幸運なノービス物語   作:うぼのき

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第1章
第9話 韋駄天


 プーさんの舌と僕の舌が絡み合う。

 くちゅくちゅといやらしい音を立てながら、プーさんが顔をあげれば唾が糸を引く。

 

 その横からティアさんが顔を出すと、同じく僕の口の中に舌を入れてくる。

 プーさんに負けまいとくちゅくちゅ音を出す。

 

 ああ、なんて素晴らしいんだ。

 いつまでもこの天国の中で……。

 

 

「おら~! グライア! いつまで寝てるんだ! さっさと起きろ! 仕事入ってるぞ!」

 

 

 野太い声で夢から覚める。

 もっと夢の中にいたかった。

 しかし現実はいつだって厳しい。

 

 荷物倉庫の隅の一角に寝袋を引いて寝ている。

 ここが僕の住処だ。

 

 お金を節約するために、フェイさんの運び屋の倉庫を借りて寝ている。

 一応家賃はゼロにしてもらえた。

 

 アイテムボックスから昨夜買っておいたパンを取り出し、むしゃむしゃと食べながら寝袋を畳む。

 アイテムボックスの中に入れれば一瞬だけど、これから荷物運びをするのに少しでも重量を開けておかないといけない。

 特に僕にとっては死活問題だ。

 

 冒険者ギルドでの新人研修の日から既に1ヶ月が経過している。

 つまりフェイさんの運び屋で働いて1ヶ月が経過しているわけだ。

 最初こそ身寄りもなく、1次天職の資格なしとなった可哀相な子扱いだったのに、僕の加速された動きの速さが分かると、扱いは180度変わった。

 

 ボット帝国のせいで遠隔地への荷物運びが滞っていた依頼を、全て僕に押し付けてきたのだ。

 近場のイズルートには他の人も行くけど、ゲフェン、モロク、フェイヨン、アルベルタ。

 あちこち駆け回ることになった。

 しかも逃げ足は一級品という、残念なエーラさんの紹介状のせいで、ちょっと危険な地帯でも通っていけるんだろ? 的なノリで仕事を押し付けられる。

 要は危険でも近道して早く届けてねってことだ。

 

 アイテムボックス持ちであることも、僕への仕事の押し付けに拍車をかけた。

 僕はまったく知らなかったことなんだけど、そもそもノービスの天職を得られる者も限られているそうだ。

 誰もがなれるわけではなく、一定の素質を持った人だけがなれる。

 

 さらにもっとも驚愕されたのが、僕の移動速度だ。

 つまり加速された動き。

 フェイさん曰く、僕の移動速度は馬鹿げているとか。

 1日で遠隔地の街を往復できる人間なんて見た事ないとか。

 

 いまプロンテラの民間荷物を遠隔地に運ぶ仕事は僕の両肩にかかっていると言っても過言ではない。

 それなのに扱いは新人である。

 体育会系では年功序列が絶対である。

 

 さらに騙された? わけではないけど、得られる賃金ははっきり言って少ない。

 いや、これはゲームから考えた感覚なんだけどね。

 一般市民が生きていく上では、十分な賃金を得ている。

 でも、冒険者として必要な装備やアイテムを買うことを考えると、あまりにも少ない賃金だ。

 それでもこの仕事を続けていることには、ある理由があるんだけどね。

 

 荷物運びのルートに生えている草からハーブ採集はしている。

 ポリンを見つければ倒して空き瓶も集めている。

 こうして集めた冒険者として必要アイテム関係は全部カプラ倉庫に預けている。

 

 カプラさんは存在した。

 道端に立っているわけじゃないけど。

 カプラというお店があるのだ。

 中に入ると、あのカプラさんの格好をした可愛らしい女性が出迎えてくれる。

 残念ながら、お帰りなさいませご主人様、なんてことは言ってくれない。

 一度でいいから言って欲しいものだ。

 

 カプラ倉庫は冒険者なら無料で使える。

 カプラ本社と冒険者ギルドでそういう契約になっているのだ。

 ちなみに、本来冒険者は冒険者ギルドに会費を払い、国に税金を納めないといけない。

 しかし1次天職ノービスという前代未聞の弱小冒険者の僕は、その義務を免除してもらえている。

 

 カプラ本社との契約といっても、今はそのカプラ本社が壊滅状態だ。

 なぜならカプラ本社はアルデバランにあったから。

 いまは仮の本社をここプロンテラに設置してある。

 しかし多くのカプラさん達は魂のないボット帝国の手先と化している。

 ここにいるカプラさん達はみんな笑顔を向けてくれるけど、その内心は穏やかではない。

 

 僕はグラリスさんというカプラ嬢に世話になっている。

 眼鏡をかけた知的ながらもどこかエロティックなカプラさんだ。

 見た目通り知識が豊富で、運び屋のルートのアドバイスなど、いろいろと相談に乗ってもらっている。

 

 僕のカプラ倉庫には、かなりのハーブ類やアイテムが貯まっている。

 グラリスさんには、内緒にして下さいね? とお願いしてある。

 そしたら、カプラ嬢たるものお客様の秘密を公言することはありません!(キリリッ!) と言われてしまった。

 そのSな仕草にゾクゾクしてしまう僕はちょっと変態かもしれない。

 

 さて、今日も一日頑張って仕事をしますか!

