百合色スタァライト   作:尊さに目を焼かれた人

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純那ちゃんとお茶をする真矢様の話

 わざわざ広く設備も整っている共用スペースでは無く自室にさる人物を招き、紅茶とお茶菓子など振る舞いながら、天堂真矢は切り出した。

 

「それで……近頃パートナーとの仲などどうですか、星見さん」

「…………天堂さん、まさかまた?」

 

 第一声を唐突に述べた真矢に対し星見純那はなにやら心当たりがあるようで目を細めた。彼女の視線を王者の威厳で受け止めた天堂真矢は、この上なく真剣な表情のまま、

 

「星見さんとの親交を深める為に、いわゆる恋バナなどしてみようかと思いまして──」

 

 以前にも同じような経験をしている純那には分かった。これは単なる恋バナなどでは無く、天堂真矢が婉曲表現で助けを乞うているのだと。

 

「西條さんとまた何か上手くいってないんですか? そう言えばついこの前も喧嘩してたみたいですけど」

 

 その卓越した実力と驚くべき練習量などから下級生などにはストイックで近寄りがたい孤高の人的に思われがちな天堂真矢だが、同じクラスで過ごしていれば直ぐに分かる。

 

 彼女は意外と茶目っ気があり、協調性も高く、表情豊かで親近感の湧く人物だった。演劇界のサラブレッドにして九九期生首席という肩書からすれば意外なほどに。

 

 そして最近知ったのだが、今に至るまで人生で経験のないジャンルに対しては人並みに無知で不慣れである。筋書きも設定も無い生身の恋愛、恋人との距離の詰め方なども当然知らない。

 目の前で図星を突かれてしゅんとしている様子などからも分かる通り、彼女も舞台から離れてしまえば恋に悩む一人の少女であった。

 

 どうしたら愛するクロディーヌと良い感じの雰囲気であれやこれやが出来るだろうか、という様な相談を以前にも受けたのが星見純那と同室の大場ななであった。

 

 純那は前回の相談内容とその後のななとのあれやこれやを思い出して顔に熱を登らせたが、それを元凶にして恩人とも言える目の前の人物に見せるのは抵抗を感じ、供された紅茶を口に含んで間を置いた。

 

「──天堂さん。前も言いましたがなんで私に?」

「……理由は前回と同じですが、一度相談しましたし声を掛けやすくて……」

 

 ただし今度の真矢は大場ななを呼ばなかった。二人セットで来られてまた時間一杯イチャイチャを見せつけられるのは嫌だったのだ。自分とパートナーの間が円満では無い状況で他人同士の仲睦まじい様子を見せつけられると、精神的にクる。

 

 一番仲の進展してそうな恋人同士に二人は見えましたのでとストレート極まりない理由を真矢が二人に告げ、純那は恥ずかしさから自分とななはそういう関係では無いと否定してしまった。ななの目の前でだ。

 

 そのせいでご立腹してしまったななと色々あり、今や純那とななは以前よりももっとずっと深い仲だった。だから今度こそ真矢の見立ては大当たりであったりする。

しかしだからと言って、今まで真面目一徹努力に一途で聖翔音楽学園九九期生選抜にまで至った星見純那の中から、羞恥が消え去る訳ではない。

 

 キスとかその先とかどういう雰囲気どういう流れでしたんですか、私もクロディーヌとそういう事がしたいので教えて下さいと言われて、ええそうね私とななの時は~なんて屈託なく教授できるほど純那の面の皮は耐熱性に優れていないのである。

 

 冷静に考えて恥ずかし過ぎる。なんと言えというのだ。

 ななが想定を超えて蠱惑的だったとか私には私自身思いもよらない強い欲求があったとかそれをななが引き出した上で全部受け入れてくれたからトントン拍子に事が運んだ、とか言えば良いのか。

 

 私の場合、ななに誘われる時もななに迫られる時も人前とは全く違った自分だけが見られるななの姿に骨抜きにされていて毎回毎回すごく大変ですごく気持ちよくて結局我慢できないんです、とでも言えと言うのか。仮にも学級委員長としてクラスを纏めている星見純那が。

 

 そんな事を人様に口頭で語って聞かせる位なら純那は天堂真矢の目の前で自分の眼鏡を叩き割って買い替えを理由に逃げる道を選ぶ。

 人前での学級委員長星見純那とみんなのばなな大場ななの事ならいざ知らず、二人きりの時の純那のなな、ななの純那のあれやこれやは門外不出である。

 

「他にも、その……仲の良い人たちはいるじゃないですか」

「石動さんと花柳さんはもう恋人とかそういう段階を遥か置き去りにしている風情で……私とクロディーヌは幼馴染でも無いですし」

「……華恋たち」

「三人一組の事情が参考になるかはちょっと……」

「それは……」

 

 知り合ったのが学園に入ってからでそういう関係になったのも最近という点では、確かに自分たちは近しい状況にあるかも知れない。

 

「いやでも、私はこういう話は慣れてなくて」

「お願いします、助けて下さい……学級委員長」

「うっ」

 

 純那は呻く。確かにこういう話は苦手ではあるけども、学級委員長である己を頼ってきた人を突き放すのもどうかと真面目で責任感の強い彼女は思ってしまったのだ。

 

「他に頼れる人がいないのです……」

 

 天堂真矢ほどに容姿に恵まれそれを磨き上げた人物が憐れみを誘う声で乞うと、それだけで人はなんとか力になってあげたいという衝動を抱くものである。何をするにしても様になり過ぎる人なのだ。

 

 そして何より、これが演技では無い素の天堂真矢だという事実がよりその気持ちを強くする。

 

「はぁ……」

 

