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——ボクはキャッピー。カブロン人の少年だ。ある日突然クッパにボクの国を襲われて、そしてボクの妹もさらわれて......。一体どうなることかと思ったが、マリオと協力して——ボクの妹も、マリオの大切な人も救うことが出来た。
お互いの目標は達成することが出来て、今はキノコ王国で小休止している。
「マリオ!」
木陰で休んでいるマリオを起こしてみた。マリオはボクの声でピクっとまぶたを開けると、さっと起きて座り直す。
「マリオ、とっても気持ちよく寝てたよ。」
さっきまでの寝顔を思い出して、思わず笑いながらそう言った。マリオもそれに釣られて、笑っていた。
「確かに、ここって気持ちいいよね。ボクも、こういうところ好きだなあ......。」
ボクは雄大な自然に目線をやりながらそう言った。自然の綺麗な香り、太陽の優しい光——それらが、ボクを温かく包み込んでくれる気がして、気が休まる。
「キャッピー。」
「んっ、どうしたの?」
マリオに突然呼ばれたので、ボクは振り向いた。そしてマリオは一瞬悲しい眼をした後、なるべく中立的な声で言った。
「......旅も終わったし、お別れしよう。」
「えっ、あ......。」
ボクは驚きのあまり、上手く声が出なかった。"お別れ"ということは、旅の幕を閉じ、またいつか会うまで別れを告げる、ということだ。
いつかこの時が訪れることは知っていた。ボク達はあくまで、戦友という仲だから。でも——それが今だとは、全く思っていなかったのだ。
元々ボクだって、戦うことは好きじゃなかった。でもマリオが居てくれたから——ボクの国が襲われた時、戦うことが出来たのだ。それに、マリオを手助け出来ているということが、何よりも嬉しかった。
もうボク達は別れるべきなんだ。いつか来るこの日まで、ぼんやりとそう思っていたはずなのに——ボクはまだマリオともっと旅をしたい。そんなわがままな思いと交錯して、いつの間にか、頬が濡れていた。
「ごめん、やっぱり急だったよね。」
あはは、とマリオは茶化すような笑みを浮かべながら言った。このマリオは、一体何人の戦友と別れてきたんだろう。ボクがそんな思いをするなんて、分かりきっていたようだ。いや、当たり前なんだろうか。とにかく今のボクでは、その事に対しての答えが掴めなかった。
「最後に行きたいところがあるんだ。行こう。」
マリオはそう言うと立ち上がり、オデッセイ号の方を向いた。ボクは我に返って、急いでマリオの帽子に変身してマリオの頭に乗る。
「行き先はどこなの?」
オデッセイ号の地球儀に被せられたボクは、マリオにそう質問した。
「都市の国だよ。」
マリオはそう答えたので、ボクは都市の国までのルートを思い出して、オデッセイ号を操った。少し操れば、後は自動操縦に任せることが出来るので楽だ。
ボクは移動中、マリオとは何も話さないでずっと考えていた。都市の国だから、綺麗な景色が見えるところを教えたい、とか、ニュードンカー達と一緒にまたフェスティバルがしたい、とかだろうか。
マリオも特に話してくる訳ではなかったので、何も分からなかった。ただ、いつもより顔が微笑んでいるような気がした。
都市の国に着くと、いつものルートで本島へ行き、小さなステージのあるシアターを訪れた。
「キャッピー、ここでちょっと待っていてくれるかい?」
マリオにそう言われると、ボクは頷いた。何をするつもりなのだろう。そう思っていると、マリオは出ていってしまった。ボクは仕方なく、近くの席に座った。
——前もこんな時があった。その時は市庁舎に行くから、外で待っていて、と言われて、待っていたのだ。ボクも別にその内容を知りたくない訳ではなかったけど、何だか聞いてはいけないような気がして、聞いていなかった。
今回はどんなことをしたのだろう。ボクに知られないようにしているのだから、ボクには秘密にしたい、という気持ちがあるはずだ。
「お待たせ。」
そう考えていると、あっという間にマリオは帰ってきた。マリオはちょっと急いだ様子で帰ってきたので、更に気になって、つい聞いてしまった。
「何をしに行ったの?」
「すぐに分かるさ。」
マリオは座ろうとしながらにこにこした表情でそう言うと、他に何も言わなかった。ボクはもどかしさを訴え、マリオに対してもっと問いただそうとすると、突然ステージの照明が付いて、思わずそちらの方を向いた。
——ポリーン市長だ。
「うふふ、驚きました?今回は2人だけのために、歌を歌いたいと思います!」
ポリーン市長は元気よくそう言った。ボクはまた驚いて、声も出なかった。ボク達2人だけのために?どうしてそんなことをポリーン市長が?......もしかして、マリオ......?
