「緑谷……是非とも彼、サイドキックに欲しいなぁ」
「我武者羅に攻めているように見えて、彼の攻撃は鋭さと正確性があった。元々分析やらが得意なのかもしれないな」
「それでいてあんな近接戦闘能力……うーん、今すぐにうちの事務所に来てくれないかなぁ……マジでああ言うサイドキック欲しいんだよ……」
「ああ。お前の個性は近接がいてこそ光るようなもんだもんな」
「剣崎 初……いいなぁ」
「あんなに熱いのはいいよなぁ士気も鰻登りだよ」
「特に最後の一撃なんてとんでもなかったもんね、緑谷のもとんでもなかったのにをそれを破っちゃうんだもん」
「サイドキックの争奪戦、早くも白熱しそうね」
試合が終了した会場はまだまだ初戦の剣崎と出久の戦いの興奮が冷めていなかった、始まりからあれほどに途轍もない戦いを見せ付けられると如何にも身体がうずくのかプロヒーロー勢は早くも二人にスカウトをしたいような動きを見せ始めている、冷静に二人の力を分析しながらもそれらを正当に評価してどういったポジションが一番なのかを検討している。中には今すぐにもスカウトしたいと口にするプロもいる程。そんな二人は肩を貸しあって共にリカバリーガールの診療所へと向かって行く、そんな戦いの後の友情を見たミッドナイトは嬉しそうに笑いながら激励を送っていた。
「剣崎少年、そして緑谷少年本当に良い試合だったぞ!!全くもって、私も熱くなってしまったよ!!」
「はははっ……でも僕負けちゃいましたけどね、でも凄い満足してます。出せる全力で負けたから、ですかね」
「その気持ちがあるならもっと君は強くなれるぞ緑谷少年!」
二人の戦いで完全崩壊してしまったステージの修復まで時間が掛かる、それまでは休憩時間という事で出来た休み時間。剣崎はリカバリーガールの治癒で治った身体に念の為と出久の身体と一緒に回復させながら控え室で雑談をしているとオールマイトが飛び込んできた。内容は勿論二人の戦いの賞賛だった。
「緑谷少年は以前よりも格段に「ワン・フォー・オール」を物にしてきているな。全身発動であそこまで動けるのは実にいい事だ」
「でも、まだまだ動きにもぎこちない感じがしてまだまだ練習が必要です。あれだって、実は途中何度も解けちゃってその度に掛けなおしてましたから」
「それで食い下がれたんだから十分だろ……。寧ろ、それって俺が押し切れてなかった事になるんだぞ」
ややげんなりしながら剣崎が言った、全身に「ワン・フォー・オール」を掛けた状態、出久曰く"ワン・フォー・オール・フルカウル"は剣崎との特訓中に思いついた物であるが、今まで以上に難易度が高くて成功しなかった。しかし、それを剣崎との戦いで成功させ何度も行使する事にも可能だった、それは何故か。
「なんて言うか……必死だったんですけど、自然に出来ちゃったんだ。「ワン・フォー・オール」が自分の身体みたいに……感覚的に……」
「無意識下による制御……本気での試合中で精神が一気に研ぎ澄まされたからか?」
「かもしれんな、なんにせよこれは大きな一歩だ。それを自分の身体と同じように動かせるという事は、私から与えられた個性だったものが自分の個性として使えるようになってきている事と同義だ」
「はいっ……!!」
そんなオールマイトの言葉に答えがあったと出久は確信した、今まで自分は与えられた物だと強く思い認識して来た。剣崎を含めた他の皆は個性を当たり前のように自分の身体のように使う、個性も身体機能の一つなのでそれは当然。当たり前のように脚を進めるように、指を動かすように。だが出久は剣などを使う感覚に近かった。超必殺技のように考えすぎていた、だから普通に扱うように考えるようになった結果、制御が一気に出来るようになった。
「それにしても剣崎少年、初戦は無事に突破出来ているが次は大丈夫か?」
「確かもう直ぐでしたよね、2回戦は」
「ああ。確か轟と瀬呂の筈―――」
と言った時、会場全体を揺るがすような凄まじい衝撃が巻き起こった。
修復終わったステージでは轟と瀬呂の試合が始まっていた。轟の強さを良く知っている瀬呂は場外狙いの速攻を敢行。個性「テープ」で両腕からテープを発射して轟を拘束、そのまま勢いを付けて投げ飛ばそうとしながら一気に伸縮させて蹴りを加えようとするが……轟の個性が発動して会場の半分を覆うほどの巨大な氷塊が瀬呂を凍結させんとする勢いで多い尽くした。
「あっ……がっ……やり、すぎだろ……いってぇっ……!!!」
「……悪い、やりすぎた」
「く、くっそぉ……だ、駄目だ身体が、うごかねぇ……!!」
『せ、瀬呂君戦闘不能!は、早く溶かして……』
「すいません先生」
瀬呂も何とかしようともがくのだが……ほぼ全身を氷が覆い尽くしてしまっている状況ではテープを出す事も出来ずに動きを封じられて詰み。それでも必死に身体を動かそうとするがミッドナイトによって敗北の判定が下された。
「悪いな、イラついてたんだ」
「し、死ぬかと思った……でもまあいいさ。轟、なら代わりに絶対に勝ち進めよ」
「……当たり前だ」
最後に握手をして去って行く瀬呂、そんな彼へとドンマイの声と賞賛の声が送られた。あそこまで一方的にやられたとしても自分を倒した相手に払った敬意は素晴らしいと評価された。そんな言葉を受けた轟はただただ当然と返してステージから降りていく。そして、剣崎は顔を鋭くしながら気持ちを落ち着ける。
「次は―――轟……!!」