A hero and traitor   作:木苺パン

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四話 My father!!

僕はその日初めて他の生徒と夕食をとった。

 魔法薬学の授業は僕のちょっとした武勇伝だ。瞬く間にその噂は広がり、グリフィンドール生は打って変わり、なかなか好意的に接し、今までのことを素直に謝った。

 ロングボトムは僕に何度も礼を言い、腕がもげるんじゃないかと思うほど手を握ってぶんぶん振った。

 気分は悪くなかった。

 ひょっとしたら、ひょっとすると、僕はグリフィンドールでもやっていけるのでは?とも思った。

「すっかり英雄ね、ミスター・マルフォイ」

 グリーングラスはニヤニヤした。

「……別に。僕は英雄じゃないさ」

 だってあれは僕がやったことではない。分からないが、僕以外の誰かであることは確かだ。

「気持ち悪いほど頬が緩んでるわよ」

 思わず自分の頬を触る。

「ゆ、緩んでなんかいないぞ!」

「―あっ」

「今度は何だ!」

「随分とグリフィンドールで楽しんでいるようだな―ドラコ」

 後ろを振り返るとそこには―。

「父上!」

 僕が最も愛し、最も尊敬し、最も会いたくない人物だ。

 父上はグリーングラスに会釈し、いつの間にかグリーングラスも立ち上がってスカートの端をつまんでお辞儀する。

「今晩はグリーングラス嬢、そしてホグワーツ生徒諸君。お騒がせしてすまない。だが安心したまえ、急な来校にダンブルドアは許可を出した。今日は我が息子―グリフィンドール生のドラコに用があって来た。……だからそんなに固くならずに食事を続けて欲しい」

 父上は“グリフィンドール生”を強調して仰った。 

スリザリンの生徒以外は父上に恐怖と疑念の目を向けている。

 のうのうと食事を続ける者は一人としていない。

「ちちうえ……」

 父上は氷よりも冷たい目で僕を一瞥する。

やっとここで居場所が出来たというのに。

 僕はやはりスリザリンではなくてはいけないのだろうか?

「ドラコ、お前に話がある。付いてきなさい」

 僕は呆然として亡霊のように父上の後に付いた。ゴーストには負けるかもしれない。ああ、僕は何でこんなにくだらないことを考えられるんだ?考えろ、父上を納得させるだけの言い訳を。言い訳?そういえばこの間、グリーングラスが談話室で「言い訳なら考えてあげた」とかなんとか。

 

どういうことだ、グリーングラス?

 

 父上は一つの手狭な部屋をスネイプ先生から借りた。

 部屋はスリザリンの地下の談話室に近く、家具はグリフィンドールとは違い、落ち着いた雰囲気だ。随所に蛇の装飾が施され、意匠が凝らされていることが分かる。

 僕は父上と向かい合ってソファーに腰掛ける。

 気づいたら紅茶まで出てきた。

「……あの父上、今日は何故ホグワーツに?」

 僕は耐えかねず、口火を切った。

「それはお前がよく分かっているはずじゃないのか、―ドラコ?」

 僕は唾を嚥下する。口が渇いてしょうがない。

「組み分けのことですか?」

「それ以外に?」

 父上は紅茶を一口啜る。全ての動作に高貴な育ちと気品が滲み出る。流石僕の父上だとますます尊敬の念が高まったが、そんな場合じゃない。

 父上はティーカップを置くと語り始めた。

「お前がグリフィンドールだと聞いて、ナルシッサは倒れてしまったよ」

「母上が!?」

「……心配するな、ただの風邪だ。看病で忙しくここに来るのが遅れてしまった」

 僕は心底安堵する。母上のご病気はただの風邪だとはいえ、原因は紛れもなくこの僕だ。グリフィンドールのドラコ・マルフォイだ。

「今年は特にハリー・ポッターの影響で波乱の組み分けになるとは聞いていた。しかしだ、ドラコ。お前がグリフィンドールだとは一言も聞いてはいない」

「……はい」

 僕はホグワーツ出発前にあれほど「スリザリンに入るんだ!」と宣言していた。自分の予想と大きく外れる組み分けはホグワーツの歴史上、何度もあったことだと思うが、まさか自分の息子がこうなるとは父上も母上も思ってもみなかっただろう。僕だってスリザリンだと信じて疑わなかった。

 父上はふと優しい声で、俯く僕にたずねる。

「何か訳があるのかね?」

 言い訳。

 ―そういうことか。

僕はようやくグリーングラスの言葉の意味を理解した。

 この時ばかりはグリーングラスに感謝する。とはいえティースプーン一杯分にも満たない程度のだがな!

「僕がグリフィンドールを選んだのは“穢れた血”や“血を裏切る者”に啓蒙してやるためです。純血の尊さ、―そして力を!僕は純血主義者として蛆のような奴らを教育する使命があります」

 僕はとどめにグリーングラスのあの笑みを真似るように嗤った。

「そのために僕はわざわざグリフィンドールを選んだのです」

 父上は面白そうにくつくつと笑いをこぼした。

「あの……父上?」

「いや、すまないドラコ。私の親心はどうやらいらぬ心配だったようだな。あのウィーズリーの子供に洗脳されたかと……。とにかくお前が変わっていなくてよかった」

 眉間の皺がいつもの三倍は深く、いかにも厳格そうな父上は表情をやわらげた。よかった、いつもの、普段の父上だ。

「手紙を返せなくてすまない。今回の急な訪問も不安にさせてしまったな」

「そんなことありません父上!」

「そうか。……そういえばグリーングラス嬢もグリフィンドールだったな?きっとドラコと同じ志を持っているのだろう」

「―は、はい」

 本当にグリーングラスはそんなことを思っているのだろうか?

 たしかにあの時冗談と言っていた。冗談だと言ったのだから本当に冗談なんだろうが、……どういうつもりであんなことを言ったんだ?僕がこうなると知っていながら言ったとすれば……とんでもない奴だ。

「賢そうなお嬢さんだ。“仲良くしてあげなさい”」

 “仲良くしてあげなさい”。

 その言葉は僕の心臓をざわりと素手で触ったような、歪な感触を持っていた。

「父上、母上にお大事にとお伝えください」

「ああ分かった。クリスマスには必ず家に帰りなさい、ドラコ。ナルシッサはお前の帰りを楽しみにしている」

 僕はクリスマスの帰省を約束し、父上と別れた。

 これでよかったのだろうか?

 

 

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