「よっお疲れさま常闇、リンゴジュースしかなかったんだけど良かったか?」
「有難く頂こう。リンゴは好物だ」
控え室へと続いて行く廊下の途中、常闇に出くわした剣崎が両手に持ったジュースの方を渡しながら壁により掛かりながら常闇の苦労を労った。
「"爆破"の爆豪と"
「ああ、あの修羅の力に俺の闇が尽きてしまった……。加えて力押しの猛攻に見えて奴は戦いながら黒影の弱点を探していた」
剣崎と鉄の後、準決勝の第二回戦。常闇 VS 爆豪、両者共に強力な個性を携えた好カードとも言える試合だった。爆破の猛攻を仕掛け、常闇に攻勢を仕掛ける暇も与えない爆豪。しかし、それだけではなく爆豪の"爆破"は常闇にとっては相性が最悪の相手だった事も関係してしまっている。
彼の個性"黒影"は闇が深ければ凶暴かつ強力になっていくが制御が困難になり、逆に昼間などの日光下では攻撃力が中の下となるほど弱体化するが制御が容易くなるという癖が強い。故に弱点は光、爆破の際の閃光で完全に黒影が弱まってしまって攻撃できなくなっていた。それを悟られないように必死になっていたが、爆豪もそれらに気付いたのか、上手く背後を取り激しい閃光を伴った爆発を起こして黒影をほぼ無力化した後に常闇を抑えこみ勝利を収めた。
「なんにしてもお疲れさんだ、それでもベスト4だしすげぇ事には変わり無いさ」
「……フッお前にそう言われると俺も嬉しく思う。俺はお前こそ真の強者だと思っている」
「俺が?なんで」
「お前は自らの身一つで戦い続けているからだ」
常闇や轟そして爆豪。彼らのように何かを巻き起こしたり操るのではなく、自らの身体を強化しつつそれでのみ戦い続ける、そんな風に戦う剣崎は常闇からは何処か眩しくも強者のように思える。
「オールマイト、あの人を連想させるような強さが剣崎、お前にはあると俺は思っている」
「嬉しい事言ってくれるなぁ、それじゃあそんな思いに応えて、優勝してくるか」
「ああっ。剣崎、お前の勝利と栄光を願っている。幸運を祈る」
ハイタッチをしながらそんな思いを受け取りながら剣崎は廊下を進んでいく、そして闇を抜けた先のステージを登って行く。周囲からは溢れんばかりの大歓声、それを受けながらステージへとあがるとそこには凶暴な顔付きで此方を見ている爆豪がいた。
『さぁいよいよ始まるぞぉ!!雄英1年の頂点がっ!!!此処で決まるっ決勝戦、剣崎 VS 爆豪!!!さあ方や圧倒的な身体能力で相手との正面勝負、そして時には技で相手をねじ伏せてきた剣崎!!方や戦う度に磨かれる戦闘センスと強力な個性を使いこなしてきた爆豪!!!この対決は見物だぁぁぁっ!!!俺個人的には剣崎に勝って欲しいぜぇぇえ!!!』
『実況なら私情挟むな』
超ハイテンションなプレゼント・マイクの実況と冷静な相澤の解説が聞こえて来る中、剣崎は足を伸ばしたりのストレッチをしながら此方を睨み付けてくる爆豪を見る。やっぱりヒーローを目指す人間がするような顔には見えない。どう足掻いてもヴィランだろうあれは。
「てめぇはさっさと俺の踏み台になれや、ウェイ野郎ぉぉぉっ……!!!」
「だからなんだよその呼び名……不満しかねぇぞ爆破ヴィラン」
「んだとぉぉおお!!!!誰がヴィランだごらぁぁあああ!!!」
「あっやべつい本音が。ごめん心でずっと思ってた事が出ちゃった、ごめんね♪」
「てんめぇぇえええええええっっっ!!!!!!」
怒髪天のように怒り狂っている爆豪に笑顔を向けながら謝罪する剣崎、奇妙な温度差に会場からは笑いが起こっている。笑顔で本音を口にする天然をさらけ出す剣崎、そしてそんな発言に激怒する爆豪。特に1-Aの間では特に笑いが大きい。
「アハハハハハハッッ!!!いいぞ剣崎~もっと言ってやれ~!!」
「俺も思ってたわだってあの爆発さん太郎どう見たってヴィラン面なんだもんな!!!」
「しかもそれを笑顔で言うとか剣崎も結構ひでぇな!!」
「まあ爆豪ちゃんは災難救助とかに行っても、『自分で歩けやクソが!』って言いそうだもんね」
「絶対言いそうなのがあれだが確かに爆豪君なら言うだろうな」
「かっちゃんが凄い笑われてる……やっぱり雄英って凄いや……」
「剣崎、やっぱりあいつ天然か」
「いや轟さんもですよ?」
『さてと、そろそろ始めようじゃねぇか!!さあ決勝戦―――いざ、開始ぃぃぃぃいいいいいっっっ!!!!』
「死ねやぁぁぁあああウェイ野郎がぁぁぁああああああああああ!!!!!」
やはり先程の事で激昂している爆豪は開始と同時に爆破でスタートダッシュを掛けて一気に接近する。それに合わせるかのように剣崎も一気に飛び出して行く、互いに一気に距離が縮まって行く中爆豪は両手を出して一気に大爆発を引き起こす。
『ああああいきなり大爆発ぅ!?最初から全力全開かよ!!?』
