幸運なノービス物語   作:うぼのき

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第45話 談笑な会議

 ジュノー落下から5日ほどが経過した。

 地に落ちたジュノーはそのまま街として機能している。

 落下衝撃による被害は“奇跡”としか言いようがないほど、軽微だった。

 落下による負傷者はいても死傷者0である。

 その奇跡の裏に、プーさんの存在があることを知っているのは僕だけだ。

 

 いま、僕達はジュノーにある宿屋を1つ丸ごと貸し切って住んでいる。

 ボット帝国との戦いが終わったわけではない。

 まだルーンミッドガッズ王国とボット帝国は戦争中なのだ。

 ここジュノーは最前線基地として役割を担うことになる。

 

 シュバルツバルド共和国の大統領も、ジュノーを最前線基地とすることを了承している。

 洗脳装置に操られていたとはいえ、ルーンミッドガッツ王国に被害をもたらしてしまっているのだ。

 戦争が終われば、相応の賠償が必要になってくるらしい。

 

 そこら辺の難しいことは僕には分からないので、カプラーさんにお任せである。

 この5日間ほどは、ティアさんにずっと纏わりつかれたり、アイリスさんを久しぶりに肩車したり、ナディアさんとグラリスさんに僕の新たな能力を説明したりと、忙しく過ごしていた。

 

 特にティアさんは僕の匂いが足りていなかったらしく、ティアさん曰く、あと10日過ぎていたら私はダメだったかもしれません、と言っていたが、何がダメなのか僕には分からないので、軽く流しておいた。

 心配させてしまったのは確かなので、ワープポタールに入った後に何があったかの、誤魔化す部分は誤魔化しながらも、新たな力を手に入れるための試練だったと言って、ティアさんを安心させてあげた。

 やはり自分のワープポタールのせいで、僕に何かあったのではないかと、ひどく落ち込んでいた時期もあったそうだから。

 

 アイリスさんも僕のことをすごく心配してくれていた。

 私の乗り物がいなくなったと思ったわ、なんて言いながらも、僕が戻ってきたことを本当に喜んでくれた。

 久しぶりに肩車したら顔をちょっと赤くしていたけど、嬉しそうに楽しんでいた。

 

 ナディアさんとグラリスさんには、なぜか怒られた。

 どうして連絡の1つもしなかったのかと。

 連絡する手段がなかったと言ったのだが、そこはどうにかしなさいよ、とナディアさんは怒るし、グラリスさんは、グライア様ならどうにか出来たはずです、と言って怒った。

 ちょっと理不尽だ。

 

 他のカプラ嬢さん達もみんな僕の無事を喜んでくれた。

 そしてホルグレンさんも。

 

「ガッハッハッハ! 俺は心配なんてしてなかったけどな!」

 

「師匠こう言ってるけど、嘘だからな。すごくしんぱ、ぐほっ!」

 

 マルダックさんはホルグレンさんに横っ腹を思いっきり突かれてふっ飛んでいた。

 

 

 懐かしい気分だ。

 戻ってきた、という気持ちになれる。

 ここにグリームさんとプーさんがいれば勢揃いだけど、それは仕方ない。

 カリス君はどっちでもいいや。

 

「それで、グライア君の新しい力で、私達もウィンザー達のような上位職になれるのね?」

 

「はい。ただし1人だけです。それと、ウィザードの上位職の枠はありません」

 

「その枠……誰に使ったのよ」

 

「それは秘密です」

 

「ふ~ん」

 

 プーさんだと分かっているのにナディアさんが聞いてくる。

 意地悪な質問だな。

 僕がこの力を得てジュノーに戻ってきてから、ハイウィザードの魂をプーさんに使っているってことは、その間にプーさんと接触しているってことだ。

 政府庁舎から建物の屋根の上にある洗脳装置を探しに別れて、ジュノーが落下した後に僕がみんなの所に戻るまでのどこかで、僕とプーさんが接触しているとナディアさんは分かっている。

