百合色スタァライト   作:尊さに目を焼かれた人

15 / 22
※ギャグ
※モブ下級生

以上の注意事項をお確かめの上お読み下さい



幕間:露崎流恋愛覇道術最終奥義『真昼』

「そりゃあ露崎先輩でしょ!」

 

 自分の名前が耳に飛び込んできたので、露崎まひるは反射的に意識を向けた。

 

 まひるは今、少し提出の遅れてしまったプリントを出す為に職員室に向かっている所だった。本当は今朝が提出期限だったのだけどうっかり寮に忘れてしまったので、放課後一度取りに戻って、やっと今出しに行くところだったのだ。

 

 華恋ちゃんやひかりちゃんがすごくナチュラルに置き忘れていったのに気を取られて自分の分を忘れてしまった、というのは言い訳なのだが、先生ですら「露崎が忘れたのか? え、愛城や神楽では無くて?」と素で疑問する位に珍しい事なのであんまり怒られなかった。

 

 一応今日中に必要だから放課後にでも持って来てくれ、と言われただけだった。で、今まさに提出しに行くところだったのだけど、

 

「そうなの? 西條先輩とか天堂先輩じゃなくて?」

「断ッ然露崎先輩だね! 凄いよあの人は!」

 

 所は、下級生の教室の前。となると必然、中で話しているのは後輩、聖翔音楽学園俳優育成科百期生であろう。

 

 定員三十名の俳優育成科A組と舞台創造科B組の二クラスで一学年を構成する聖翔音楽学園では、三学年合わせても生徒数百八十人程度でしかない。普通の学校と比べたら少ない、と言える。

 

 流石に声だけで顔と名前が浮かぶほどでも無いが、まひるの耳に届いた複数人の声には聞き覚えがあった。

 特に、少し愛城華恋に似た声の元気が有り余った子。誰にでも物怖じせずにぐいぐい関わっていく彼女とは、先輩後輩として割と話す方だ。

 

 立ち聞きは良くないと歩調を落とさず歩きながらも、まひるはちょっと嬉しい気持ちだった。

 

 まひる自身主役級に抜擢される選抜の一人とは言え、首席たる天堂真矢、次席たる西條クロディーヌとの間には相応の実力差があると理解している。

 それは捧げた年月、流した汗の量、生まれ持った天分、全てから来る差だと思う。まひるにだって彼女たちにも負けないと胸を張って言える得意分野があるものの、矢張り総合力で見れば差はある。

 

 でもこうして、まひるの芝居を、演技を良いと言ってくれる人がいるのだ。愛する華恋に朗らかで暖かいと、愛するひかりに煌いていると言って貰えたまひるの姿を。

 

 華恋に縋っていた頃のまひるだったら、過分な評価に恐縮するばかりだったかもしれない。でも今は違う。まひるだって舞台少女だ。目指すはトップスタァ。

 

 応援してくれる人々の為にも、誰にだって、天堂真矢にも西條クロディーヌにも勿論愛城華恋にも神楽ひかりにも負けない。自分が一番になるのだ、そういう気持ちで挑むのだと、まひるは意気を新たに胸を張って歩き──

 

「私知ってるもん! 九九期生、否、聖翔音楽学園最強の恋愛強者と言えば露崎まひる先輩を置いて他に居ないよ!」

 

 ──出した傍からずっこけた。

 

 え、なにその肩書、私知らないよ?

 

 

 

 

「露崎先輩って、九九期生選抜の露崎まひる先輩だよね?」

「何回か話した事あるけど、優しくていい人だったな~。ほんわか暖かって感じで。でも、あの露崎先輩がそんなにやり手なの?」

「もっちろん! 露崎先輩は、運命にその存在を刻み込んだ偉人だよ偉人!」

 

 最早立ち聞きがどうとかいってられる状況では無かった。いつの間にか後輩の間で、自分の名が学園最強の恋愛強者にして運命にその存在を刻み込んだ偉人とかいう勇者みたいな存在になっているのだ。

 まひるは教室の戸に隠れて耳を澄まし、中の会話を拾う。

 

 話を聞いているとどうやら、学園一有名なカップルこと真矢クロの話から派生して、恋愛相談に乗ってくれそうな先輩、的確なアドバイスをくれそうな先輩は誰かという話になっていたらしい。

 

 やっぱり有名人だし真矢様先輩とクロちゃん様先輩では、という意見があり、先程の元気っ子がいいや! 露崎先輩一択だね! と主張したと。

 

 ──なんで!? とまひるは大いに動揺した。よしんば相談に乗ってくれそうとかなら兎も角、どうして自分が学園最強の恋愛強者として後輩に語られるまでの存在になっているのか。