 

 

「行ってきます!」

 

「おぅ! 頼むぞ!」

 

 倉庫に積まれた荷物のうち、ゲフェン行きの荷物をアイテムボックスの中に片っ端から入れていく。

 そして僕専用の届け先リストをもらう。

 もはや遠隔地は僕が担当なので、どの荷物を何処にという専用のリストまで存在する。

 僕以外の人が遠隔地に行く気ゼロってことだ。

 

 大通りを西へ向かって駆け抜ける。

 目指すは西の城門、そして魔法都市ゲフェン!

 

 ところで、今日はどっちのルートで行こうかな。

 う~ん、カエルマップを通るか。

 遠回りだけど、今日の仕事はゲフェンの往復だけだし、荷物もそんなに多くない。

 この1ヶ月で溜まりに溜まった仕事は片づけてきた成果だね。

 

 西の城門に向かって駆け抜ける僕を見ると、声をかけてくれる人達がいる。

 

「いよ~! 韋駄天! 今日も早いね~! 頑張れよ!」

 

 僕のおかげで遠隔地への手紙や荷物が運べるようになったと、みんな喜んでくれる。

 そして僕の速さからついた通り名が「韋駄天」である。

 

「うわ~! 韋駄天のお兄ちゃんだ!」

 

 小さな子供達からの人気も上々だ。

 ま~これでも速度はかなり抑えているんだけどね。

 

 30分もすれば西の城門に着く。

 門番の兵士さん達とも、顔馴染の人が増えてきた。

 

「いよ~韋駄天。今日はゲフェンか?」

 

「はい。今日も元気に走って行ってきます」

 

「まったく。お前さんの俊敏の加護はどうなっているんだろうな。

 ま~みんなお前さんのおかげで荷物が運べて大助かりだ。

 ギルドや国からの誘いを断っているのも、ここだけの話、俺はそんなお前さんに好感を持っているんだぜ。

 そりゃ~ボット帝国への準備が大切なのは分かるけどよ。

 だからといって、一般市民の手紙や荷物が運べなくていいわけじゃないもんな」

 

「いや~僕みたいな1次天職ノービスが、ギルドや国の役に立てることなんてないですから」

 

 これがフェイさんの所で働き続ける理由である。

 僕の驚異的な荷物運搬能力に目を付けたギルドや国が、僕を荷物運びとして雇おうとしてきた。

 かなり良い条件で釣ってくるところもあるけど、エーラさんに相談したところやめておいた方がいいと教えてくれた。

 エーラさんが裏でいろいろ情報を集めてくれたのだが、待っているのは地獄のような労働だとか。

 もともとポータル持ちのアコライトかプリーストが所属しているのだ。

 どうしても運ばなくてはいけない物資や荷物があれば、ポータルを使えばいい。

 グライアさんが地獄を見る必要はないですよと、エーラさんのおかげで僕は助かった。

 

「はっ! よく言うぜ。

 ボット帝国に気をつけろよ。

 最近また活動が活発らしいからな」

 

「はい! ありがとうございます! 行ってきます!」

 

 門番の兵士のおっちゃんに笑顔で見送られ、僕はカエルマップに向かって走っていく。

 門番から見えなくなるまでは、街中を走っていたのと同じ速度で。

 しかし、門番から見えなくなる距離まできたら、僕は全力疾走を開始する。

 

「よっと!」

 

 今の僕の走りがいったい時速何キロなのか、計ってみたいものだ。

 この1ヶ月で僕の動きはさらに速くなった。

 

 この世界に来た直後は、自分の能力というか加護の使い方に慣れていなかったのだ。

 あのポイズンスポアとの戦闘の時だって、今の速度からすれば半分以下だ。

 どうして僕はこんなに速いのか。

 

 答えはゲームキャラのグライアのステータスだと思っている。

 Agi97。

 あの数値での加護が僕にはあるのではないか。

 

 いまベースレベルは20。

 レベルの上がり方もゲームとは違う。

 もうポリンをいくら倒しても経験値が入らない。

 経験値が入らなくてもポリン倒してゼロピーや空き瓶集めするけどね。

 

 仮にレベル1の時点で、グライアの持つステータスの加護が僕にあるとしたら、いまこうしてベースレベルが上がるたびに、僕の加護はさらに上がっているのだろうか?

