「いよいよね……」
「ああ……凄い緊張してしまっている……見る側だというのに……」
「無理もないわよ飯田ちゃん、ワタシだって凄いドキドキのバクバクだもん」
観客席から思わずそんな言葉がクラスメイト達から零れて行く、無理もない。これから行われるのは一番の盛り上がりを見せるであろう物、鋭い視線を投げあいながらも立ち会っている二人の男。これから二人が戦う、強者の激突に何が起こるのか予測は不能。
「ま、間に合った!?」
「緑谷君来たかっ!!大丈夫まだ始まっていない!!」
「よ、良かった!!麗日さんギリギリセーフっぽい!!」
「間に合ったってよかったっ……!!」
そんな観客席に麗日を連れた出久が駆け込んできた、全力で走ってきたのか二人とも肩で息をしている。そんな荒い息のまま梅雨ちゃんと京水の間の席に座り込んでステージへと視線を向ける、そこには轟と剣崎が向かいあっている。轟は静かに待っているが、剣崎は片足ずつでジャンプして脚を伸ばしている。
「ねぇ緑谷ちゃん、貴方はどっちが勝つと思うかしら?」
「……轟君の個性はとんでもない位に強い、純粋なパワー勝負に搦め手とか色んな手段が出来るけど剣崎君は個性の関係上、正面からのぶつかり合いを仕掛けるしかない……。でもそれでも凄いパワーを発揮出来るから何も言えないかな……」
出久の言葉に誰もが納得するような様子を示す、それらは絶大なパワーを発揮して戦いを繰り広げた当事者である出久だからこそ説得力がある言葉。しかしこの場だけで出久だけが知っている、剣崎の本当の力を。それらを使えばきっと轟とは互角以上、いや圧倒する事も可能だがそれらは出来ないから剣崎は如何するのか分からない。
「でも僕は剣崎君を応援するよ、僕の分まで頑張ってってエール送ってるしね」
そんな言葉を受けて一同は一瞬笑ってから応援のエールを二人に向かって送り始めた。勝敗なんて問題じゃない、兎に角満足出来る戦いをして欲しいという想いを込めて。それらを受けた剣崎は笑顔を作りながらクラスメイト達に手を振って応えながらサムズアップを加えて感謝を伝える。
「イヤァアンやっぱり初ちゃんの笑顔ってば良いわぁあん!!」
「ホント泉アンタブレないよね……まあ分からなくもないけどさ」
「あの笑顔気持ちいいもんね~♪」
「試合前なのにそこまでリラックス出来ているなんて……見習わないといけませんわね」
「ホントだね……」
興奮する京水に同意するような言葉を続ける耳郎と芦戸、それに緊張している様子が見えない剣崎に尊敬の意を向ける八百万と麗日。そんな中一人だけ剣崎の笑顔を受けて頬を赤くしている少女がいた。彼女はサムズアップが自分に向けられていると気付いてしまう、それにサムズアップで返すが恥ずかしくなってきてしまった。
「蛙吹さんなんか顔赤いけど大丈夫?」
「むっ体調不良か!?それはいけないな直にリカバリーガールの所に……!!」
「ケ、ケロロ大丈夫だから!!大丈夫から気にしないでっ!?」
「アッハハハ賑やかだなぁ我がクラスメイト達は。お陰で元気貰っちゃったよ」
「暢気なやつだな……この状況で良く笑ってられるな」
「笑ってるのが俺らしいからな、それに笑ってる奴が一番強いのさ」
対峙し続ける二人は試合開始の合図をただただ待ち続けている、その間にも準備をするかのように軽い運動をしつつリラックスし続けている剣崎を轟は何やら呆れるような視線を送っている。
「さてと、あの炎男に色々言われたけど俺は俺なりに戦うか」
「炎……まさかエンデヴァーか?」
「ああ。なんか色々言ってきたよ、お前にはオールマイトを越える義務があるとかふざけた事言ってた」
「……」
思わず零した言葉に轟は反応し話の内容を聞いて改めて顔を顰め、会場の何処かで自分を見ている父に酷く腹が立った。そんな険しい顔をする轟に剣崎は続けた。
「だから俺は言ってやったよ、何から逃げてるのかは知らないけど―――自分で乗り越える物は努力して自分の力で乗り越える、それが男だろってさ」
「―――お前、それマジで言ったのか……?一応、あれNO.2ヒーローだぞ」
「だから何だってって話、NO.2だろうがNO.1だろうが関係ねえよ」
此処までハッキリ言う剣崎に思わずポカンと轟もしてしまったが直後に少しだけ笑った。
「ああっそうか、逃げてるか……傑作だな。感謝しとく剣崎、あいつのしかめっ面が目に浮かぶぜ」
