忍びよってくる悪意、それらに最初に気付いたのは剣崎だった。この中では最も新しい上に数多く「ヴィラン」との戦闘経験によって培われた感覚と危機察知能力が遺憾なき敵の襲来を告げた。咄嗟に前に出て構えを取りながら階段を下りた先にある噴水を鋭く睨み付けた。
「おい剣崎、いきなりどうした」
その言葉の直後、噴水前の空間が奇妙なほどに捻じ曲がるかのようにどす黒い霧のような広がっていく。やや遅れながらも相澤もそれに気が付く、そして生徒らに纏まったままで動くな指示を飛ばしながら13号に防御を固めるように伝える。
「京水ちゃん、君も防御を固めろ!!大勢来るぞ……!!!」
「初ちゃん?分かったわ、ディフェンスなら任せて!!!」
そう言いながら「ルナ・ドーパント」への変身を素早く終わらせると両腕を伸縮させて周囲へと伸ばし、サークルのようにクラスメイト達を覆って防御を固める。
「なんだあれ? もう始まってるパターンだったりする訳?だったら剣崎――」
「動くな!!!あれは―――「ヴィラン」だ!!」
ゴーグルを装着しながら相澤は毒づく、まさか雄英の敷地内に「ヴィラン」が現れるなんて事態は今までなかった、そもそも相手側からしても此処はプロヒーローの巣窟とも言える場。そんな場への殴りこみなんて普通はしない筈、する意味が薄く返り討ちになる可能性が非常に高い。それなのにそれを敢行する―――つまり、強力な何かがあると相澤は直観すると同時に自分よりも素早く構えた剣崎に目を向ける。
「剣崎、お前何故分かった」
「何となくです……俺、昔からなんか「ヴィラン」が近くにいたりとかするとなんか、本能的に分かるんです……!!」
「そうか」
手早く会話を打ち切る相澤、この状況からして相手集団は周到な準備を行って居る筈。このUSJの侵入者用の警戒センサーにカメラ、アラームらが反応していない事からそれらを無効化する個性が存在している事を裏付けている、そして突然現れた敵の数……。
「相澤先生、もしかしてあいつら空間移動系の個性が……」
「可能性としては大であるだろうな。それで瞬時に此処へか……」
剣崎の言葉が苦々しく肯定されると同時に相澤は剣崎の把握能力と冷静さを内心で褒めた、このような状況で最もやばいのがパニックになる事。冷静でいてくれるのは楽だし助かる。
「やはりあのマスコミ共はクソ共の仕業だったか……!!13号、お前は生徒達を連れて避難させろッ!!上鳴は個性を使って通信を試みろ、俺はあいつらを食い止める」
「でも先生!!幾ら個性を消せても「イレイザー・ヘッド」の戦闘スタイルじゃ正面戦闘は危険すぎます!!」
「俺がサポートしますか、俺なら真正面からの殴り合いには強いです」
「アホ抜かすな、生徒を態々危険に晒す教師が何処にいる。それにな、一芸だけではヒーローは務まらんッ!!」
そう言いながら相澤は抹消ヒーロー「イレイザー・ヘッド」として能力を使う戦闘へと飛び込んで行く。常に身に纏っている特別製の捕縛布と個性を消す個性、それらを上手く掛け合わせ相手が個性での攻撃を仕掛けようとした瞬間に個性を消して攻撃のタイミングを狂わせながら捕縛布で絡めとり、地面などに叩き付けていく。その隙に13号が生徒らを先導して脱出を試みる、しかし―――
『逃しませんよ、生徒の皆様方』
瞬時に移動し、出口への道を封鎖するかのように立ち塞がる霧のような姿をしている「ヴィラン」は何処か紳士的な口調をしながらも明確な敵意と悪意を向けてくる。
『はじめまして我々は「敵連合」。この度、雄英高校へとお邪魔致しましたのは目的があるからです。我々の目的、それは平和の象徴と謳われております「オールマイト」に息絶えて頂く為でございます』
「オール、マイトをっ……!?」
「笑えない冗談ねぇ……霧さん」
『生憎我々は本気でして―――しかし、この場にオールマイトにいないのは計算外。何か授業に変更でも―――まあ良いでしょう、それならば―――』
―――オオリャアアアア!!!!
『ガァッ―――!!?』
オールマイトの殺害が目的、そんな言葉に反応したかのように剣崎は飛び出すとそのまま見事な飛び蹴りを「ヴィラン」へと直撃させ数メートル後退させる事に成功する。その際に確かな感触によりこれは実体があると確信が過ぎった。
「先生っ!!」
「ナイスです剣崎くん、よしこれならっ!!」
蹴った瞬間にその反動で後方へと跳んだ剣崎、それに合わせるかのように13号が指を向けて個性を発動させようとする。吹き飛んでいる最中とその直後なら回避は難しいだろうと思っての事だが、それ以外にも思ってもみない事が起きてしまった。剣崎の攻撃を受け、吹き飛んだ「ヴィラン」に後隙を作らせないように爆豪と切島が殴りかかった。それによって更に吹き飛ばされる「ヴィラン」だが―――13号は二人を巻き込んでしまうとして攻撃をやめてしまい、二人に急いで退いてどいてと促すが……
『危ない危ない―――幾ら生徒と言えど金の卵、という訳ですね。だが所詮は――卵、私の役目は貴方達を散らして、嬲り殺す事ですので』
というと「ヴィラン」は全身から霧を放出するかのようにしながら生徒らを包みこんで行く。それは剣崎も同様だった、回避の隙すら与えない攻撃に防御の姿勢を取るのが精一杯だった。そして霧が晴れるとそこは周囲には岸壁で身動きが取りづらく、崩れ易い地面の立地と遮られた曇天のようなドームの天井、そして―――大勢の「ヴィラン」が自分を待ち受けていた。
「おおっ来たぞ来たぞぉ!!!」
「なんだ一人かよ、つまんねぇなぁ!!」
「まあ全力で潰そうぜ、何せあの雄英の生徒さんだもんなぁ……!!」
と自分を完全に舐めているかのような態度を取っている相手に剣崎は大きな笑いを上げた。「ヴィラン」達は何を笑っているのかと困惑したが剣崎は直ぐに笑顔になった。
「そうか、俺一人か……なら良かった。この状況なら俺は……好きに暴れられる」
そう言いながら剣崎はなにやらバックルのような物を取り出すとそこへ一枚のカードを入れる、するとバックルは無数のカードを帯のようにしながら宙を舞い、剣崎の腰へと巻き付いた。まるでベルトのように、そして低い待機音を響かせながらそのまま剣崎を待っていた。
「俺はお前らに遠慮する気は0だ、本気で―――行くぞ」
剣崎はゆっくりと腕を上げながらポーズを取る、がそれを完全に無視しながら「ヴィラン」らは襲いかかろうと飛びかかる。そして―――
「変身!!!」
『TURN UP』
バックルから光の壁が飛び出すとそれらは「ヴィラン」らを容易く吹き飛ばしながら剣崎の前へと展開された。そこには巨大なカブトムシのような物が浮き出ていた、そこへと走り出して行きそれを通り抜ける。すると瞬時にして剣崎の姿は鎧を纏った青い剣士の姿へと変貌し目の前にいた「ヴィラン」を殴り飛ばした。
「こ、こいつ姿が……!?」
「でもこいつ見た事がある……こ、こいつ……!!!」
『か、仮面ライダーだぁぁぁあああっっ!!!!???』
「普段なら、救助を優先するけど……他へ行くにはお前達が邪魔だからな。倒させてもらうぜ!」