ブラック指揮官は痛みを求めている   作:ブラック指揮官

2 / 2
超くだらない話の二話目。

語録詳しくないけど、810はさすがに草。

本編をどうぞ。




私にも竹槍を所望する

◇◆おやつ◆◇

 

「ところでスプリングフィールドくん。ちょっとウロボロスくんのところまで竹槍しに行かないか? もちろん、私がメインタンクになるわけだが」

「寝言は寝てから言ってください」

 

 そろそろ夕刻に差し掛かり、お腹が空く頃合いに、指揮官は突然そんなことを言い放つ。私はそれを冷たくあしらいながら、貧乏ランから帰ってきた彼に紅茶を差し出した。

 

「ほぅ、アールグレイか。この薬のような風味が何とも……」

「別に何も盛っていませんからね?」

「むしろ私としては、薬の一つでも盛ってほしいものだがな」

 

 はっはっは、と指揮官は大きな笑い声を上げながら、差し出した紅茶を一気に飲み干してしまった。まだ熱いというのに、一気に。指揮官の性質を知っているから、その飲み方には思わず溜息がこぼれてしまう。

 

「おかわりは必要ですか?」

「熱々のものを頼むよ。あ、手間なら沸騰したお湯をヤカンごとでも――」

「すぐにお持ちします」

 

 台所に戻ると、ちょうどオーブンの中に入っていたマフィンが焼けたところだった。淡いきつね色に綺麗に焼けていて、よし、とひとつ頷いた。マフィンを取り出して皿の上にちょこんと乗せる。おかわりのアールグレイと共にお盆の上に乗せて、指揮官のもとに戻る。

 

「マフィンが焼けましたので、よろしかったらどうぞ」

「おや、スプリングフィールドくんの手作りかい?」

「はい。お口に合えばいいのですが」

 

 いただこう、と指揮官はマフィンを控えめに齧った。どんな反応がもらえるか、はしたないと分かっていても思わず生唾を飲み込んだ。ジッと、狙撃地点に一匹の獲物がくるのを待つように、指揮官からの反応を待った。何回咀嚼したかわかるほど、集中して指揮官の事を見つめていた。

 

 指揮官は静かにマフィンを飲み込むと、紅茶を優雅に一口飲み、ソーサーの上にカップを置いた。

 

「うむ。スプリングフィールドくん」

「はいっ!」

 

 思わず声に力が入り、それが恥ずかしくて顔が熱くなる。思わず顔を下に向けると、カラカラと快活な笑い声が響き渡る。相変わらず人が悪いと、そう思う。

 

「そう緊張しないでくれたまえ。マフィンも紅茶も、実に美味しい。もし君が良いのであれば、この司令部で、カフェでもやってみるかい?」

「そ、そんな……褒め過ぎですっ。もしかして、からかっているのですか?」

 

 指揮官は「まさか」と言って、またマフィンを口にした。

 

「それほど美味しいのだ。また、おやつ時にでも作ってくれないかね?」

 

 マフィンを口に、紅茶を片手に。優雅にくつろぐ姿は、英国紳士を体現するような品格と威厳が備わっていた。普段の姿など面影もなく、真摯に食卓に向かい合う姿が、とても眩しいと思った。

 

「はい。喜んで」

 

 多分私は、最高の笑顔でそう言っていたと思う。

 

 指揮官の顔が一瞬崩れて、呆けたように間の抜けた顔をしていらっしゃったから。そして、釣られる様に笑ってくださったから。

 

 明日もマフィンを作ろうと、私の楽しみがひとつ増えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◆全身全霊◆◇

 

 

 

「さて、ハンターくん。ウロボロスくんを知らないかね?」

「お前が来た瞬間に逃げたよ。竹槍怖い、とか虚ろな目で呟きながらな。ウロボロスは後で私がしばく」

 

 スクラップに囲まれた鉄臭い工場跡地。ウロボロスくんが隠れて拠点としている場所に、私はお邪魔していた。今回はミサイル攻撃を受けたくて来訪したのだが、どうやら無駄足だったらしい。ちなみに、目の前にいる彼女。肌が病的に白く長い髪を後ろで一本にまとめているハンターは鉄血人形の中でもそれなりのポストについている子だ。

 