 星見純那は深々と溜息を吐いた。本当にもう、まったくもう。この主席様と来たらすっかり青春を満喫しちゃって、と。それでいて勉強にも修練にも全く緩みを見せないのだから本当に嫌になる。負けられない。

 

「……今回きりですからね」

「ありがとうございます!」

 

 地獄に仏とばかりにぱあっと明るくなる真矢の表情。同性からしても見惚れてしまう位に綺麗である。

 

「で、つい先日に引き続いて今度は何を悩んでるんですか?」

「クロディーヌともっと先に進みたいのです、学級委員長。仲直りを期にもう一歩。でもクロディーヌはむしろもっと今のままの距離感を保ちたい様子で」

「……つまり天堂さんは、なにか有った訳では無く単純にもっとラブラブになりたいだけ?」

「端的に言えば、そうですね」

「帰って良いですか」

「其処を何とか。経験者としてどうか後進に導きを」

 

 一体どれだけ惚れに惚れたらこの女傑がこうも二の足三の足を踏んでしまう様になるのだろう、と純那は呆れた。というかキスの相談を受けたのだって然程前の事でも無いのにがっつき過ぎでは無いだろうか。

 

「天堂さん、今みたいな関係になる前はむしろ貴女の方が西條さんを翻弄していた様に思うんですけど」

「一度過ちを犯した身なので、どうも此方からは踏み込めなくて……でも私は知ってしまったのです、より深いクロディーヌの味を。だからもう、我慢など出来ない……」

「…………」

「クロディーヌもある時点までは好ましく思っている様なのですが、それ以上に踏み込もうとすると貞操観念からか拒否感というか、もっと共に時を重ねてからと思うらしいのです。そういう身持ちが堅いところもまた私のクロディーヌの魅力、ですね」

 

 良い声良い顔で何を言っているのだか。事ここに至っては恥ずかしがっている方が恥ずかしいと開き直っているのか。星見純那の中の天堂真矢像に色ボケ、思春期真っ盛りが追加された瞬間だった。割り切っているから恥ずかしくは無いのだとしても、純那が他の人間にこの事を話すとか考えないのだろうか。

 信用されている? それとも知られても構わない? 後者だとしたら到底追い付けないレベルの高さに眩暈がする。流石ペアチョーカー装備で登校してくる人間はやる事なす事ハイレベルだ。

 

「ポジション・ゼロは私の定位置。クロディーヌのポジション・ゼロも私のものにしたいのです」

 

 一瞬最低系のジョークに聞こえたが天堂真矢はあくまで真面目だ。西條さんも大変ね、と純那は思った。

 

 しかし、アドバイスである。純那もなな以外との経験など無いし他の人がどの様にするのかも知らないのだが、

 

「──両想いなのは間違いが無いんですから、まずは正面から口説いてみては? 私とななの…………ん、んん。あくまで一般論ですけど、直接相手に気持ちを伝える以上に効く手段はないと思いますよ」

「それが出来たら苦労はしません。どうにかなりませんか、自然にそういう展開になってしまう様な雰囲気とか……」

 

 本当にこの人天堂真矢なのかしら、舞台上でだったらどんな愛の言葉も雰囲気も百戦錬磨の手際で演じて見せるというのに。純那は心底不思議に思う。

 

「星見さん、では聞きますが貴方にはできますか? 未だそういう経験は無い時期、部屋で二人っきりでいます。両想いなのは間違いがありませんね、ではあなたの口から大場さんに大人のキスを強請ってみて下さい。両想いだから大丈夫と容易く踏み込めますか? 貴方の時は踏み込めましたか?」

「そ、それは……」

 

 改めてそう言われてみると確かにそうかもしれない。と純那は認めざるを得ない。今ですら死ぬほど恥ずかしくて息苦しくて繋がるその瞬間まで酷い緊張に襲われるのに、初めての時に自分からは──確かに難しい。少なくとも純那には無理だ。

 

 元々純那は理詰めで物事を考えるタイプであった。自分とななの時は状況が特殊だったしなながリードというか誘導してくれたと思えば、他の人の場合どうしていいかはちょっと分からない。

 

「うーん……デートに誘う、とか。良い雰囲気になるんじゃあ?」

「狙い過ぎて意図がバレそうですね……」

「逆に、バレたら向こうも察してくれる。少なくとも意識はしてくれると思いますけど」

「やらかしたばかりなので警戒される方が大きく」

「本当に何をしたんですか天堂さん……もう逆に時を置いてほとぼりが冷めるまで待っては?」

「我慢できません」

 

 ストレートに我儘をいう真矢に、純那は半目になる。

 

「私は万能でも恋愛の達人でも無いんですけども」

「でも、あの後見事大場さんと添い遂げたのでしょう? 二人の間で交わされる視線、それに籠った熱量……以前とは比較になりません。……どうやったんです?」

「うえぇえ!? わ、私とななの話は良いじゃない?」

「興味は、有ります。宜しければ是非。是非!」

 

 期せずして最初の建前の様に、真矢と純那の友情が深まる恋バナが始まってしまった。これを機に、二人は確かに仲良くなった。だが、自然とそういう展開になる魔法の言葉や状況は最後まで分からなかった。

 




私の中の真矢様が完全にしたがりで固定されてしまった。一度味を覚えたらもう駄目系の。
そしてクロちゃんはちょっと戸惑ってる(真矢様では無く一度は拒否した真矢様の欲求に応えたいと思っている自分の本音に)

多分この後純那さんは色々意識している状態で部屋に帰って微妙な変化をななさんに見透かされて誘われるだか迫られるだかどっちか。
真矢クロひかまひかれふたかおじゅんなななで一番進んでいるのはじゅんなななという概念が好きです。

今更思ったんですがこれ真矢様はじゅんなななのどっちかだったらばななさんの方に相談するべきだったのでは。
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