呆然の状態で応接室に座り続けていた。彼の精神状態はとても授業など受けられるようなものではなかったからだ。父親が生きているという衝撃の事実、世界は一度崩壊寸前まで突き進んでいた事、それを食い止め親友をも救った父の事、そして―――父が世界と親友、その二つを救うために下した決断の事も全てを聞いた。それを聞いた剣崎は、言葉を完全に失っていた。唐突に突き付けられた世界の真実とその裏側、父親の過去。それは今まであった剣崎の何かを壊すほどに途轍もない物だった。
―――父さん……生きてる、のなら、如何して……。
ジョーカーアンデッドである相川 始、それが最後のアンデッドとなってしまった。世界を救うにはジョーカーを封印するしか手立ては無い筈だった―――しかし剣崎 一真は自らジョーカーとなる事で最後のアンデッドというバトルファイトの優勝の条件をなかった事にした。それによって親友と世界を救った。だが、それによってお互いはもう二度と会うことがない運命を受け入れる事となった。
「なんと言う事を……剣崎少年のお父さんは其処までの事を……いや、しかし待ちたまえ。先程の話で剣崎少年のお父さんが今も世界の運命と戦い続けているからこそ今の世界が維持されている事は理解出来た、だがそれなら何故剣崎少年が世界の運命を背負うのだ!?」
オールマイトには理解出来なかった。彼にとって剣崎は可愛い教え子の一人であり自分の後継者を育てる事を手伝ってくれるよき理解者、そして同じように人々の笑顔を守る為に戦い続けるヒーローである。それでも剣崎はまだ幼い少年であるのにそんな彼がどうして大きすぎる物を背負わなければならないのかと、それならば自分が代わる事だって出来る筈だと、叫ぶが橘は静かに首を横に振った。
「それは無理です、世界の運命は剣崎くんが背負うしか道が無い」
「何故だっ!!!??」
「私もある程度ならばその重荷を軽くして上げる事は出来る、だが完全に重荷を無くす事は出来ない。彼が仮面ライダーである限り、いや……剣崎 一真の子供である以上」
「どういう事なんだ……」
再び橘は静かに語りだす。
「剣崎 一真は相川 始と同じくジョーカーアンデッドとなってしまっている、そんな彼の血を継いでいる彼はもう一人のジョーカーとして覚醒する可能性が非常に高い」
「なん、だって……!?」
「それだけじゃない、今活動を行っているアンデッドは彼でないと封印出来ないからです」
橘は血が出るほどに強く拳を握り込み、苦虫を噛み潰しながら再びギャレンとなってアンデッドと激突した事を語る。遭遇したアンデッドを負い込み、封印可能な状態にまでダメージを与える事に成功し封印を試みたのだが……最初こそ封印に成功したように思えたが封印を受け付けないようにカードから脱出してそのまま逃走を許してしまった。その後も封印を試みたのだが封印は尽く失敗に終わっていた。
「過去の戦いではこんな事は無かった。恐らく封印を解いた何者かが封印を阻害する力を与えている可能性が高い、だが彼はそんなアンデッドの封印に二度成功している」
「……ショッピングモール、そして林間合宿」
「そう、どちらも上級アンデッドにカテゴライズされる非常に強力なアンデッドをだ。今活動を行っているカテゴリーキングのアンデッドも彼でないと……封印は出来ないだろう」
アンデッドを無力化出来るのは剣崎しかない。不死の怪物達を如何にか出来るのは仮面ライダーブレイドである剣崎 初しかない、それを強調する橘にオールマイトは言葉を濁らせる。話を聞く限りでは確かに剣崎でないと対処が出来そうに無い。剣崎のバトルファイトへの参加に拒否権なんて与えられていないに等しい。
「今現在開放されているアンデッドは全て上級アンデッド、それらは全て封印するしかない」
「だ、だが橘君その上級アンデッドしか解放されていないと何故分かるんだ?」
「……そいつらのカード以外のカードが厳重に保管されているからです」
それを聞いた剣崎はふわふわとしていた意識が戻ってきたのか瞳に光が戻り顔を上げる。
「俺は、今までどおりに人を救い続けます。そこに怪物退治が加わっただけです……俺は気にしてませんよ、父さんも何かきっと訳があって顔を見せないだけですきっと……」
「剣崎少年っ……」
己にそう言い聞かせるかのようにしている剣崎の姿は酷く痛々しかった、果てしない悲しみと寂しさ、そして痛みに歯を食い縛って我慢して立ち向かおうとしている。今の現実を必死に飲み込んで、呆然としている暇なんてないと自分で理解しているのだろう、とても大人になれていない子供がするような覚悟の仕方にオールマイトは何も言えなくなっていた。そして、剣崎はある事を尋ねた。予測が付いていて、恐らくそうなんだろうと答えが自分の中で出来ているがそれでも聞く。
「橘さん、さっき貴方は上級アンデッド以外のカードが全てあるって言ってましたよね」
「ああっ確かにそういった、それに間違いは無い」
「……俺は様々な種類のラウズカードの力を使ってます。全てのカードが保管されているなら、如何して俺はその力を使えるんでしょうか……」
「……ジョーカーは、あらゆる力に成り得る存在。恐らく、それが関係しているんだろう……。それと個性の力が混ざり合い、ジョーカーの力が変質して全てのラウズカードの力を使えるようになっているのだろう……」
それはつまり―――剣崎 初という男は既に、ジョーカーとしての片鱗を芽生えさせているという事の裏づけでもあった。それを聞いた剣崎は顔を上げながら乾いた笑いを浮かべた。
「俺はもう
「剣崎少年……」
「剣崎君……」
「―――俺は、世界を救う切り札ってわけか……」
思わず窓の外をぼんやりと見つめる剣崎を、オールマイトと橘は何も言わずに見守る事しか出来なかった。明らかに穏やかでない彼を、今はそっとしておく事しか出来なかった……。