「此処が人類基盤史研究所の中央部、此処で日夜個性の研究が行われているんだよ」
「お、大きい……というか、どんだけ広いんだこの研究所……」
「う~ん、取り敢えずプロ野球のドームが数十個入るじゃすまない規模かな?」
「……すんげぇ」
剣崎は頭上から襲いかかってきた男、グレートブレイブヒーロー・グレイブに連れられて研究所の中央部である施設へと連れて来られた。既に自分が足を踏み入れた場所も研究所の敷地内で、自分は研究所には入っていたという。目の前に立てられている余りにも巨大な建物、そこへと入っていくグレイブの後に続いていく剣崎、彼は入り口で指紋、網膜、音声、そして人工知能だと思われる質問に答えて中へと入っていく。
「面倒で悪いね、でも此処の研究は本当に重要だからこういったセキュリティが必要になってくるんだ。何度も無断で侵入を図ろうとする人達が多かったから」
「やっぱり凄い研究所なんですね、オールマイトも言ってましたよ」
「へぇっあのオールマイトさんが……それはここに勤めている者としては光栄だね」
中を歩きながら進み続けていく二人、そしてまたセキュリティをパスして奥ヘと進んでいくと「ヒーローチーム・BOARD」というプレートが掲げられている扉を潜ると地下へと向かっていくエレベーターに乗って地下へと向かう。
「地下に事務所が?」
「正確に言えばあのプレートを越えた時点でもう事務所の中だよ、これから向かうのは―――まず君の実力を確認しておきたい、流石にさっきので全ての実力を把握したという訳じゃないから」
そう言っていると開かれる扉の先には白い壁が一面を覆っている凄まじい広さの空間が広がっている。ここが地下だという事を完全に忘却されるかのようにとんでもなく広く、そして明るい空間に思わず驚いてしまう剣崎に自分もそうだったな、と懐かしむかのような視線を送るグレイブ。そして前へと歩き出すと先程、光を吸い込んだボトルを開けるとそこから再び光が溢れだし、鎧をその身に纏った。
「エース・ブレイド、君の力と何故ヒーローを目指したのかを見せて貰う。この個性が飽和している社会だと個性はもっている人間によって左右させる、ヒーローもその動機で全てが決まる。君は、どんな人間なのかな?」
「……随分荒っぽいですね」
「僕は不器用でね。話をするよりもこうした方が分かりやすくて良い、それに僕は君の担当に任命されてるから実力の把握は職場体験だと必要不可欠だから」
「分かりました、コスチュームは何処で着れば」
「そこで着替えれば良いよ」
と指された先の扉に向かっていく更衣室になっていた。そこで荷物やらを置き、漆黒のコスチュームをその身に纏う。しかし、コスチュームはオールマイトが懇意している会社に変更されている関係か何処か以前よりもがっしりとした物に変わっている。それを纏った剣崎の姿はよりマッシブに屈強な姿に映っている。
「へぇそれが君のコスチュームか、真っ黒なんて珍しいね。まるでヴィランだよ」
「黒いのは俺が望んだ機能を注ぎ込んだ結果です、でも色なんて如何でも良い。大切なのは見た目じゃなくてそれを纏った俺が何をするか、ですから」
「……分かってるみたいだね」
剣崎は剣を構えるグレイブに対するかのように構えを取る、出来ることならば自分も剣をとって対抗したいとさえ思えるがこれは致し方ない。今、仮面ライダーになる訳には行かないのだから。
「それじゃあ行くよ……ブレイドォ!!!!」
咆哮を上げながら一気に駆け出したグレイブ、その剣を振りかぶって一気に叩き斬ろうとするがスライディングでそれを回避しながら背後を取りながら裏拳を叩きこもうするが、素早く反応したグレイブは片手でそれを受け止めながら素早く拳を逆手持ちすると一気に突き刺そうとして来る。それを防御する為に膝でそれを受け止める。
「中々良いコスチュームだ、見た目よりも機能性重視しているのは良い事だ……!!」
「そりゃどうもっ!!!」