 その接触していた時に、何があったのか僕が話さないことが不満なのだろう。

 

 プーさんから聞いた話をまだ僕はみんなにしていない。

 ランドクリスとスクルドから得た能力に関しては話したけど、今後カプラ社と秘密の羽がどんな風に動くのか分からないので、まだ話していないのだ。

 ルーンミッドガッツ王国はボット帝国が支配する“アインブロック”さらには本拠地である“リヒタルゼン”を攻め落とそうとするだろう。

 そしてその先にあるアルナベルツ教国とも戦争状態に突入するかもしれない。

 強硬派は巨人を復活させてこっちに攻めてくる気なのだから、その計画を知れば当然ラヘルに攻めるだろう。

 

 アインブロックとリヒタルゼンを攻めることに関して、何ら異論はない。

 でも、その先にあるアルナベルツ教国とは戦って欲しくない。

 だから、僕はアインブロックとリヒタルゼンを越えて、アルナベルツ教国に行くつもりでいる。

 目的は、氷の洞窟にいる「フレイの心臓の本当の持ち主」の救出だ。

 

 ルーンミッドガッツ王国がボット帝国と戦っている間に、アルナベルツ教国の問題を解決してしまう。

 それなら戦争になることはない。

 1人で行くのはちょっと不安だけど、ナディアさん達は秘密の羽の主戦力だ。

 上位職の魂を使えば尚更ね。

 だから、僕は1人で行くことにした。

 ボット帝国との戦いで力になれないのは残念で申し訳ないけど……。

 

「ロードナイト、スナイパー、アサシンクロス、ハイプリースト、ホワイトスミスの魂を誰に使えばいいか決めて欲しいです。

 それと、ソリンさんにはパラディンの魂が使えますし、カプラーさんにはクラウンの魂が使えるので、これはお二人に使いたいと思います。

 その他のカプラ嬢さん達の中で誰か一人にジプシーの魂が使えます」

 

「そんなにグライア君の力を分けてしまって、グライア君は大丈夫なの?」

 

「はい。大丈夫です」

 

 それだけ分けても、僕にはまだ「全1次職」「プロフェッサー」「クリエイター」「チェイサー」「チャンピオン」「拳聖」「ソウルリンカー」の力がある。

 十分過ぎるほどの力だ。

 

 もともと「全1次職」「プロフェッサー」「チャンピオン」のスキルが使い勝手が良くて好んで使っていたから、他の職がなくなっても大丈夫だ。

 アサシンクロスの「クローキング」が無くなってしまうけど、そこはチェイサーの「トンネルドライブ」を使えば問題ない。

 

 でもグリームさんいないから、アサシンが天職の人いないんだよな。

 グリームさん……今ごろどうしているのかな。

 お師匠さんの死を乗り越えて、前を向けているだろうか。

 

 僕達が宿屋の1階ロビーで会議という名の談笑をしていると、カプラーさんとディフォルテーさんが帰ってきた。

 僕達は全員立ち上がる。

 

「お疲れ様です」

 

「あ~お構いなく。

 みなさんで楽しくお話していたのでしょう。どうぞ続けて下さい。

 むしろ私達も混ぜて頂いていいでしょうか」

 

「社長こちらへ」

 

 グラリスさんがカプラーさんを中央の席へと招く。

 ホルグレンさんがその隣、ディフォルテーさんが反対側の隣へと座る。

 これがいつもの席順である。

 

「グライア様の新たな力の使い方決まりましたか?」

 

 カプラーさんの問いに答えたのはナディアさんだ。

 

「今のところ、ロードナイトは私が。スナイパーはアイリスが、ハイプリーストはティアが、ホワイトスミスはホルグレン様が。」

 

「待て。それは俺じゃなくてマルダックにしてくれ」

 

「し、師匠!?」

 