大爆発を確実にヒットさせたと確信があった爆豪だがその爆発から抜けてくる物があった、それはスライディングで地面を滑るようにしながら突破してくる剣崎の姿だった。多少纏っているジャージが焦げているがその程度の被害で大爆発をやり過ごしたと見える。
「くそがぁっ!!」
再度爆発を引き起こして地面ごと剣崎を吹き飛ばそうとする、だがそれよりも僅かに早く剣崎は地面を蹴った。後出しにすら反応する爆豪の優れた反射神経、に対抗する為にワザと遅く、少しだけ早く蹴った事で微妙に爆発を浴びながらも突破した剣崎はその爆豪の肘へと鋭い蹴りを入れた。それによって片腕が持って行かれそうになるほどに大きく吹き飛び身体も僅かに持って行かれそうになり体勢が崩れる、そこを剣崎は突いた。
「オォォオオオリャアアアア!!!」
彼の背後を取るとそのまま彼を一気に持ち上げてバックドロップを仕掛ける、鉄を容易く持ち上げる怪腕にとって爆豪など軽すぎる物。いとも容易く持ち上げられた爆豪はそのまま地面にめり込みそうな勢いで叩き付けられる。一瞬意識が飛びそうになるが、無類のスタミナを持つ爆豪は何とか持ち応えるがまだまだ剣崎の攻撃は続いて行く。
「でぇえええいやっ!!」
「ごあっ……!!て、てんめぇぇぇっ……!!」
「手は、使わせねぇぞっ!!」
二の腕を掴み無理矢理立たせた爆豪を今度はジャーマン・スープレックスが如く投げ飛ばすと、そのまま連続的に技を決めて爆豪の身体へと全体へとダメージを与えて行く。腕、肘、首、腰と各部にダメージを与えて行く。最後に腹部にスライディングでキックを決めて吹き飛ばした。
『決ぃまったぁぁぁっっ!!!流れるような組技の連続で爆豪を拘束しながら各部にダメージを与えたぞぉ!!!因みにお前あれ分かるか技、俺最初のバックドロップしか分からなかった!!』
『ジャーマン・スープレックスから寝技に移行、爆豪がまだ意識が定まらない間に腕を上手く決めながらの腕ひしぎ十字固め。そこから更に腕を使えなくする為の腕ひしぎ三角固め、そして大分意識を取り戻してきた所に更に追い討ちをかけるスピニングチョークにフロントチョーク。ありゃもう片腕は上がらないだろうな、あれだけでもう爆豪は攻撃能力が半減だ』
「くそがぁぁっっ……ぁぁっっ……!!!!」
立ち上がりながら憤怒を滲ませながら片腕を抑える爆豪、剣崎に対して油断などしていなかった。例え個性が自分よりも弱かろうがそれでも剣崎は強く、個性を十二分に生かしていた。警戒は万全だった、しかしそれでも相手は自分の遥か上を悠々と飛んで行く。ふざけるな、自分は勝つ。トップに立つ、その執念が再び爆豪を立ち上がらせる。右腕は痛みで全く動かない、元々肘に入っていた蹴りだけでもかなり辛い物があったが今はもう動かせないほどにダメージが入ってしまっている。
"爆破"の爆豪が間違いなく有利、そう予想していた大半のプロヒーローの予想を大きく裏切った剣崎。彼なりに取れる手段を取って爆豪の片腕を封じてしまった。見事な手捌きにまた大歓声があがる、だがまだ片腕残っている。それだけでも十分な火力は出せる。警戒しなければならない、再び剣崎が動いた。真正面からの攻めは既に半減しているからという油断からか、それに爆豪は苛立ちを感じながら持てる限りの最大の爆発で迎え撃つ。
「ウェェエエエエエイッッ!!!」
そんな爆発を突き抜けるかのように蹴り破った剣崎、彼は上着を脱ぎながら爆豪に組み付くとそのまま残っている片腕を掌を肩に密着させるようにしながら上着で硬く縛って動かないように固定してしまう。
「んだとぉっ……!!!!てめぇぇぇっっ!!!!」
「これで、両腕は封じたも同然だ」
「上手い!!あれならかっちゃんは脱出するのに爆破しなきゃいけないけど、今度はその爆発で肩に酷いダメージを受ける事になって残ってた腕も自分で使えなくなる!!片腕はダメージで動かせないから、完全にかっちゃんの個性を封じた!!」
「しかも上着が爆破で燃えにくいように結んでるから取りづらい、なんて戦法を……!!」
「さぁてと、これで終わりだ爆豪っ!!!」
一気に接近して行く剣崎、それを迎撃しようと動かない腕を使うために全身を動かしてなんとか掌を剣崎へと向けて爆破を行う。しかし一瞬でそれらは回避されてしまい、懐に潜り込まれる。そして―――
「ウェエエエエエエエエエエエエイッッッ!!!!」
叫びと共に重々しい一撃が爆豪の腹部へと炸裂する、衝撃が身体を突き抜けて行く。それを受けた爆豪はゆっくりと倒れこんでいく。それでもまだ立ち上がり戦おうとするがそんな爆豪を抱え上げると剣崎はそのまま場外へと出した。
『爆豪君場外!!!剣崎君の勝利!!!よってトーナメント優勝者は、剣崎 初君っ!!!』
ミッドナイトの宣言は会場をその日一番の大歓声で揺るがし、剣崎はその大歓声に応えるに笑顔を浮かべながら片腕を高らかに上げたスタンディングを見せ付けた。