救いのヒーローになりたい俺の約束   作:魔女っ子アルト姫

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保須市、ヒーロー殺し

「という訳で保須市に到着!!」

「やっぱり、地味に遠いですね」

「まあねぇ……途中ご飯休憩とかにも時間使ったけどそれでも結構掛かったから」

 

目的地であった保須へと到着したグレイブとブレイド。依頼を受けた市役所で到着の報告とこれからパトロールをする事、現地のヒーロー事務所の連絡先や警察へ自分達が使用している小型端末の事などを報告した後に早速パトロールが開始される。

 

「さてと基本的なパトロールルートは大通りを中心としながら横道とか裏通りにも目を光らせる感じで行こう。ヴィランは基本的に闇に紛れるからね」

「了解です」

「それじゃあ、行こうか」

 

そう言うとグレイブが鎧に合わせられているかのようなヘルメットを装着する、途端にヘルメットは鎧と融合するかのように接続されて目の部分が一瞬光を放つ。この状態がグレイブがヒーローとして活躍する本来の形態らしく、メット部分には特別製のバイザーが仕込まれており防具というだけではなく相手の分析や追跡、連絡装置などなど様々な装置が仕込まれているらしい。そのまま外へと出向くパトロールを開始する。

 

「やっぱり視線引きますね」

「ははっそりゃこんなに堂々とパトロールしてるからね、目を引くのは当然さ。それに一般的なヒーローコスチュームと違って僕達の奴も目立つ原因かな」

「……確かに」

 

パトロール中、大通りを通りながら各所に目を光らせている中で凄い数の一般人からの視線を感じる。それも当然、ヒーローがいるというだけで生まれる安心感や憧れのヒーローがいる、様々な感情がヒーローがいるだけで生み出されている。加えてグレイブのそれはそのまま鎧、ブレイドのは一般的なヒーローの物に近いが、それでもヒーローの物は華やかで煌びやかな物が多いが彼の物は黒を主体している。あるにしても金のラインが走っている程度である。

 

「あっおい、あれってグレイブじゃね!?」

「嘘マジで!!?なんで、メッチャクチャラッキーじゃん!!」

 

詳しい情報こそ秘匿されているが、それでも確かな実力と温和な性格で人気を博しているグレイブ。そこら中から声を掛けられ、それに応じるように優しく手を振っている。メットを脱ぐ事も吝かでは無いのだが生憎、今現在はパトロール中なのでメットからか入ってくる情報にも目を通して起きたいので外せない。

 

「「「あ、あのグレイブさんその……よ、よよよよ、宜しければサインお願いします!!!」」」

「勿論。ファンサービスは僕のモットーですから♪」

 

そう言いながら色紙を受け取ると腰のホルダーから飛び出してきたペンを持って流れるような動作でサインを書いていく。そして猛々しくも流麗に書き綴ったサインを甘い声色で差し出していき、次のサインに受け答えていく。剣崎が思った以上に人気が高いらしく周囲には何時の間にか、多くの人だかりが出来ていた。そんな中、幼い兄弟が自分に抱きつくかのようにしながら見上げてきた。

 

「けんざき、はじめさん、ぼくたち、ファンなんです、サインください!!」

「ください!!」

「サ、サイン……!?俺のを、かい……?」

「「はいくださいっ!!」」

 

とキラキラとした瞳で見つめてくる幼い兄弟、そんな視線に負けてしまったのか覚束無い手つきで持っていた色紙を受け取る。そして過去に出久に書いたサインを思い出しながらそれを若干アレンジする形で書いて行く。

 

「はい、これでいいかな」

「ありがとうございます!!」

「ありがとう!!……これって何て読んだら良いの~?」

 

と首を傾げる男の子にしまったと思ってしまう、出久に書いた時は英語だったの流れでそうしてしまった。二人のそれにルビを振るようにして再度手渡しながら、そこに書かれている名前を呼んだ。

 

「そこにあるのは俺のヒーローネーム。俺はエース、ACE BLADE(エース ブレイド)だ、まだまだちゃんとしたヒーローじゃないけど応援宜しくっ!」

「「うんっありがとうブレイド!!」」

 

と笑顔のまま近くにいた母親と父親の元へと返って行く兄弟は自分が貰ったサインの存在を高らかに自慢するのであった。その時、エース・ブレイドという世間に全く浸透していない名前に周囲の人達は疑問を抱きながら剣崎へと視線が集まって行く。

 

