VRMMORPGも、確かにファンタジーの世界に来たと思えるほどリアリティだった。とは言え、画面にHPゲージが見えたり、モンスターも死体はポリゴン片となって消えたりと、その世界はあくまでゲームである事を認識させる要素があった。
(けれど、此処にはメニュー画面もないし、HPゲージも無い)
正真正銘、本物のファンタジーの世界。その世界で心踊るような冒険をする……はずだったのだが。
(まぁ、ゲームの様にとんとん拍子とはいかないという事か……)
実際はこうしてコテ板片手に壁の建築作業をしている。この街に降り立った後、街の人に冒険者ギルドの場所を聞いて登録に向かったは良いが、冒険者登録には普通にお金が取られる。幸い、駆け出し冒険者の集まる街と言うだけあって、冒険者志望の人や冒険者稼業だけでは食っていけない人の為にバイトの斡旋もしてくれてるらしく、こうしてバイトにいそしんでいる訳だ。
(どの道、登録だけでなく装備も揃えないといけないし、何よりまず服を確保しないと……)
病人服と言う者を知らない人にとっては、俺の服装は服の形をした布を纏っている状態に近い。ギルドの受付のお姉さんを始め、何人か哀れむような視線をこちらに向けていた。
(暫くバイトだなぁ……)
*
「はい、登録料千エリス確かに預かりました。それでは、冒険者志望の方ならある程度は理解されてると思いますが、改めて説明させていただきます」
それから数日後、私服などの日用品を揃えた俺は、改めて冒険者ギルドの登録に来ていた。受けた説明は経験値、レベル、ジョブとRPGでは良くある設定だった。少し違うとしたら、経験値はモンスターを倒すだけでなく、種族問わずに生物を殺した時や食事を摂取した時にも入る事ぐらいだ。そしてレベルが上がる事でステータスの向上と、そのジョブのスキルを覚える為のスキルポイントを入手出来るという事。それらは本来目で見る事は出来ないが、冒険者になった時にもらえる冒険者カードを使う事でそれらを数値化して確認する事が出来るらしい。
「それではこちらの書類に身長、体重、年齢等の記入をお願いします」
差し出された書類に必要事項を記入し、受付に提出。それと入れ替わる形で免許証サイズのカードが渡される。
「はい、結構です。それでは次にこちらのカードに触れてください。それで貴方のステータスが判りますので、数値に応じてなりたい職業を選んで下さい」
言われるままにカードに触れるとカードの一部分が輝き、文字が刻まれた。
「はい、ありがとうございます。カンザキクロトさんは……敏捷が一般的な平均を大幅に上回ってますね。それに筋力と魔力も敏捷ほどではありませんが割りと高い数値です。器用度と知力が平均的で生命力と運は少し低めですね」
ALO時代はサラマンダーの種族で避けるタイプの魔法剣士型ビルドだったからコンバートの効果と考えれば順当な所だ。生命力と運が低いのは間違いなく地球での不幸な身の上(不治の病持ち)の所為だろう……。
「後は……あら?」
冒険者カードを見ていた受付のお姉さんがある項目に目を止めた。
「既にスキルが2つほど習得状態になってますね。これはその該当するスキルに対し優れた素養を持っている時に起こる事で、大体はそのスキルに合わせた職業を選ぶのが無難とされています。それにこのスキル……《ソードスキル・刀》、ですか。去年辺りまではこの《ソードスキル》系のスキル持ちが冒険者登録に来てたのを結構見かけたのですが最近では殆ど見かけなくなったのですよ」
俺のカードに表示されているスキルは《火属性魔法》と《ソードスキル・刀》の2つ。まさにALO時代の主力としていた2つだ。
「そうですね。オススメとしましては魔法剣士の上位職《スペルブレイド》か《キュアフェンサー》のどちらかですね」
どちらも魔法剣士である事は変わらず、武器に属性付与したり、対アンデットなどの性質を付与する魔法剣を共通とし、それに加えて前者は攻撃魔法、後者は補助と回復魔法を交えて戦う職業だ。ちなみに《キュアフェンサー》の説明を受けた時、脳裏にバーサクヒーラーと呼ばれる、あるウンディーネのプレイヤーの顔が思い浮かんだのはきっと俺だけでは無いだろう……。
「勿論、ソードマンやウィザードからスタートして、上位職である《ソードマスター》や《アークウィザード》を目指すのも十分ありですが、どちらかのスキルを持て余す形になるのであまりお勧めはできませんね」
前々から魔法剣士のスタイルで戦っている以上、ALO時代からの慣れたスタイルに近い奴を選んだほうがいいだろう。
「でしたら《スペルブレイド》でお願いします」
「かしこまりました。……はい、これで全ての手続きが完了です。ようこそ、カンザキクロトさん。スタッフ一同、貴方のご活躍に期待していますよ」
こうして、冒険者ギルドへの登録を済ませた事で、本格的に冒険者として活動を開始する事が出来る様になった。冒険者となって最初にはじめた事、それは――
*
「よーし、今日は此処までだ!」
「お疲れ様でしたー」
変わらずバイトだった……。ゲームでよくある薬草採取など、比較的安全なクエストは存在してない。そう言う必要な資源がある場所なら予めモンスターは駆除されて居る訳で、そんな安全な場所への資源採取にわざわざ金を出してまで冒険者を雇う人は居ない。結果、クエストと言えば魔物の討伐などが主で、未だ装備が揃っていない俺では受ける事ができない訳だ。例え剣と魔法の世界でも現実は現実。俺の異世界生活はそれを思い知る事から始まるのだった……。
スキルについて
作中ではスキルは冒険者登録をし職業に付かなくても剣術の才能があったり、鍛錬を積んで自力で会得したものであれば、職業にしばられずに使用できる。
例としては紅魔族はアークウィザード以外の職業でも、ある程度魔法を習得(本人の素養によって属性の向き不向きが出てしまうが)できる。しかし、そんなことをしても特に意味は無いので結局全員アークウィザードになっている。