「マリオ、これって......。」
ボクは思いつめてそれ以上言葉が出なかったが、マリオは振り向いて、にこにこするだけだった。その顔は、恥ずかしさを含むわけでも、企みがこもった顔をしていた訳でもない。ただ、ボクに向かって微笑んでいた。
——あの時ポリーン市長に言っていたのは、このことだったのだ。ボクとの別れを笑顔で迎えられるように、わざわざポリーン市長に懇願していたのだろう。——別れる時のボクの気持ちを、その時から分かっていながら。
「いつもスケジュールが忙しくて、1曲しか歌えないのが残念ですけど......聞いてください!——『Break Free』。」
ポリーン市長がそう言うと、エレキギターの音が鳴り響き、それに釣られて他の楽器も音を奏で始める。その曲調は、まるでボクらの旅の終結を慶福してくれるような、そんな曲調だった。
程なくして、ポリーン市長は歌い始めた。ボクらの旅を思わせるような歌詞に、ボクは聞き入ってしまい、そしてその旅の思い出が走馬灯のように思い出された。
帽子の国で初めてマリオに会って、ボクらはお互いに目標が同じということで、"戦友"として仲良くなった。
そしてそれから、マリオに初めてキャプチャーさせたり、クッパの手下のブルーダルズに打ち勝った時から、ボク達の旅が始まったのだ。
雲の国や奪われし国では、オデッセイ号が撃ち落とされたりもしたが、それだけ見てもその事がそんなに大変だった訳ではない。むしろ、それだけを見るのでは比較にならないのだ。そんなことは旅全体で言えばごく些細なことで、楽しい思い出の方が何十倍も、何百倍も存在していた。
そしてクレイジーキャップで、色々な帽子を見ることが出来た。よくありそうな帽子から、とってもユニークな帽子まで、ボクが思うよりもたくさんの帽子があった。
クッパが月に行った時は驚きを隠せなかったが、ボクはマリオにウェディングタキシードを着させて、いざ戦いに望んだ。そして——クッパを倒して、ボクの妹と、ピーチ姫を助けたのだ。
ボクはそこまで思い出して、涙が止まらなくなった。その涙は頬を濡らし、ボクの思い出を輝かせてより洗練された思い出へと変貌させる。ボクの流した涙は、そうとまで言っていいほどに——人生で一番清らかだと感じた。
『The fireworks are gonna start』
ポリーン市長がそう歌い終えると、マリオは拍手をした。ボクはそこでやっと我に返って、マリオと一緒に拍手をした。——まだ顔を透明な涙で濡らしながら。
「ありがとうございます!お2人とも、挫けずに頑張ってくださいね。では、私達はこれで......。」
そう言うと、ポリーン市長達は楽器を片付け始め、あっという間に帰っていってしまった。
「キャッピー、どうだったかい?」
マリオにそう言われて、さっきのことを思い出した。一つ一つ覚えている歌詞のフレーズが胸に響いて、また涙がこみ上げてきそうだった。
「......とっても、良かったよ。マリオは、ボクのためにここまでしてくれるんだね。」
ボクは、マリオに思ったことを伝えた。こんなに戦友の気持ちを考えて行動するヒーローなんて、他に居るだろうか。
「はは、そんな大したことはしてないよ。ただ、キャッピーを——悲しい想いにさせたくないだけさ。」
マリオにそう言われて、自分の心に聞いてみた。もう、悲しくはない。その心は、雲一つない空のように澄んでいた。マリオのおかげで、自分から別れる意志を見出すことが出来たのだ。マリオに感謝しなくては。
