今回は主人公のクラスメイトが登場するのとちょっと沙綾の回想的なシーンがあります。
「アルバイト?」
一度に4人の女の子と出会うという(幼馴染みの紹介だが)非日常的な登校のあと、学校に着いた俺を待っていたのは何の変哲も無い日常的な学園生活だった。
今は午前の授業が終わり、友人たちと教室で昼飯を食べている。そこで俺は前々から考えていたことを相談していた。
「あぁ、なにかいいの知らないか?」
「でも、どうしていきなり?」
今、相談している友人―――
「‥‥‥なんとなく?」
「なんとなくかぁ‥‥」
「お前な、それ理由になってねぇから」
昼飯を一緒に食べているもう1人の友人―――
「なんかあるだろ?きっかけとかさ」
きっかけか‥‥
「朝から幼馴染みと話した」
「で?」
「で?とは?」
「いや、もっとあるだろ‥‥お前、語彙力っつうの?鍛えた方がいいぞ‥‥」
「まあまあ、いいじゃない。翔馬がこんなこと言い出すのも珍しいしさ?」
俺をフォローしてくれる響。こういうことが出来るから友達が多いんだろうな。ちなみに響は俺の前の席を借りて反対向きに座っている。
「とりあえず、僕の知り合いに何人か当てがあるから聞いてみるね?」
「よろしく頼む」
中性的な顔立ちのおかげか、コミュニケーション能力の高さゆえか、老若男女問わず顔が利く響はこういう時頼りになる。
と、そこで将人が何かを思い出したのか、あっ、と声をあげる将人。
「そういや、さっき言ってた幼馴染みって、もしかして女か?」
「え?それホント?なら詳しく聞かないとなぁ?」
何気ない調子で聞いてくる将人に対して、スイッチが入ってしまった様子の響。こいつは普段はいいやつだけど、他人をからかうのが大好きだからなぁ‥‥‥しかも‥‥
「なに!?女だと!?」
「今、女と聞こえたぞ!」
「どこからだ!」
将人の言葉を聞いて、騒ぎ始めるクラスメイト達。女っ気がない男子校内で、その単語はタブーだ。大混乱が起きてしまう。
「おい、
「いや、単に翔馬っぽいやつが朝から女と歩いてるのを遠くから見ただけなんだが‥‥」
クラスメイト達の勢いに完全に気圧されている将人。お前の発言が原因なんだけどな。
「それは本当か、神崎!!」
「まあ、事実だな」
こうなっては隠しても意味がないだろう。俺は正直に言うことにした。
「なんてこった‥‥」
「神は平等ではないのか‥‥」
「よし、呪うか‥‥」
項垂れるクラスメイト達。途中まで一緒に登校しただけでこれか。そこへ響が更なる爆弾を投下する。
「しかも幼馴染みなんだってね」
おいやめろ、火に油を注ぐな。
「なんですと!?本当か、
「そんなものが存在したのか!?」
「ねえ、丑の刻参りってどうやるんだっけ?」
ほら、燃え上がってしまったじゃないか。どうしてくれる。恨めしげに響の方を睨むと、滅茶苦茶ニヤニヤした顔が返ってきた。楽しんでやがる‥‥こうなったら‥‥
「そういえば、将人もいたよな。女の幼馴染み」
『なんだと!?』
「おまっ、なんでそれを言うんだよ!」
そりゃあ、俺への追求を分散させるために決まっている。狙い通り、俺に迫って来ていた連中は将人へと向き直る。
「説明を要求する!」
「説明つってもな‥‥俺は単にあいつの親から頼まれてるだけで‥‥」
「まさかの親公認!?」
「嘘だろ‥‥現実にあり得るなんて‥‥」
「ねえ、悪魔召喚ってどうやるんだっけ?」
自ら墓穴を掘る将人。これでこっちが言及されることはないだろう。‥‥‥約一名、すごく不穏なこと言ってるやつがいるな‥‥
「どうやったら女の幼馴染みが出来るんだ!?」
「いや、そんなこと聞かれてもな‥‥」
「そこをなんとか!!」
「説明したところで役に立たねぇだろ‥‥」
「そんな小さいことは気にするな、真実を述べよ」
「‥‥
あ、誰か地雷踏んだな。
「小さいとは俺のことかぁ!!」
「やべぇ!南雲がキレた!!」
将人は背が低いことを気にしているらしく、(とは言っても平均身長なのだが)小さいという単語に異常なまでに反応する。しかも空手部所属の将人はキレると誰にも止められない。おかげで教室内は逃げ惑うクラスメイトの悲鳴と叫び声でとんでもない光景になっている。これぞまさしく阿鼻叫喚ってやつだな。
「誰がチビで貧弱だぁ!!」
「そこまでは言ってねぇよ!?」
「あと、お前は絶対貧弱じゃない!!」
