この眠れる騎士に祝福を   作:【ユーマ】

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第1話『天国?転生?それとも異世界?』

 何も無い、真っ暗な空間。その中にポツンと用意された椅子に俺は座っていた。黒いミドルヘアーに水色の病人服。最後にログインしてたゲームのアバターではなく、現実の自分の姿でだ。

 

「ようこそ、神埼 黒斗(かんざき くろと)さん。残念ですが貴方は先ほど亡くなられました。短い人生でしたが貴方の生は終わってしまったのです」

 

 そして、目の前に居るのは一人の天使。死んだらどうなるのか、死後の世界はあるのか、ぼんやりとそんな事を考えてはいたが。ホントにあったんだな、死後の世界って。

 

「随分と落ち着いていらっしゃいますね。貴方ぐらいの年齢の人達は自分の死を告げられると、嘆いたり取り乱したりするものなのですが」

 

「まぁ、二十歳まで生きられないだろうとは予め言われていたので。未練は残っていても、受け入れる準備ぐらい出来ますよ」

 

 小さい頃から不治の病を患ってるのが確認され、二十歳まで生きられるかどうか分からない状態だった。そして半年前に余命宣告を受けて、宣告どおり先ほど俺はその生涯を終えたと言う訳だ。

 

「そうですか。では、改めまして、初めまして神崎 黒斗さん。私は若くして死んだ人間を導く女神……の、代理をしている天使です」

 

 代理?女神や天使でも風邪とか引いて病欠したりするのだろうか?そんな疑問が顔に出ていたらしく、天使は困ってるような、呆れてるような、そんな複雑な表情に変わる。

 

「実は不測の事態がありまして、日本を担当していたはずの女神が不在になってしまったのです。それで、代わりの女神を派遣しようにも色々手続きもあるのですぐにはとは行かず……」

 

 なんと言うか、神々と天使の世界も現実の企業同様色々大変らしい……

 

「コホン、さて、お亡くなりになってしまった黒斗さんには二つの選択肢があります。一つは今までの記憶や経験を全てリセットし、新たに人として生まれ変わる事。もう一つは天国で永遠の安寧の中で生きること」

 

 完全に生まれ変わるか、天国に行くかの2択と言う訳か。

 

「ちなみに天国の暮らしってどんな感じなんでしょうか?」

 

 もし、自分としてのまま天国で普通に暮らしていけるならそれに越した事は無い。目の前の天使に訊ねてみると――

 

「結論から言うと、何もありません。病も怪我も苦しみも、その代わり食事も飲み物も娯楽……というよりモノがありません。過ごしやすい穏やかな空間で何もせず日向ぼっこをして過ごし、たまに他の死者と会話する。そんな暮らしです」

 

 よし却下。その暮らしの何が楽しいと言うのか。となると自分という存在が消えるのは残念だが、ここはやはり生まれ変わりを選ぶしかないだろう。

 

「本来でしたらこの2つのどちらかなのですが、今の貴方にはもう一つ選択肢があります」

 

 もう一つ?

 

「それって……もしかして地獄行きって奴ですか?」

 

「いいえ、黒斗さんには今の記憶と人格のまま。別の世界で生き返ってもらいます」

 

 簡単にまとめるとこうだ。剣と魔法、いわゆるファンタジーの世界があり、その世界は魔王に支配されそうになっている。そして魔王の軍勢に殺された人々が怖がってしまい、その世界での生まれ変わりを拒否。現在その世界では赤ちゃんが生まれる事が少なくなり始めているとの事。

 

「緊急で神様会議を開き、協議した結果。貴方達の様に若くして死んでしまった、まだ生に対して未練が強いであろう魂をあちらに送り込む。貴方達で言う所の移民政策的な事を行う事になりました」

 

(異世界転生、かぁ。面白そうでは有るけど、自分ではその世界に生まれ変わっても、速攻でモンスターに殺されそうなんだよなぁ……)

 

 ゲームの世界でなら自分はモンスターにも負けないほどの剣士だ。けれど、現実の自分は非力な16歳の少年でしかない。

 

「勿論、そのまま世界に放りだす事はしません。貴方達が新しい世界で生きていける様に、そして魔王を討ち、世界に平和をもたらす勇者となれるように転生された方たちには一つだけ特典をつけています」

 

「特典?」

 

「はい、優れた才能や能力、もしくは強力な神器。それを一つだけ貴方に授けます」

 

 そう言いながら、天使は何もない所か一冊の本を取り出し、俺に渡してきた。その中身は特典の一覧。《超怪力》や《魔剣グラム》など、色々な能力や装備の詳細が書かれている。装備品項目の中に、大きくバツ印が付いてるのは、他の誰かが持っていったのだろう。

 

「後、お分かりかと思いますが特典として私たち天使や神様たちを連れて行くのは当然無しですからね」

 