「はて、殺さぬように手加減はしていたのだがね。どうしてそんなに嫌われてしまったのか……」

「いきなり現れて、強制鬼ごっこに参加させられ、大火力の一発を叩き込まれれば、誰でもトラウマになる。その上、こちらの攻撃を笑いながら受け止める無敵の狂人が居るときたものだ」

「ほう、君たち鉄血にも、恐怖というものがあるのだね」

 

 それは意外だ、と私は弾幕の嵐に晒されながら笑う。この衝撃、この痛み。やはり鉄血のポストクラスでなければ味わえない、と。蚊に刺されたようなものではない。本物の痛みを感じて、私は生きていることを自覚している! あぁ、生を実感することは何と気持ちよく痛みは背筋にゾクゾクと快楽を奔らせる。

 

 そんな時、弾薬のひとつが眼球に直撃して反射的に体が仰け反った。これまでにない痛みに思わず身体が跳ねた。流れ出る血液に思わず笑みが深くなる。

 

「あぁ、これだ! これだ! ハンターくん、やはり君は素晴らしい!」

「ちっ、急所を撃っても破壊は無理か。お前は本当に人間か?」

「半分はやめてしまっているがね。しかし、小さな火力でありながら私にこれほどの痛みを与えるなんて! もっとだ、もっと、もっと私を痛めつけてくれたまえ!」

「お前は本当に面倒くさいな!?」

「何と言われようが結構! さぁ、もっと激しく、もっと急所を的確に、弾丸の雨を降らせたまえ!」

 

 瞬間、カチという乾いた音が戦場に響いた。弾幕が止んだ。焦っていたハンターくんが、二丁拳銃のリロード管理を疎かにした様子だった。しまった、と目を見開く彼女は私と急いで距離をとりながら急いでリロードを始める。私はその姿を逃すまいと、歩いて、着実に距離を詰めていく。

 

 別に、近づいて攻撃するわけではない。ならばどうして近づく必要があるのか。

 

 ――至近距離から攻撃を受けた方が痛いのは当然だろう?

 

「さぁ、もっと近くで。確実に。君さえよければ、抱擁でも交わしながら語らいたいものだが」

「黙れこの変態がッ!」

「うぅむ、言葉責めもなかなか昂るものがある」

「死ね、消えろ、追って来るなというか近づくな!? くそっ、誰だこんな変態作った狂人は!?」

「ハンターくん、淑女ならばもう少し静かにしたまえ。ここには私が単身で乗り込んだわけだが、私を探してうちの子たちが近づいていないとも限らない。何より『本物のハンターは黙って獲物を待つもの』なのだろう?」

「変態を待つ趣味はない!」

 

 私は決して、走って追い掛けることは無い。一歩一歩、踏みしめるように近づく。これは相手の恐怖を煽りたいわけでも、相手を混乱させたいわけでもない。

 

 ただ、相手の万全な状態での攻撃を受けるために、わざと間合いを調整しやすいよう取り計らっているだけなのだ。最高の一撃を食らってこそ、痛みというのはより強力なものになるのだから。

 

 だから、私は一歩一歩を踏みしめる。不退転の覚悟をもって。相手に100%以上の力を発揮させるために。

 

「さぁ、万全な君の攻撃を私に浴びせ――」

 

 刹那、言葉の途中で横合いから空気を裂く音に、思わず左手を出して受け止めた。ギャリ、と金属の嫌な音と共に受け止めたのは、巨大な鉄の剣であった。

 

「ハンター! 何をてこずっていやがる!」

「っ、処刑人!?」

「ほう、処刑人くんか。噂に違わぬ、素晴らしい太刀筋だ」

 

 何の真似かね、と腰まである黒い髪が特徴の彼女……処刑人くんを睨んでやれば、帰ってきたのは鋭い眼光と、黒光りする銃口であった。

 

「弾はサービスだ」

 

 引き金を引くと同時にパンと乾いた音がひとつ。弾丸は的確に、私の眉間を強打した。それが続けざまに、六発だ。一発目は何ともなかったが、三発目には痛みが走り、四発目には皮膚が割れ、五発目には血が噴き出して、六発目には骨を砕くような音が響いた。

 

「あぁ……期待通りだ」

 

 私から責めるのは好きではない。だが、返って来る痛みが何倍にもなるのであれば、時には責めてやるのも悪くはない。反吐がでるような思いだが、後の快感はそれを払拭して勝るものがある!