「ホント、あの子雄英の体育祭で優勝した剣崎 初じゃないか!!」

「本当だ!!あの馬鹿でかい氷とか砕いて飛び出したり、初戦で凄い熱いバトルやった子じゃないか!!」

「それじゃあ凄い将来有望な子じゃないか!!もうサイドキックになってるのか!!?」

 

とあっという間に自分の周りにも多くの人が集まってきてしまった、まさか自分に此処までファンが出来ているなんて考えてもいなかった剣崎は困惑していると耳に付けている通信機からグレイブの言葉が聞こえてくる。

 

『そりゃ優勝しているんだから当然さ、さあさあ早く処理して行かないと。苦手なら今のうちに慣れておく絶好の機会だよ』

『りょ、了解です……』

 

「体育祭見てたぜ!!あんな激熱なバトルが出来る新人なんて滅多にいないぜ!!サインくれサイン!!」

「ええ勿論」

「体育祭で一気にファンになりました!!写真お願いします!!」

「有難うございます」

「もうサイドキックになったのか!!?凄いなぁ!!」

「いえっ職場体験でグレイブの所へ」

「すいません、先程サインを貰った子達の母ですけど……す、すいませんけど私にもサインを頂けませんか?」

「……ええ勿論です」

 

と余りの多さに若干口角が痙攣しているような気もするが、手早くサインやら写真などをこなしていく。元々マスコミ相手に苦手意識を持っていた剣崎だが、それらを解消する機会だと思いながら笑顔を保ったままそれらに応じていく。子供を肩に乗せて家族全員で写真撮影、サインに書いて欲しい事を書く、握手などなど……ファンサービスがモットーというグレイブも満点を上げたい対応を次々と中々の速度で行っていく。気づけば周囲にいた凄まじい人集りが無くなっていたが、剣崎は内心で酷く疲れていた。

 

「ハッハッハッどうだい初めてのファンの対応は」

「た、大変ですね……よくもこれをモットーって言えますね……」

「要するに慣れさ。それに何れは近くに彼らが来てくれる事に安心感を覚えるさ、同時に彼らを守るだって強く思うようになる」

 

そう言われるとハッとする、確かにそうだ。彼らはファンだが同時に自分達ヒーローが守るべき人々でもある、彼らが安心して自分達にサインなどを求められるのも自分達が齎した物の結果とも言える。そう思うと自然とファンサービスをもっとしてもいいかな、とも思えてきてしまった。

 

「それにファンの人達から色々聞いたけど、あっちの方で怪しい人影を見たってさ」

「えっ何時の間に」

「ふふん、ファンサービスも思考の方向性さ」

 

グレイブは聞いた方向に向かいながら自分が思っている事を話す、確かにファン達はある意味煩わしいかもしれない。だが時には自分達が情報を欲しくて聞き込みをするかもしれない、そんな時にファンは率先して情報を提供してくれる。それらによって目的や不意の事故を防いで人々を助けられる、そう考えれば良いのだと。

 

「成程……ファンへの対応一つでも色んな事が出来るって事ですね、俺なんかこなして行く事しか出来ませんでしたよ……」

「初めてなんだからしょうがないさ、何でもかんでも最初から出来たら練習なんて必要ない。初めての事は少なからず戸惑ったり分からなかったりするんだからそこは積み重ねて出来るようになればいい、それが当たり前なんだからさ」

「おおっ凄い、優勝者じゃん。サイン貰えないかな」

「ほらッ早速きたよ」

 

とグレイブが背後のファンを指差した、振り向いて見ると―――そこには赤いジャケットを羽織っている金髪の軽そうな青年がいた。

 

「ええっ勿論」

「んじゃこれにお願い」

 

そう言って差し出された色紙を受け取りながらサインを書きこんでいく、書き終わるとついでに写真も良いかと言われるので勿論と答える。

 

「そうだ、この辺りで変な事とか起きてないですかね」

「変な事ねぇ~……そう言えば何処かって言われたら覚えて無いけどなんか血っぽい匂いがしたなぁ」

「血、ですか……」

「まあ気のせいかも知れないし、血のにおいって言うなれば鉄だし。んな事より写真」

「あっはい」

 

そう言いながら写真を受け入れると、青年はブレイドの方に手を回しながら持った写真で自撮りをするかのような角度で携帯を上げていく。少々乱暴なやり方だがブレイドは何も思わずに写真が取られるの待とうとした時、不意に彼がこんな事を言った。

 

「―――君が今のブレイドか……。ふぅん、中々強そうじゃないか」

「えっ何をっ……」

 

