―しかし。そう簡単には終わらなかった。
「わ、私は悪くないんだから!私はハリーとロンを止めに来ただけなんだから!だから―だから私は悪くないんだから」
そこにいたのはグレンジャー。そしてポッターとウィーズリー。
「おい、馬鹿なのか?君たちは?」
「まあ……その、ゴメン。君達の決闘が気になってさ」
とはいえ、深夜の決闘の観戦のために寝床を抜け出す馬鹿がいるとは。僕らも大概だが。
「どこに隠れてるんだ、夜中にベッドを抜け出した生徒は?……ミセス・ノリス、しっかり嗅ぐんだ……」
それはフィルチの声だった。僕達の顔色は暗闇で見えないが、想像に容易い。
聞こえるやいなや、僕達は足音を立てずに、でもがむしゃらにフィルチと反対方向のドアに急いだ。それはもう極東のニンジャ顔負けに。
しばらく走るとトロフィー室のドアが閉まる音がした。とりあえず巻くことには成功した。
「もう!だから嫌なのよ、―こんな危険なことは二度としないで!」
「もう!だから嫌なのよ、―こんな危険なことは二度としないで!」
現れたのはポルターガイストのピーブスだ。奴はグレンジャーの台詞を誇張しながら復唱した。入学式の後に監督生から説明された通り、コイツはかなり厄介だ。
「ダメだねぇ、こんなところに一年生のおチビちゃん。さあさあ、どうなる?」
僕は歯ぎしりする。
―面倒になった。
ポッターとウィーズリーはあろうことかゴーストよりも下等な奴に懇願し始めた。
「お願いだ、ピーブス!僕達、退学になっちゃう」
「うーん、ど・う・し・よ・う・か・な」
困り果てる僕達を見下ろし、ピーブスはニマニマした。ポルターガイストの癖して加虐趣味を持っているのはいただけなかった。
「どけ、ピーブス。僕達はベッドに戻る」
それがいけなかったのか。僕はすぐに後悔することになった。
「生徒がベッドから抜け出したぞ!」
ピーブスは大声で叫ぶ。
僕らは一目散に逃げ出した。後ろからフィルチのような足音が聞こえるのは気のせいか。
無我夢中に走る。走る。
しかし僕達は扉にぶち当たった。鍵がかかっており、どうすることも出来ない。
「マルフォイ。何とかしてよ。魔法薬学の授業みたいにさあ!」
「急に頼まれても!そ、それにあれは―」
僕がやったわけじゃない。そう言おうとしたが、グレンジャーがポッターの杖をひったくり、鍵解除の呪文を唱えた。
五人は部屋に雪崩れ込んだ。
「ようやく巻けたみたいね」
「……そうだな。問題はいつここを出るかだ。フィルチがまた来ないといいが」
「なんならここで一夜を明かすという手もあるけど」
「馬鹿言え。僕はベッドの上以外では寝ない主義だ」
「二人共!」
グリーングラスと話しているとポッターの声が耳に入った。
「後ろ!あれを見て!」
僕は言われた通りに振り返る。
そこにいたのは三頭犬―ケルベロスだ。
まるで怪物そのものだった。六つの琥珀の目は血走り、獲物の僕らをしっかりと見据えている。三つの鼻はそれぞれの方向にヒクヒク動き、肉の匂いを確かめているようだった。恐ろしいのは、口から覗く、何故か血濡れている牙とだらしなく垂らした涎。いったい何人の人間を食らったのは想像もしたくない。
「馬鹿言え……」
僕は思わずそう漏らす。
ここは部屋ではなく『禁じられた廊下』だった。
僕はまだ死にたくない。
言葉を交わさずとも僕達はただ「死にたくない」という思いで一種の団結というものをした。
急いでドアを開け、ケルベロスが出た来れないように丁重に閉めてから、ニンバス2000にも劣らぬ速さでさっきの廊下を五人で駆ける。
ようやく息も絶え絶えになりながら、七階の太った婦人の前までたどり着いた。
「まあ……貴方達。いったい何をしていたの?」
僕達はまるで怪獣犬と戦ったかのように汗だくで、顔も林檎のように真っ赤だ。
「何でもないよ。―豚の鼻、豚の鼻」
ポッターが言うと肖像画は開いた。
僕達は談話室のひじ掛け椅子やソファーに座り、しばし沈黙する。当然だ、あんな恐ろしい光景を見てしまったのだから。僕でさえ足が震えた。
「馬鹿じゃないのか……怪物を城の中に閉じ込めるなんて……。父上に言いつけてやる」
「貴方のお父様に言いつけてもどうにもならないわ。ダンブルドアは何か考えがあるだろうし、理事のお父様もきっとご承知よ」
グレンジャーにばっさりと斬られ、僕は憤慨しそうになる。
「それよりあの三頭犬は仕掛け扉の前に立っていたの。きっと何かを守っているに違いないわ」
「へえ、さすが秀才グレンジャー。で?何を守っているかの見当はついているのかい?」
僕はグレンジャーを皮肉った。
「……そこまでは分からないわ」
「なあんだ。秀才グレンジャーも大したことないじゃないか。だからお前は―」
「ミス・グレンジャー!」
僕の言葉を遮り、グリーングラスは叫んだ。
「もう寝ましょう。同じ部屋よね?では皆様、お休みなさい」
グリーングラスはグレンジャーに付き添って、女子の寝室に消えてった。
「やめた方がいいぜ。ハーマイオニーをおちょくるの。アイツ、いつも本気にするんだから」
「ああ……気を付けるさ。出来たら、ね」
僕達もまもなくしてそれぞれの寝室に戻った。
※
あれから数日が過ぎた。僕達の冒険は僕達しか知らず、お咎めはなかった。
しかし、可哀そうなのはクラッブとゴイルだ。フィルチはピーブスが言った生徒というのはどうやら二人のことだと思い、誤って捕まえてしまったらしい。あながち間違いではないというのは確かだ。そのせいでスリザリンは終始険悪な雰囲気で、合同授業があった日には噛み殺す勢いで睨まれ続けた。ポッターとウィーズリーは調子に乗ったが、僕としては微妙な気分だ。
グレンジャーはあれから僕はおろか、ポッターやウィーズリーに近づかなくなった。あの知ったかぶり屋をまともに相手してあげているのは二人ぐらいだったので、グレンジャーは段々孤立していたが、当の本人はどこ吹く風だ。
そしてある朝。なんとポッターにかのニンバス2000という競技用箒が届いたのだった。どうやら彼は飛行訓練での飛びっぷりでマクゴナガルからクィディッチチームのスカウトを受けたらしい。厳格な教師だがさすがのここ数年、スリザリンにクィディッチの賞杯を持っていかれるのが我慢ならないとか。そこで教頭の権限を使い、特別措置のターンだ。
正直言うと……悔しいし妬ましい。真っ黒なでドロドロしたものが心の中で煮えている。僕は運が悪かっただけだと言い聞かせつつ、飛行訓練の授業の度に思い知らされる差。
努力とは全く異なるそれは才能。
僕の方がずっと前から箒を乗りこなしてきたのに。
僕の方が……僕の方が……と、考えたが、自己嫌悪に苛まれるだけだ。
スリザリンなら何か変わっていたのだろうか。
それはもう……考えたくない。
一話あたりの文字数のムラをどうにかしたいです……。
この作品は夏休みに書き貯めしたものを載せています。