百合色スタァライト   作:尊さに目を焼かれた人

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思春期真っ盛りな真矢様の話

 

 天堂真矢は思い悩む。

 

 自室である。一人っきりだ。パジャマ姿で天蓋付きベッドの上、枕を抱きかかえ顔を埋めて沈思黙考している。

 

 既に消灯時間を過ぎる事三十分、未だ結論は出ない。

 

 悩みはクロディーヌとの事だ。あの、口付けを交換し合った夜から既に二週間は経っている。

 

 このままでは埒が明かないと判断した真矢は携帯電話を取り出す。常日頃あまり使わない端末だが、世の中には日がな一日これを弄って時を過ごす者もいるという。

 

 一人で答えを出し行動に移すには余りに大きなこの悩み、今こそ文明の利器によって数多の英知を参集し、教えを授かる時──! 

 

 真矢は『付き合う キス タイミング』と打ち込むと検索ボタンをタップした。其処で表示された検索結果の中から、取り合えず一番上のものを読んでみる。

 

「付き合い始めてから三か月目くらい、デートで言うなら三回目くらい……?」

 

 他の記事にも目を通し、ちょっと考えてから今度は『同性 恋愛 キス 何時ごろ』と検索してみる。先程と比べてお悩み相談の様なものが多く表示されている傾向だ。

 

 ただ、一回目の検索の時と比べても『雰囲気は大事』『あまり性急すぎるのも駄目』『相手の気持ちも考えて』という類の忠告は共通しているように思う。あまり早い時期に求めると相手は身体だけが目当てなのか、と不安に思ってしまうから、余りがっついた態度は良くないと。

 

「私、がっついているのでしょうか……」

 

 天堂真矢は西條クロディーヌとキスしたかった。

 

 あの夜以降よりクロディーヌとの距離は縮まり、消灯時間の為に自分の部屋に戻る時、互いにお休みのキスを頬や額、首筋などにする習慣が出来たのだけども──。

 

 天堂真矢は西條クロディーヌの唇に、己の唇で触れてみたかった。すごく、してみたかった。頬にするだけでもこうなのに唇同士を触れ合わせてしまったら、と興味津々なのだった。

 

 多分そうした感情は多少なりとも表に出ているだろうし、クロディーヌも雰囲気でそれを感じ取っているだろう事は間違いがないと思う。

 

 こう、二人の時間の最後、別れの時に改めて──改めて、口付けの為に身を寄せ合う瞬間とか、彼我の心臓が痛いほど高鳴っているのを感じるのだ。

 

 例えば頬に触れる瞬間、ほんの数センチ横にずれて唇にキスをする事に抗いがたい誘惑と、そしてもしその行動によってクロディーヌとの関係に良くない変化が生じたらどうしようという拭いがたい恐怖を感じるのだ。

 

 思わず、刹那の隙にクロディーヌの顔色や表情を窺ったりしてしまう。彼女の可愛らしい顔には高揚と羞恥と、そして明らかな緊張が見て取れた。この緊張は抵抗感と期待感、どちらの感情から来る緊張なのかと答えの出ない疑問に頭が一杯になる。

 

 逡巡の結果、いつも通り頬に唇を落とす。ややあって、クロディーヌからも返礼として同じ部位に。

 

 触れ合った後の、身体を離すまでのお互いに流れる何とも言えない数秒がとてももどかしい。居心地が悪い、という表現にすら掠る。まるでお互い不器用に探り合っている様な、無言の沈黙から未出の言葉を得ようとしている様な、そんな踏み出す一歩を恐れ合う臆病な時間。

 

 真矢はクロディーヌの気持ちを、自分の願望に対する彼女の気持ちを。

 クロディーヌは真矢の気持ちを、肌で感じる彼女の欲求に対する自分の想いを。

 

 したい、という気持ちは言わないまでもクロディーヌに伝わっている。それに対して、伝わっているのなら彼女の方から何らかの、拒絶なら拒絶の、受諾なら受諾の意思表示は無いものかと都合の良い思いを抱く。

 

 でも結局何時も、お休みなさい、また明日、で終わる。この上なく幸せなのにとてももどかしい。

 

 キスなんて演劇、ドラマ、映画、漫画、アニメ、創作と現実のどちらでも日常的に目にするものだ。特に恋愛が主なる題材と言う訳では無くとも、何かしらそういう場面自体はある事が多い。愛や恋というのは、人にとってそれほど密接で根源的なものだという事だろう。

 舞台少女として学んできた真矢の人生においても実体験こそ無いにしろ、幾度も幾度も目にした事がある。今更照れる様な行為ではない、そうとすら言えるのに──。

 

 一人の少女天堂真矢として、愛しい西條クロディーヌと向き合ってしまえばこんなにも特別で大切で大事で、畏れ多くて触れ難い。とても崇高で、尊い。

 

 真矢はらしくもなく溜息を零すと、もう寝なければ明日に差し支えると横になる。確かなる実力で主席の座に君臨する彼女と言えど、寝不足で明日に挑めるほど聖翔音楽学園は、九九組生たちは、ライバルであるクロディーヌは甘くない。

 

 眠りに落ちる間際、真矢は思う。誰かに相談してみようか、と。

 

 先程携帯電話で検索した時には、ネット上にそういった相談は多く、そしてまたそれに対する回答も沢山あった。一人で悩んで答えが出ないなら、誰かに導いてもらえばいい。単純明快ながらも真理であると思えた。

 

 問題は誰に相談するか、という事だ。ネットで、というのも少々疎い世界なので抵抗感がある。この気持ちや事情を、見ず知らずの人に正しく言語化して相談できる気もしない。

 

 身近な誰かでこういう事情に詳しい、いわばこの道の先達もしくは理解のある人はいないだろうか。

 

 愛城華恋と神楽ひかりと露崎まひる。

 星見純那と大場なな。

 花柳香子と石動双葉。

 

 改めて冷静に考えてみれば意外に沢山いる、と半分寝ている脳裏で真矢はびっくりする。

 

 いや、勿論、彼女たちが恋人同士的な恋愛の情で結ばれているとは言い切れない部分もあるのであるが、それと同等かもしくか上回るほどの絆の強さ、互いに対する信頼や尊重で繋がっているのは間違いがない面々である。

 

 文字通り運命の二人である愛城華恋と神楽ひかり、その二人を愛し二人に愛される露崎まひる。

 余人の及ばぬほど互いに互いを見知り支え慈しむ星見純那と大場なな。

 これまでも一緒でこれからも一緒だろう、一番近くにあると誓い合った花柳香子と石動双葉。

 

 この中でそういった相談が出来るのは──今の天堂真矢の悩みに対して、答えを授けてくれそうなのは──。クロディーヌとの関係進展の一心の為に其処まで考えて、天堂真矢は眠りに落ちた。

 




何故か私の中の真矢様はケータイを使わなさそうなイメージがあります。特に機械音痴とかそういうのではなく、本当に連絡とか最小限の事にしか使ってないイメージ。
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