百合色スタァライト   作:尊さに目を焼かれた人

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続きました。


実は恋バナとかしてみたかったクロちゃんの話

「クロはん、天堂はんとはその後どうなん?」

「……ど、どうってなによ」

 

 風呂である。

 聖翔音楽学園学生寮星光館、その浴場である。

 

 共に九九期生たる花柳香子と西條クロディーヌは、二人っきりで風呂に浸かっていた。別に示し合わせた訳でも無く、偶然の巡り会わせで期せずして二人だけなのだった。

 

「やって、クロはんと天堂はんはほら、あれやろ? せやからその後、どうなんかなぁって。うちも年頃の娘やさかい、気になってしもて~」

「──っ」

 

 クロディーヌの顔が真っ赤に染まる。風呂に入っているだけにのぼせたかと思ってしまうほど。だが勿論、その紅潮の理由は湯あたりでは無い。

 

 九九期生次席たる西條クロディーヌと九九期生首席天堂真矢が両想いであり、そしてつい最近想いを通じ合わせて好き合っているという公然の事実を、真っ向からつっつかれた事に羞恥を覚えているのだ。

 

 それは九九期生総員の間では、公然の秘密であり事実である事柄だ。なにせ寮のリビングで多数の観衆を前にあんな立ち回りを演じたのだから。その後二人はペアルックであり互いに名前呼びで、より激しく競い合い実力向上著しい今日この頃なのだから。

 

 人前で二人がイチャついた事は無い。舞台少女として研鑽に身を捧げる間、この主席次席のカップルが色恋にうつつを抜かした事など有りはしなかった。

 

 しかし、互いを呼び合う声に秘められた熱い何かとか。声を交わさないまでも明らかに目と目で通じ合っている様子とか。寮に帰ってきてからも二人で何かしらの練習や勉強をしていて、あまつさえ互いの部屋を訪問し合う事著しく。

 

 同じ教室で学び、同じ寮で暮らす面々の中でのそういう関係である。隠そうとしたって隠し通せるものではないし、しかも真矢クロの場合公私の割り切りこそすれ隠してはいない。

 

 主席と次席の九九期生頂点カップルが祝福と共に、思春期の少女たちから多大な関心を寄せられるのはごく自然な事であった。

 

 二人の一挙手一投足は以前にもまして注目の的なのである。だがそこは日本最難関の学園に集った舞台少女たち。気にはなれども二人の真剣な交際を玩具にしてはならじと不用意かつ興味本位な接触は誰にともなく控えていたのであるが──

 

「いややわぁ、そないな怖い顔せんくてもええやないの」

 

 其処で一歩踏み込むのが京都出身家元の生まれ、花柳香子という女なのである。今丁度二人だけやし聞いたろ、という精神である。

 

 そして一対一の逃げ場のない環境で踏み込まれれば赤面してしまい、被害の最小化の為に背を向けて逃げるという手段も取れなくなるのが、初心にして負けず嫌いの西條クロディーヌという女なのである。

 

 クロディーヌは近頃今までにない充実と充足を感じていた。

 自分の実力がめきめきと伸びているという実感、昨日より今日の方がよりきらめき、より高く飛んでいるという偽りのない事実──そして、そんな自分に負けず劣らず美しく飛翔する愛しい人の背中を追う日々が、競い合い鍛え合う毎日がとても幸福で満ち足りているのである。

 

 愛しい人と相思相愛の関係になる、胸に抱いた想いが通じる、自分が相手に抱くものを相手も自分に抱いてくれている──そんな夢のような体験をしたのは、人生で初めてであったのだ。

 

 故にちょっとだけ、ほんの少しだけ──この幸せを誰かと語りたいとか、誰かにこの充実を聞いてもらいたいなぁ、という思春期の少女らしい思いも、あったりしたのである。

 

 初心と負けず嫌いにこの様な思いも重なり、だから彼女はついつい、

 

「か……香子こそ、最近双葉とはどうなのよ? 進展はあった?」

 

 だがそれはそれとして素直にきゃぴきゃぴお喋りするのは恥ずかしい。故にこういう行動に出る、そっちはどうなのよ、と。そっちも話しなさいよ、と。

 

 こっちが恥ずかしい思いをするのだからそっちだって相応の代償を、という発想は、この場合相手が悪かった。

 

「うちどすかぁ~それはもう、双葉はんと毎日仲良しで日々充実してますぅ。ほら、例のレヴューでお互いに胸の内を明かしたのが良かったんか、うちはもう本当に、双葉はんと一緒で毎日が幸せですわ~」

 

 うちと双葉はんは何時までも一緒やと誓い合った仲どすからなぁー、と。

 

「双葉はんもなんや前よりずっと凛々しゅうならはって、ここだけの話どすけども、うちも不意にどきりとしてしまいますわ」

「へ、へぇー。そう……」

 

 相手は花柳香子である。

 仮に双葉の前であったなら絶対に言わないであろう底の底の本音を、この場面この相手、西條クロディーヌの心情を透かし見てさらりと口にし、堂々と惚気て見せる。

 

 あっけらかんと札を切られた以上手番は回り、クロディーヌの番である。自ら促し相手に喋らせた以上、もう自分も話す以外に道は無い。

 

 嵌められた、という思いが五割。でも正直こういう話とか少ししてみたかったという無自覚の想いが五割。西條クロディーヌは首から耳から、水面より上の部位全てを真っ赤に染めながら、しかし動作だけは優雅に日頃手入れを欠かさない己の美髪を撫でてみせる。

 

 入念な余裕アピールの末、遂にクロディーヌは香子に対し、

 

「──ま、まあ私と、真矢もね。充実してるわ。でも結構大変なのよ、真矢は人前でこそああだけど、割と──香子ほどじゃないにしろ、甘えん坊な所があるから」

 

 見栄張ってちょっと盛った。二人きりの時の真矢は確かに常よりも安らいだ柔和な様子を見せるけども、どちらかというとクロディーヌこそが彼女の懐に抱かれて甘える側である。

 

「ほほぉー、天堂はんが……なんや意外やわぁ。正直天堂はんって達観してはるというか、常に自分を律してはる大人びたイメージどすから」

 

 しめしめとばかりに笑みを深める香子に気付かなかったのは浴場内に充満する湯気故か、それともクロディーヌが初めての恋人自慢及びラブラブ自慢で冷静さを欠いていた為か。

 

「確かにそういう面が目立つけど、一歩進んだ関係になってみると真矢にも子供らしい所とか──ぼ、母性的な所、とか? あるのよね、色々と」

 

 なにせ天堂真矢への愛ならば、憧れや対抗心と共にクロディーヌの脳内に大量に膨大に満々と貯蓄されている。一旦漏れ出れば止まらないのはもう、自然の摂理の様なものだった。

 

 最初は正しく興味本位というか揶揄い半分であった香子も、クロディーヌの熱弁に当てられてか少しずつ口が滑らかになっていった。

 

「で、でね? その時真矢が耳元で優しく励ましてくれて──」

「ええなぁ、天堂はんは優しゅうて。双葉はんにもそういう趣向がちょっとは欲しい所やわぁ」

「香子だって双葉にこの上なく想われてるじゃない。私からしても香子と双葉の関係性っていうか、幼馴染らしい昔から互いを分かり合っているって関係は憧れる所が──」

 

 完全に互いのパートナー自慢合戦賛辞の投げ合いと化した香子とクロディーヌの恋バナは、相方の長風呂を訝しんだ双葉と真矢が突入してくるまで続いた。

 

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