 

 眉間越しに揺れた脳みそのせいか、ほんの一瞬、全身から力が抜けた。その間に掴んでいた大剣は処刑人くんの手元に引き戻され、彼女は銃を捨てて両手をもって大上段に構えを取った。

 

「死にやがれ」

 

 踏み込んだ衝撃で、コンクリートの大地をへこませた。

 

 それは常人であれば必死の一撃。SMG最高峰の耐久力を誇るトンプソンくんでも、両断を免れないだろう最高の一撃。受けずともわかる。この私であっても、軽くない傷を負うだろう、至高の一閃。ともすれば、この私すら屠り得る最強の一撃。

 

 なればこそ、私も全身全霊の守りをもって、その全てを受け止めなければならない。

 

「敬意を表する」

 

 この一撃を、もう一度受けたいと心の底から思った。

 

 ――故に、私は君の一撃を完全に凌ぎ切ってみせよう。

 

 両足を地に食い込ませ、腰を落とし、両手を目の前で交差させ、その交点にてその一撃を受け止める――!

 

 私の両腕と大剣の一閃が交わった直後。

 

 重力を何十倍にでもしたかのような重圧が身体全体に圧し掛かる。沈めていた腰が砕けそうになった。地に着いた両足はより深く沈んでいき、私を起点に放物線上にコンクリートに亀裂が走り、砕け散る。衝撃と切れ味から大剣に触れていた腕に少しずつ刃が入り込む。熱湯の比にならない、まるで炎に焼かれたかのような熱さが両腕を覆った。頭の血管が切れそうなほど力んだ。食いしばった歯がミチミチと悲鳴を上げる。全身の骨が軋んで不協和音を奏でる。

 

 ――その全てが、心地よい。

 だからこそ、受け止める。この時を一度きりにしないためにも。私が生き延びてもう一度の機会を得るためにも。死ぬわけにはいかない。

 

 私は全身全霊をもって、君の全力に敗北を与えよう――!

 

「――――ッ!」

 

 私の口から獣のような咆哮が飛び出した。言語を口にするだけのリソースは体の何処にも残っていない。あるのは渇望だ。生き残ってもう一度、という貪欲な願いが力を湧き起こす。

 

 ――ウロボロスくんの多段ミサイルによる焼けるような熱と吹き飛びそうな爆風とも違う。

 ――ハンターくんの正確無比な射撃による的確な痛みとも違う。

 

 この処刑人くんの痛みは、私の中に残っていた軍人としての魂を目覚めさせる、気高く重い痛みだ。命と死を背中合わせに感じる、スリルと興奮が頭の中をグチャグチャにしながら気持ちを猛らせる。これが命だと、これが死だと、全身を縦横無尽に駆け巡る。

 

 思わず、本能が。

 私の意志に関係なく、飛び出してしまいそうだ。

 

 ――衝撃は、長きにわたる拮抗のもと、相殺された。

 

「なにッ……!? このオレの一撃を、生身で防いだだと!?」

 

 あぁ、驚かれているが、無理もない。

 私とて、あの一撃を無防備に頭から受ければ、人として完全に死んでいただろう。

 

 それほどに、あの一撃は重く、鋭く、何より命と覚悟を感じさせた。

 

 あぁ、だからこそ思ってしまう。

 軍人としての魂が叫んでいる。

 

「返礼は、必要かね?」

「ッ!?」

 

 私の言葉に、処刑人くんは全身を泡立たせながら大剣を手放し即座に後退した。瞬きの間に、間合いは5メートルも開いた。その間にちゃっかり捨てていた銃を拾ったようだ。持ち手を失った大剣は、しかし地面には落ちず、私の両腕に食い込んだまま宙ぶらりんとなる。

 

「おい、ハンター。やべぇぞ」

「そんなことは端からわかっている」

 

 私の両腕からは、血が滴り落ちている。しかし、それだけだ。両腕は難なく動く。繋がっている。それ以外に目立った外傷もなく、力もまだ入る。

 

 私は食い込んだ大剣を引き抜くと、血が音を立てて噴き出た。迷彩柄の軍服はすっかり血に塗れてしまった。これはもう使い物にならないと、上半身のそれを脱ぎ去り地面に捨てる。

 

