「よぉエース・ブレイド!!お前、人命救助に凄い貢献したらしいじゃねぇか!!ニュースで凄い話題になってたぜ!!」
「流石だな剣崎、同じクラスメイトとして誇りに思うぞ」
職場体験後初の授業、教室にて今日の献立でも考えている剣崎だったがそこに切島と常闇が職場体験中に起こったヒーロー殺しと平行して起こった脳無の破壊活動によって起きた被害から人々を救った事をネタにしながら話しかけてきた。
「やめてくれよ、俺は別段特別な事をしたつもりはない
「いやいや何言ってんだよ、あんだけの人の命を救ってるんだぜ!?誇っていいに決まってるじゃねぇか!!」
「切島の言う通りだ。窮地に陥る生命の危険を味わった人々をその手で救った、それは人として誇っていい物だ」
そう言って二人はエース・ブレイドの活躍を賞賛して行く、それらに周囲のクラスメイトも加わって剣崎を持ち上げて行く。だがそれでも剣崎は賞賛を一切受け取らなかった、如何してそこまで名誉な事なのに受け取らないのかと尋ねられるとこう答える。
「ヒーローとして至極当然な事をした、それだけさ」
ヒーローとして人を救う、それは当たり前の事。彼にとっては誰かを救うと言うことは当たり前の事で喜ぶべき事は自分が行動した事でその人達を救えたと言うことが重要であり、自分への評価など如何でも良いにも程がある。
「カッコいいなぁお前!!男らしいぜ!!」
「でも良いのか剣崎、得られる栄誉を捨てるという事にもなりえるが……」
「もう、貰ってるから良いんだよ」
「貰っている……?」
「ああっ助かった人達の笑顔さ」
―――助けてありがとうっ!!
それが何よりの報酬であり自分が得るべき名誉であり証明、救う事が出来たと言う事実とその人が取り戻した笑顔。それだけで剣崎は満たされている、そんな報酬を受けている剣崎にとって大きく満たされている。そんな彼の表情を見ると皆は言うのをやめてそっかと納得していった。あそこまで清々しい笑みを浮かべられては何も言えなくなるというもの。その日、剣崎の調子は絶好調なのかヒーロー基礎学で行われた救助訓練レースでも好成績を残すのであった。
そして放課後の事、出久から今日はオールマイトから呼び出しを受けているので特訓はやめておくという話を受けてそのまま帰宅している時の事だった。剣崎は夕食の献立にと決めた野菜炒めを作る為にチラシで野菜が安かったスーパーに向かうために少し遠出をしている時の事だった……。
「ちょっと買いすぎたかもな……こりゃ明日からご飯は多めしないと使いきれないかもなぁ……」
少々買いすぎてしまった荷物持ちながら、その帰りに出久がオールマイトから個性を継承する為の最低限の身体作りの為に綺麗にしたという海浜公園に寄ってみた。ゴミ一つ無い綺麗な砂浜、沈み掛けている夕日の光が水面に反射して実に美しい光景を作り出している。そんな光景に見ほれていると浅黒い肌をした赤いバンダナをした少年が自分に話してきた。
「よぉ、アンタ剣崎 初だろ?TVで見たぜ、将来有望なヒーロー校生徒だって」
「そりゃどうも。俺的には世間の評判って言うのは如何でもいいけどね」
「へぇっそうなのか、ヒーローになりたい奴ってのは全員名誉を求めるもんだと思ってたぜ」
「そりゃ言いすぎだな」
「悪かったな」
何処か軽い少年は笑いながら謝罪をしてくる、それを受け取るとついでに一つ聞きたい事があると言ってきた。構わないと答えると彼はこう聞いてきた―――ヒーローにとっての善とはなんなのかと。
「正義、ねぇ……また難しい事を聞いてくるな」
「一度聞いてみたかったんだよ。俺はさ、個性の関係上で相手の悪意を受けやすくて、それでヒーローも懐疑的な目で見ちまう。ヒーローにとっての正義っていうのは結局どんなものなんだろうなって」
「正義か……また哲学チックな事だな」
「だろ?でも気になっちまうんだよ、ヒーローにはヴィランっていう明確な敵がいる。でもどちらも信念みたいな物があるだろ、結局正義の定義って何だよって」
少年の言葉を受けて剣崎は思わず考え込んだ、正義とは何か。非常に難しく深い言葉だ。しかし、既にある考えを持っていた剣崎は直ぐに返答した。
「そうだな、俺に言わせれば―――正義、それを人に投げ掛けるなんてナンセンスだろ」
「そうなのか?」
「ああ俺はそう思う。考えてみ、人には善性と悪性、等しくそれを持ってる。そんな人類に正義が何かなんて聞く事事態が可笑しい」
「あ~成程そういう考えなのね」
少年は剣崎の言いたい事にある程度の理解を示しながらその話を聞く、それを確かめながら剣崎は続ける。
「実際俺の中に正義なんてモノはないんだよ、俺は―――ただ、自分がそうしたいって欲望を満たす為だけに人を救い続ける」
「……つまりアンタの言う正義っていうのは自分がそうしたいってだけの自己満足って事か?」
「そうだな、結局そんなもんだと思うぞ。誰かを幸せにしたい、悪を挫きたいっていうのも立派な欲望だし」
「……成程ね」
そう言いながら少年は立ち上がりながら海を見つめた、そして先程とは違って清々しい表情を浮かべながら剣崎の手を握って礼を述べた。
「いやぁお陰で結構すっきりしたぜ、参考になったよ剣崎さんよ。俺アンタのファンになったぜ、これから応援させてもらうぜ!!」
「はははっそりゃ有難うってやばい、そろそろ帰らないと……んじゃ、それじゃあね!!」
「おうあんがとよ~♪」
そう言いながら少年が大きく手を振りながら剣崎を見送った、剣崎もそれを受けて駆け足気味になりながら駅へと向かっていくのであった。そして―――残された少年は誰もいなくなった公園で小さく不気味な笑いを浮かべながら暗くなっていく空を見上げる。
「そうか欲望か……そりゃ良い、面白いじゃねぇか……!!あのクソヒーロー共も結局は愚かな欲望に踊らされてるだけの道化ってか!!こりゃ最高だな!!なぁ、そう思うだろ―――キング」
そう言いながら振り向く彼の顔には無数の模様のようなものが浮き立ち、それは意思を持っているかのよう蠢いていた。そしてそんな彼に呼びかけられたキングという者は不気味に笑いながら同じように天を見上げる。そして次の瞬間には―――彼らの姿は夜の闇に溶けていった。