 それとも、僕の加護は決まってしまっていて、ベースレベルが上がってもHPとSPが少し増えるだけなのだろうか。

 はっきりとしたことは分からないけど、恐らく加護は上がっていると思う。

 この1ヶ月の間に俊敏の加護がさらに強まっている気がする。

 

 カエルマップまでの間に遭遇するモンスターを片っ端から倒していく。

 特にファブルとプパは見逃さない。

 カード狙いだ!

 

 カードの価値は高い。

 ものすごく高い。

 ゲーム以上に高い。

 

 それはモンスターとの遭遇率の問題だ。

 ゲームの世界よろしく、ちょっと歩けばモンスターに遭遇する、なんてことはない。

 ポリン1匹見つけるのも、意外と骨が折れる。

 カードのドロップ率はゲームと同じなのかもしれないけど、倒せる数が圧倒的に少ないからカードの産出率が低いのだ。

 

 それなのに!

 ゲームとは違う仕様が、さらにカードの価値を高めている。

 それはスロットの数だ。

 

 スロットといえば、武器なら最大4個。

 防具は1個。

 これがゲームの世界。

 

 こっちの世界では、武器は最大で12個。

 防具は4個である。

 

 恐るべきスロット数!

 しかし同一カードを同じ武器に刺せるのは4枚まで。

 防具は1枚までだ。

 ソルジャースケルトン12枚刺しなんてことはできない。

 

 もう1つ、ゲームとは違うことがある。

 それはモンスターが防具は落とすけど、武器は落とさないってことだ。

 つまり武器はブラックスミスが作るものが全てとなる。

 スロットの数もブラックスミスが作る武器についているのだ。

 

 そのため鉱石関係の需要は高い。

 武器を作る材料もゲームとは全然違っていたからな。

 

 ゲフェンへの荷物運びの際には、カエルマップに寄って見かけたロッダフロッグを倒している。

 ロッダフロッグカード:最大HP+400、最大SP+50というノービスの僕にとってはありがたい効果のカードだ。

 ノービスだけではなく、駆け出しの冒険者にとってはどの天職でも大いに役立つ。

 そのため露店での価格もかなり高い。

 

 実はすでに1枚持っている。

 スロット4のアドベンチャースーツがないので、まだ刺していないけど。

 モロクへの運搬の際には子デザがいないか、血眼になって探しているさ。

 

しかし、実はスロット3のアドベンチャースーツはある。

 なので2枚目のロッダフロッグが手に入れば、スロット3のアドベンチャースーツに刺して使ってしまおうかと思っている。

 

 本当なら売ってスティレット製作の資金に回したいところだけど、僕の幸運なら問題ないと思っている。

 

 そう幸運。幸運です。

 これは、はっきりとそうだと確信を持っているわけじゃないけど、多分そうである。

 何か。

 グライアのステータスのLuk99。

 この加護は、この世界でのアイテムドロップ率に影響を与えているはずだ。

 

 もちろんクリティカルや完全回避も僕は出やすいだろう。

 だがアイテムドロップの良さが異常なのである。

 モンスターを倒せば素材系はもちろんのこと、通常はレアと言われるアイテムがぽんぽん落ちる。

 もちろん100%じゃない。

 カードだってそうそう簡単に落ちてくれるわけじゃない。

 

 仕事が休みの日にポリンを狩りまくってみたところ、恐らく僕のカードドロップ率は1%ぐらいだと思う。

 ゲームでは確か0.02%だっけな?

 それから考えたら驚異的な確率だ。

 

「はぁはぁ……ちょいと休憩」

 

 残念ながら体力はない。

 グライアのVitを少しでも上げておくべきだったと後悔している。

 ベースレベルが上がる度にちょっとは体力ついているような気がするけど。

 

 でもそれが加護によるものなのか、僕自身の体力なのかいまいち分からないのだ。

 

 カエルマップを目前に休憩を取る。

 目の前にはワープポイントの光りの渦が見える。

 

 この世界はフィールドとフィールドを移動するのにもワープポイントを通る。

 ゲームそのままだ。

 だからといって、その先の景色が見えないわけじゃない。

 景色は見えている。

 でも一定の場所から先に行こうとすると、見えない壁に遮られ進めないのだ。

 

 神が世界を分けているから、とこの世界の人達は納得している。

 

 さて、休憩お終い。

 カエルマップでロッダフロッグ探しといきますか。

 

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