「―――……」
雄英の敷地内にある寮、そこの剣崎の部屋。橘からの話は終わったが到底授業など受けれる精神状態にならなかった剣崎はオールマイトに運ばれるように部屋へと戻って父から貰ったカメラを手入れしながらぼうっとしていた。橘から語られた世界の真実と父親の事、そして自分自身が背負っている余りにも巨大で過酷な運命を剣崎は受け止め切れずにいた―――怪物の力を持った世界を救う切り札、それが自分であると突きつけられて剣崎はそれを必死に受け入れようと許容しようとしても出来ずに混乱し続けていた。
「俺は救いのヒーローなんかじゃなくて、ただの怪物だったって事なのか……」
今までこれは仮面ライダーとしての力、誰かを助ける為の力で父の個性が自分の遺伝した結果程度にしか思っていなかったラウズカードによる力の強化や付与。それらは世界を崩壊させるジョーカーという怪物の力が変異した事で使用出来る力だった。
「(―――違う、大事なのはその力の使い方であって力その物じゃない。それならヒーローもヴィランも同じになってしまう……)」
そう自分へと言い聞かせていく。今の剣崎は自分が思っている以上に自分に呑まれそうになっている、必死にそう思わなければ忽ち自分がただの怪物に成り果ててしまうような気がしてならなかった。ヒーローもヴィランも元は同じ、其処からどうやって力を使うのかという分岐を経ているのだ。なら自分だってその怪物の力を人を救う為に使えばいいんだ、そうだそうすれば……。
―――この力を使い続けて行ったら、自分もそのジョーカーアンデッドという怪物へと完全に果ててしまうかもしまう。
「ッ……!!」
唐突に脳裏をよぎった最悪すぎる未来の光景に思わず剣崎は顔を蒼白にさせた。人々を救いたいと願う自分が人々を恐怖に陥れる世界を崩壊させる悪魔へとなる。誰かへと手を伸ばしたとしてもそれは拒絶され、己を平和を乱す怪物として処理しにやってくるヒーロー達の光景まで見えてしまった。
「俺は、俺は―――父さん、俺は如何したらいいんだ……教えてよ、父さん……」
許しを請うかのような縋るような声を出す、何処にいるかも分からない父に向けてそんな声を出してしまった。懐にあるバックルとエースのラウズカードを見つめながら剣崎はそれを投げ捨てたくなるような衝動に駆られてしまった、しかしそれではアンデッドを何とか出来る物がいなくなり世界が崩壊へと直走って行ってしまうかもしれないという事実がそれを食い止める。自分の事よりも世界の事を優先すべき、アンデッドで傷つく人を救う為ならば自分が戦う事なんて当たり前―――それなのに思わずそれを躊躇してしまいそうになる。
「世界を取るか、自分を取るかなんてどっちを取るかなんて考えるまでもない。世界に決まってる、そうに決まってる、それが、それが正しい筈―――なのに、どうしてこんなに今怖いんだよ……!!」
今まで、自分を犠牲にする事になって全くと言って良い程に違和感や恐怖などを覚えたりはしなかった。何かを救う為には何かを犠牲にするしかない、この世界は等価交換なのだから。ならばその為に自分を犠牲にする、それが仮面ライダーとして、救いのヒーローを目指してひた走る剣崎が選んだ道だった。
「―――梅雨ちゃん」
理由は分かり切っていた、自分の隣にいて帰る場所になってくれるといってくれた彼女の存在があったからだ。ずっと隣にいてくれるといってくれた彼女を危険に巻き込む事になる、アンデッドの戦いは恐らくもっと激しく壮絶な物になって行く。そこに梅雨ちゃんを危険に晒す事になるのではと剣崎は危惧する。そして何れ完全なジョーカーとなったとき、隣にいてくれる彼女を傷つけてしまうのではないかと……。
「……アンデッド、不死、だけど俺はまだ不死じゃない……だから―――」
―――自分が待っているから。自分の所に帰ってきて欲しい、自分の為にも帰ってきて欲しい。
「駄目だ、それだけは……」
不意に浮かんだ事さえも彼女の事を思うならば実行出来ない、彼女の笑顔を奪いたくない。彼女には何時までも笑顔のままでいて欲しい……。だがそれを自分の手で摘み取ってしまう恐れと彼女を傷つけてしまうかもしれないというおぞましい事実が襲い掛かってくる。思考が何度も何度も一周してしまった剣崎は、カメラを持ってそのまま寮から出た。そのまま雄英を出て何も考えないまま、歩き続けた。
「……」
如何したらいいのかも分からない、何も纏まらない思考をそのままにしながらカメラを首から下げたまま歩みを進めていく。その歩みが自分を何処に連れて行くのかも分からないが剣崎としてはそれでも構わないという考えが何処かにあったのかもしれない。
「此処、はっ……?」
気付くと剣崎は海浜公園の一角に佇んでいた。何も考えずに歩いていたが、そこは以前自分が梅雨ちゃんに両親の事を話した場所でもあった。そんな場所に来てしまった事に溜息を吐きだしていると、近くで何やら風景の撮影をしているサングラスを掛けた男が目に付いた。かなり手早くカメラのシャッターを切ったり、他のカメラを使ったりしている。
「よし、次は……」
そんな風に海浜公園の写真を取っている男は自分に気付いたのか、笑顔を向けてきた。そして首から掛けているカメラに気付いたのか歩み寄ってきた。
「それ君のカメラ?」
「えっあ、はい……父さんから貰った物です」
「ちょっと年代物だけど、本当にいいカメラだね。大切にしたら良いと思うよ」
「有難う、ございます……」
そんな風にいわれて、心のどこかで嬉しさを感じているのだが何も晴れない表情でいると男は自分の事を心配するように首を傾げながら此方を見つめてきた。
「何か悩み事でもあるのか、相談ぐらいなら乗るぞ」
「いえ、大した事じゃ……」
「大した事ならそんな暗い顔はしないだろ、良いから話してみろって」
やや強引に事情を聞こうとしてくる男に剣崎は如何しようかと困惑していると男は自分の事を言っていなかった事を謝りながらサングラスを外しながら名前を告げてきた。
「悩み事があるなら確りと話す事が大切なんだぞ―――初、そう教えただろ?」
「えっ―――?」
「本当に大きくなって、見違えちゃったよ」
「えっ、えっ……!!!??」
其処にいたのは、サングラスを外した男は―――
「父、さん……!!?」
「ただいま、初」
剣崎 初の父親、剣崎 一真。今まで行方知らずだった父親が目の前にいた。