百合色スタァライト   作:尊さに目を焼かれた人

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・真矢クロ時空とは別の世界線
・ふたかお
・まだキリンのレヴューが始まっていない頃(細かい時系列は考えてないです)
・両想いの二人が両想いを経て両想いに至る物語

注意事項は以上です。



ふたかお物語
幻聴から変調する香子の話


『香子がわがままを言うたびに罰としてキスするからな』

 

 双葉はんが訳の分からんことを言い始めたわ、と香子は思った。同時に、自分の聞き間違いであろうか、とも。

 

 双葉と香子は生まれた時からの親友である。いつも一緒に居た。一緒に居ないでいると、周囲の人々に今日はあの子いないのね、なんて言われる位常に一緒だった。

 

 それこそカップルや夫婦、デキてるんじゃないのか? なんて揶揄いを受ける程度には距離が近いし離れない。

 

 生半可な恋人同士よりもずっとずっと行動を共にしてきたといっても過言ではない。勿論互いに気心も知れている。ある意味親兄弟よりも強い絆が二人にはあった。

 

 一見すると双葉が香子の身辺一切の世話を任された従者の様で、香子は身の回りの全てを双葉に世話させる姫君の様でも、二人には対等の友情があり親愛があり尊重があったのである。

 

 時には諍いもあったけど、それとて喧嘩する程なんとやらという奴だ。なんだかんだ言っても双葉は香子の世話が好きだったし、香子は双葉がそばにいないと駄目なのだった。

 

 これまでもこれからもずっと一緒。言葉にして交わす事は無くとも自他共に認めるそんな感じの二人であったが、筈なのだが──

 

「あたしが世話をするにも限度ってもんがある。香子にもいい加減自立ってものを覚えて貰わないとな」

「はあ? 双葉はん、なに言うてはるん?」

 

 いきなり全部とは言わないけど、明日から少しずつあたしに頼らず、自分の事は自分でやってもらう様にしていくから。と、双葉は学習机に向かったまま顔を上げずに行った。

 

 香子は日常のあらゆる場面で双葉に奉仕されてきた。登下校、食事、マッサージ、膝枕に腹枕。その奉仕に全面的な信頼と信用を抱き、甘受してきたのである。それを少しずつ減らしていく、と双葉は言う。

 

 そんな双葉の宣言をごろ寝の姿勢で聞いていた香子はしばし黙り込み、

 

(キス、とか言うてた気がするんやけど……)

 

 やはり聞き間違いだったのだろうか。

 ベッドの中から仰ぎ見る双葉の横顔は実にいつも通りで、全く平常そのものだ。

 

 双葉がお小言の様な事を言い出すのはまあ、然程珍しい話ではない。むしろ日に数度は必ず零すお約束の様な物であった。零しつつもなんだかんだ香子の世話をしてくれるのが双葉なのだ。だからこれ自体は別に良いとしてだ。

 

 それにしても、キスである。口付けだ。

 

 香子は異性と付き合った事がない。勿論同性とも無い。双葉だってそうだ。常に一緒に居たのでそれは間違いがない。興味がないとは言わないが、そういう関係になりたいと思える相手には出会わなかったし、そうである以上無理して恋人を作る気にはなれなかった。

 

 なによりうちには双葉はんがおるし、と香子は考えている。双葉の一番が自分であるのは当然の事としても、香子とて己の最も近くにあるのが双葉である事は認めるにやぶさかではないのである。

 

 口にするには多少以上に気恥ずかしいが、双葉はんの一番は無論うち、うちの一番は双葉はん。双葉はんやってそう思てはる筈、と香子は確信していた。

 

 ともあれ、そうした唯一無二のパートナーからの唐突なキス宣言である。困惑と共に心臓が早鐘を打ち、頬が熱を帯びるのを香子は自覚した。

 

 映画やドラマのそうしたシーンに対する反応を見るに、双葉とて人並みにそうした行為については憧れや照れがある筈なのだが、香子の視線の先の双葉は黙々と授業の復習を続けており、顔色も何もかも普段通りだ。

 

 ノートに向かって真面目な顔で書き物をしている。なに言うてはるん、香子が聞き返したにも関わらず黙殺を決め込んでいる。

 

 香子は先ほどの発言は幻聴かなにかだろうかと考えざるを得なかった。双葉はんの中のうちを好きすぎる気持ちが変に溢れてしまったんやろうか、と。幻聴だとするなら無い筈の音を聴いた自分の側に原因があるとは香子は考えない。それでは自分が双葉に対してそうした振る舞いを望み、欲求を抱いていると認める様なものだからだ。

 

 双葉はんとうちがキスて、と一瞬脳内で想像してしまい、香子はいやいやと首を振った。

 

 華恋はんラブを隠しきれてないまひるはんの妄想やないんやから、と。とっさの想像にしては妙に艶めかしく思い描いてしまったパートナーとの口付けを振り払い、香子は、

 