自然と世界から音が消えたかのような錯覚に囚われた、灰色になった世界の中で自分とその青年だけが色が付いているかのように時間が進んで行く。

 

「僕と戦う時まで、もっと強くなりなよ―――それじゃあ写真有難うね」

「えっあっ……はい、如何、致しまして……?」

 

青年が離れると世界は元の通りになっていた、そして去って行く彼を見送るが何処かからだがふわふわしているかのような不思議な感覚に陥っている。一体何がどうなっていたのだろうか、よく分からない時だったがグレイブに声を掛けられて正気に戻った。

 

「大丈夫?」

「え、ええ大丈夫です……」

「そっか、それじゃあ―――」

 

そんな時であった、街の一角から大爆発が起こり炎が上がったのである。天を焦がすかのように上がった火の手、反射的にそちらへと目線が行く。

 

「あれはっ―――!!」

「まさかヴィランッ!!?」

 

同時に剣崎の身体に電流が駆け巡った、それは彼が本能的に捉えるヴィランの存在の警報。それがヴィランの存在を裏付けていた、二人同時に駆け出しながらそこへと急行しようとした時の事だった。剣崎の携帯に出久からメッセージが入ってきた。自動的に読み上げられたそれは座標を示すかのような物だった、それを聞いたグレイブも思わず足を止めていしまった―――その座標は保須市、しかもこの近くを示していたのだから。

 

「まさかブレイドの同級生の救援信号……!?こんな時にッ……!!!」

 

思わず毒づいたグレイブ、重なり合っているこの状況で最悪の展開だ。同じ保須市、しかもヒーロー殺しがいるかもしれないこの街での座標メッセージ、それはもしかしたらヒーロー殺しの事を示しているのかもしれないからだ。ブレイドは歯軋りをしながら如何すればと思ったが、グレイブは即座に言った。

 

「行けっブレイド、友達を救え!!!」

「ッ!?」

「俺に出来なかった事を―――友達を自分の手で救え、責任は俺が取ってやるっ!!!!」

「―――ッ!はいっ!!」

 

同時に反対方向に飛び出して行く二人、剣崎は座標の場所へと全力で走っていく。ビルとビルの間を蹴って進んでいく。そして剣崎は途中バックルを取り出して装着する、この先もしも自分がヴィランに遭遇して戦闘した場合グレイブにも迷惑が掛かるかもしれない。だったら別人として、仮面ライダーとして戦えば良いと思い至った。同時に自分の戦闘力を跳ね上げる事が出来るのだから一石二鳥だ。

 

「今行くぞ出久!!変身!!!

TURN UP

 

仮面ライダーブレイドへと変身しながらビルの屋上を蹴って現場へと急行して行く、そして遂に見えた座標の場。そこには巨大な刃物を持った男とそれに相対するかのように低い姿勢を取っている出久、それに近くに倒れているヒーロー、そして―――飯田がそこにいた。男はゆっくりと低い姿勢を取ったままの出久を素通り、いや動けない出久を無視するかのように刃物を構えながら飯田へと向かって行く。そして―――刃が飯田の首へと添えられた時、身体が爆発的に動いた。

 

「おおおおぉぉぉぉっっ!!!」

「むっ……!!」

 

爆発的に壁を蹴ったブレイド、抜刀したブレイラウザーが振るわれたがそれは男が手にする刃に防がれる。凄まじい反応速度だ、腕を上に振るって相手を吹き飛ばすかのようにすると同時に背後から炎が巻き起こり男のみを牽制するかのように襲いかかった。男はそれを回避するかのように後ろへと飛ぶ。

 

「次から次へと……」

「緑谷、遅くなってすまなかった」

 

そこに現れたのは轟だった。彼は氷を展開して器用に倒れているヒーローや出久、飯田を自分の方へと引き寄せる。ブレイドもそれに合わせるように彼の隣に着地する。

 

「仮面、ライダー……お前もあいつ、ヒーロー殺しが目的か」

「……似たような物だ」

 

出来るだけ声を低くして自分だとバレないようにして答える、轟はそうかと言いながら前を向きなおすで上手く誤魔化せたのかと安心しながら目の前の相手、ヒーロー殺し、ステインへと剣を構えた。

 

「轟君、それにっ……!(剣崎、君来てくれたんだっ!!!)」

 

救いのヒーローと称され英雄とされる仮面ライダー、ヒーローを立て続けに襲撃し殺害して行くヴィラン、ステイン。それが相対した瞬間であった―――。


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