「俺はグライアの力に頼らなくとも戦える。

 出来の悪い弟子に与えてやってくれ」

 

 ホルグレンさんの言葉に一瞬驚きと歓喜の表情を浮かべたマルダックさんは、すぐにずるっとこけていた。

 

「……ごほん。

 え~それとジプシーはディフォルテーさんに。

 アサシンクロスは……グリーム君がいれば彼なのですが」

 

「ふむ。

 グリーム様のことですが、近々、戻ってくるかもしれませんね」

 

『え!?』

 

「モロクを始め、各地の街やダンジョンで鬼のように強いアサシンの目撃情報が入っております。

 おそらくグリーム様だと思うのですが……」

 

「何か違うのですか?」

 

「……1人ではなく2人組との情報が上がってきています」

 

 2人?

 まさかお師匠さんが生きていた!?

 

 と一瞬都合の良い願望が頭に浮かんでしまった。

 でもそれはない。

 僕はその姿を見ていないけど、グリームさんのお師匠さんは、みんなの前で間違いなく死んだのだから。

 

「目撃情報は徐々に北へ。つまりこちらに近づいてきています。

 今ごろはプロンテラ……もしかしたらアルデバランに到着しているかもしれませんね」

 

「その目撃情報がグリーム君で、彼がまたここに戻ってきてくれるなら、アサシンクロスはグリーム君で決まりね」

 

「はい」

 

 グリームさん、きっとまた前を向いて歩き始めたんだ。

 

「それで今後の方針ですが、国はまずアインブロックを攻め落とすようです。

 具体的には偵察部隊がアインブロックの情報を持ち帰ってきてからになりますが、私の独自の情報網からでは、かなりの戦力が防衛のために集まっているようですね。

 しかも、お得意の機械仕掛けが」

 

「ふん! 機械人間か」

 

「機械人間? ウィンザー達とはまた違った改造人間ってことですか?」

 

「改造人間ではありません。

 ウィンザー達は人に何らかの禁忌の術を用いた存在です。

 アインブロックの機械人間とはその言葉通り、機械を人のように造ったのです。

 見た目は人……と言っても、5本の爪は鋭く長く、肩から伸びる刃など、とても人とは言えないのですが、一応は人のような姿をしています」

 

「なるほど」

 

「機械人間だけではなく、当然ボット帝国の戦士達もいることでしょう。

 ウィンザー達がいるか分かりませんが、アルトアイゼン達がいる可能性は高いでしょうね」

 

「倒しても倒しても復活してくる。

 その度に強くなっている」

 

「はい。戦った相手から学びさらなる強さを得てしまう厄介な存在です」

 

「本体……がリヒタルゼンにある可能性は高いですよね」

 

「はい。グライア様のお考え通りだと思います。

 本体から何らかの形で、私達の目の前に現れるアルトアイゼンを人の形として創り出しているはずです。

 だからこそ、彼らは敗れても光の粒子となって、それまでの記憶を本体に持ち帰ることできるのでしょう」

 

「戦えば戦うだけこっちが不利になりますね。

 リヒタルゼンに少人数で潜入……は危険すぎますよね」

 

「そうしたいところですが、現状では難しいです。

 アルトアイゼン達の本体を叩くことはおろか、無事に潜入することすらできるかどうか」

 

 

 重い空気が流れてしまう。

 アルトアイゼン達は最初こそカプラーさん達で対処可能な相手であったが、ジュノーで見た時にはカプラーさん達全員を相手に互角にまでなっていた。

 僕がいれば当分は難なく倒せるかもしれないけど、それすら続ければいつかは……。

 それに僕は、アインブロック戦に参加できない。

 アインブロックを越えていくのだから。

 

「カプラーさん達は国と一緒にアインブロックを攻めるのですね」

 

「そうなりますね。

 気になる言い方ですが、グライア様は別行動を取られるおつもりですか?」

 