「さぁ、きたまえ。私はまだ立っている」

 

 両腕を広げて、私は「来い」と体の全てで受け止める準備をした。処刑人くんはそんな私を見て、鼻を鳴らして言う。

 

「はっ。惚れちまいそうなほど男前だな」

「それは重畳。私も君の一撃には惚れ込んだ。思わず、全身全霊をもって受け止めてしまうほどにね」

「そうかよ。熱烈な返礼をどうも」

「礼を言うのは私だ。猛る一撃、感謝する」

 

 そんな問答のあと。しかし、待てども向かってくる気配はない。既に弾薬はリロードしてるはずなのだが、こちらを窺ってばかりで何をするでもない。攻めあぐねている様子だ。

 

「どうした? もしかして、この大剣が必要だったかね?」

「あっ?」

 

 何を言っている、という処刑人くんの顔。それに構わず、私は彼女に向けて手に持っていた大剣を投げて返した。

 

「返そう。私が求めているのは、至高の一撃なのだから」

「敵に塩を送るか」

「それで君たちが100%以上の力を出せるのであれば」

 

 返ってきたのは、ひび割れた眉間に対する弾丸であった。痛みは走るが、それだけだ。今の私にとっては、豆鉄砲でも受けたかのような小さな返礼であった。

 

「仰け反りもしないか」

「存外に冷静なのだね。君はやはり、鉄血だ」

「いいや、そうでもない。今なら額で目玉焼きが焼けるぜ」

 

 何なら試してみるか、と言葉が続く。

 

「いいのかね?」

「あぁ。ただ、利用料は――」

 

 ――お前の首だ、と大地が割れるほど彼女が踏み込んだ。その直後であった。

 

 高速で飛んで来たミサイルが私に直撃して爆風と熱に煽られる。目の前が煙に煽られて、視界が確保できなくなった。

 

「一度退け!」

 

 鶴の一声だった。怒り猛ってオーラを滲ませていた処刑人くんの気配はぷつんと自然と同化した。音も立てずに、おそらく今撤退しているのだろう。

 

 場に静寂が戻った。そう思った直後であった。

 

「がぁ――!」

「っ、ウロボロス!?」

「またかっ、また竹槍か!?」

「肩を貸すぜ。急げ!」

 

 どうやら、狙撃の様だ。こんなことをするのは、うちには一人しかいない。最も遠い場所にいたウロボロスくんには何と言葉を掛ければいいのやら。相変わらず淑女の顔の裏で、鬼のようなことをするものだと、私はひとり苦笑した。

 

「また死合おう、鉄血!」

 

 気分は快活だ。ちょうどいい幕切れ、といったところだろう。

 

 猛った心は既に鎮まっていた。代わりに、素晴らしい後を引くような鈍痛と刺されたような痛みが全身を奔る。それだけで、気力と体力が湧いてくるようだ。

 

「指揮官」

 

 戦の名残を全身で楽しんでしばらく。後ろを振り返ってみてみれば、そこにはスプリングフィールドくんと、コルトSAAくん、ウェルロッドくん、グリズリーくん、Mk23くんが立っていた。

 

「あとで、”優しく”看病しますから、まずは司令部に戻りましょう」

 

 そしてやはり、スプリングフィールドくんは悪魔のような淑女だと、私は顔を引きつらせながら、彼女たちに連行されるのであった。

 

 




ドルフロ用語解説


竹槍:
 つまるところライフルのダメージスキルによる一撃必殺戦術。HPトリガーで無敵を張って来るボスに対して主に使用される。構成は基本的にRF1、HG4のものを「大竹槍」といい、RF2、HG3のものを「小竹槍」と呼ぶらしい。尚、本来の「大竹槍」編成にはNTW-20を使用。スプリングフィールドでは些か火力不足に悩むこともある。スプリングフィールドは「小竹槍」編成にてモシン・ナガンなどと一緒に使おう。

スプリングフィールド:
 見た目淑女の☆4RFの戦術人形。愛称は「春田」。「カームショット」というスキルを持っており、効果は「1.5秒かけて最も遠いターゲットへ照準を合わせ、そのターゲットに対して6倍のダメージを与える」というもの。ちなみに、マフィンを焼けたりコーヒーを淹れてくれたり、主婦感も溢れる女性。水着スキンも実装されている。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。