「さて、ボクからのサプライズは終わりだよ。キャッピーは、ボクと一緒に行きたいところはあるかい?」
だがマリオはボクの言いたいことを遮って、そう聞いてきた。マリオと一緒に行きたいところ——。贅沢を言えば、また世界を一周したい。だが、それは叶わぬ願いなのだ。
じゃあ一つに絞り込むとすれば、どこへ一緒に行きたいのだろう。そう考えを巡らせると、ふと故郷が浮かんだ。
マリオと初めて会ったあの時は国が襲われて、マリオをのんびり案内している暇なんてなかった。だが、問題が解決した今なら、自分の故郷の魅力をマリオに教えることが出来るだろう。
「じゃあ......ボクの故郷——帽子の国に行きたい。」
ボクは自然とその言葉が出てきた。マリオは一瞬驚いたような顔をした後、すぐに微笑んだ。
「キャッピーらしいね。それじゃあ、早速出発しよう。」
そう言ったマリオに頷くと、いつものようにマリオの帽子に変身して、頭の上に乗った。
「着いたよ、キャッピー。」
そう優しく言うマリオの声で、ボクはゆっくりと目が覚めた。どうやら寝てしまっていたようだ。
「んん......あれ、ボク寝ちゃってたんだ。」
ボクは苦笑いしてそう言った。ボクはいつ寝たのだろう。地球儀に被せられてオデッセイ号を動かし、椅子に座ったところまでは覚えているのだが——そこからの記憶がない。恐らくその時から寝てしまったのだろう。
「それじゃあ、ここを出ようか。」
マリオがそう言うと、ボクは頷いて、一緒にオデッセイ号を出た。そこは——いつもの、見慣れた景色が広がっていた。
「......マリオと、ここで会ったんだよね。」
幾つかある丘陵から、ボクはそのうちの1つを指してそう言った。
「そうだね。ボクは倒れてたけど。」
マリオは、少し苦笑いを交えてそう言った。あの時は、とても心配していたものだ。
ボクは勇気を振り絞って、あの時思ったことを言ってみることにした。
「実を言うとさ......ボク、マリオが怖かったんだ。」
ボクがそう言うと、マリオの顔は驚きの表情へと変化した。そしてボクは続けた。
「その、こんなボクがマリオと話していいのかな、って。」
ボクは単調な声でそう言った。マリオは納得したようで、普通の顔に戻っていた。
ボクはあくまで普通のカブロン人だ。そんなボクがマリオと接するなんて——拙い存在になってしまうのではないか、という怖さを抱いたのだ。
「......キャッピーは、今でもボクのことが怖いかい?」
マリオはボクの気持ちを気遣うような声でそう言った。
「いいや、怖くはないよ。けど——まだ別の世界で生きているような感覚かな。」
怖さは、ボクがマリオと協力するようになってからは消えていった。だが、知名度などの隔たりから、ボクとマリオは一生深くは分かり合えないのだろうと思ってしまったのだ。
「ボクはそう思わない。キャッピーだって、ボクと違う能力を持ってる。キャプチャーとかさ。だけど、ボクはその、他人と違うところに——親近感を持っているから、そんな感覚はしないよ。」
マリオにそう言われて、はっとした。確かに、マリオの知名度などに親近感を抱く訳ではなく、ボクは敬遠という心を持っている。
「キャッピーはきっと、ボクの知名度にたじろいでいるんだと思う。それに親近感を持つことが、出来るかい?」
