百合色スタァライト   作:尊さに目を焼かれた人

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2018/9/22、ちょっと描写を修正。


幕間:まひかれひかとふたかお

「うええぇ~ん、うええぇ~ん」

 

 子供の様に大声を上げてわんわん泣いている女の子が一人。共用リビングのソファに突っ伏したその人物は露崎まひるであった。

 

 容姿も性格も女の子女の子した大人しくて優しくて面倒見がよい、そして時に華恋とひかりのお姉ちゃんかれひかのお母さんかれひかの飼い主と称される彼女の涙はどうしようもなく人々の同情を引き、まひるを泣かした奴は誰だ! と義憤に駆られること請け合いの哀れさがあった。

 

 たまたまその姿を発見した石動双葉も例外では無く、泣き暮れる友人を発見するなり血相を変えて傍に駆け寄った。

 

「どうしたんだよまひる! 何かあったのか?」

「ふ、双葉ちゃん……」

 

 なにせ、尋常な泣き方では無い。慟哭と称してもなんら過度でないその嘆きは、咄嗟に不幸を察してしまうだけの臨場感があった。北海道にいる彼女の家族に何かあったのか、と双葉は思ってしまったほどだ。

 

「あ、あのね、華恋ちゃんとひかりちゃんが」

「華恋とひかりがどう──」

 

 そこで双葉は思った、まさか、と。

 

「ふ、二人が私に、駄目、嫌だって……受け入れられないって……」

「──っ」

 

 ついにこの日がきちまったのか、と双葉は臍を嚙む。愛城華恋と神楽ひかり、そして露崎まひるの均衡が崩れる時が、と。

 

 そう、それは見えていた破局。不可避のもつれ。いずれ訪れる結末──。

 

 露崎まひるは愛城華恋の事が好きだ。それは周知の事実であった。なんてったって見れば分かる。一年生の頃から、ひょっとすると初めて会った日から、露崎まひるは愛城華恋を恋い慕っていた。

 

 天真爛漫元気一杯天然娘の愛城華恋も露崎まひるが大好きである事は間違いがなく、二人は一番の親友であり、その仲は非常に良かった。

 

 だがある日、一人の転校生の存在がその関係に変化を齎す。愛城華恋にはいたのだ、運命の相手、約束の子、写真の彼女──神楽ひかりが。

 

  愛城華恋は神楽ひかりの事だって勿論大好きで、そして神楽ひかりは愛城華恋を愛していた。

 

 突如としてまひるの満たされた日々に分け入ってきた神楽ひかりは、華恋の隣というまひるの幸せの座を侵略したも同然だった。実際、一時期は二人の間に良くない空気が漂った事もある。

 

 だが、それでも彼女らは同じ夢に魅せられた舞台少女で、同じ人を好きになった者同士。元から相性自体は良かったのか、あるきっかけを経て打ち解けたまひるとひかりは親友になり、華恋とまひるとひかり、三人のほのぼのとした日々がつつがなく続いていたのである──が。

 

 考えてみれば当たり前の事。この三者の関係は永遠の物では無い、そう定められていたのだ。

 

 露崎まひるが神楽ひかりを受け入れ、友情を抱いたとしても、彼女が恋する愛城華恋は一人なのだから。

 神楽ひかりが露崎まひるを受け入れ、友情を抱いたとしても、彼女が愛する愛城華恋は一人なのだから。

 

 キリンのレヴューすら乗り越えた三人でも、三人である以上どうしたって、結ばれるのはどちらか一方。たった一組。三人が三人ともずっと幸せなんて──土台無理な話。

 

 それでも、傍から見る双葉からすれば三人は幸せそうに日常を過ごしていたのだった。それはなぁなぁな決着で悲劇の引き延ばしなのだとしても、三人はともに双葉の親しい友人で、出来る事なら誰にも泣いてほしくないと思ってしまっていたのだ。

 

 何時か来るはずの時が今日来てしまった。そして、華恋が選んだのは幼馴染のひかりだった。まひるでは無かった──。

 

 言ってしまえば、好き合っている者同士が一緒になったという喜ばしい事。ただそこには一人、恋破れ泣く者も居る。誰が言えるだろう、不幸になる奴がいるんだから恋を諦めろなんて。自分じゃない誰かに遠慮して気持ちを誤魔化せなんて。

 

 三人の中でそんな事をしても、結局は泣く者が変わるだけ。不幸は変わらない。一組のカップルが誕生するという幸福も変わらない。偽り続けるという無理はより悪い破綻を呼ぶかもしれないのだ。

 だから、本来双葉のするべきことはまひるを慰め励ましてやる事くらいで、華恋やひかりに物申そうなんておこがましい事なのかもしれない。

 

 ただ、大粒の涙を流すまひるを前に、双葉は耐え難い怒りを感じていた。

 

 しょうがない事だとしても、そんな言い方をする事無いだろ、と。こんなにまひるを悲しませるやり方なんて、と。

 

「三人とも……仲良かったじゃねぇかよ……」

 

 もっと優しい言い方は無かったのか? 結末は変わらないにしても、もっとまひるを傷つけずに済む、何時かまた三人で笑い合えるような、思いやりのある伝え方は無かったのかよ、と。

 

「そんなのってねえだろ、華恋、ひかり……!」

 

 許せない、と。例え部外者の嘴突っ込みでも、あの二人に一言言ってやらねきゃ気が済まない。双葉はぐっと拳を握り締めた。

 

「か、華恋ちゃんも、ひかりちゃんも……!」

「もういいっ。もういいんだまひる、あたしがあの二人にガツンと言って──」

「私が華恋ちゃんとひかりちゃん両方のお嫁さんになりたいって言ったら、二人とも駄目だって言うの!」

「──は?」

 

