救いのヒーローになりたい俺の約束   作:魔女っ子アルト姫

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早朝トレーニングとライバル

「仮面ライダー」には多くの謎がある。その正体も当然それに含まれているがそれ以外にも多くの謎が揺らめいている。それは―――「仮面ライダー」の個性である。

 

個性とは平たく言えば人それぞれが持つ特殊能力の事であり今では世界人口の約8割が個性を持っているという。 固有の能力というわけではなく、ある程度被る事もある。任意で特殊能力を発動する「発動型」。体の一部を変形させる「変形型」。全身変化しっぱなしの「異形型」。肉体を一時的に超強化する「増強型」と大きく分けるとこの4つに分類出来る。が「仮面ライダー」の力はこの分類分けに属さない新たな種類の個性なのではないかと激しい議論が繰り広げられている。

 

「ヴィラン」に捕まってしまった子供を目にも止まらぬスピードで救出したかと思いきや、鉄骨の下敷きになってしまった作業員を助ける為に鉄骨に全く触れずに全ての鉄骨を浮かび上がらせて別の場所に崩れる心配がないように丁寧に置きなおす、身体を硬質化する事で子供に飛んできた攻撃を庇う、ダイヤモンド並かそれ以上の硬度になる事が出来る個性を持つ「ヴィラン」を切り裂く、落雷にも匹敵するほどの電撃を生成しそれを相手に叩きこむ。様々な個性を発揮する「仮面ライダー」の個性は一体何なのか、これも世の中を騒がす話の種の一つである。一番多いのは複合型の個性なのではと言う意見が多いが、それでも発揮する力が多種多様すぎるという事でそう簡単には収まらない。

 

超人社会の中で「仮面ライダー」は矢張り特異的な存在として見られている。個性としても、「ヒーロー」としても。正式なヒーローではないが大衆は彼を「ヒーロー」認定するほどに絶大な人気を集めている。それは高潔さだけではなく、彼の行為に垣間見える優しさにも原因があるとされている。

 

 

「ハッハッハッハ……」

 

規則正しい呼吸をしながら走りこみを続けている男、剣崎 初。彼は助走を付けてからのキックの飛距離の最高記録の更新を目指す為に普段の行っているメニューに追加を行って身体に10キロの錘を付けて、20キロのランニングを行っていた。しかも時々全速力を3分間出し、その後は常に一定のペースを絶対に守り、暫くしたらまだ全力で走るという縛りを行いながら。これが中々に身体に堪えるのである。

 

「ラストスパートォォォ!!!!」

 

最後の1キロとなった時点で全力で走る、周囲の景色が凄い勢いで通り抜けていくのを横目で見ながら脚に力を込める。全身の血流が一気に早くなる、肺が圧迫されるように苦しくなっていく、脚に痛みが走り出す。流石に色んなメニューをやった後にこのランニングは身体に来る、だがそれでもやると決めたのだから全力でやる。そして残り僅かになった時、跳躍しながら叫んだ。

 

「ウェェエエエエイッッッ!!!!!」

 

叫び声と共に着地すると腕に巻き付けていた計測計が20キロ終了というメッセージを映し出している。どうやら確り達成は出来たようなので安心したように適当な場所に腰を下ろす。そして付けていたペットボトルに入っているスポーツドリンクをゴクゴクと飲んでいく、身体が水分と程よい塩分を望んでいる。そしてそれが与えられる瞬間が堪らない。まあ、水分は兎も角塩分の瞬間は良く分からないが……。

 

「そう言えば……此処何処だ?」

 

最後辺りは本当に適当に走っていたので今此処が何処なのか全然分からない、単的に言うと……

 

「迷った……やばい」

 

携帯を忘れてきて別にいいだろう感覚で放置したツケがまさかこんな形で訪れるなんて思いもしなかった……。携帯さえあれば現在地を調べて帰り道を探す事も簡単なのだが……何とも厄介な事になってきた。思わずとあるカードを思い浮かべそうになるが、直ぐに頭を振り払ってそれを忘れる。

 

「よし、帰りも適当に帰ってみようかな」

 

半分自暴自棄にでもなっているのかそんな事を言い出していると、何やら此方を見ている視線を感じた。其方を見てみると何やら癖っ毛がある緑髪の少年と……骸骨を思わず連想になりそうな程に酷く痩せて金髪の恐らく男が此方を見ていた。

 

「あの、なんか凄い声が聞こえたと思ってちょっと見に来たんですけど……落ち込んでるみたいですけど大丈夫ですか?」

「えっ?ああまあ……叫び声についてはまあ気合を入れるためのものだよ、トレーニングの最後に飛び蹴りしたから。落ち込んでるのはまあ……携帯忘れた挙句迷子になった……」

「成程それで落ち込んでいたのかね」

「ええまあ……もう直ぐ高校受験する男が迷子とか恥ずかしいにも程がありますよ……」

 

明らかに落ち込む剣崎に二人も何処か納得するような表情を向けた。確かに、子供なら兎も角高校受験を控えている歳で迷子になるのは恥ずかしさがあるのは理解できる。が、金髪の男は笑ってそんな事はないと否定する。

 

「何々気にする事などない!私だって駅の地下が迷路みたいで地図を見ながらでも迷った事なんて何回もあるからね!迷子なるのは恥ずかしくない、寧ろ新しい発見をするチャンスだと捉えた方が良い!」

「新しい発見、をですか」

「そうさ。予定になかった寄り道、もしかしたらそこにこそ本当に大切な物があるのかもしれないからね!」

 

そんな言葉を聞いていると、不意に思い出す。昔出会ったあの人の事を、自分の希望であり夢であり続けていてくれているあの人の事を……。何故そう思ったのか分からないが、この人はあの人と同じように感じた。

 

「不思議だな……貴方は俺に希望をくれた人と同じ感じがしますよ。雰囲気というか、オーラというか……言葉の中にある優しさが同じ感じがします」

「それは嬉しい事を言ってくれるね、その人に私も誇らしく出来る。さて緑谷少年、君はこの近くまでの駅の道順って分かるかい?」

「あっ分かりますよ、今メモに書きますね」

「すいませんお世話を掛けちゃって」

「いえこの位なんでも無いですよ」

 

そう言って親切に駅までの行き方のメモをくれる緑谷という少年、そんな彼の親切にお礼を言いながらそろそろ帰るために走り出そうとした時の事だった。

 

「そう言えば高校受験と言っていたが、君は何処を受験するのかな?」

「俺ですか?俺は―――雄英高校ですよ。君も、だろ?」

 

そう言うと緑谷は驚いたように顔を上げた、一瞬困ったようにするが直ぐに決意を固めたような顔を向けて頷いた。

 

「そっか、ならライバルだな俺達は。出来る事なら一緒に入学して学友として仲良くなりたいけどな!それじゃあ!!」

 

剣崎は再び走り出して去っていく、何処か清々しい気持ちになりながらメモを見ながら駅へと目指していく。

 

「……しまった、俺財布無いから乗れないじゃん……」

 

しょうがないので線路沿いに家から最寄の駅まで走って行った。余計に疲れた。


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