FE聖杯戦争   作:白波要

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お前はこの僕が倒してみせる。
例え刺し違えても、必ず殺してやる…!
お前だけは、絶対に、許さない。


第一章~狂乱の瞳~
1話 召喚


 空が不気味なほど赤かった。轟々と唸る風は髪もローブもはためかせる。

 夕焼けを背にして佇むもう一人の自分は驚愕に顔を歪ませている。自分はこんな顔もできるのだと、どこか他人事のように思った。

 

 今は感謝しているんだ。あいつが俺自身だってこと。あいつを終わらせるために、大切な人のためになれるってことを。だから、一緒に死んでやるよ。

 魔書を握る手に力が入る。なんてことはない。いつものように発動させれば。すべてが終わる。俺の手で終わらせる。俺が、終わらせる。

 ーーありがとう、みんな。こんな俺を信じてくれて。

 --ありがとう。お前と出会えてよかった。俺も本当にそう思うよ。

 

「               」

 

 目を大きく見開き、悲鳴のような声で俺を止めようとする半身の声を聞きながら俺はすべてを終わらせた。

 

 

 

 

 埃とカビの臭いが満ちる地下室で蒼井一哉は聖杯戦争に参加するマスターの一人として、サーヴァント召喚のための呪文を唱えていた。

 そこは一哉の工房であり、一族の英知の詰まった一族にとって大切な場所だ。召喚を行うのなら、ここしかないと一哉は確信していた。

 

「--告げる!!汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 

 時間と手間をかけて描いた魔法陣の上に立ち、エーテルにあおられて髪が舞う。

 触媒らしい触媒はついぞ用意できなかったが、この右手の甲に生まれた時からある痣が良縁を手繰り寄せてくれると信じよう。

 

「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

 

 魔法陣が激しく明滅し、込めた大量の魔力が工房に吹き荒れる。サーヴァント召喚に伴う大量の魔力消費に腰が抜けた。巻き上げられた埃と、風の強さに思わず目を閉じ、腕を構えて風よけにする。手応えは充分。サーヴァントとの確かな繋がりを感じる。

 

 風が止んだころ、目を開き、仰ぎ見れば、自身より少し年上の青年が立っていた。足首近くまで届く長いコートに軽装鎧。特徴的な白い髪は優男風の彼によく似合っている。

 

「お前が俺のマスターか?俺はサーヴァント、ストラテジスト。エクストラクラスでの召喚だ。よろしく頼む」

「俺は蒼井一哉(あおいかずや)だ。こちらこそよろしく」

 

 大丈夫か、なんて微笑みながら差し出された右手を握れば、引き上げられた。その力強さに神代の戦場を駆けた英雄であることを実感した。

 彼は俺の手の甲を複雑そうな顔で眺めた後、すぐに手を離した。やはり、この(あざ)が彼を呼んだのだろうか。

 ストラテジストはぐるりと部屋を見渡すと、壁にかけてある一つの剣に興味を示した。

 

「これは?」

「我が家に伝わる宝剣なんだ。竜の牙を素材として作られたと伝え聞いているよ」

「マスター、剣の心得は?」

「多少。ただ、戦場で使えるものではないよ」

「だが、ないよりはマシだ。戦場に立つ際は持てよ」

 

 それから、と続けようとするストラテジストを制して二人で居間に移動する。長話はカビ臭い工房でするものじゃない。

 地上に上がれば屋敷は真っ暗だった。それもそうだ。昼頃から召喚の準備をしていたのだ。日が暮れるのも当然だ。

 明かりをつけてストラテジストを居間に通す。

 暖かいコーヒーを持って戻れば、ストラテジストは居間で待機するよう言った時のままソファのそばで立っていた。

 

「はい、コーヒー。別に座って待っていてもよかったのに」

「ああ、ありがとう。なに、主に黙って座るのもどうかと思っただけだ」

 

 ストラテジストは戦場に立つ際の心得や武器の使い方などを現代に生きる俺でもわかるように説明してくれた。その理由を問えば「俺は軍師だ。一人だけでは戦いづらい。多人数を運用することに長けているからな。お前の力、是非とも上手く使わせてほしい」とのこと。

 

短い時間だが、ストラテジストのことを少し理解できた。少なくとも善性を良しとする英霊であることは間違いない。

 

「ストラテジスト、お前は聖杯に何を望むんだ?」

()()()()()()()()()()()()() ()。それが俺の望みだ」

 