「いや、しませんって。と言うか、そういうことする奴なんて……」

 

 居ないでしょう、と、言いかけて言葉を止める。そう言えば、先ほど元々此処を担当していた女神が不測の事態で居なくなった、と言っていた。そして今の天使の言葉……

 

「もしかして、居たんですか?」

 

「……はい」

 

 マジか、そりゃ神様のご加護どころか直に協力を得られるのは大きなアドバンテージなのだろうが。と言うか、良く受理されたもんだ……

 

「なにぶん、初めてのケースでしたので。ですが、ここを担当していた女神は、その……素行に少し問題があり、その転生者の要望もどう処理すればいいかも分からなかったので、とりあえずそのまま送っちゃえばいいか、と言う結論に」

 

 なんかもう、色々と酷い話だ。これ以上、神様達の裏事情を聞けば聞くほど神様=神々しい存在というイメージがドンドン崩れていく。さっさと選んで生き返ろう、そうしよう。

 

(装備とか道具は万一なくした時が困るからなぁ……ここは才能や能力系にしておくのが無難か……ん?)

 

 才能系の特典の中の《コンバート》と呼ばれるものが目に付いた。

 

「あの、この《コンバート》と言うのは?」

 

「えっとですね。そちらは貴方達の世界の娯楽の一つ。VRMMMOと言うモノをプレイしていた人だけが選べる能力で、その人がプレイしていたキャラのスキルを貴方自身の素養として引継ぐ、と言うものです。」

 

 なんでも、去年一昨年に日本で何千という人々が死に、日本を担当していた女神は涙目になるほどの大忙しだったそうだ。

 

(恐らく、SAO事件の事だな……)

 

 世界初のVRMMORPG《ソード・アート・オンライン》。フルダイブと言う、まさしく違う世界に来たと言っても過言ではないほどのリアリティを持ったVRMMORPGとして、世界的に有名となったその作品はサービス開始と同時に、ゲームの中で死ねば、リアルの自分も高出力のマイクロウェーブにより脳を破壊され死ぬという命がけのデスゲームと化した。サービス開始から2年後、ゲームはクリアされてプレイヤー達は帰還したのだが、それでも死者は約6千人にも及ぶ大事件となった。

 

「一応、こちらのカタログにも載ってないものでも要望があれば可能な限り受け付けています。そんな中、SAO内での自分の能力を特典として望む方が沢山いまして、それでいっそのこと正式な特典の一つとして取り扱う事にしたのです。勿論、SAOに限らず他のオンラインゲームにも対応しています」

 

 注意点として引継げるのはソードスキルや魔法といった戦闘に用いるアクティブスキル系列のみ。《戦闘回復(バトルヒーリング)》の様なパッシブ系や生産に関わるスキルは引継げない。また、引継がれるのはその人が生前にコンバート元のキャラクター覚えさせた系列のスキルのみ。

 

「また、本来であればその人自身の身体機能等で決定される異世界での貴方の初期ステータスも、引き継ぎ元のキャラの影響を受けます。まぁ、少なくても《コンバート》を選ぶ事で、本来の黒斗さん自身のステータスよりも総合的に低くなる事は無いのでご安心下さい」

 

 あくまで、どのステータスが成長しやすいかといった傾向や、初期値違いが出る程度との事だ、簡単に言えば現実ではバリバリの肉体派なら本来は物理職向けのステになるが、魔法使いキャラの引継いだ場合はその人の初期ステータスは魔法職向けになる、と言う事らしい。と、一通りの説明は受けたが、自分の中では既に答えは決まっていた。

 

「この《コンバート》にします。引継ぐゲームはALO。キャラはサラマンダーの刀使い、《クロム》」

 

 まぁ、俺はALOしかやってなかったので、引継ぐキャラは一択なんだが。

 

「分かりました。それでは魔方陣の中心に立ってください」

 

 天使がそう言うと同時に足元に魔方陣があらわれ、身体がゆっくりと浮かび始める。

 

「神崎 黒斗さん。貴方をこれから異世界に送ります。魔王討伐の勇者候補の一人として。魔王を討伐した暁には神々から贈り物を授けましょう。世界を救った偉業に見合った贈り物……例えば、なんでも一つ願いを叶えましょう」

 

 なんでも、か……つまりは魔王を討てば日本に帰る事も出来るというわけか。

 

「さぁ、勇者よ!」

 

 天使は両手を広げ、俺を見上げる。

 

「願わくば、数多の勇者候補の中から、貴方が魔王を討ち倒す者である事を祈っています。さぁ、旅立ちなさい!」

 

 光が俺の包み込み、視界が白一色に染まる。そして――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが、異世界……」

 

 次に視界が開けたとき俺の目の前には明らかに日本のそれとは違う町並みが広がっていた。




今後、このすばの原作と世界観設定で違いが出る場合は、その都度この後書きにて説明を行っていきます。

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