百合色スタァライト 作:尊さに目を焼かれた人
何が何でもクロちゃんが欲しい真矢様の話
「クロディーヌ! 私のクロディーヌ!」
「ちょ、ちょっとやめてよ天堂真矢! ここリビングよ!?」
寮の共用リビングにて愁嘆場が催される。主演は西條クロディーヌと天堂真矢、観客は星光館在住の九九組の面々である。大場なながスマホを卓上に設置しムービーを撮りだした。
完璧という言葉は彼女の為にあるとまで言われた女、天堂真矢は身も蓋も無く愛しの西條クロディーヌに縋りつきながら、本気で嘆く。訴える。
「あの時、想いが通じたと感じたのは私の勘違いだったのですか!? 私の真矢と呼んでくれたではありませんか、クロディーヌ!」
「だ、だから、その、気持ちの切り替えっていうか……ひ、人前では止めてよ頼むからぁ!」
「だって、貴女が私と話してくれないから……ようやく、ようやく愛しい貴女と真に共に歩めると思ったのに……私のクロディーヌ、一体この天堂真矢の何が気に入らないと言うの!? 答えて、クロディーヌ!」
「……せめてあの時みたいにフランス語でやってくれねぇかなぁ」
ソファに座った石動双葉がお菓子を齧りながら呟くと、双葉からお菓子をあーんされている香子が頷いた。
「うーん、大胆なポーズ。情熱的な台詞。うんうん、ばななイス♪」
「個人的には応援したいけど流石に寮の風紀が乱れるわ。学級委員長として、見過ごせないわね──あ、ありがとう、なな」
「どういたしまして♪」
星見純那がななお手製ばななプリンを手渡され、顔を綻ばせる。寮の風紀とななお手製お菓子では後者に軍配が上がるらしかった。
「あの時、確かに通じ合えた筈の私と貴女の愛……あれは私の勘違いだったのですか? クロディーヌ、貴女は私を愛してはくれないの……? 私の真矢……そう言ってくれたあの言葉は嘘だったの……?」
「ち、ちが、そうじゃなくて、私だって、貴女の事を……」
「では何故?」
「だ、だから、普通に二人っきりの時とかなら、私だって……嫌では……」
鼻先の触れる距離で囁く真矢の言葉に状況認識を侵略されて来たらしいクロディーヌの視界から、周囲の人々が消え始めた様だった。その証拠に、先程まで気にしていた筈のみんなでは無く、その視線は潤んだ天堂真矢の瞳に釘付けになりつつあった。
「ひかりちゃん、華恋ちゃん。そろそろお布団に入ろうか」
「えー、まだ起きてる~」
わめく華恋の隣でひかりがテレビから視線をそらす事無く首肯する。画面では彼女の愛するMr.ホワイトが動き回っていた。初期のエピソードが再放送されている様だ。
「だーめっ。ただでさえ二人とも朝弱いんだから、夜更かししないの。ひかりちゃんも、私それDVDで持ってるから、後で見せてあげるから、ね?」
真矢クロ劇場が二人の教育に悪いと判断したまひるに手を引かれ、愛城華恋と神楽ひかりがリビングから自室に連行されていく。最近のまひるはお姉ちゃん通り越してお母さんみたいだな、と双葉は思った。が、思った直後、膝に香子の頭が乗っかってきたため直ぐに忘れた。
「重いんだよ」
「ふ~ん、双葉はんったら、嬉しい癖にぃ」
「では二人きりなら貴女の気持ちを教えてくれるのですね」
「う、うん……二人だけ、なら……」
いつの間にかクロディーヌの利き手は真矢の手指に絡めとられ、細い腰には腕が回され、最早距離を取る事は出来なくなっていた。自然、耳を侵略してくる美声から逃れる事も出来ない。
「分かりました、では今夜の消灯後、貴女の部屋で」
消灯後の密会宣言に学級委員長の眼鏡が妖しく煌くが、ななに宥められ沈黙した。
「うん……て、ええ!? へ、部屋に来るの?」
「いけませんか? 何か都合が?」
基本的に皆が二人一部屋や三人一部屋での寮生活を営む中、主席である真矢と次席であるクロディーヌの部屋は一人部屋である。確かに一人部屋である以上必然的に二人きりであり、クロディーヌが望んだとおりのシチュエーションではあるが、想い人の真夜中訪問はなんというか、彼女には刺激が強過ぎた。
ただでさえ今まで通じていないと思っていたフランス語での独白の数々を真矢が理解していたと発覚し、ただその姿を見るだけでも羞恥に襲われるというのに。そのせいで顔を合わせづらくなり、結果真矢が我慢の限界を超え、こうして衆目の只中で問い詰められる事となったのだが。
これほどの至近距離で畳み掛けてくる真矢の攻撃力は高すぎた。クロディーヌは真矢の情熱に押し切られてしまいそうであった。
「う、ううん……待ってる」
押し切られてしまった。
「では、また今夜」
それだけ言って優雅に身を翻した真矢に対し、熱に当てられたクロディーヌは何時までも赤い顔のまま、リビングに佇んでいた。最後に赤面するクロディーヌの顔をアップでたっぷりと撮影すると、ななはスマホを回収した。他の級友たちも自室に浴場にと、無言の内に計ったように散っていく。今此処は真矢とクロディーヌが主演の真矢クロ劇場、彼女たちは観衆たる己らの守るべきルールをとくと弁えていた。
その夜、九九組の皆は学生らしく消灯時間直後にはすっかり眠りに落ちた。彼女たちは空気が読める良い子なのであり、舞台少女なのだ。故に皆が夢を見ている時間、彼女たちの首席と次席がどの様に過ごしていたのかは誰も知らない。
ただその日の夜から──天堂真矢はオレンジの、西條クロディーヌはホワイトのペアチョーカーをそれぞれ身に着けていたという。そして真矢は誇らしくも満足気に、クロディーヌはしとやかに恥ずかし気に、お互いを真矢、クロディーヌととても大事なものの様に呼び合うようになったとか。
これは更なる飛躍を遂げる二人の舞台少女、その再生産の日のお話──。
オーバーチュア二巻とアニメ十一話が待ち遠しいです。