「ふ、双葉はーん。うちはもう寝るから、明日の朝……いつも通り起こしてな?」

「分かった。お休み、香子」

 

 ちょっとどぎまぎしながら頼んだのだが、ノートに気を取られている双葉の返答は実に素っ気ないものだった。とてもではないが、唐突な爆弾発言をした人間の反応ではない。

 

 やっぱりうちの聞き間違いやったんやね、香子は己をそう納得させて、やがて眠りに落ちた。

 

 

 

 

 

 柔らかく、しかし有無を言わせぬ力強さで香子はベッドに押し倒された。

 

「い、いやや、なにするん、双葉はん……」

「香子……」

 

 咄嗟の抵抗はあっさりと封じられ、耳元で名前を呼ぶ声は妙に甘い響きを持っていて。香子は意図せずして、自分の身体が抵抗を止めていくのを感じた。

 

 両手は指を絡める様にして、目の前の彼女に捉えられてしまっている。足だって腿のところに彼女の膝が割込み、自由な身動きは実質的に不可能だった。言い訳の様に自分の状態を脳内で列挙する内、香子の四肢は完全に目の前の──双葉を受け入れてしまう。

 

 初めて見る双葉の熱くて冷たい目。背筋がゾクゾクとした。香子との結合を解いた双葉の右の手指が、香子の頬に掛かった髪を掻き上げる。僅かに触れるその指先が妙に冷たく感じるのは、それほど香子の頬が熱を持っているからだ。

 

 気付けば胸の鼓動は不安では無く、期待感に変わっていた。何時も何時でも自分に尽くしてくれる双葉の反逆とも言えるこの行いが、香子にとって驚きでこそあれ決して不快では無かったのである。

 

「良いだろ? 香子……」

 

 二度目に名前を呼ばれ、徐々に近づいてくる双葉の唇。香子は痛いほど高鳴る心臓の鼓動を感じながらそれを受け入れ──

 

 

 

 

 

 そして香子は目を覚ました。

 

「……ゆ、め……?」

 

 現実と夢想の落差に一瞬白く染まった香子の脳内であるが、部屋の反対側のベッドでまだ寝ている双葉を──夢の中での強引さと優しさと色気を備えた妖しい双葉では無く、自分がよくよく見知った何時もの双葉の寝顔を見るにつれ、

 

「──~っ!」

 

 香子は枕を引っ被って無言で絶叫した。

 

 夢だったのである。自分が見た夢だったのである。香子の夢である以上あの双葉もあのシチュエーションもキスを強く拒まなかったどころか待ち望んでさえいた香子も全部全部香子由来の産物であり──

 

 双葉はんのせいや、と香子は脳内で八つ当たりする。

 

(ふ、双葉はんが寝る直前に妙な事言いはるからうちまで変な夢見てしもうたやないの!)

 

 手足をじたばたさせながら布団の中で暴れる香子だったが、

 

「……香子? 珍しいな、こんな早くに。今日は自分で起きれたんだ」

 

 目元をこすりながらむくりと起き上がった双葉に声を掛けられ、慌てて居住まいを正す。

 

「……どうしたんだ? なんか顔赤いけど」

「な、なんにもあらしまへん! うちはいつも通り、なんっにも!」

「……そう?」

「そうどす!」

 

 香子が熱を出して寝込んでしまった時の事を思い出したのか、双葉は心配そうにするが香子は断固として異常を認めなかった。だって、話す事など出来る筈が無い。

 

 第一いま双葉に距離を詰められたらそれだけで、香子はどうにかなってしまいそうだった。

 

 未だに振り払えない夢の残滓が、香子の脳内にははっきりと残っている。頬や手指にだってまだ感触が残っているのだ。この上本物の双葉に触れられたらもう、香子は駄目になってしまう。

 

 事実今既に、自分の顔よりも見慣れた双葉の顔が真っ直ぐ見られないのだ。

 

「う、うち、ちょっとお花摘みにいってくる!」

 

 香子は逃げ去る様に部屋から出て云ってしまった。

 

「風邪って訳じゃないのか……?」

 

 双葉は変な香子、と首を捻る。顔は真っ赤で少し汗ばんでいて、声色も調子外れだった。

 

 風邪だろうかと本気で心配したのだが、実に素早く走り去っていった様子からすると足腰も頭もしっかりしている様で、体調不良とは思えない。長い付き合いだが、あんな香子を見たのは双葉にとっても初めてであった。

 

 この時、双葉は深く考えてはいなかった。なんだかんだと言っても強かな香子の事、特に病気でもないなら学校に付く頃にはすっかりいつもの調子に戻って、元気に自分に甘え始めるだろうと思っていた、のだが──

 

 これより三日間、香子は双葉に寄り付かなくなってしまったのであった。

 

 




続きは明日。
少女☆歌劇 レヴュースタァライト Blu-ray BOX2をスタリラでVSしながら待ち焦がれる日々です。
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