの?」

 

「ああ、そうだ。ただ、先発隊がジュノーへのワープポイントに乗った途端、ワープポイントの光りが消えてしまったんだ。その直後にボット帝国の戦士達がいきなり現れたんだ。消費アイテムは使えないはずなのに、どうやってワープしてきたのか不明だ。

 ジュノーへ上がってしまった者達がどうなったのかも分からない状態だ」

 

 消費アイテムが使えない?

 試しにポーションを使ってみようとしたが反応がなかった。

 ウィンザーが使っていた神力遮断スキル? この一帯全てに神力遮断スキルが適用されているのか。

 

「カプラーさんやナディアさん達はどこに?」

 

「先発達と一緒にジュノーに上がったはずだ」

 

 みんなは上か!?

 くそっ……ワープポイントの光りが無くなってしまったんじゃ、あの空に浮かぶ都市ジュノーに入れないじゃないか。

 

「他に敵は?」

 

「ここら一帯の敵は突然倒されてしまって……本当に何が何だか分からない」

 

「ここら一帯以外に敵はいるんですか?」

 

「あ、ああ。あいつらは突然ワープして襲ってくるかな。どこにいるなんて分からない」

 

 宝剣スキルで見渡せる範囲の敵は全て倒した。

 おかげで国の騎士達は落ち着きを取り戻し始めているし、部隊の再編成も行われているようだ。

 ここは国の部隊に任して大丈夫だろう。

 

 問題はジュノーに上がってしまったみんなだ。

 どうやって上に……お?

 あれは……!

 

「カリス君ありがとう! またね!」

 

「お、おぅ……ま、またな」

 

 僕はカリス君に背を向け走り出す。

 あれを使えば上までいけるかもしれないぞ!

 

「気功! 気功! 気功! 気功! 気功! 残影!」

 

 気功で5個の気を溜めると残影で瞬間移動していく。

 国の騎士達には風が通り過ぎたようにしか感じられないだろう。

 

 やがて見えてきたのは、空に浮かぶ岩だ。

 いくつもの岩が空に浮かび、その上にジュノーがある。

 ジュノーの真下は巨大な湖が広がっている。

 失敗して落ちても水がクッションになるかな? 水って痛いんだっけ。

 

「いくぞ! 跳躍!」

 

 空に浮かぶ岩に跳躍して飛び移ると、

 

「跳躍!」

 

 さらにその上にある浮かぶ岩に飛び移る。

 上ではなく前後左右の岩に移りたい時は、

 

「残影!」

 

 徐々に空に浮かぶ都市ジュノーが近づいて見えてきた。

 マリオになった気分だな。

このまま岩が入口まで続いてくれることを祈りながら、跳躍と残影を続けた。

 

 

「くそっ……ここまでか」

 

 残念ながら浮かぶ岩はジュノーの入口まで続いていなかった。

 岩が途切れてしまったのだ。

 視線を上げれば空に浮かぶジュノーの岩壁。

 ここをロッククライミングしていけば、上までいけるのだろうが、

 

「けっこうあるよな」

 

 100mはあるよね? という高さの岩壁が続いている。

 ここから跳躍で飛べばどうにか岩壁にしがみつくことはできるだろう。

 

「やるしかないか……ふぅ……跳躍!」

 

 跳躍で飛ぶと、手を伸ばして岩壁をつかむ。

 これでぽろっと岩壁が落ちたら、僕まで真っ逆様だ。

 さすがにこの距離では、下が湖だろうと落ちたら死んでしまう。

 

「ぐっ……むぐぅぅぅぅ!」

 

 指先に力を入れて、岩壁をつたってよじ登り始める。

 微妙なオウトツに手と足の指をかけていくが、けっこうきつい。

 鍛えた筋力と神の加護で何とかなるかと思ったけど100m登れるかな……。

 

「ふんがっ! ふんがっ!」

 

 両手両足が1つ上に登っても、身体全体が登った距離は数cmにしかならない。

 それを何度も繰り返してようやく半分ほど登った。

 かなりきついけど、あと半分ならどうにか登れないこともない、と思っていた時だ。

 

「え?」

 

 手を伸ばした先の岩壁がぽろっと崩れたのだ。

 

「えええええ!」

 

 一気に体勢を崩してしまった僕はそのまま岩壁から剥がれ落ちてしまう。

 咄嗟にスパノビソードを出して岩壁に突き刺した!

 

「ぐお! あ、あっぶね~!」

 

 切れ味抜群のスパノビソードは岩壁に突き刺さり落下を止めてくれる。

 しかし状況はあまり良くない。

 

「どうしたもんか……」

 

 空中都市ジュノーから見える雄大で爽快な景色も、足場もなく見ることになると楽しめるものではないな。

 足場か……ん? そうか!

 

「こういう使い方もありか!」

 

 アイスファルシオンとファイアーブランドに宝剣を発動する。

 そして2本の剣の柄を足場にすると、

 

「跳躍!」

 

 真上に飛び上がる。

 すぐに2本の剣が飛んで僕の足場となり、

 

「跳躍!」

 

 また真上に飛び上がる。

 

 すでに半分ほど登っていたので、跳躍を5回もすればジュノーの地面が見えた。

 6回目の跳躍でジュノーへと降り立つ。

 

「ふぅ……さてと」

 

 まずはみんなを探さないと。

 地上に戻る術を失っても、カプラーさん達ならきっと洗脳装置を破壊しに向かうはずだ。

 ウィンザーがいるかもしれない。

 

「クローキング!」

 

 移動速度の速いクローキングで姿を隠しながら、戦場と化したジュノーの中を駆け抜けていった。

 

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