 

 衆人環視下で堂々と真矢クロ劇場を表演した真矢クロや、変わらぬ仲睦まじさを体現し続けるふたかおを上回る位置に自分が置かれる心当たりなど、まひるには無い──

 

「ふっふっふ……何を隠そう、あの運命の二人こと愛城華恋先輩と神楽ひかり先輩は、二人とも露崎先輩の彼女なんだよ!」

「えー! 愛城先輩と神楽先輩!? 第百回聖翔祭、九九期の主役じゃん!」

「幼馴染で、小さい頃の約束をずっと守って二人でフローラとクレールをやったあの先輩だよね!? っていうか二人とも!? 露崎先輩の彼女!?」

 

 大有りであった。

 

 

 

 

 愛城華恋と神楽ひかりは聖翔音楽学園の有名人である。選抜の一人である事と、世界最高峰の王立演劇学院からの編入してきた事から元から人目を引く存在だったが、第百回聖翔祭で二人が主役を演じた新訳スタァライトが一層その評判を高め、其処から二人が持つドラマ性も更なる注目を集める結果となった。

 

 幼き頃に共有した思い出、そして交わした約束。長く離れ離れになった二人は二人ともその約束を忘れず胸に夢を抱き続け、片や聖翔音楽学園選抜、片や王立演劇学院で準主役級を演じるまでに成長する。

 

 そして神楽ひかりは舞い戻ってきた、約束を遂げる為に、二人でスタァライトする為に。

 その高い実力で一躍注目株となるも、僅かな期間学校に在籍しただけで彼女は聖翔音楽学園を退学してしまう。わざわざ世界最高峰の学院から日本に来た彼女が何故、と上級生や下級生の間でも大きな話題となった。

 

 最も事情に通じていそうな選抜八人、幼馴染である愛城華恋ですら彼女が何処へ行ったのか、何故退学したのか誰も分からなかった。他の誰かに分かる訳も無く、月日は躊躇いを置いて進む。

 

 数日、数週間、数か月──そして第百回聖翔祭まで残りわずかとなったある日、再び神楽ひかりは舞い戻ってきたのだ。

 

 一体どういう事情があったのか、誰も知らない。ただ、神楽ひかりは愛城華恋に手を引かれて戻ってきたという噂が囁かれるのみ。

 

 既に時は聖翔祭間近、本来なら脚本演出も固まり切り、完成度をひたすらに高める時期。しかし、愛城華恋と神楽ひかりは煌きを取り戻したその演技にて主役の座を射止めた。

 通常あり得ない筈の変更に次ぐ変更、しかしその結果の新訳スタァライトは素晴らしき舞台だった──。

 

 故に二人は、その煌きを目にした者から、その波乱万丈で運命的なストーリーを耳にした者からこう呼ばれる。運命の二人、と。

 

 ドラマ性たっぷりなこの二人の物語は学園中で語り草、詳しい事情を知る者がいない分だけ観衆の想像力という翼を得て更に飛躍を重ねていたのだ。

 

 なにせキリンのレヴューで誰からも煌きを奪わない運命の舞台を望んだので学園の地下で一人きりのスタァライトをひたすら演じ続けていたなんていう真実の話を説明できる筈も無く、誰もが真相を語らないし語れないので、実はどこぞの財閥の娘だった神楽ひかりが親に無理矢理結婚させられそうになり、実家に連れ戻された所を愛城華恋が殴り込みをかけて一途な愛を説き奪い返してきた、位の少女漫画的な妄想物語が流布されている程である。

 

そしてそんな二人と仲良くしている露崎まひるの印象は、

 

「露崎先輩はそんな運命で結ばれた二人を両方落として彼女にしちゃう御方なんだぞ! 正に桁違い! 学園最強の恋愛強者!」

「た、確かにすごい……! 愛城先輩の事好きなんだって噂は知ってたけど、まさか想い人の幼馴染まで一緒くたに虜にするなんて!」

「三人とも凄く仲が良いなあとは思ってたけど、運命の幼馴染に当たり負けせず愛城先輩をモノにするのみならず、露崎先輩からすればぽっと出の泥棒猫神楽先輩すら自分の女に──!? 強者過ぎる!」

「その精強極まる益荒男振りから露崎先輩は運命凌駕、運命支配、運命掌握、ディスティニー・イーターと一部で恐れられ、崇められているんだー!」

 

 何だかとってもラスボス系な二つ名が三つも四つも出てくる始末。

 運命掌握者露崎ディスティニー・イーターまひる。まひるは脳内で己の名を唱えて天を仰いだ。これほどの混乱はかつてない。っていうか華恋ちゃんとひかりちゃんが運命の二人と呼ばれているのに対して私がディスティニー・イーターってちょっと直接的過ぎでは無かろうか、と思う。