 聞き間違いか、と双葉は思った。目の前のまひるは未だ泣いている。先程までの様子と何ら変わらず、悲痛な顔で大粒の涙を流している。そんな感じだから双葉は、自分が聞き間違えたのかと思った。思いたかった。

 

「……まひる、あたしちょっと耳がおかしくなったみたいだ。悪いけどさっきのもう一回言ってくれないか?」

「私が華恋ちゃんとひかりちゃん両方のお嫁さんになりたいって言ったら、二人とも駄目だって……」

「そりゃあ駄目に決まってるだろ!?」

 

 駄目だろ。法律的にも、人情的にも、全部駄目だろ。そりゃあ受け入れられないだろ。どうしちゃったんだまひる。双葉が愕然とする中、更なる驚愕の事実がまひるの口から発せられる。

 

「華恋ちゃんはまひるちゃんもひかりちゃんも自分のお嫁さんにしたいって譲らないし、ひかりちゃんは華恋が私の婿でまひるは私の嫁って言って聞かなくて」

「二人もかよ……!?」

 

 まひる案では、まひるが華恋とひかり両方の嫁になる。

 華恋案では、まひるもひかりも華恋の嫁になる。

 ひかり案では、華恋がひかりの婿になり、まひるはひかりの嫁になる。

 

 日本では同性婚も重婚も認められてねぇよ、何そのトライアングル婚、その一言で切って捨てるには、双葉の混乱は大き過ぎた。というか脳が理解を拒みかけていた。

 

 そして更なる、追い打ちの声。

 

「ノンノンだよ、まひるちゃん!」

「実にノンノンよ、まひる」

 

 声に打たれて振り返れば、其処には堂々と立ち塞がった定めすら打ち破る運命の舞台少女二名の姿。逃げようかな、とようやく現実的な解決策を打ち出した双葉の脳が自分の体に指令を出す間に、張りのある口上が高らかに響く。

 

「双星輝くマイホームに、可憐に咲かせる愛の花」

「生まれ変わった私を纏い、煌く家庭に飛び込み参上!」

「九九期生、愛城華恋! 二人を世界一幸せなお嫁さんに、しちゃいます!」

 

「華恋は私の婿、まひるは私の嫁……それが私たち三人の──」

「運命、だから」

 

「あたしもう帰って良いかな」

 

 キレッキレの決めポーズとあまりにも得意げなドヤ顔が実にイラっと来る。あたしの心配を返せよ、と双葉は真剣に思った。変則的にも程がある痴話喧嘩に人を巻き込むんじゃない、と。

 

 がばりとソファから起き上がったまひるが、涙を振り切って二人に対峙する。二人もまた受けて立つとばかりに間合いを詰めた。

 

「か、華恋ちゃんひかりちゃん! どうして分かってくれないの!?」

「まひるちゃんこそ! 私が二人を幸せに、するの!」

「この運命だけは変えられない……! 華恋はずっと昔から私の運命だし、まひるだって同じ位に大切な、新しい私の運命!」

「三人用の婚姻届けなんてねぇし受理してくれる役所もねーよ」

 

 そういう事では無いと分かっていながら、京都とは言え関西圏の出身である双葉は突っ込まずにはいられなかった。そして何故か急に、双葉は香子を抱き締めたくなった。ある種の逃避本能だろうか。

 

「私がトップスタァになればひかりちゃんとまひるちゃん二人の十人や二十人余裕で養えちゃうよ!」

「私だってトップスタァになるもん! 華恋ちゃんにもひかりちゃんにも負けないんだから! 私が二人を……私だって二人をスタァライトしたい!」

「トップスタァになるのは、この私……! だからまひる、華恋──神楽まひると神楽華恋になって!」

 

 こいつらホント何時も楽しそうで幸せそうだな、と思う石動双葉であった。

 そんじゃあたしはこれで、と小さな声で言って、双葉は香子が待つ自分の部屋へ帰っていく。

 

 背後からはお互いが大好き過ぎるバカップル三人の姦しい声が、大分長い事聞こえていた。末永く一生やってろ、本当にやってそうだな、と双葉は思った。

 

 

 

 

「はぁー、疲れた……」

「どうしたん、双葉はん。ほんのちょっと見ん間に、随分やつれはった様やけど」

 

 ベッドに寝っ転がっている香子の横に、なにやら溜息と共に双葉が横たわる。そしてまるで子供の様に、ぺったりと香子に抱き着いてきた。なんや今日の双葉はんは妙に甘えん坊やなぁ、と思いつつも、悪い気はしなかった香子である。

 

「………………なぁー香子ー。ちょっと変なこと聞くけどさー」

「なぁに、双葉はん」

 

 双葉はんかてたまには甘えたなる時もあるんやな、しゃーない、疲れとるみたいやし、何時もうちの為にようやってくれてはるし、今日はこの花柳香子が双葉はんを癒したろうやないの、と香子はニコニコとした裏表のない笑みで双葉の頭を抱きかかえつつ問いを待つ。すると胸元の双葉が、

 

「あたしと香子が結婚するとしたらさ、どっちがどっちの嫁になるべきだと思う?」

「は──はあ!? 双葉はん、うちと双葉はんがけ、け、けっこ、結婚って!?」

 

 お互いがお互いを大好き過ぎるバカップルの声が、この部屋からも響いていった。まず間違いなくこの二人も、一生やっているだろう。

 




ギャグです。何故幕間なのかというと真矢クロが未出演なので、タイトル的に。
十一話を見て書いた。ほのぼの円満な話が書きたかった。

十一話。……十一話。十一話!
最終話まで一週間。早く見たいけど一週間たって最終話を見たら少女歌劇☆レヴュースタァライトが終わってしまう。早く来てくれ一週間後。でも出来るだけゆっくり過ぎてくれ一週間よ。
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