今回はあのキャラが滅茶苦茶出しゃばります。ここまで出す予定では無かったんですが‥‥
ポピパの相談役を引き受けて数日、あれから挨拶とちょっとした雑談程度のメッセージは送られてきたものの、本格的な相談はまだ一つも受けていない。大量にあっても困るが。
そんなある日こと、いつものように登校していると、T字路を右に曲がろうとしたところで反対方向から響と将人が歩いてくるのが見えた。向こうも俺に気づいたらしい。響が手を振ってきたのでこちらも手を少し挙げて応える。
「おはよう、翔馬」
「おっす」
「おはよう」
横断歩道を渡ってきた二人と挨拶を交わす。俺も含め全員が徒歩での通学のため、こうやって二人と通学路で会うことも珍しくない。
「今、将人と話してたんだけどさ。今日数学の小テストあるでしょ?翔馬はちゃんと勉強した?」
「‥‥数学なら大丈夫だ」
「やってないんだね」
「やっぱりな。絶対やってねぇと思った」
「そう言う将人もやってないんだろ?」
「‥‥今日はいい天気だな」
遠くを見つめ現実逃避する将人。やはりやってないらしい。
「めっちゃ曇ってるけどな」
「うっ‥‥仕方ねーだろ?忙しかったんだよ!」
こいつ、開き直りやがった。
「小テストとはいえ、赤点取ったら追試だよ?」
「げ、マジかよ‥‥」
「「追試、頑張れよ(頑張ってね)」」
「なんで確定なんだよ!二人して俺の肩に手を置くんじゃねぇ!」
こんな風に他愛のない話をするのもすっかり日常の一つだ。と、そこで響が今思い出したのかこんなことを切り出してきた。
「あ、そうだ。翔馬、今日の放課後空いてる?」
「確か部活は休みだったはずだが。何かあるのか?」
「ほら、前に言ってたバイトだよ。いいのが見つかったから、今日顔合わせに行こうかなって」
「そういやそんな話してたよな。翔馬がバイトか‥‥やっぱりイメージ湧かねぇな」
確かに少し前に響にそんなことを頼んでいた。思っていたよりも早かったな。
「もしかして響も来るのか?」
「うん、翔馬だけじゃ不安だしね」
お前は保護者か、と言いたいところだが‥‥確かに仲介役の響がいた方が話が進みそうだ。自分が話し下手なのは自覚しているからな。
「‥‥じゃあよろしく頼む」
「りょーかい。将人はどうする?」
「あー‥‥俺は部活あるからな。遠慮しとくわ」
「そう?じゃあ翔馬、放課後ね?‥‥フフッ」
言葉の終わりに笑顔を残していく響。端から見れば人懐っこそうないい笑顔なんだが‥‥
「翔馬、気を付けろよ。響があんな風に笑う時はロクな事が無い」
「あぁ、分かってる」
付き合いの長い俺達から見れば、その顔は不吉を知らせる悪魔の微笑みにしか見えなかった。何が起こるのか分からないが心構えだけはしておこう思う。
――――――
授業を終えた放課後、俺は響と二人で件のアルバイト先へと向かっていた。
「どこにあるんだ?そのバイト先は?」
「うーん、まだ内緒」
「内容についてもまだ何も聞いて無いんだが?」
「それも着いてからのお楽しみってことで」
なんだそれは。事前情報皆無で働きに行くのか俺は。さっきからずっとニヤニヤしてるし、一体何を狙ってる?
仕方ないのでそのまま付いて行くと、さっきから見慣れた道を進んでいることに気付いた。この方向は‥‥
「なあ、もしかしてアルバイト先って商店街か?」
「うん。翔馬の家から近いしね。僕も知り合いが多いから探し易かったのもあるけど」
「なるほど。‥‥で、何をするんだ?」
「教えません。お楽しみって言ったでしょ?」
ダメか‥‥ガードが堅いな。響に口で勝つのはやはり無理だな。
そうこうしている内に商店街に着いた俺達はそのまま中へと進む。今までは客として来ていたここで働くのかと思うとなんだか変な気分だな。
しばらく響の後に付いていくと商店街の中でもより見慣れた方へ向かって行く。待てよ‥‥まさかとは思うが‥‥
「さ、着いたよ」
「‥‥」
本当にここなのか?本気で言ってるのかこいつは?