 カプラーさんの言葉に一番早く敏感に反応したのはティアさんだった。

 びくっ! と身体を震わせて僕を見ている。

 

「……はい」

 

「どちらへ?」

 

「アインブロック、そしてリヒタルゼンを越えてその先へ」

 

「アルナベルツ教国ですか。そこに何かあるのですね?」

 

「はい。果たさなければならない約束があります」

 

「それはどんな約束か聞いても?」

 

「……僕が持つ宝剣の本当の持ち主を救出します」

 

「宝剣の本当の持ち主!?」

 

「その人を救出することが出来れば、アルナベルツ教国で起こっている問題を解決することが出来るかもしれないんです。

 このままルーンミッドガッツ王国がボット帝国に勝ったとしても、その先でアルナベルツ教国と……戦争になる可能性があります。

 僕はそれを回避したいんです」

 

「……なるほど。

 それは重要な問題ですね。ですがアルナベルツ教国との戦争回避は、ボット帝国との戦いの後ではいけないのですか?

 それとも、その救出には時間的な制約があるのでしょうか」

 

「はっきりと後どのくらい時間が残されているのか分かりません。

 でもそんなにたくさんの時間がないことだけは確かです」

 

「……分かりました。

 ですが、グライア様お一人で大丈夫なのですか?

 正直、もうグライア様の強さは私達の遥か上ですので、私達が心配してもどうにもならないのですが」

 

「大丈夫です。

 僕にはまだまだ力があります。

 それに、僕の力の特性上、1人の方が何かと動きやすいです」

 

「そうですか。それなら「お待ちください!!」」

 

 ティアさんがカプラーさんの言葉を遮った。

 

「わ、私も主と一緒に!」

 

「気持ちは嬉しいです。でもティアさんはハイプリーストとしてみんなを支えて欲しいんです」

 

「わ、私では足手まといでしょうか……」

 

「そういうことではないのですが、アインブロックでの戦いも命を賭けた戦いになります。ハイプリーストの力があれば、多くの命を救うことが出来ます」

 

「それでグライア君の命が危険になってもいい、なんて私達は思えないわよ?」

 

 ナディアさんも割って入ってきた。

 

「うんうん。グライアだけなんかすっごい危険な臭いがする場所に行くなんて、私も許せないな~」

 

 アイリスさんまで。

 

「グライア様の担当者として、私も見過ごせませんね」

 

 あらら、グラリスさんまで。

 

「モテますね~グライア様」

 

 カプラーさんがからかう様に言った。

 

「おかげさまで。

 みんなの気持ちは本当に嬉しいです。でもアインブロックとの戦いだって大事なはず。

 みんなの力があれば、死ななくて済む人が大勢いるはずですよね?」

 

 僕の言葉にみんな沈黙する。

 カプラ社の、秘密の羽の、そして国の人達で死ななくて済む人達が、死んでしまう。

 自分達の力があれば、その人達を救えたかもしれない。

 そう考えたら、簡単に僕についてこれないはずだ。

 

「分かりました。

 とりあえず、当初の予定通り、グライア様から新たな力を授かってその力の使い方を学びましょう。

 その新たな力が、アインブロックで役立つべきか、それともグライア様と共に向かうべきか、それから考えても遅くはないでしょう」

 

 上位職スキルの特性は、ランドグリスとの戦いでは学べなかった。

 実際に試してみて、考察してみる必要があるのだ。

 僕もそれに参加しながら、なぜかみんなに修行をつけることになっている。

 氷の洞窟に向かうのはそれからだ。

 

「グリーム様のアサシンクロス以外は決まったのですから、早速明日からグライア様に修行をつけて頂くことにしましょう」

 

 カプラーさんのその一言で、談笑という名の会議は終わった。

 




45話更新となりましたが、残りの話は書けていません。

3月末までに、何とか5章全部書きたいと思っていますが、状況的に厳しいかもしれません。


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