「おっ待ってたよブレイド、所長からはなんだって?期待してるとかこれからも頑張れとかそう言う感じかな、僕も新人時代にそう言われたよ」
「ええっそんな感じなんですけど……」
「如何したの?」
研究所から出ると車を待機させながら本を読んでいたグレイブが手巻きしながら笑顔で呼びかけてくる、そんな彼は出てきた後輩が何処か元気がないと言うか腑に落ちないような表情をしている事が気になっている。そんなブレイドの肩を叩きながら自分に相談するように促す。
「何か困ったらなんでも相談してくれ、君よりも遥かにここに勤めている時間は長いんだから力になるよ!」
と頼りになる先輩感を何とか出そう出そうと頑張っているのが見え見えなグレイブ、今まで後輩を欲しがっていたのもあったからか頼りにされたいというのが強いのか、そういった物が目立つ。先程読んで今しまった本も「後輩に頼りにされる良い先輩のなり方」という本だったりする。因みに剣崎が来ると分かってから即日配達で注文した本、定価980円である。
「色々と話はしたんですけど……なんというか、話の内容を汲み取れなかったと言うのか……良く分からなかったっていうのか……」
「よく分からない……?橘さんは割と単純明快に話をしてくれる人な筈なんだけどなぁ……」
「後こんな物を渡されたんです」
そう言いながら橘から渡された物をグレイブにも見せてみる、グレイブは何処か物珍しげに見るが見たことも無いし何の為の物なのかも全く検討がつかないらしい。
「兎に角持ってた方がいいんじゃないかな、橘さんが渡したんなら君に何かしらの意味がある物なんだと思うよ。ほら此処からなんか固定する為のベルト出るっぽいし」
「それなら左腕の此処に固定するかな、どうやれば……」
取り付け方に四苦八苦しているとそれを腕に密着させた途端、まるでそれは身体の一部だったかのように伸びたベルトのような物が腕へと装着された。グレイブはおおっかっこいいなそれ!と言っているが剣崎はその巻き付き方を酷く見た事があるような印象を受ける。それはベルトを装着する時の物と酷く、いや全く同じだったからだ。感じる力も仮面ライダーとしての物に似通っている、本当にこれはなんなのだろうか……。
「まあ兎に角、パトロールに出発しよう。これから僕達は最近ヒーロー殺しで騒がしくなってる保須市に向かうよ」
「保須市、ですか」
「ああ」
保須市、ヒーロー殺しと呼称されているヴィランであるステインが潜伏している一帯。既に現地のヒーローや警察などが操作を手広く行っているのにも拘らずステインの行方を掴む事は出来ていない。17人のヒーローが殺害、23名が重傷や再起不能、活動休止を受け入れなければならない深刻な事態に陥っている。その為に保須には多くのヒーロー達が集ってステインの確保を画策している。グレイブは市から抑止力としての依頼を研究所経由で請け負ったとの事。
「これから僕達も保須に向かい、ヒーロー殺しに対する抑止力としてパトロールや現地警察やヒーローと連携して捜索を開始する。当然現地でヒーロー殺しとの戦闘も想定される、これは相当危険な部類の仕事にはいる。君は断る事も出来るけど如何する、僕は君の意思を尊重するしいざと言うときは僕が君を守る」
「……いえ行かせてください、ヒーロー殺しも許せませんけどあそこは友達が職場体験に行ってるんです。それにあいつ、今かなり不安定になっている。会えないかも知れないけど出来るだけ近くにいてやりたいです」
「……よし分かった」
グレイブは姿勢を正すと大声を出しながらブレイドを見つめる。
「それじゃあこれよりグレートブレイブヒーロー・グレイブ及びスペードヒーロー・エース・ブレイドは保須市に出発する。目的は現地ヒーロー及び警察と連携しヒーロー殺し、ヴィラン名「ステイン」を確保の為の活動。個性使用はヴィランに対する正当防衛、ヴィラン戦闘中のヒーローの援護、民間人への保護の場合は例外的に認める事にする。これらを留意する事!!」
「了解しました、これよりスペードヒーロー・エース・ブレイドは活動を開始します!!」
「では―――搭乗!!」
