救いのヒーローになりたい俺の約束   作:魔女っ子アルト姫

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出久の全力、合理的

個性把握の為のテストは次々と続けられていくが剣崎は特に問題もなくどのテストも満遍なくいい記録を連発しながら順調にテストを進めていた。握力では基本的に個性を使っても意味がないので普通にやったりはしたが、それ以外のテストでは個性を存分に使用して記録を叩き出した。立ち幅跳びでは『KICK(キック)』を使用する事で身体能力強化である筈なのに上位に食い込むという力を見せ付けているからか、周囲からは若干畏怖の視線で見られている。

 

「いやぁぁぁあああん初ちゃんってば本当に凄いのねぇ♪」

「ありがと京水ちゃん、そっちだって凄いじゃん。17メートルって」

「ワタシのは身体の伸縮とその反動だからよ、でも初ちゃんは身体能力なんだから自信持つのよ」

「それはぼ……俺もそう思う。剣崎君、君はアレだけの力を発揮出来るんだから思いっきり誇っていいと思う」

「そう言って貰えると有難いよ」

 

そんな中で京水と飯田は特に気にする事もなく、剣崎に話しかけて労いの言葉や自分だって負けないという意志を伝えている。そんな何気ない言葉が何処か有難いと素直に思ってしまい、嬉しくなっていた。そんな二人の友人と共に第四種目の反復横跳びや第五種目でボール投げ中々に良い記録を叩き出していく剣崎に何処か警戒するかのような視線が送られていくがもう、彼は気にする事なかった。共に言われたように常に堂々としていれば良いのだと、ある種の開き直りを覚えた。

 

 

ソフトボール投げを終えて京水らと話している最中、出久の二度目の手番となった時だった。彼はこれまで個性を発揮しているのような記録を出せていない。そんな彼に剣崎は何処か不安を抱えていた、折角だから友達になりたいとも思っていた。そんな彼の第一投、どうやら本気で個性を使う気で居たらしいが、それを担任であった相澤が個性を使って打ち消していた。元々がプロのヒーローである彼は視ただけで相手の個性を消す事が出来るという個性を持っている。それで個性を無力化されてしまった出久、だがそれでも迎えた第二投―――

 

『―――今やれる事をやれる範囲でやれば良いんだ。そうすれば―――君の100%が出るさ』

「今の僕に、やれる事を、100%を……やれる範囲で……そうすれば全力が出る……!!!」

 

それは剣崎が彼に送った言葉だった。気負っていてはやれる事も出来ない、だから出来る範囲で全力をやれば自然と自分の全てが出し切れるという言葉だった、そんな言葉がお前の力では「ヒーロー」には成れない、という相澤の言葉を打ち消した。勇気と全力を持って一歩を踏み出す。それが今出来る事……その答えこそ―――

 

「SMASH!!!!」

 

その一投に込められていた。投げられたボールはぐんぐんと伸びていって500地点、600を超えていく。そして遂に700を超えて、地面へと落ちた。最初こそ46mという記録しか出せなかった彼からしたらとんでもない大記録、しかしその代償と言わんばかりに彼の右人差し指は酷く変色し血が滴っている。激痛が走っている筈のそれを強く握りこみながら、痛みと涙を堪えながら、出久は相澤を見た。

 

「先生、まだ、僕は……行けますっ……!!!」

「こいつ……!」

 

思わず目を大きくした相澤は少し笑ってから出久の記録、705.3を告げた。

 

「指があんなに腫れ上がって……身体にそこまでの反動が掛かる個性なのか?」

 

飯田は冷静に出久のそれを分析しながらも違和感を覚えていたが、それでも立派な記録だったと賞賛を送った。すると隣にいた剣崎と京水がいない事に気付いた、視線を彷徨わせると出久の所までいって彼の肩を叩いている姿を見た。二人は傍まで行って彼を労っている、確かに賞賛するならその位しないと行けないなと改めて二人を見習おうと決めた。