「じゃあ入ろっか」
「ちょっと待て。ここは――」
「こんにちはー」
俺の静止の声を無視して中へと入っていく響。慌ててその後を追う俺を待っていたのは‥‥
「いらっしゃいませー‥‥あ、翔馬。そっちの人はもしかして友達?」
この店「やまぶきベーカリー」の看板娘たる沙綾だった。
「初めまして。僕は翔馬の友達で小田切響って言います。よろし――」
「いいからちょっと来い。すまん、沙綾。少し待っててくれ」
「え?う、うん‥‥?」
呑気に挨拶を始めた響を引っ張って一度外に出た。こいつには色々と訊きたいことがあるからな。
「これはどういうことだ?」
「どういうことって、何が?」
「‥‥分かってて言ってるだろ?」
響のことだ。まず偶然なんてことはあり得ないだろう。問題はなんで俺と沙綾が知り合いなのを知っているのかってことだ。
「じゃあ少しだけ説明しようかな?‥‥こないだ、幼馴染みがバンドやってるって教えてくれたでしょ?」
「確かに言ったな」
前にクラスで騒ぎになった時に食い下がられてそれだけ教えたんだった。そうでもしないと離してもらえそうに無かったからな。どうしてそんなに知りたがったのか謎だが。
「その後、将人にも話を訊いたんだよ。そしたら翔馬といた子達が花咲川の制服着てたって言ってたんだよね」
確か将人は俺がポピパの皆と一緒にいるのを見たんだったな。あいつの知り合いも花咲川にいるらしいし、遠目でも分かったんだろう。
「で、この店に辿り着きました」
「なんでだよ」
どうやったらその二つからここが特定出来るんだ。途中端折りすぎだろ。その間を話せ、間を。
「ふっふー、まあ僕を甘くみないで欲しいってことかな?」
口振りからして、これ以上詳しく話すつもりはないようだ。軽そうに見えて案外、口は堅いからな‥‥
「なんでよりにもよってここなんだ。他にもあったはずだろ?」
「なんでって‥‥だって翔馬だよ?普通のバイトに行っても馴染むまでかなり時間かかるだろうし、ここなら勝手知ったるなんとやら、かなと思って」
確かに通ってるから商品の場所も値段もだいたい分かるし、小さい頃に調理場の方にも入って手伝ったこともある。俺がこの店以上に働ける職場はまず無いだろう。ここに来て正論を出してくるとは‥‥悔しいが何も言い返せない。だから俺はせめてもの嫌味を言っておくことにした。
「‥‥お前は将来、探偵か潜入捜査官にでもなればいいと思う」
「そんなに褒められると照れるなぁ」
「欠片も褒めてねぇ」
これ以上は話しても埒が明かないので、俺は諦めて店に戻ることにした。その後ろをニヤニヤしながら響が付いてくる。今朝の笑顔の理由はこれか‥‥
「あ、話は終わったの?」
「あぁ、全く納得はいってないがな」
「‥‥それ、ホントに終わったの?」
「俺もそう思う」
「じゃあ改めて‥‥僕は小田切響。翔馬の友達でクラスメイトだよ。よろしくね」
「あ、初めまして。山吹沙綾です。よろしくお願いします」
「同い年なんだし、敬語なんていいって。僕もそうするからさ」
「そう?じゃあ、よろしくね、小田切君」
相変わらず初対面でもグイグイ行くな、響は。それでも嫌味に感じないから不思議だ。こいつの社交性が少し羨ましい。
「それで本題なんだけど‥‥山吹さん、アルバイトのことは訊いてる?」
「うん。もしかして小田切君がそうなの?」
「ううん、僕は紹介しただけ。働くのは翔馬だよ」
「‥‥‥‥‥‥え?‥‥ホ、ホントに‥‥?」
予想だにしてなかったのだろう。一瞬、沙綾が固まった。確認するようにこちらへと視線を向けてきたので、俺はとりあえず頷きを返す。
「えっと‥‥本人からは何も聞いて無いんだけど‥‥」
「そりゃあそうだろうね。さっき教えたから」
「正確にはここに着いてから知った」
「‥‥ごめん、ちょっと整理させて」
そう言って沙綾はうんうん唸りだした。俺も理解するのに少し時間かかったからな。人間、突然の出来事にはすぐには対応できないものだ。そんな沙綾を見守っていると、店の奥から人影が出てきた。
「おや、何か話し声が聞こえると思ったら翔馬君じゃないか」
「おじさん。ご無沙汰してます」
この人は沙綾の父親でやまぶきベーカリーの店主の亘史さんだ。あまり表には出てこないから、直接会うのは案外久々だったりする。
「うん、久しぶり。‥‥そして、キミはもしかして小田切さんの所の?」
「はい、響といいます。祖母がいつもお世話になってます」
「いやいや、こちらこそお婆さんにはお世話になってます」
初対面だったらしい2人も挨拶を交わす。響は年上や目上の人に対してはとても礼儀正しいよな。普段は意識しないが、こういうところはしっかりしている。
「お父さんはアルバイトのこと知ってたの?」
「そりゃあもちろん。知らない人が来るよりは安心だし、翔馬君ならすぐに働けるだろうしね」
「じゃあなんで教えてくれなかったの?」
「教えない方が面白いかなぁと思って」
「えぇ‥‥」
おじさんも意外とそういうとこあるよな。おばさんもだけど。夫婦揃ってお茶目というか、なんというか‥‥沙綾も苦労してるよな。
「じゃあ話もまとまったところで‥‥翔馬君、早速明日からいいかい?」
「分かりました。お世話になります」
「うーん、まだ頭が追いついてないけど‥‥とにかくよろしくね、翔馬」
「あぁ、よろしく」
こうして俺の働き口が決まった。最初は戸惑ったが、俺にとってこれ以上ない職場なのは間違いない。俺は明日から変わる日常に若干の不安と大きな期待感を抱いていた。
読んでいただきありがとうございます。
前書きの通り、彼がしゃべりまくるおかげで沙綾の出番が少なくなった気がします。なんか動かしやすいんですよね。
次回はバイト初日の話の予定です。今度は沙綾の出番多いです。‥‥多分
恐らく執筆スピードからして今回が年内最後の更新になると思います。それでは皆さん、よいお年を。