と同時に車に乗り込むとグレイブが一気にアクセルを踏み込んで出発して行く、研究所の敷地を出た辺りでグレイブは硬くなっていた空気を緩くするように軽く笑う。
「いやぁ乗ってくれて有難うね、一回でいいからああいうのやってみたくて♪」
「あははっ楽しいですもんね」
「(よし中々好感触……!!先輩としての威厳も大切、だが接しやすい先輩ほど尊敬されやすい……だからね!!)」
本で学んだ事を早速取り入れながら剣崎との仲が好くなっている事にホッと胸を撫で下ろしながら、保須市に向かって車を走らせて行く。今現在12時辺り、現地に着く頃には午後3時辺りにはなっているだろうか……様々な事を思いながら走っていく車の中で剣崎は飯田の事を思うのであった。
「(無事だといいんだけど……あいつ、先走らないといいけどな……)」
「ねぇブレイド、さっき友達が保須にいるって言ってたけどさ……もしかしてそれってインゲニウムの弟さんの事かい?」
「えっグレイブ先輩知ってるんですか、飯田の事!?」
「ああっ彼のお兄さん、インゲニウムとは中学の頃からの友人でね。一緒にヒーロー科を卒業したもんさ」
車を運転しながら質問に答えるグレイブ、まさか彼は飯田の兄でもあり大人気ヒーローのインゲニウムと友人の関係にあるとは驚きである。しかもかなり親しい間柄らしく頻繁に連絡を取り合っていたらしく、インゲニウムから一緒にヒーローをしないかという移籍話まで持ち掛けられていたらしい。
「あいつがやられたって聞いた時は……凄いショックだったさ。自惚れとかじゃなくて俺と互角なあいつがやられるなんて信じられなかった……」
「……インゲニウムの弟、天哉は多分お兄さんを仇を取ろうとしてると思うんです」
「やっぱり、か……。真面目で実直な彼は酷くお兄さんに憧れてた、そうするなじゃないかって不安だったんだけどそっか……分からなくも無いけど、私情での復讐なんてヒーローが一番しちゃ行けない行為だ」
ヒーローはヒーローである、それに踏み止まらなければならない。ヒーローとヴィランは表裏一体、ヴィランは個性を自らの欲を満たす為に、その為なら誰かを傷つけたりする事も厭わない者の事を指す。ヒーローが復讐を行ってしまえばそれはヴィランと何も変わらなくなる。個性の規制が進んでいく中で許可されているヒーロー活動、そう捉えれば重い罪になる。故にヒーローには逮捕や刑罰を行使する権限は無い。
「俺だって本当はあいつの仇をとってやりたい、そう思ったけどしない。例えばだけどさ、君だったら同じ夢を追いかけてた仲間が夢を諦めるしかないって誰かにされたとしたら―――復讐、するかい?」
「……分かりません、俺は一緒に夢を追いかけてくれる友達なんていなかったし……」
「そっか、自分なら―――復讐はするね確実に」
そう道を曲がりながら即答するグレイブに言っている事が違うじゃないかと思ったが直ぐにそれらの答えが返ってくる。
「でもインゲニウムは復讐なんて望んでなかった、だからしない」
「そんな簡単に割り切れるんですか……?」
「う~ん無理かな。でも本人が復讐望んでないのにやっちゃったら、自分がそうさせたって今度はインゲニウムが苦しむじゃない。だからしないのさ」
そう言いながらハンドルとギアを操作して保須へと向かう高速道路に乗って行く最中のグレイブの表情は酷く穏やかな物だった。とても親しい友人が重傷を負わされた人間がするとは思えないような清々しさがそこにあった。これがヒーローなのかとも思いながら、剣崎はそれを素晴らしいと思いながら車のシートに身体を預けながらスマホのグループチャットに目を通しながら、これから保須へと向かう事を言って見るが飯田だけ既読になったまま返信が無い事に不安を覚える。普段なら既読から3分以内に返信が返ってくると言うのに……。
「大丈夫、だといいんだけどな……」
「何心配しなくても大丈夫さ。保須には僕達以外にも多くのヒーローがいるし、あのエンデヴァーまで入ったって話もあるし」
様々な想いが交錯して行く保須市、蠢く悪意と血の連鎖。それは最後に何を齎すのだろうか……。
―――さぁっショーの始まりだ……戦いの始まり、ヒーローとヴィランの戦い、名づけてバトルファイトの序章の始まりだぁぁぁっっ!!!!