 

 

 

 蒼井一哉の朝は早い。彼は朝ごはん及び昼の弁当の作成から、登校の準備まですべてを一人で行う。

 緩やかな日差しの中、一哉は温まったフライパンに油をひき、卵液を流し込む。薄く引いた卵が少し固まれば、端からくるくると巻いていく。

 

「よっ!ほっ!」

 

 美味しそうな焼き目をつけて大きくなっていく卵焼きに一哉は思わずにんまりと笑う。完成した卵焼きをまな板にあげて、次のおかずの作成に取り掛かる。

 作業を続ける一哉の背後の空間が揺らめいたかと思えば、ストラテジストが姿を現した。霊体化を解いたのだ。

 

「上手に作るものだな」

「一人暮らしだからね。ある程度はできるようになるしかなかったし」

「そういえば、両親はどこに?」

「蒸発したよ。俺が小さいころ、魔術の暴走で跡形もなく消えた。あの人たちにとって一番大事だったのが魔術だったからそんな暴走しかねないようなこともやったんだろうけど」

「さみしくはないのか?」

「んーー近所に幼馴染がいてね。小さいときは面倒見てくれていたんだ。家族同然の付き合いだったから、さみしいとかはなかったよ」

「俺にも娘がいたんだ。親として、俺は悔しいな」

 

 ストラテジストのつぶやきの後、不思議な間がその場を支配する。フライパンの上でウインナーがぱちぱちとはじけた。

 

「よかったら卵焼き一切れどうぞ。どうせ弁当に全部入りきらないし」

「ではありがたく」

 

 ストラテジストはホカホカと湯気を立てる卵焼きを一切れ、ひょいっと口に運んだ。

 

「うん、美味いな」

 

 花が咲くように綻ぶストラテジストの顔に一哉も満足そうに頷いた。

 ストラテジストは美味い美味いと繰り返しながらもその手を止める気配は全くない。

 

「ちょっ、ストップ。俺のおかず!」

「そっちのウインナー焦げてきてるぞ」

「まずいっ……!」

 

 慌てて火を消す一哉にストラテジストはクスクスと笑うと、すぅーっとその姿を消した。

 

 

 

 

 一哉が校門をくぐった瞬間、まっすぐに視線を感じた。登校中、緩やかに感じていた視線がまっすぐに力強く一哉を射抜く。

 

(見られているな……)

(うん。しかも、ひとつじゃない)

 

 二人は警戒しながらも、歩を進める。登校中の生徒が大勢いる中、いきなり戦闘にはならないだろう。だからといってジロジロと見られ続けるのは気持ちのいいものではない。

 

(ストラテジスト、どこかわかるか?)

(一つは方角だけ。距離まではわからないな。上手く隠している。もう一つが、この校舎の屋上だ)

(は……?屋上?)

(屋上だな。お前でも見えるだろう)

 

 ストラテジストに教えてもらった場所を見れば、同じ学校の女子生徒がこちらを覗き見ていた。こちらが気づいていることに気づいていない。

 姿隠しの術もせず、気配も垂れ流し、魔術師相手に隠れる気がないのか彼女は。その癖、頭を少しだけ出して覗いているのだから、呆れ果てるほかない。

 

(あの顔には心当たりがあるよ。昼休み、呼び出してみよう)

 

 

 

 

「きりーつ、れーい、ちゃくせきー」

 

 日直のやる気のない号令が終われば、同時に午前の授業も終わる。教室だけにはとどまらず、校内はザワザワと喧騒に包まれる。

 ある者は昼食を確保しに戦場である食堂へ向かい、またある者は友人と弁当を持ち寄って、思い思いの昼休みを過ごす。

 一哉は教科書を片付けるとすぐさまクラスメイトのもとに向かった。今朝の女子生徒を逃がさないようにだ。クラスメイトという接点しかないが、ここは無視できない。違和感しかなかろうが、接触する。

 

明石(あかし)さん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いいかな」

「うん。私も聞きたいことあったから」

 

 明石さんは背後に一つ視線をやると快く頷いてくれた。彼女の手には可愛らしいピンクの包みが握られており、左手は薄手の白い手袋に包まれている。今は大事にするつもりはないから持っていくのは構わないんだけど、一緒に食べるつもりなのだろうか。

 それならと、俺も弁当を持って教室を出た。

 