裏拳を相手に掴ませたまま、身体を持ち上げるかのように軽く跳躍するとそのまま蹴りをグレイブの頭部へと放つ。それを屈んで躱しつつも握った裏拳で此方の体勢を崩そうと狙っているようだが、それを予想していたのか片手で身体を支えながらそのまま回転するかのように身体を大きく動かし、掴んでいる手を振り解きながら連続的に蹴りを放って回避を優先させながら、自分も共に立ち上がる。
「……良いね、とってもいいよエース・ブレイド。素早い反応に行動の組み立て方もグレイトだ、まるで常に実戦に身を置いているヒーローのような動きで実に素晴らしい」
「それはどうも」
「では聞こう、君はどんなヒーローになりたいのかな?」
剣を構えたまま、問いを投げ掛けてくるグレイブ。下手な動きや動揺を見せた場合、その隙を付いて一気に襲ってくる算段なのだろう。これも試験のような物、なのだろうと思いながら想いを口にする。
「俺は、救いのヒーローになりたい。ヴィランを倒すんじゃない、人々の心に光を灯す存在に、そんなヒーローになりたい。いや、なるって決めてる」
「成程……でもそれがどんなに辛くて大変な事を理解しているのかな?」
「分かってるさ、この今の世界でそれがどんなに大変なのかも……。それでもなるんだ、俺は誰かの涙をぬぐってあげて笑顔にしてあげたい。暖かい世界に導きたい、言うなれば人々にラブ&ピースを齎すヒーローになりたい……!!!」
それを聞き終わったグレイブは沸き立っていく湯のように、小さい笑いから徐々に大きな笑いを上げていく。何処か嬉しそう、何処か嫌そうな笑いを上げて行く。
「そっか、君ってば本当に良い人間なようだね!ラブ&ピースを齎すヒーローか、いい台詞だ。感動的だな……だが無意味だ」
「……何っ?」
途端にグレイブの声が酷く冷徹な物へと変貌して行く。
「世界はそんな単純じゃない、悪意なんて色んな所に転がっている。たった一人の人間が変えられるほどに世界は安っぽく無いし複雑な物だ、そんな理想を挿めるほど世界は優しくは無い。君の理想はただの幻想で欺瞞に過ぎない、偽善でしかないんだよブレイド。お前の理想なんて」
何か、自分に言い聞かせているかのような言い方をするグレイブに剣崎は何も答えないまま耳を傾け続ける。剣崎も自分のなりたいヒーロー、それに至るにはとんでもない苦悩が待っているのは分かっているそれでも自分はなりたいと思っている、そんな想いを込めて口を開いた。
「知ってるよ、グレイブ。俺の理想が幻想で偽善のような物なのは」
「いや分かってない、分かってるなら言わないしそんな理想を掲げない」
「いや分かってる、分かっているからこそ―――俺はそれを謳う」
「―――っ!!」
構えを取り直していく剣崎、身体中に満ちていく力、それらの矛先を目の前の男へと定めながら―――今日まで生きてきた自分の思いをぶちまける。
「俺はそこに至れるまでの人間じゃない、そんな俺が言うのは確かに幻想で偽善だ。だけどそれでも俺の想いと行動は善だ、誰かを救う為に目指していく努力をし続ける。今は"ワン・フォー・ワン"でしかないかもしれないけれども、いつかそれを"ワン・フォー・オール"にする」
「青臭い事を……」
「まだ未来は決まっていない。まだその未来に進めないなら俺は進めるように努力し続ける!理想を掲げて何が悪い、夢を見て何が悪い!!父さんの友達が言ってた、子供の夢は未来の現実だってな。俺はまだ子供だけど、何時か大人になったときのその夢を体現する!!!!」
そう言いながら一気に地面を蹴って飛びかかるかのように剣崎が襲いかかるが、グレイブは渾身の力を込めた一閃でそれを迎え撃とうとするが―――剣崎の拳が激突すると刀身は粉々に砕け散ってしまいグレイブはそのパンチをまともに食らって転げまわった。
「ぐっ―――!!!」
「俺は俺の道を曲げない―――俺は俺が信じるヒーローを目指す!!!」
「……ははっ面白い、ならそれが確りと出来るのかと確かめてやろうじゃないかっ!!!!」