女主人公が人魚に海外俳優のオヤジに振り回される、ギャグありシリアス有りという、内容です。
オカルト、ファンタジー、人魚なんているわけないとか、突っ込みは関係なく、楽しんで読んでください。
バイトを辞めるとすっきりとした気分になった、実家に帰っておいでという両親の言葉に素直に頷いてもよかったのだが、少し気分転換がしたいとからというと、好きにしたらいいよという返事が返ってきた。
恵まれているというか、周りには理解ある友人と親がいてくれてよかったと心の底から思ってしまう、だからバイト先の不満も失恋も我慢できたのだ。
映画を観て、マンガ喫茶に行って、最近買い換えたパソコンでネットで色々なことを調べて、そうだ、芝居やミュージカルもいいかもしれない。
ネットでチケットを調べると東京の方が色々な舞台、マニアックな映画も上演されている、地方に住んでいる自分には無縁だが、ふと思った、どうせなら生舞台が観たい、今の自分はプータロー、自由だから時間はあるが、出費は少しでも避けたいと考えて予定を立て、実行に移すのに時間はかからなかった。
そしてアクシデントに遭遇したのだ。
ああ、夜行バスなんて何年ぶりだろう、就職して給料をもらえるようになって、好きな映画や芝居の為に遠征をするようになって以来ではないだろうか。
太陽は夏のようにぎらぎらしていない、バスを降りてから朝食を食べようと思い、ぶらぶらと歩き出した、朝の七時を過ぎていても、さすがに東京、都会は違う、出勤する人達でごったがえしている。
コンビニ、朝ならハンバーカー、マック、パン屋も開いている、コンビニでおにぎりとお茶を買ったあと、ぶらぶらと歩いていると公園を見つけた。
都会の公演は広い、噴水もある、ベンチに腰掛けて周りを見ながら、コンビニの弁当とお茶ではらごしらえをして、噴水に近寄り、水面をじっと眺めていた。
なんだか、落ち着くなあと思いながら、ぼんやりしていると、ぽちゃんと音がした。 思わず周りを見たが、誰もいない、気のせいだろうかと思い視線を水面に戻したとき、何かが出てきた。
手、人間の手が何故、驚いたのも無理はない、だが、次の瞬間、水面から現れたのは人だった。
噴水から人が、掃除でもして居てたのか、それとも過つ手水に落ちたのかと思ったが、そんなことは普通に考えてあるわけがない、それに水から出てきた人は真っ白な髪をしていた、思わず外国人かと思ったが、驚いたのはそれだけではなかった。
人魚、この下半身はコスプレとか、艶々と光っていて本物の鱗みたいに思える、いや、映画の小道具では、もしかしたら、これはどっきり番組なのではと思ったが、周りに人はいないし、カメラを持った人が突然現れてくる、という気配はない。
「ええっと、あなたは誰、というかどうしてそんな格好をして」
話しかけても相手は答えない、もしかして外国人で日本語はわからないのだろうか、上半身は裸で胸はないから男かもしれないがと思ったが、肩のラインや顔立ちから性別がわからない、そういえば人魚は両性という話をどこかで聞いたけどあれはライトのベルだったかなあ。
いや、頭に浮かんだ考えを振り払う。
しゃあっ、まるで空気の漏れるような音がした。
「何、喋ったの」
相手の表情が何を訴えようとしているのかわからない、これはどうすればいいのだろうか、それに顔かが能面のような、いや、表情がかわらないのだ。
近くのコンビニでパンやおにきりを買い、目の前に差し出すと人魚は食べはじめた、それこそ、躊躇うこともなくだ。
もしかして障害者だろうか、でも綺麗だから下半身に魚の作り物をつけられて見せ物に。
まるで映画か、ラノベ小説のような設定を頭のかに思い浮かべたが、答えなど出るわけがない。
もうすぐ劇場に行かなくてはならない、昼のガラコンサート、夜のソロコンサートが始まって、その後は帰らなければいけない。
どうすればいいのだろうかと迷ったが、変な格好をした人が公園の噴水の中で泳いでいますなんて通報できるわけがない。
結局のところ、何もできないと公園を後にした。
ああ、最高のコンサートだった、日本と海外の俳優のコンサートだとやはり首都公演ということになるんだろう、地方にい滅多にこないし、十でして、ここまできたかいがあった、ただ少し心残りはあるけど。
あの公園で出会った人、いや、人魚の格好をした、あの人は家に帰っただろうか、まさかずっと噴水の水の中ってことはない、と思うけど。
夜行バスの時間までは余裕があるし、ちょっと見てくるだけだ、いるわけがないと思いながら足は自然と向いていた、公園へ。
やっぱりいない、いや、いるわけがないと噴水のそばにいき水面を見回して、ほっとした、今朝のあれは夢、いや、びっくり仮装、もしかしたらユーチューバーのどっきりの隠し撮りかもしれない。
少し早いけど、バス乗り場に行こう、途中で食べるものでも買ってと思ったとき、水音がした、まさかと思い、振り返る。
水面から覗く黒い影に近づいたのは好奇心のせいだけではなかった。
ずっと、水の中にいたのだろうか、いや、誰かに見られて警察に通報されても、おかしくないのだ。
頭の疑問に答えが出ない、なのに彼女の口から出てきた言葉は、お腹、空いてないという、この場には似合わない言葉だった。
この人魚の下半身は作り物には思えない、そう感じたのは相手を水の中から抱き上げた時だ、近くのベンチに腰掛けて買ってきた菓子パンとお茶ジュースを食べながら、警察に届けた方がいいんだろうかと思いながら、ふと時計を見る。
時間があっという間に過ぎてしまうものなんだと実感するが、今、ここで帰ったらどうなるんだろうと思ってしまった。
今、帰らないと、もしかしたら公園で一晩野宿することになってしまわないか、若い女の子なら危ないかもしれないけど、まあ、もうおばさんだし大丈夫だろう、それに一人じゃない。
ただ、気になるのは相手が話せないことだ、いや、もしかして話さないのか、だが、今のところ、不自由はないというか、感じない。
そしていつの間にか眠ってしまった。
目を覚ますと、そこは別世界ではなくてベンチの上だった、そして声で目が覚めたのだ。
意味がわからず驚いたのも無理はない、隣に座っていた人魚が唄っていたのだ、いや、それだけではない、有名なミュージカルのナンバーで、声は男の声で、聞いたことがあるような、いやでもまさか。
呆然として隣に座っている相手の横顔を見ていると、人の声がした。
「あれ、何」
「ちょっと」
若い男女の声、はとして気づいた、下半身が魚の姿が見えたのだろう、慌てて鞄からシャツを出して膝にかける。
だが、歌は続く、この声、聞いたことがある、
でも、昨夜のコンサートを思い出したが。
パンを食べながら、どうしようかと考えた、これからどうしよう、犬や猫を拾うのとは訳が違う、連れて帰るという選択は無理だ。
そもそも下半身が魚、いや、人魚を長距離バスや新幹線に乗せることなど、切符を買っても無理では、というか乗車拒否されるのではないだろうか。
「あたし、帰らないといけないから、これで」
立ち上がろうとすると手を捕まれた。
「警察に行こうか、それとも」
迷う、このまま別れて知らないふりをして、でもそうしたら。
すると人魚は、また歌い始めた。