「ブロア神官。つまり資格なしってことですか?」
不思議そうな顔でアルディさんが聞く。
ノービスが天職ってそういうことだよな。
「い、いえ、違います。資格なしの者はお告げが何も聞こえないはずです。ですがこの者はノービスが天職というお告げが聞こえたのです」
「ふむ」
妙な雰囲気。
いや、僕も意味が分からないんだけどね。
でも間違いなく老人オーディンのあの言葉が関係していると思う。
これ、天職を得たらスーパーノービスになれるんじゃないか?
1次職のスキル全部使えたりするんじゃないか!?
「あ、あの。そのお告げのノービスという天職を僕は得たのでしょうか?」
「い、いや。まだですが……お告げの言葉を私が祝福すれば得ることになります。しかし、ノービスからノービスなんて……」
「とりあえず祝福して頂けませんか? そうすればどういうことか分かると思いますし」
僕はワクワクしていた。
きっとかっこいいノービスになれると。
神官さんはアルディさんと目を合わせて頷くと、
「で、では……」
祈りを捧げて両手を広げる。
すると、僕の身体を天使の羽が包み込む。
きた!
これで僕はスーパーノービスなのか?
ステータスを見る。
あれ?
あれれ?
あれれれ~?
ノービスだ。
ただのノービスだぞ。
それに見た目も変わっていない。
どういうことだ?
「どうだ? 何か変化があったか?」
「あ、いえ……まったくありません。ステータスにもノービスと出ています」
「HPやSPは増えたか?」
「増えて……ないです」
みんなの視線が痛い。
哀れみと好奇が混じった視線が痛い。
「ふむ、つまりお前はノービスのまま冒険者を続ける、ということになるな。前代未聞だぞ」
「そ、そんな……」
ポイズンスポアの経験値が入っているのだろう。
ベースレベルは14に上がっていた。
HP110のSP25。
こんな低いHPで戦わなくちゃいけないなんて!?
「ま、まあ。今後のことは後でじっくり考えればいい。何も冒険者だけが生きる道ではないからな。とりあえずグライアとティアの2人は昼飯食べてないだろ。2階に食堂があるから、食べてこい」
アルディさんは逃げるように去っていった。
カリス君とナディアさんも。
「お、お昼食べにいきましょう!」
ティアさんが無理に作った優しい笑顔で言ってくれる。
「はい……」
僕とティアさん、それになぜかついてきたプーさん、マルダックさん、グリームさんの5人で食堂に向かった。
2階の食堂は100人ぐらい入れる広さだ。
グリームさんが軽い口調で、あれが美味いとか、これは不味いとか言っている。
不味いという言葉に厨房の人達がぴくりと反応しているのに気付いていても、口を止めない。
この人放っておくといつまでも喋っていそうだな。
テーブルに座ると、僕の隣りに並んでマルダックさんとグリームさん。
向かいにティアさんが座り、その隣にプーさんが座った。
僕とティアさんが食べている間、他の3人はあれこれと話し始めた。
「え~! プーっちはギルド入らないの!?」
「そうだよ~。ギルドなんて規則いっぱいで嫌だからね~」
「縛られぬ生き方か。それもまた良い。俺は強制的に商人組合に加入だからな」
「あ~ホルグレンさんのところね。あの人すげ~厳しいって噂だぜ~。マルダっち大丈夫かよ」
「ふん。プリーストになって人々を癒せぬ以上、ブラックスミスとなり世界最強の武器の作ってみせるわ!」
「いいね! おいらの武器もよろしく!」
「グリームはどこかのギルドに入るのか?」
「カリスっちが入るギルドに一緒にどうだって言われてね。そこに入るつもりだよ」
「ふん。貴族ギルドか?」
「だろうね。1次天職の間は冒険者も平民も関係ないけど、結局は騎士団や魔術師団に入るのって貴族の人達が多いからね。
本当に実力あるなら関係ないだろうけど。
ま~でも、諸々の支援は手厚いだろうし、レベル上げにはもってこいの環境だろうし。
おいらのことをコキ使おうって魂胆は丸見えだけど、別に構わないさ。
強さを得られるならね」
「強さを……」
ティアさんがグリームさんの言葉に反応して、ぼそっと呟く。
カリスさんは貴族だったのか。
ま~そんな雰囲気を持っているよな。
ってことはナディアさんもか。
「あの、ちょっと聞きたいんですけど、オーディン様の神力範囲ってどれくらいなんでしょうか?」
僕の質問に固まるみんな。
あれ? 何かいけなかったのか?