「実際にキレたよ。まあもっと怖い人知ってるから全然大丈夫だったさ、まあいいさ。これから俺達の事にエンデヴァーなんて関係ない、唯戦うだけさ」
「だな」
少し気分がスッキリしたのか轟は柔らかくなった表情を作りながら構えを取り、剣崎も合わせるように構えを取った。それに合わせるようにミッドナイトが試合開始の合図を始める。
「それではこれより、剣崎 VS 轟の試合を始めます!!では―――始めッ!!!!」
遂に、開始の旗が振り下ろされる。それと同時にステージが凍結して行く、そこら一体が瞬時に氷河期に閉ざされてしまったかのような錯覚に陥るような勢いで氷に閉ざされる。速攻を警戒していた轟は瞬時に能力を発動させて瀬呂の時のように、いやそれ以上に入念に一気に凍らせて行く。
「剣崎くんっっ!!!!」
出久の声が響く。だがそれが届く前に、ジャンプする前に剣崎の身体を氷が伝って行くと同時に彼を巨大な氷の牢獄が剣崎を完全に閉じ込めてしまった。
『あぁぁっと剣崎、氷の牢獄に閉じ込められたぁぁ!!!?しかも、俺の目が確かならあいつ自身も全身を凍らされてたぞぉ!!?』
『剣崎に接近される事を警戒しての一撃だな、規模としては瀬呂の時には及ばない。だが、それ以上に相手に効果的に作用するようにした……』
プレゼント・マイクと相澤の実況と解説が剣崎の敗北を匂わせて行く、身体を凍らされたのに周りを分厚い氷の壁で覆われている。身体能力の強化をする剣崎では流石に対応しきれないだろう、これは相性が悪すぎるとプロヒーローも終わりか、と思っていた……時だった。
「っ―――ケロ、ねえ何か聞こえないかしら」
「えっ?」
梅雨ちゃんが気付いた何かが炸裂するような小さな音、それらは次第に大きくなって行き会場に響くようになっていた。それは会場の中央、ステージから聞こえているようにも思える。どんどん大きくなって行く音、それと同時に氷の牢獄に亀裂が入り始めた。
『こ、氷に亀裂が入ったぁぁっ!!おいおい、マジか、マジなのかぁぁぁ!!?』
更に広く深く大きくなって行く亀裂、次第に音も凄まじい物へとなりはじめて行く。そして―――
「ウェェェエエエエエエイ!!!!」
氷の牢獄を粉々に砕くかのように脱獄した剣崎が飛び出した、それに会場から凄まじい声が溢れて行く。あの巨大な氷の牢獄、加えて身体を凍結させられていたと言うのに突破したという所業の凄まじさが興奮を呼んだ。
「お前、よく脱出出来たな」
「ああまあな、シバリングって奴だよ」
「シバリング……って身体を震わせるあれの事か」
「そう言う事」
『シ、シバリン……ってなんだ?お前分かる?』
『シバリングだ。身震いによって体温調整を行う生体機能の一つだ、安静時に比べて最大で6倍の熱を起こせると言われているが……それでも氷を一気に溶かす程じゃない。生体機能すら強化する事が出来るのか剣崎は、相当個性を鍛えてるな』
短い言葉で説明した剣崎の言葉に轟は驚きと呆れを感じてしまった……シバリングで体温を上げて氷を溶かしたというのだろうか、そうだとしたらこいつの個性も十分可笑しい部類だと轟は思った。
「(剣崎君の個性、確か仮面ライダーとは別にお母さんから引き継いだって言ってた……。それが身体能力の強化……あんな事まで出来るんだ……でも、それじゃあ仮面ライダーの個性ってどうやって……?お父さんとお母さんのが混ざったとかなのかな……?)」
「にしてもすげぇ個性だな……応用が利いて羨ましい」
「お前のも十分にあれだろ」
「そうかなぁ?」
「そうだろ」
これが本気なのかそれともとぼけているのか、剣崎もそうだがそこは大した問題じゃないだろとツッコミを入れたくなるような事を言う轟。なんだかんだでこの二人は似た物同士なのかもしれない。そんな話をしていたが、それを中断して剣崎は地面を蹴って一気に接近して行く。それらを防ぐように地面を凍結させていく。それらを寸前に回避しながら凍った地面を砕くようにして無理矢理走って行く剣崎、同時に腕を後ろへと引くのを見た轟は氷壁を作り出して防御を固めるが―――分厚い壁を容易に殴り砕いた剣崎はそのまま轟の左腕を掴むと想いっきり地面へと叩き付ける。
「グッ!!このっ!!!」
「おっとっ!!!」
叩き付けられたと同時に鋭い氷柱が飛び出して剣崎へと向かうが、素早く反応して地面を蹴って回避する。それでも空中まで追いかけてくる氷柱、自分を貫くまで追いかけてくる猟犬のような、しかしそれへと蹴りを入れて砕き折るとそれを全力で轟へと投擲した。