「あぁ、ここが人生のゴール‥‥いや、ピリオドか‥‥」
キーンコーンカーン‥‥‥‥
いい加減止めに入るか‥‥と思い始めたとき、昼休み終了を告げるチャイムが鳴った。
「あぁん?‥‥もうそんな時間か」
チャイムが鳴ったことにより、今まで暴れていた将人は急に大人しくなり自分の席へと戻っていった。根は真面目なやつだな。
「はぁ‥はぁ‥‥た、助かった‥‥」
「死ぬかと思った‥‥」
「おばあちゃん、まだそっちには逝かないから‥‥」
それに合わせ、騒いでいたクラスメイト達も落ち着きを取り戻し、それぞれ次の授業の準備を始めた。
「さて、僕も戻ろうかな。翔馬、後で詳しく聞かせてもらうからね?」
「断る」
お前に情報を渡したら、間違いなくとんでもないことになる。
「大丈夫だよ、意地でも聞き出すから」
「やめろ、怖いから」
騒がしい昼休みが終わり、午後の授業が始まる。
襲い来る眠気と戦いながら、俺は今朝のことを思い出していた。バンドを始めたのは聞いていたが、誘われるとは思ってもみなかった。
そういえば、ライブの場所と時間を聞いていなかったな。後でメールでもするか‥‥
その考えに至った辺りで、俺の意識は眠気に敗北し、沈んでいった‥‥
――――――
「沙綾はなんで神崎をライブに誘ったんだ?」
昼休みにいつものように皆でお昼ごはんを食べていたら、有咲がそんなことを聞いてきた。
「え?幼馴染みだからじゃないの?」
「いや、それなら今までだって見に来ててもおかしくないだろ?」
「言われてみれば‥‥ライブ会場で見たことない、よね?」
「‥‥‥忘れてたとか?」
「それこそないだろ‥‥で、なんで今更?」
あー‥‥やっぱり有咲には気づかれちゃうかぁ。ホント、敵わないなぁ‥‥
私が黙ったままでいると、有咲は心配そうに声をかけてきた。
「沙綾?もし言いづらいことなら、無理に言わなくても‥‥」
「ううん、大したことじゃないんだけどね‥‥」
やっぱり皆には知っててもらった方がいいよね。そう思った私は事情を説明することにした。
「翔馬はね、前に私がいたバンド‥‥CHiSPAであったことを知ってるんだよ。」
お母さんが倒れたとき、たまたまお客さんとして店に来てたらしい。お父さんの代わりにライブ会場に連絡もしてくれた。病院に駆けつけた私のことも見たからかな、しばらくしてバンドを辞めたことを話しても、驚いた様子は無かった。それから翔馬からバンドについて話すことは一切無くなった。彼なりに気を遣ってくれたんだと思う。
「だから、ずっとライブしてる姿を見せたかった。翔馬ってああ見えて心配性だからさ、そうすれば安心してくれるかなって思ってたんだけど、どうしても勇気が出なかったんだ」
考えすぎるのは私の悪い癖だよね。ホントに安心してもらえるのかなって考えすぎて、不安になって、動けなくなっちゃう。
「でもね、香澄が翔馬を誘ったときに思ったんだ、“このままじゃダメだ”って。あんな勢い任せな言い方になっちゃったけど、ああでもしないと私は誘えなかっただろうからさ」
「さーや‥‥」
「もう、そんな顔しないで香澄。言えたのは香澄のおかげなんだからさ‥‥って、おたえ?どうしたの急に?」
なぜが隣にいたおたえから抱きしめられた。ちょっとびっくりしたけど、おたえなりに私を心配しての行動なんだろうけどね。
「大丈夫。きっと‥‥ううん、絶対成功させるから」
「おたえ‥‥そうだね!そのとおり!」
「復活早いな‥‥おたえも、たまにはいいこと言うじゃん」
「うん!ライブ頑張ろうね、沙綾ちゃん?」
「みんな‥‥うん、絶対成功させよう」
話すかどうか悩んだけど、やっぱり話してよかったな。みんなに知ってもらえたのもあるけど、私自身の気持ちの整理も出来たしね。
「よぉ~し!次のライブ、頑張るぞ~~!!」
『おー!!』
不安が全部無くなったわけじゃない。でも、この5人ならなんでもできる、そんな風に思える。
翔馬に、もう心配いらないよって気持ちが伝わるようなライブにする。そうすれば翔馬もきっと‥‥
読んでいただきありがとうございます。
本業が忙しくてなかなか時間が取れず‥‥申し訳ない‥‥
新キャラの響くんと将人くんは今後も登場する予定です。徐々に掘り下げていければいいなと思ってます。
次回はいよいよライブ当日です。今度はもっと早く更新したいですね‥‥