救いのヒーローになりたい俺の約束   作:魔女っ子アルト姫

43 / 105
理由と見つめる男

「いやぁ本当に参ったなぁ……グレートブレイブヒーロー・グレイブが情けないなぁ、本当に強いな―――エース・ブレイド」

「はぁはぁはぁっ……!!!」

 

研究所の地下、自動車教習所程に広い空間に作られた戦闘スペース。そこでヒーローチーム・BOARDの中でも突出した能力と実力を誇っているグレイブ、思わず本気にならなければならない程の強さを発揮しながらもまだ立ち上がった向かってくるエース・ブレイドこと剣崎に軽い恐怖を覚えてしまった、自分が持っていた予備の剣も全て叩き折られ上に自分の鎧の損壊率も37%を越えている。これが本当にヒーローとしての仮免許すら取得していない生徒の力なのかと疑いたくなってくるが、それが真実なのはグレイブが一番理解出来ている。

 

「俺は、俺の目指す道を絶対に曲げない……!!!」

 

コスチュームの所々が酷く汚れ、一部は吐血によって赤黒く染まっている。それでも尚立ち上がり向おうとして来るブレイドの無類のスタミナと決して折れないメンタル、身体能力も凄まじい脅威だが前述の二つが彼にとっての最大の武器なのだろうとグレイブは見抜く。フラフラになっている筈なのに力を振り絞って姿勢を低くしてバランスを保ち、そして拳を構えている。まだまだ戦えるという意思を見せ付けてくる、正直グレイブはもう勘弁して欲しいと言いたくなる。

 

『両者そこまで、これ以上は互いに余計なダメージしか与えない』

 

と突如響いてきた声が二人の耳を劈いた、ブレイドは誰の声だと思いつつも意識をグレイブから全く反らさなかった。その肝心の彼は漸くかっ……溜息を吐きながら鎧を解除しながらその場に座りこんでしまった。そして両手を上げながら戦闘の意思が無い事をブレイドへと教える。それを見ると、ブレイドは身体から力が抜けてしまったのか座りこんでしまう。

 

「もう戦う気は無い。悪かったねブレイド、君の心情を試すような事をしちゃって」

「試す……?」

「そう、これは君がヒーローを目指す心構えのテストとどんなヒーローになりたいのか。そしてその為にどれ程の覚悟があるのかを確かめる為の物だったんだ。だけどまさか君が此処までやるなんて思いもしなかったよ……」

 

とグレイブは心底草臥れたと言いたそうな表情を作った、グレイブはブレイドの担当として任命されていた。そんな自分が担当する相手の事を知りたくてやったのだが……此処までの実力者なんて、正直本当にまだ生徒なのかと疑いたくなる。度胸もある、コスチュームの特性も把握した上で接近戦を仕掛け防御する必要も無い物は身体で受けてカウンターを仕掛ける。そして攻撃の威力は申し分無い……。

 

「ヒーローは色んなヒーローがいる。ただ営利目的でヒーローをする者、犯罪者を取り締まるヒーロー、なんとなくヒーローをしている者、自分の個性で誰かを助けたいと思うヒーロー、そしてオールマイトのようなヒーローを目指す者……僕は君がどんなヒーローを目指すのか知って、それにあった指導をしなきゃいけない。その結果、君は誰かを救いつつもオールマイトのような光になりたいと思っている立派な心構えを持っていると分かった、うんとっても嬉しいよ僕としては」

 

立ち上がりながら、傍によってから手を差し伸べてきた。

 

「さあっこれから最高に楽しい職場体験をさせてあげるよ、君はそれを糧にしてオールマイトのようなヒーローを目指せ!!」

「グレイブ、さん……はいっ!!!」

 

グレイブの手を強く握り返しながら立ち上がったブレイド、一応ブレイドはグレイブを追い詰める事は出来ていたがそれはグレイブもある程度手を抜いてくれていたから。最初から本気だったなら確実に防戦一方で攻勢に出る事なんて出来なかった筈、それを実感したブレイドはそんなグレイブが体験させてくれるこれからに凄く楽しみになって来てしまった。

 

「それじゃあまず最初だ」

「はいっ」

「お腹すいたよね、まずはご飯にしよう。此処の食堂はかなり美味しいんだよ」

「いや俺は別に……(ぐっ~)……すいません、何か食べたいです……」

「うん素直でよろしい!それじゃあ案内してあげるよ、折角だから何か奢って上げるさ」

 

とグレイブは何処か嬉しそうにしながらブレイドを連れて再びエレベーターに乗っていく。グレイブは以前から後輩が欲しくて堪らなかったのだが、研究所に所属している関係で中々新人を雇えないチーム事情があるので半ば諦めていたが将来有望な生徒である剣崎が形だけとは言え後輩として来てくれた事に酷く喜んでいるのである。その戦闘スペースを一望できる場から一人の男が二人を見送ると笑みを浮かべていた。

 

「剣崎、初……やっぱり俺の目に狂いはなかったな」

 

そう呟きながら男は口元に浮かべている笑みを湛えながら思いを馳せた。剣崎によく似ている男を、自分は良く知っている。彼そっくりに笑って、彼そっくりに前に向い続けて、運命を手繰り寄せ切り札をその手に掴んだ男を知っている。

 

「剣崎……初、酷く懐かしい響きだな……彼になら託してもいいだろうな―――なぁ……剣崎?」

 

男は振り向きながら扉に向かっていく、何を思っているのか誰にも語らぬままに男は消えていく。

 

 

「さあこれが研究所自慢の大人気メニュー、マーボーラーメンだ!!」

「麺が、麻婆豆腐の中を泳いでる……!?」

「さあ遠慮しないで食べなよ、これが美味いんだよ。ここの言峰シェフの自慢のメニューだ」

「な、なんだろう……凄いカロリーを摂取しようとしているような気が……」


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。