なんだか、あっというまに時間が過ぎてしまったなあと思ったのは半年もたってからのことだ、新しいアパートで一人で暮らす、これで落ち着いて生活ができる。
ただ、人魚は連れて行かれてしまった、少し寂しいと思ったけど。
いや、ぜんぜん寂しくない、そもそも、あり得ない、非現実だと自分に言い聞かせて新生活を始めるためにバイトを探そうとした。
だが、何故かうまくいかない、面接までは大丈夫なのだが、問題はその後だ、向こうから断ってくるのだ。
まあ、若くないし、可愛いとも美人ともいえない顔だ、昨今はバイトの店員もアイドル並の可愛さで、いい歳をして普段ノーメイクの自分は、ここで差を付けられているのかもしれない。
そして今、自分は、ある問題に頭を悩ませていた、テレビ局の人間がインタビューしたいと言ってきたのだ。
一体、何故と思ったのも不思議はない、すると相手の男は人魚についてだという。
「あなたが人魚を飼っているという話を聞きましてね」
そう言われても、今の自分は一人だ、それに飼っているなんてまるで、ぺットみたいな言い方は嫌だと思った、そんな感情が出ていたのだろう。
どちらにしても話すことなんてないしと断ってから数日のこと。 ら
「しまった、入浴剤、入れすぎたかなあ」
以前はバスクリン、無印の香りのいいものを好んで使っていたのだが、最近はカラーレス、バスソルト、重曹などを使っているのだ、だから匂いもなしだ。
少しぬるっとするのはグリセリンを入れ過ぎたかもしれない、浴槽で滑らないように気をつけようと思い、風呂から上がったのだ。
水を抜くのを忘れていたと気づいたのは翌朝のことだ、最近、うっかり、忘れてしまうことが多いなあ、この歳で痴呆か、恋人も家族もいなくて人生ちょっと寂しいなと思い風呂の水を抜こうとして驚いた。
「ええっ、何、これ、錆、いや、泥」
風呂の水が赤い、このアパートは、それほど古かっただろうか、蛇口を確認するがわからない。
とりあえず水を抜いて掃除をしておこうと思ったのだが。
ばしゃん、音がした。
水が吸い込まれる音ではない、視線を水面に向けると、そこから現れた、いや、伸びてきたといったほうがいいだろう。
ひからびた細い枝、いや、骨のような、それを見て、木桜美夜は声を出すことも驚くみこともできず、ただじっとそれを見つめていた。
大きな水槽の中には人魚がいた、いや、それは数日前までのことだ、今は空っぽだ。
男は放心したように見つめていた。
どうして、何故という疑問が頭に浮かぶが答えが出ない、数ヶ月前、自分は人魚を手に入れた、日本から弟子が連れ帰ったのだ。
海のものではないから大丈夫だと思っていた、というのも自分の師である老人から話を聞いていたからだ。
人魚の血、肉の成分を調べて薬を作る、それが自分の仕事だった、ところが、人魚が突然いなくなったのだ、だから弟子に頼んだ。
無事に戻ってきたのは喜ぶべきことだが、以前の人魚ではなかった、姿が人間の男に両足が生えていたのだ。
どうしてだ、何故と思いつつ、理由を弟子に尋ねると眉間に皺を寄せて自分にもわからないと言う、仕方ない、頭はいいが偏屈な男なので深く追求はしなかった、それがまずかったのだろうか。
だが、それから数日後のこと。
「木桜さん、お願いです、インタビューだけでもさせてください」
昨日の電話で断ったのにと思いつつ、驚いた、コンビニへパンを行こうと思ったら、いきなり出会ってしまったのだ。
「おはよう、偶然ですね」
店の外へ出ようとすると、いきなり声をかけられた、驚いたのも無理はない。
「ああ、私、断りましたよね」
「ええ、でも、これは博士の頼みでもあるのです」
誰ですか、博士、そんな人、知り合いにはいませんと言いかけたときだ。
男は驚いた、突然、目の前に現れた美女にだ、怒っているような目つきで自分を見るのだが、まるで女優のような美貌で見とれてしまったのだ、髪の色と顔つきからハーフなのだろうと思える。
「あっ、私は実はテレビの」
だが、自分の言葉を聞く様子もなく、美女は彼女の手を取ると歩き出した。
「ま、待ってください」
追いかけるが相手は振り返りもしない事にディレクターの神崎が慌てたのは無理もなかった。