「あ、え? そ、そりゃ~いまオーディン様の神力が及ばない場所って言ったら……そ、その……」
言い難そうに僕を見るグリームさん。
その言葉からある答えを予想できた。
「アルデバラン?」
「あ、ああ。そうだよ。正確にはプロンテラから向かうとして、アルデバランの手前5kmぐらいからがオーディン様の神力範囲外となる。シュバルツバルド共和国がどうなっているのかは不明だけどさ」
シュバルツバルド共和国?
「グラっちはアルデバランから生き延びてきたんだろ? よく生きてこれたよな。
ボット帝国からさ」
思わず吹き出しそうになった。
ボット帝国!?
なんだそれ!?
「後は遺跡やダンジョンの深層だな。国家の所属しない2次天職の冒険者達の中でも命知らずな奴らが挑むそうだ。一攫千金のレアアイテムのチャンスを狙ってな」
マルダックさんが補足を入れてくれる。
どうやらダンジョン系の奥はやばいようだ。
ボット帝国が気になる。
ボットと聞くとBOTを思い浮べるけど違うのだろうか?
ここで聞くとボロが出そうだからやめておこう。
僕とティアさんの食事が終わり、1階の部屋に行く。
そこは最初の部屋同様に窓しかない部屋だ。
違うのは、そこにいる冒険者達の格好が、ノービスの服ではなく1次天職の服装に変わっているってことだ。
衣装は1次天職を得ると自然と変わるらしい。
今月の新人冒険者は30名+1名(僕)。
無事に1次天職を得られたのは28名+1名(一応僕も)。
部屋には新人冒険者以外の人達がいる。
主に2次天職の格好をした人達だ。
アルディさんではない。
聞くと、いろんなギルドの人達だろうと教えてくれた。
新人冒険者を勧誘しに来ているわけだ。
カリス君はやはり貴族で、カリス君の育成のためのギルドが用意されていた。
父親が用意したらしい。さすがは貴族。
手練れの部下をギルドに所属させているらしいけど、PTを組んで経験値を公平に得られるのはレベル差10までだ。
つまり父親の部下とPTを組むわけにはいかない。
そこで、カリス君が部下達のレベルにおいつくまでの“繋ぎ”が必要になる。
グリームさんを誘ったのはそういうことなんだろう。
プーさんも誘われたらしいけど、断ったそうだ。
僕達を見つけるとカリス君が早速やってきた。
「やあ。食事終わったんだね。ところでティアさん、よかったら俺のギルドに来ないか? 実はこう見えて俺は貴族でね。お父様が用意して下さった部下達もいるし、レベル上げには最高の環境だと思うよ」
僕はスルーでティアさんを勧誘するカリス君。
そりゃ~そうだろう。
ノービスを勧誘したってメリットなんて何もない。
それに加護の使い方を覚えた僕を知らないなら尚更だ。
カリス君の中での僕は、ポリン相手に四苦八苦するグライアなのだから。
「わ、私は……」
チラリと僕を見るティアさん。
ティアさんの視線に気づくカリス君。
「う~ん、グライアも誘ってあげたいところだけど、前代未聞の1次天職がノービスだからな。正直、冒険者として生きていくのは難しいだろ。
アルデバランの生き残りなら、国から援助が出るだろうし。
適当な職を見つけて生きていくんだろ?」
もはや爽やかイケメン君の面影はない。
あれは、僕が1次天職を得られたら自分の成長のための駒にしたいから、愛想良くしていただけだったのか。
「ティアさん。僕のことは気にしないで。
これからどうするか、ちょっと時間をかけて考えるから。
ティアさんは自分の目標のために頑張って下さい。
プリーストになるんですよね?」
「私の目標……」
考え込むティアさん。
ま~カリス君のギルドに入るのはちょっと心配な気もする。
間違いなくティアさんに手を出しそうだから。
むっつりスケベだろうし。
かといって、レベル上げに良い環境であることに間違いはない。
ティアさん自身が決めるべきだ。
僕がどうこういう問題じゃない。
いや、本心としてはティアさんと一緒に! と思っているさ。
だって多分だけど、ティアさんは僕のこと好意的に思ってくれているはずだ!
あの洞窟の中で命を賭けてティアさんを守ったのだから!
命を賭けることになった原因は、僕が悪いんだけどね。
あ、あれ? 好感度アップしているのかな?
よくよく考えると、神力範囲外で勝手にHP0にして、勝手に死にそうになっただけじゃね?