「―――ッ!!!」
咄嗟に、
「やっぱり凄いなお前の個性、暖かくていいな」
「……暖かいって何言ってんだお前」
「お前の炎ってエンデヴァーのそれとは違うって事さ」
その言葉を聞いた時、轟は嘗てないほどの衝撃を受けた気がした。自分の炎はエンデヴァーから受け継いだ個性、それが嫌で堪らなかった。母に酷い事をし、自分をオールマイトを超える最高傑作と物扱いする父が憎たらしかった。それは自分の炎も同様だった、だから母から受け継いだ氷だけでNo.1ヒーローになり、父を完全に否定すると決めていたのに、剣崎はあっさりとエンデヴァーの炎とは全く違う自分の炎と言った。暖かくて良い炎と言った。
「―――暖っけぇ炎なんてある訳ないだろ」
「あるよ、今そこに。だって―――お前はそこにいる」
その言葉は、母のそれに似ていた。そして自分の憧れたヒーローの言葉を思い出す。そんな言葉が心に染み込んでいくかのように広まって行く。なりたい自分になる、なっていいんだ。何時の間にか忘れていたそんな言葉と気持ちが蘇ってくる。それと同時に身体から凄まじい炎が―――地面を凍て付かせる氷が―――巻き起こって行く。
「剣崎、お前やっぱ変な奴だ。敵の個性が暖かいとか意味わかんねぇ、でもありがと」
「んっ?」
「悪い、今から―――本気で行くッ……!!」
「やっぱり凄いな……なら、俺も面白い物見せてやるよッ……!!」
軽く笑った剣崎は右足を強く地面に突き刺すようにするとそのまま一気に、超回転を始めた。地面に突き刺した脚を軸にしながらの高速回転は周囲の空気を巻き込んで激しい音を立てている。
『け、剣崎いきなり回り始めたぞ!?何かする気かぁ!?回って何とかなるのはお前じゃなくて光の巨人だぞ!?』
『何言ってんだお前』
そんな声が聞こえても続ける、そして―――回転が終わった時……。
『〈
その右脚が激しい発光と共に炎を巻き上げながら燃え上がっていた。
『な、なんだァァァッッ!!!!??剣崎の右脚が、すげぇ激しく燃えてやがるぅぅぅう!!!?どうなってんだぁぁぁぁっ!?』
『あいつ、まさか摩擦熱で自分の脚に火を……無茶な事を……』
「摩擦熱で身体に火を点ける……正直痛いけど、それは自分で
「……お前やっぱり凄いな」
メラメラと音を立てながら燃え上がっている右脚、それでも剣崎は鋭い視線を作ったまま轟を睨みつける。轟もそれに対抗するように鋭い視線を投げかけている。
「「行くぞぉぉっ!!!」」
そして互いは同時に走り出すと渾身の一撃をぶつけあった。炎と炎がぶつかり合うと同時に右側の氷が剣崎の身体に襲い掛かるが同時にシバリングが発動して一気に体温を上げて殴りつけてそれを粉砕する。
「ウェェェエエエエエイッッッ!!!!」
「うおおおおおぉぉぉっっ!!!!」
激しい一撃が互いの身体へと炸裂する、相手の身体を凍結させんとする轟の一撃。燃えている身体を更に焼こうとする剣崎の重い蹴りが決まる。
「グッ……がぁっ……!!!」
「お陰で身体が冷えて良い気分だっあんがと、よッ!!!」
シバリングと脚の発火によって体温が上がりすぎていた剣崎、それらを『〈
『〈
「オオオオオッッ!!!!」
此方へと走ってきている剣崎を見た、反応するよりも早く跳躍した剣崎は宙返りをした。氷を発生させて更なる壁を作るが、それを破壊した。その勢いが衰えぬまま、向かってきた。
『〈
「ウェェェエエエエエエイイッッッ!!!!」
燃え盛る右脚の一撃を自分の身体に叩き込んだ、酷く重いそれは氷の壁ごと轟を吹き飛ばしていく。負けじと氷の壁を作って身体を受け止めようとするが勢いに負けて氷で受け止め切れない。それでも全力で氷壁を展開し漸く身体を止めた。まだまだ行けると思っていた時だった。
『轟君場外!!よってこの勝負、剣崎くんの勝ち!!!』
圧倒的な歓声が会場を包み込んだ。凄まじい攻防にプロアマ問わず誰もが熱くなった。そして戦った二人は―――ステージの中央で握手をした。
「負けた、だが次は勝つぞ」
「次も俺が勝つさ」
すげぇ量になったな……。普段の2.5倍ぐらいかな……。
剣崎 初
個性:身体能力強化
足を速くしたり殴る力を強くしたり、兎に角身体の力を伸ばす事が出来る!生体機能なんかも強化して、発揮する事も出来るぞ!!
母から受け継いだ個性