 

「緑谷君やれば出来るじゃないか。あれが君の全力、凄いじゃないか!俺の600を軽く超えてるぞ」

「アァン、最初こそちょっと頼りないと思ってたけど良いガッツしてるじゃないのよ!!良いわ、良いわ良いわァアアン♪ちょっと頼りないけどいざという時はやる男の子、嫌いじゃないわっ!!」

「あ、有難う二人とも……いててっ……」

 

京水は如何やら簡単な包帯や救急セットを持っていたらしく、それを使って応急処置だが出久の指を治療する。完全に痛みが引いたわけではないがそれでも先程よりも大分マシになっている。

 

「す、すいません泉さん態々……」

「いいのよ気にしなくても、そんな事よりも次も頑張りましょうね♪」

「う、うん!!」

 

京水に笑顔に力を貰ったのか、先程よりも痛みが気にならなくなった影響か笑えるようになった出久はいい表情で笑い返した。どうやらそんな笑顔は京水的に来るのか、その笑顔超グッド!!と返すのであった。が

 

「どぉぉぉおおいう事だ、こら訳を言いやがれデクテメェエエエ!!!」

「うわぁあああああッッ!!!??」

 

突如として怒り狂った爆豪が出久へと向かって爆発の勢いを使って一気に接近して来た、相澤はそれに反応しようとするが、それよりも早く京水が身体を変化させて伸縮自在な両腕を爆豪へと巻き付けて行く。特に両腕と両手を念入りに拘束し完全に行動が出来なくなるようにして地面へと押さえつける。

 

「あらあらっ元気な事ッ!!ワタシってばそういう子、嫌いじゃないわよ……でもちょっとオイタが過ぎるわよ?」

「てめぇ、カマ野郎……!!!放し、やがれっ……!!!」

「ノンノン、駄目よん♪放したら貴方出久ちゃんに襲い掛かるでしょ、それは認めないわよ。先生、拘束ってこんな感じで良いのかしらぁ?」

「上出来だ泉、俺も無駄に個性を使わずに済んだ。俺はドライアイだからな」

 

爆豪と同じ中学の出身且つ、幼馴染である出久は爆豪の強さも個性の凄さも把握している。そんな彼を子供の遊び相手をするかのように容易く拘束してしまった京水に思わず驚愕してしまった。確か個性は「幻想」と言っていたが、まだまだ力が秘められているという事なのだろうか……。

 

「あらっまだ抵抗出来るのね、ならもっと強く、ワタシが抱き締めてあげるっ……♪うふ、その手の温かさも良いわねぇ……」

「気持ち、わりぃんだよカマ、野郎……!!!」

「駄目駄目、個性で爆破なんてしても無駄よ。「幻想」は壊しきれないから幻想なのよ♪」

「あの、泉さんそれってどういう……?」

「今度、教えてあげるわよ♪」

 

そんな京水の爆豪の捕縛劇も相澤がもういいぞと言われるまで続くのであった。そして再開されたテストも剣崎は力の限り尽くした間違いなく良い結果だと確信出来る出来だった。出久も彼なりに痛みに絶えながら本当に良くやったと言えるものだった。そして遂に結果が発表される時―――トータル最下位だった者は除籍処分と断言していた相澤、一体誰が……。

 

「それと除名処分は嘘。君らの最大限を引き出す為の合理的虚偽」

『はぁぁあああああああっっっっ!!!!??』

 

なんとまさかの嘘だった。この時、出久は自分が除名されるのではないかと一番ビクビクしていたので嘘だと分かった時にはホラーに出てきそうな正体不明の化け物のような画風になって驚愕していた。

 

「ま、まあ良かったじゃないかこれで雄英に居られるんだからさ」

「そうだけど、なんだから凄い身体から力が抜ける気が……」

「まあそれは分かるわね」

「ヒーロー科って……ホント自由だな」

 

この時の剣崎の言葉に、クラスメイトほぼ全員が同意していた。


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