 日当たりの悪い中庭、今日の昼飯は陰気な場所でとることになった。

 樹々が生い茂り、日の光を遮断する。秋特有の乾いた風は抜けていくものの、開放感や自然とは遠く離れている。一般生徒は日当たりのいい方の中庭へ向かうため、こちらは人通りも少なく、内緒話をするにはうってつけだ。最悪サーヴァントを実体化させることになったとしても、生い茂る樹々たちが神秘の秘匿に一役かってくれるはずだ。

 木陰にあるベンチに座り、自分から弁当を広げる。明石さんの様子を窺えば、警戒はしつつもベンチに腰を下ろし、弁当を広げ始めた。

 

「明石さん、今朝のあれは何をしていたの?」

「今朝のって……って!気づいていたの!?」

 

 吃驚仰天。彼女は驚きも顕わに小さく飛び上がった。

 驚きたいのは俺のほうだ。気づいていなかったのだから。

 

「うん。校門をくぐった時に。姿隠しの術も使わず、気配も隠さず、何してるんだろうって」

「あうあうあう……」

 

 彼女はおかずを口に運んだポーズのまま、箸を咥えて唸っている。

 

「姿隠しができないのか、気配も消せないのか、そこまっで頭が回らなかったのかわからないけど、どれにしたって聖杯戦争に参加するなんて無謀すぎる。降りたほうがいいよ」

「それはできないわ」

 

 即答だった。さっきの情けない唸り声とは全く違う。力強い目がこちらをまっすぐと見つめている。

 

「もう、一族の願いを叶えるには聖杯に頼るしかないのよ。絶対に、自分から降りたりしない。もう逃げないの」

 

 あわよくば参加を放棄してもらう作戦は失敗。成功するとも思ってはいなかったが。では次の作戦だ。

 

「同盟、とまでは言わないが、お互いにマスター殺しは無しにしないか?クラスメイトとは言え、顔見知りを手にかけるの嫌だろう?」

「そりゃあ、嫌よ。でもそういうものだって、覚悟決めて出てきたのよ。私だって魔術師の端くれ。今はその案に乗れないわ」

「そうか。なら、仕方ない。時間とらせてごめん。昼間は手は出さないよ。でも……」

「ええ、わかってる。次夜中に会ったら敵、でしょう」

 

 お先に空の弁当を片付けて、教室に戻る。

 明石さんと話してみてわかったことは彼女にも譲れない何かがあるということだけだった。せめて、サーヴァントのクラスだけでもわかれば対策立てられたかななんて、後悔先に立たず。今更悔やんだところで遅い。

 まだ初日だとストラテジストは慰めてくれるが、これは戦争でもあるんだ。あまり暢気なことは言ってられない。

 

「わーい!すっごーい!!」

 

 語彙のない言葉を声高に笑う一陣の風。見覚えのある我が校の制服に、見覚えのない白銀の髪の男子生徒だ。バタバタと来客用の緑のスリッパの音が笑い声と一緒に廊下に響く。

 

「ちょっ……ちょっと、まってよ、()()()()()……!」

 

 それを追いかけるのは可愛らしい顔の男子生徒だ。隣のクラスだったのは覚えているが、名前まではわからない。息を切らしながらも、白銀の髪のアーチャーと呼んだ少年を追いかけていった。

 

「ストラテジスト、今の聞いた?」

(アーチャーのサーヴァントみたいだな)

「マスターが三人もいるって……」

 

 戦争だからと、意気込んできたのが間違いだったのかと思うほど、日常に馴染んだアーチャー陣営に思わず肩の力が抜けた。

 

(マスター、一つ注意するとな、声出てるぞ)

(あっ)

 

 今更口を押えたところでもう遅い。本日二回目の後悔だった。




・蒼井一哉
今作の主人公枠。
平々凡々な男子高校生。変わっていることといえば魔術師であることと、両親が魔術の行使で蒸発したこと。
近くに住んでいる幼馴染の一家が良くしてくれた。
料理が上手。

・ストラテジスト
蒼井一哉のサーヴァント。エクストラクラス。オリジナルクラス。
どうあがいてもキャスターやセイバーで出したくなかった苦肉の策。
最悪の手段として自己犠牲が取れる。

・明石由紀
屋上で覗きしていた女の子。クラスメイト。
ちょっとポンコツ気味。逃げられない、譲れない理由がある。
所持サーヴァントは不明。

・かわいい顔した男子生徒
アーチャーのマスター

・アーチャー
白い髪の無邪気な男の子
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