あ、あれ? 全然かっこよくないな……。
「ティアさん。そんな奴のギルドに入ったらだめよ。私のギルドに来ればいいわ」
僕が衝撃の真実に気付いて固まっていると、ナディアさんがやってきた。
「チッ」
「コキ使われて、手付にされて、捨てられるわよ。私のギルドで一緒に頑張りましょう」
「ずいぶんと言ってくれるじゃないか。一応君の許嫁のギルドだよ?」
「ふん! 半年後、その言葉を言えなくしてあげるわ」
「お~怖い。本当にできるならね。負けたら潔く俺の正妻になるんだぞ?」
険悪な雰囲気。
この2人の関係は何となく分かったけどね。
「わ、私、ナディアさんのギルドに入りたいです! 強くなりたいです!」
そんな雰囲気もお構いなしに、ティアさんはナディアさんにギルドに入れて下さいとお願いする。
ナディアさんは笑顔で了承していた。
カリス君のギルド「暁」にはグリームさんが。
ナディアさんのギルド「白薔薇」にはティアさんが。
マーチャントのマルダックさんは商人組合「クホル」に入ることになる。
プーさんはどこのギルドにも所属しない。
そして僕も。
プーさんは僕と違っていろんなギルドから勧誘されていたけどね。
他の新人冒険者達も所属するギルドが決まったようだ。
ゲームとは違うこの世界では、新人冒険者は必ずギルドに所属するし、したがる。
プーさんみたいな人は稀らしい。
全員を集めるとアルディさんが話し始めた。
「よ~し! 全員所属は決まったな! まずは1次天職おめでとう! 今月の新人は優秀らしく1次天職を得られなかった者は2名だけだった。
希望の天職を得たもの、得られなかったもの様々だと思うが、みなのこれからの成長と活躍を期待しているぞ!
ギルドでも改めて新人教育を受けると思うが、俺からも伝えておきたいことがある。
ボット帝国のことだ。
みんなも分かっていると思うが、突然現れた謎の集団にアルデバランが陥落したのが半年前。
本当に悪夢のような出来事だった。
しかし本当の悪夢はそれからだった。
俺は2ヶ月前のアルデバラン奪還作戦に参加した。
俺達の前に現れたのは、魂を無くしたアルデバランの人々だった。
冒険者だけではなく、一般市民までも手に武器を持ち、表情のない顔で俺達に向かってきた。
女子供もだ。
いまあの場はオーディン様の神力が及んでいない。
そんなところで、アルデバランの人々を斬れば、本当に殺してしまうことになる。
むろん、戦闘技術のない一般市民の攻撃を避けるのは造作もないことだ。
しかし、アルデバランの人々の中にボット帝国の奴らが紛れていた。
奴らの戦闘能力は高い。
見た目は俺達と同じ人族の冒険者だ。
違いは、奴らの身体から半透明の白い煙が立ち昇っていることだろう。
奴らが人族なのか、モンスターなのか、それ以外の何かなのか分かってはいない。
魂を無くしたアルデバランの人々の救出方法も分かっていない。
今、ルーンミドガッツ王国の総力を上げて、調査と研究を進めているところだ。
諸君らは来るべきアルデバラン救出作戦の日に備えて鍛錬に励んでもらいたい」
アルディさんの言葉に僕は絶句した。
アルデバランに何かがあったとは思っていたけど、予想以上の惨劇だったのだ。
これじゃ~アルデバラン出身なんていえば、哀れみの目で見られるわけだ。
「私からも一言」
アルディさんの隣にいたプリーストのおじさんが声を上げる。
「まだ未確定情報ではありますが、ボット帝国の戦士達の中でも2次天職の姿をしている者達が恐るべきスキルを所持している、という情報があります。
それは一定範囲をオーディン様の神力範囲外にするというスキルだそうです。
実際、この10日間ほどで数名の死者が出ております。
遠くから見ていた者からもたらされた情報ですので、未確定情報となっておりますが、一般フィールドで死者が出るなど考えられないことです。
皆様も十分に注意を」
「アイテムショートカットには必ずハエの羽か、蝶の羽を入れておけよ! 死にたくないのならな!」
プリーストのおじさんの後にアルディさんが再び声を上げる。
そして、解散! との一言でガヤガヤとみんな部屋を出ていく。
僕はこれからどうしようかと後ろの壁にもたれながら、1人ぽつんと佇んでいた。
するとアルディさんが近寄ってきて、
「グライア。
もし冒険者を続けるつもりなら、冒険者ギルドの受付のエーラの所へ行け。
お前のことは話してある。
1次天職がノービスなら、ノービス用のアイテムを使えるってことだ。
初心者用ポーションとかな。
それと貸し出していた初心者用装備一式も装備したままだろ?
冒険者を続けるなら、そのまま貸し出すそうだ。
まあ、もろもろエーラが説明してくれるだろう」
「はい。分かりました」
アルディさんが去っていく。
ティアさんは僕のことを気にしていたけど、ナディアさんと共に部屋を既に出ている。
グリームさんも、マルダックさんも、カリス君も部屋を出ていく。
プーさんはいつの間にか消えていた。
最後の方の話を聞かずに出ていったのかな?
とりあえず、エーラさんという人に会いに行こう。