救いのヒーローになりたい俺の約束   作:魔女っ子アルト姫

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橘、贈り物

橘 朔也、この研究所の所長。グレイブの上司にも当たる存在でもある、そんな所長が自分に話があるというが一体どのような話があるのだろうか、緊張と少しの不信感が過る中である事を思った。これほどに大規模な研究所の所長を務めているには若々しく酷く元気そうにしている。見た目の年齢は良い所30代前半でスーツと先程まで掛けていたサングラスが良く似合っている。前任の所長が父親だからそれを引き継いだとかなのだろうか……。

 

「俺と話したいって事ですけど、もしかして俺を指名したのってそれが理由なんですか……?」

「いいや違う、君の個性に興味があったのは事実さ。幾ら話をしたいからと言っても指名するなんて事はしないさ、この研究所の特性の関係上出来ない事だからね」

 

思わず口にしてしまった事を否定する橘、何処か自分を警戒するようにしている剣崎に仕方ないかと笑いつつもサングラスを机に置きながら窓から見えている景色を眺めながら言う。

 

「先日の実験は研究員がすまない事をしたね、研究所が大きくなっていく中で政府に此処を自由にコントロールしたいと考える連中もいてね。それから押し付けられた奴で扱いに困っていたんだ」

「グレイブさんからそれはお伺いしましたよ、研究者としては優秀かも知れないけどあれは人としてのモラルがなさ過ぎますよ」

「それには同感だ、近いうちにクビするから安心してくれ。政府の許可も取った、取り敢えずあれはもう主任からは外している」

 

その事について胸を撫で下ろす、ここに職場体験している以上はここの指示に従う必要が出てくる。だがあれは研究主任なので指示を聞かなければいけない、もう変わっていると思うと安心感しか出てこない。

 

「それと君のグレイブとの戦闘も観させてもらったよ。手荒なやり方を許してくれ、人間の本性と言うのはそれなりに追いこまれないと出てこない物なんだ、ヒーローという危険と隣り合わせで人の生死にも関わるからそこを見たかったんだ」

「い、いえそれについては納得してます。それにまあ……雄英の授業も割といきなり苦難をぶつけてくるので慣れているというかなんというか……」

「はははっそれは大変だな、ヒーローになるのも大変だろう?でも大変な思いをしてでもなりたい、そうだろう?」

「はい、俺はなりたいです!!」

 

と真っ直ぐな目で見つめ返してくる剣崎に橘は何処か眩しく思えた。綺麗な笑顔、偽りの無い想い、それらを体現する為に努力を惜しまない姿勢……ヒーローになるべき人材と実感させるような少年。まだまだ実力もグレイブが本気でなかったとはいえ相応に渡り合うなど申し分無い、今すぐにでもプロの相棒(サイドキック)として採用され活躍する事が出来るだろう。

 

「そうか、君のような真っ直ぐな子がヒーローを目指す事が嬉しいよ。これからも頑張ってくれる事を望むよ」

「はい勿論ですよ!!」

 

そう言いながらガッツポーズをする剣崎を横目で見ながら橘は席に着きながら、飛び出している引き出しの中にあるそれを一瞥しながら、何かを決意するように言葉を形にしようとした時、剣崎から言葉が飛び出してきた。

 

「あの、一つ聞いてもいいですか」

「―――なんだい?」

「正直に言いますけど、如何してその所長さんは」

「橘、そう呼んで貰って構わないさ。その方が呼ばれ慣れている」

「そ、そうですか?じゃあ―――橘さんは……」

 

 

―――橘さん、如何しました?

 

 

そう呼ばれた瞬間、噎せ返りそうなほどに脳内に飛んでもない量の光景が飛び込んでくる。そこにあるのは全て過去、自分が体験してきた時間の果てにあった現実たち。それらが一瞬、悪夢のように頭の中を食い潰そうとするがそれらを抑え込みながら目の前に彼の言葉に耳を澄ませた。

 

「橘さんは、何か俺の事を知ってるんですか?さっきの運命が如何とかいってましたし……それに俺と貴方は接点がまるで無い筈です、それなのに俺と話したがったりするのは可笑しいです」

「フム……中々鋭いな。流石は―――ブレイドの名前を受け継いだだけはある」

「ブレイド……受け継ぐ?」

 

橘のいっている事がまるで理解出来ない剣崎、ブレイドとは根津校長が付けてくれた仮面ライダーとしての名前であってこの事を知っているのは根津校長、オールマイト、出久の三人しかいない。あの三人が話すとも思えないし、話してしまったなら事前に言ってくれる筈。では別の事なのだろうか、でもブレイドと言ったらそれしか思い当たる事しかない……意味がまるで分からない。

 

「どういう事なんですか……ブレイドを受け継いだって」

「ブレイド、それはかつて世界を破滅から救った戦士の名前なのさ」

「世界の破滅……?」

「いや、正確には親友を救う事で世界を救った英雄というべきなのだろうな……」

 

過去を懐かしむような視線を浮かべる橘に比べて剣崎は全く理解が追い付いていない。詰る所世界の危機を救ったブレイドという戦士が過去にも居たという事なんだろうか。そして橘から見たら自分はそれを受け継いでいるように見えるという事になる、という事だろうか……。

 

「ご両親は、君が此処に来る事は知っているかい」

「えっ……如何して俺の親が……い、いえ知りませんよ。そ、その俺の父さんと母さんは……えっと……」

 

剣崎はそう言いながら顔に影を作った、それを聞いた橘はそうか……言葉を吐きながら引き出しにしまってあった何かを取り出すとそれを持って剣崎へと近づいてそれを差し出した。顔を上げた剣崎はそれを見る、それは何かの装置にも防具にも見える奇妙な物だった。何処か―――ブレイラウザーに似ているとさえ思えた。

 

「これって一体……?」

「時が来たら君にこれを渡して欲しい……そう頼まれていた物だ」

「渡して欲しいって……」

 

受け取ると不思議と力を感じた、自分の仮面ライダーとしての力と酷く似ているような凄まじいエネルギーを。もう一度詳しく話を聞きたいと思って顔を上げると橘は何処か暖かみのある笑顔を作って肩に手を置いてきた。

 

「これだけは覚えて置いてくれ。大いなる力には大いなる責任が付き纏ってくる、そしてその力は使い方によっては人を幸せにも不幸にもしてしまう大きな物だ。だから―――頑張ってくれ」

「橘さん……わ、分かりました……」

 

迫力ある橘の言い回しに何も言えなくなってしまった剣崎はそのままそれを受け取ると、時間も無いのでそのまま所長室を出てグレイブの元へと走っていく。それを見送った橘は沈めるように椅子に座りこむとファイルに挟み込んである資料を改めて見た、そこには―――剣崎 初の家族に付いて書かれていた。

 

「本当に、これでいいんだな……それがお前の意思なんだな―――剣崎」

 

その資料には彼の父と母の事も確りと書かれていた。そこに書かれている名前、それを橘は何処か懐かしそうに呼んだ―――剣崎 一真、そう書かれているその名前を。


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