近づいてくるのはまたまたラナイ外国人、しかも顔色悪い
これは、もう仕方ないだろう
視線を集めている、だが、それだけではない、はっきりとした声ではないが、ひそひそと囁いているのがわかる。
下半身、鱗の部分にはシャツをかけているが、そんなことで隠せるようなものではない。
幸いなのは誰もすぐそばまで近寄って来ることもなく、好奇心を剥き出しに話しかけてこないことだ。
ここから去った方がいい、自分一人なら歩けばいいのだが、隣にいる人魚はどうするのかか、下半身が魚だと、無理ではないだろうか、抱えていくしかない、ような気がする、 そのとき、一人の男性が近づいてきた、だが、顔は外国人だ、人魚も外国人風の顔立ちだ、なので思わず知り合いかと思ったが、相手の顔を見て、その考えを捨てた。
まるで某有名映画の魔法薬学の教師とスペースオペラの悪の道に落ちた若者を足して割ったような顔だしかも数日、寝ていないのか顔色と目つきの悪さに思わす視線をはずしたとしても無理はない。
「んっ、ど、どうしたの」
自分の手を人魚が握ってきた事に驚いた、初めてのことだ。
耳元に顔を寄せるようにして何かを呟き視線を向ける、この行動に何かを感じない訳にはいかない。
ウォー、ウォー、何か意味があるのか、そうだ、この人魚は英語の歌を歌ったではないか、もしかして、ウォーター、水のこと、噴水、水の中に戻りたいのだろうか、そういえば人魚は水から出て、どのくらいの時間、大丈夫なのだろうかなどと考えた。
ふと隣にいるのは本物の人魚だと思っていること、そんな自分に驚きながら、近づいてくる男を見た。
噴水まで抱えていく、大丈夫だと自分に言い聞かせるよう立ち上がり、近づいてくる男に注意しながら足早に歩きだした。
人魚を噴水の中に戻すつもりだった、それで終わりだ、ところが。
叫び声と水音がして、やったと思った瞬間、自分の膝と頭、いや性格には額に激痛が走った。
誰かが手招きしている、白い頭、あの白髪は亡くなった婆ちゃんではないだろうか、いや、よく見ると顔は真っ白で骨、骸骨、死神だ、自分の亡くなった親族、ばあちゃんではなかった、なくなるまでふくよか、いや肉付きのよかった祖母と骸骨を見間違えるなんて、ごめんなさいと謝る、あっ、もしかして自分は死んでしまったのだろうか、ふとそんなことを思い、目を開けようとした。
驚いたのは青白い顔をした男の顔が、目の前に会ったからだ。
ここはどこと周りを見回すと公園のベンチだ、そばには顔色の悪い男が立っていた。
人魚はいない、夢だったのねと思わず、自己完結しようと思ったが、服や鞄が濡れている事に気づいて、妙な気分になった。
人魚姫は泡になって空の向こうに帰って行ったのです、なんてメルヘンな童話が頭の中に浮かんだが、自分を見下ろしている男の存在はどう説明すればいいのか。
とにかく、自分は帰らないと、夜行バスには乗れず、一晩外で過ごしてしまったが風邪も引かずにいたのは幸いだ、だが、今は少し気分がよくないと感じるのは自分のそばにいる、男のせいだ。
しかも話しかけてきた、英語だ。
あ、あいきゃん、スピーク、イングリシュ。
「私、英語は話せません」
日本語の意味が通じるのか分からないが、大きく肩を竦める仕草をした、こういうときのジェスチャーは大げさなくらいな通じるのだ、外国人はテレビでも英語も、大抵、そんな感じだ。
そして振り返らずに立ち去る、これでお終いだ。
東京駅に行くまでに腹ごしらえだ、チェーン店の牛丼とうどん屋の看板を見つけたが、店の前まで来ると中は結構人が多い、時計を見てああそうか、昼前だと納得してふらふらと歩きながらコンビニを見つけて中に入った。
よほどの田舎でもない限り、オフィス街でも、どこでもあるコンビニは何でも揃っていて便利だし助かる。
総菜パン、サンドウィッチ、あまり種類がない、おにぎりは、うん、どれにしようかと見ていると気配を感じた。
「あっ、すみません」
慌てて目の前のおにぎり一つを手にとってレジに向かうのだが、ちらっと振り返って目が点になった。
何故、外国人、男の人ってハーフパンツ、シャツという格好が多いんだろう、動きやすくて楽だから、旅行者先でも着替えとか荷物が少なくてすむから、でも、逞しすぎる胸板、毛がもじゃもじゃと生えた脹ら脛とか、なんだか目のやり場に困るのよ。
そんなことを思いながら外に出るとおにぎりのセロファンを外す、具は塩昆布だ、嫌いではないが、こんな時だから少し高い、辛子明太子にでもすればよかったと思いながら一口、ところが、足が止まった。
公園で別れて終わったと思った、スーツ姿の外国人、魔法学校の薬の先生が立っていたのだ。
しかも、近づいてくる、途中で曲がって行ってほしいと思ったが、真っ直ぐだ、思わず足が一歩、ずりっと交代してしまう。
ここから去ろうと思ったとき、いきなり、視界が暗くなった、顔を上げると誰かが立っている。
シャツと派手な青色のパンツの色が飛び込んできたのだが、次の瞬間。
スーツの男が倒れた、いや、転けたといったほうがいいのだろうか。
何、一体、どういうこと、呆然としていると転んで尻餅をついたスーツの男にハーフパンツの男が馬乗りになって。
ここで彼女の選択は一つしかない、逃げ出すことだ。
いや、普通はそうするだろう。