 

 それにまひるは自分が二人のお嫁さんになる派なのだがどうしていつの間にか並外れた手練手管で二人を口説き落として自分の物にした、みたいな事になっているのだろうか。

 

「あの天然可愛い愛城先輩は兎も角才色兼備の完璧クールな神楽先輩までお世話で落とすなんて! 一体どれ程の姉力があればそんな芸当が!? あやかりたい!」

 

 授業や生活を共にしない下級生の目から見ればひかりちゃんって確かに完璧クールにも見えるのかなぁ、結構抜けてる所があってそこが困ると同時に可愛いんだけど、とまひるは天井を見上げて真っ向から現実逃避。

 

「三竦みにして三者両想いのトライアングルラブカップルを実現させる常人離れした恋愛術、一体どれ程の高みにあるのかしら……」

「な、凄いだろ! 今からちょっと露崎先輩の所に行って教えを乞おう! みんなで露崎流恋愛覇道術に入門だぁー!」

「──っ!?」

 

 逃避してもなお迫り来る現実に、知らぬ間に露崎流恋愛覇道術開祖になっていたまひるは全力疾走で逃げ出した。

 

 

 

 

 

「つ、露崎流恋愛覇道術──ぼっぶう」

「わ、笑っちゃだめよ、まひるは真剣なんだから……ぐふ」

「露崎ディスティニー・イーターまひるはぁん……」

「やめろ香子ぉ! 我慢できなくなるだろ! んっく」

「う、運命凌駕まひるちゃん、運命掌握まひるちゃん、運命支配まひるちゃん……」

「列挙しないの! なな、露崎さんは傷付いているの、の、よ──えう」

 

 半泣きでみんなに話した所超笑われたまひるである。息が出来ないレベルでみんな腹を抱えて顔真っ赤で床を転がる勢いで超笑っている。ごめんなさいいや違うのですすいませんと言いつつ超笑っている。流石のまひるも真顔である。

 

「私たち二人がまひるの彼女……その線も、アリかな。外堀から埋めてくるとは、流石まひる」

「割としっくりくるねっ、露崎華恋、露崎ひかり……正直ときめいちゃうよ!」

 

 対してまひるの運命二人は、一時はレースから脱落したと思われていたまひるの巻き返し、露崎まひる最上位者説に戦意を燃やしていた。確かに私たちはまひるちゃんに骨抜きにされている、それでも、と。

 

「でも、私は神楽華恋と神楽まひるを諦めない! 二人にだって、負けない!」

「私だって! 愛城ひかりと愛城まひるを諦めない!二人は、私が幸せにするの!」

 

 エア短剣とエア長剣を構える愛しい二人。まひるは菩薩染みた笑顔を浮かべて二人を前に、宣戦布告する。その両手はエア打撃武器を大上段に構え、怒りと戸惑いを超克した開き直りの心境で、彼女は悟ったのだ。

 ──雌伏の時は今終わったのだ、今一度最愛にして幸いのレヴューの幕が上がるのだ、と。

 

「──露崎流恋愛覇道術最終奥義『真昼』、見せてあげるよ。華恋ちゃん、ひかりちゃん。掛かっておいで──勝つのは私、だから」

 

 説明しようッ! 露崎流恋愛覇道術最終奥義『真昼』とはッ! 露崎まひるが生来持っている朗らかで暖かな雰囲気と思いやり、そして弟妹達のお姉ちゃんとして過ごす中で体得した愛情溢れる世話焼きで対象との間に友愛・親愛・恋愛感情を構築する技である!

 この技は誰にでも親近感を持って接する笑顔満点元気200%な誰かさんと一見クールビューティーな雰囲気でありながらその実生活力低めの帰国子女な誰かさんに対し特攻効果を持つ!

 ちなみにこの技は同じく聖翔音楽学園九九期生四大恋愛流派の一角である天堂流硬軟自在恋愛成就法初歩にして秘奥の型『直球求愛』と同等の必中必殺性を持つ為最終奥義の名を冠するがその実露崎まひるの初期技かつ常時発動技でもあり、見せてあげるよと啖呵を切られた時点で既に対象者二名は術中に頭の天辺から爪先までどっぷり嵌っているのだ!

 

 奥義と運命力、そのどちらが勝つかはこれから決まる──多分一生続く三人のバカップルの戦いはまだ始まったばかり、誰も傷付かない愛情の伝え合い、その新境地、今此処に開幕!

 




マジすいませんでした。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。