マリオはニコッと笑ってそう言ってきた。ボクにそんなことが出来るだろうか——。マリオの知名度は偉大だ。全世界が知っていてもいいくらいには大きい。けど、ボクはそんなマリオと一緒に冒険が出来たのだ。そして、道中ではマリオを手助け出来ていた。
そんなことを考えていたら、親近感が湧いてきた。
「はは、どうやら出来たみたいだね。」
マリオは笑いながらそう言った。いつの間にか、その結果を顔に出してしまっていたようだ。
「えへへ......うん、出来たよ。ボク達はもう、立場が一緒だね。」
マリオが笑っていると、ボクも釣られて笑ってしまった。——ボクはマリオの、寂しくならないように気遣ってくれていることに、涙を浮かべそうになりながら。
ボク達は先に進もうとメガネ橋を渡り、広場に赴いた。出会った頃はボロボロにされていたが、今は何も無かったかのように以前の活気を取り戻していた。
「ティアラと、よく遊んだなあ......。」
以前と同じ広場を見て、思わずそう呟いてしまった。
「何をして遊んだんだい?」
マリオには聞こえてしまっていたようで、僕に問いかけてきた。
「かくれんぼをして遊んだんだよ。ティアラって上手に隠れるから、ボク見つけられないんだよね。」
そう言うと、ボクはティアラが全く見つからない日を思い出した。あの日は、1時間近く掛かっていたかもしれない。
「はは、そうなんだね。」
マリオは微笑みながら、返事を返した。
そして最後に、帽子の塔に2人で登った。登りきった際に大きな月がボク達を歓迎してくれる気がして、気持ちが高揚した。
「ここから見る月、とっても綺麗だよね。」
ボクはマリオに、思ったことを伝えた。
「そうだね。月の表面まで良く見えそうだ。」
ボクはマリオの言ったその言葉で思い出した。ボク達はあの月に行ったのだ。ここから見てもあんなに大きいのに、絶対に届かなくて、訪れることはないと思っていたあの
「他にボクに紹介したいところはあるかい?」
マリオは月を横目に、ボクにそう聞いてきた。
「いいや、ないよ。これで、最後なんだ。」
ボクはそう言った瞬間、悲しみが芽生えた。やっぱりボクはわがままだ。そうボクは自虐して、その思考を振り落とした。
「じゃあ、まだ月を見ててもいいかい?」
マリオはしっかりとこっちを向いて聞いてきた。
「うん、いいよ。——ボクも見てたいから。」
もちろんボクはそのことを了承した。するとマリオは頷いて、月に振り返った。ボクも月に振り返って、ぼうっと眺める。
黄色い月は、周りの空と比較にならないほどの激しい主張を続けている。だが、ただ主張をするだけで、月は穏やかだ。何も表情を浮かべない。
ボクはそんな月に、魅力を感じていた。
「マリオ、ボクの説明、分かった?」
「ああ、バッチリだよ。」
ボクは、オデッセイ号をキャプチャーせずに動かす方法を教えた。ボクの説明は下手かな、と感じたけど、マリオはちゃんと分かってくれたようだ。
「それじゃあ、マリオ......。またいつか、ね。」
ボクは静かに微笑んで、そう言った。マリオも、それを見て微笑んでいた。
「ああ、また会おうね。」
マリオはそう言うと、帽子を深く被り、オデッセイ号に振り向いて歩き出した。
「マリオ!」
ボクは言いたいことを忘れかけて、思わず声が出てしまった。
マリオが振り向いて首を傾げると、ボクは言った。
「ありがとう。」
マリオはその言葉にしばらく微笑むと、マリオは再びオデッセイ号の方へ向き直して歩き出した。その姿を、ボクはただじっと見つめていた。