救いのヒーローになりたい俺の約束   作:魔女っ子アルト姫

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父と息子。

「本当に、大きくなったな初。昔はこんなに小さかったのに」

 

笑顔を浮かべたままで頭を撫でる父、剣崎 一真に初は呆気にとられていた。今まで会いたいと思っていても会えずに橘から話を聞くまで死んでいたと思っていた父が今目の前で自分に触れているという事実に驚きを感じずにはいられない。寧ろ今この瞬間が本当に現実なのかどうかさえ疑いたくなってくるほどに、今の状況を把握する事が出来ずに目を白黒させていた。

 

「そのカメラもずっと大切にしててくれたんだな……ありがとうな」

「父さん、なの……本当に……?」

「ああ。そうだよ、ごめんな遅くなっちゃって」

 

そう言いながら申し訳なさそうな顔をしながら優しく頭を撫でてくる父親に様々な感情が湧き上がってくる、今までの悲しみや寂しさや怖さなどが溢れ返って来る。それらを言葉にしようと必死になるがなんて言葉を作ったらいいのか全く分からない。

 

今まで自分を放っておいてどこに行っていたんだ、どうして生きている事を教えてもくれなかったんだ、どうして自分のそばにいてくれなかったんだ、今更になって自分の目の前に現れてどういうつもりなんだ、今更父親面が出来るなんて思っているのか。様々な言葉が喉元まで出掛かってるがそれ以上に溢れていたのは大粒の涙だった。

 

「おかえり、なさいっ父さん……」

 

―――必死に紡ぎだした言葉は今まで自分の事を一人していた父への恨みや怒りではなく、帰ってきた父に対してのお帰りという言葉だった。それを受けた一真は素直に嬉しくなりながら、自分も涙を流しながら深く深く見違えるほどに大きく成長した息子を強く強く抱きしめた。

 

「ごめん、ごめんな初……」

 

数年ぶりに再会した父と息子はただただ、お互いの存在を確かめるように、そこにある事に感謝するかのように涙を流しながら再会を喜び合った。

 

「―――そっかそれじゃあ初は今は雄英に通ってるのか。昔からヒーローになりたいって言ってたもんな」

「……ああそうだよ」

「そっかそっか」

 

再開した父と共にいったん家に帰り、ソファに座り込みながら近況を話す初、それを聞きながら嬉しそうな表情を作っている一真。漸く会う事が出来た息子は大きく成長しており、小さくて自分の後を付いてきた頃とは見違えるほどになっていた。そんな息子が辿って来た道のりを聞くのだが初の表情は何処かそっぽを向くかのように暗く、父と息子の対面とは思えなかった。

 

「それで仮免許も取っちゃうんだから流石俺の息子だな」

「……」

「あ、あの初……お願いだからこっち向いてくれない……?」

「……」

 

どうしてもこちらを向いてくれない息子に対して一真はオロオロしてながら言葉をかけるが、初は一向に表情を向けようとしなかった。一真からしたら愛する息子との久しぶりの対面だろうがその彼からしたら父との対面は素直に喜べる物ではなかった。彼からしたら生きているのにも関わらず連絡の一つも寄こさないで完全に死んでいたと思った父親が、知人によって生きていることを知らされた直後に帰ってきたのだから。様々な感情が渦巻いてしまって一真とは正直言って口も利きたくないのである。

 

「あの、今まで連絡の一つもしなかったのさその……色々訳があってさ」

「……ああっ橘さんから色々聞いたよ、アンデッドの事とかジョーカーの事とかな」

「橘、さんが……そっか、それじゃあ全部聞いたのか」

「ああっそうだよ、アンタが世界を救った事もな」

 

言葉を口にするたびに冷ややかになっている初に一真は大きな責任を感じてしまった、致し方ない理由があったとはいえ幼い息子を一人きりにしてしまった上に数年も放置してしまっていたのだから……ハッキリ言って父親としての責務を放棄しているに等しかった剣崎 一真に初の父親と名乗る資格は血縁程度位にしか無いのかもしれない。

 

「俺は―――橘さんから聞いた通りにもう普通の人間じゃない。ジョーカーだ、あの時……俺と母さんは海外にいる時にヴィランに襲撃されたんだ。狙いは恐らく俺の身体の事だろう、そしてお前の事が分かれば確実にお前にも危険が及ぶと思ったんだ、だから帰りたくても帰れなかったんだ」

 

あの時、初が父と母を失った時、一真は妻と共にヴィランの襲撃を受けた。それは今は投獄されている"オール・フォー・ワン″による物、その襲撃によって妻を失い、このまま帰国すれば息子を危険に晒すと考えてそのまま身を隠した。そしてそのまま"オール・フォー・ワン"が投獄された事を知って漸く日本に帰って来る事が出来た。それが顛末だった、それでも"オール・フォー・ワン"は初に狙いを定めていたので何とも言えない事になっていたが……。

 

「……父さんって死なないんだろ」

「えっああまあ……一応アンデッドになっちゃってるからな」

「それじゃあ……変身!!!

TURN UP

 

初は迷うことなくブレイドへと変身する、息子が嘗ての自分の姿に変身する光景に一瞬感動を覚えるのだが……非常に嫌な予感がする一真であった。主に不死であると聞かれた直後に変身したので。

 

「んじゃ―――今まで俺に心配かけた分含めて殴らせろ。死なないんだから大丈夫だろ?」

「えっちょっと待って初!!?れ、冷静になれ!!俺はお前をそんな暴力的に育てた覚えないよ!!?」

「奇遇だな、俺もアンタに育てられた覚えなんて途中からねぇよ」

「待って感動の再開の場面だよ!?ドゥーシテワガッテクレイナインダ(どうして分かってくれないんだ)!?」

「うん感動の場面だよ、でももう終わった事だ。次は―――アンタが俺に対して詫びをする場面だ、成長した息子の拳を味わって、俺の今までの苦しみを味わえクソ親父」

ウソダドンドコドーン(嘘だそんなこと)!!!」

 

BEAT(ビート) SCREW(スクリュー) RAPID(ラピッド)

 

「さあ、親父の罪を……数えろっ!!!」

「お願い待って初!!悪かった、お父さん本当に悪かった今まで本当にごめんなさい!!ダガダアヤッデルダドユルジデ(だから謝ってるんだよ許して)!!」

「うん許さない」

ウソダドンドコドーン(嘘だそんなこと)!!!」

 

その後、剣崎家の家にリビングには全身タコ殴りにされて湯気を上げている嘗て世界と親友を救った剣崎 一真の姿とそんな父を見てややスッキリしている剣崎 初の姿があるのだった。


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