救いのヒーローになりたい俺の約束   作:魔女っ子アルト姫

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生まれた影と陰りの真実

「何これ凄い美味しい!!?野菜の甘みとお肉の芳醇な旨みがルーの中にあふれ出てて凄い美味しさになってる!!?」

「す、凄い……一回母さんと専門店に行って食べた事あるけど、それに匹敵する味だよ剣崎君!!」

「そりゃ良かった、頑張って仕込んだ甲斐があるってもんだ」

「ッ……!!!剣崎、済まんが大盛りのお代わりをしても、構わないだろうか……!?」

「大丈夫大丈夫、ご飯もたくさん炊いてあるからどんどんお代わりしてくれよ」

「アァンなんて美味しいのかしら……幾らでも入っちゃうワアァン!!」

 

期末テストのために開かれた勉強会のお昼、剣崎が作った特製ビーフカレーに舌鼓をする一行。一人暮らしという事もあってか料理スキルも高い剣崎の腕前がフル活用されている為か、カレーの味に思わず感激の言葉を漏らしていく面々。特に麗日と京水は凄い食いついている、常闇は何処か遠慮しつつも美味しさに引かれてお代わりをして、出久もそれにつられる形でお代わりをしに行っている。

 

「でも如何してこんなに美味しいの!?ウチもよく数日分のカレーを纏めて作るけどこんなに美味しくないよ!?」

「大事なのは下拵えさ。カレーは下拵えのやり方一つでも美味しさが変わるんだ、俺の場合はカレー粉から作ってるけど市販のルーでも素材を先に炒めたり、調味料で味を調えて置いたりしておくと変わるんだよ」

「カレー粉から!!?そりゃ美味しいはずッ……!!」

「ランチラッシュのカレー並に美味しいはずよねっ!!」

 

次々と平らげられて行くカレーに笑顔を作っている剣崎、矢張り彼は誰かに尽くしたりする事が喜びになるのかかなりいい笑顔をしている―――しかし、梅雨ちゃんだけはゆっくりとカレーを咀嚼しながら先程の剣崎の表情と声が気になって仕方がなかった。声に現れていた悲しみ、顔に出来ていた影……僅かに時間しか現れていなかったがそれを見逃さなかった梅雨ちゃんとしては酷く不安になる物だった。普段から笑みを絶やさずにいる剣崎から出る物とは思えなかったものだったからだ。

 

「如何したの蛙吹さっ、じゃなくて梅雨ちゃん?」

「口に合わなかったかな?」

「い、いえとっても美味しいわっ。このカレーのコクの秘密はなんなのかしらと思って……」

 

咄嗟に言葉を作りながらゆっくりと食べている事を誤魔化す、それに納得を示す出久達に少々胸を撫で下ろしつつも剣崎を見つめる。

 

「隠し味に摩り下ろした林檎を入れてるんだよ」

「リンゴ、だとっ……!?あのリンゴでここまでのコクが出るのか!!?」

「ああ。リンゴを入れるとさ、フルーティーさが加わって食べやすくなるし味が深くなるんだよ」

「へぇっ知らなかったわぁん……今度試して見ようかしら」

「甘みが強いリンゴだとより良くなるよ、やるときは少しずつ加えながら味見をして調整する良くなるんだよ」

 

と剣崎のカレー作りの豆知識などが披露されながらも、昼食は楽しく美味しく進められていった。結果、仕込んであったカレーは全て食べて貰えて剣崎は笑顔を浮かべて鍋を洗うのであった。

 

「アァン心地良い満腹感だわぁん……いっぱい食べたのに苦しくないって凄いわねぇ」

「ホントだね、凄い食べたのに……」

 

食後のお茶を頂きながら思わず溜息を吐いてしまう出久は京水の言葉に同意しながら、幸福な満足感に満たされていた。大盛りのカレーを3皿も食べたら普通は苦しくなる筈なのに全然そんな事が無い、それほどまでに美味だったからだろうか。

 

「はふぅ……凄い美味しかった……。もうはいらへん……」

「実に美味だった……ああっ舌の上に残ってる旨みにまだ酔いしれているかのようだ……」

 

と麗日と常闇も大満足なようで幸せそうな表情を浮かべている。全員を幸せに出来たと安心と嬉しさを浮かべている剣崎の隣では梅雨ちゃんが洗い物を手伝っている、流石に一人でやるのは大変だろうし美味しいご飯の御礼と言う事らしい。

 

「悪いね梅雨ちゃん、手伝ってもらっちゃって」

「気にしないで剣崎ちゃん、この位お安い御用よ」

 

二人揃って洗い物をしている姿が何処か兄妹のよう……いや何処か夫婦のように見えたのか京水はその姿に若干嫉妬していたが梅雨ちゃんならいいかっというのに落ち着いたのか素直に幸福感に身を落ち着けていた。

 

「ねえっ剣崎ちゃん、後で聞きたい事があるんだけどいいかしら?」

「聞きたい事……?今じゃ駄目なのかい?」

「ええっ多分聞かれない方が良いと思うから」

「……梅雨ちゃんがそういうならそうしようか、勉強会の後ちょっと時間でも取るかい?」

「ええそうしましょう」

 

その後、少々の食休みのあとに再開された勉強会。最後には剣崎が前もってプリントアウトしておいたテスト問題を皆で解いて見て成果の確認などを行ってみた。すると―――

 

「アァァァアアアアンやったわっ!!!苦手な数学が87点ですって!!!苦手なところなんて全部出来てる!!でもボンミスが目立っちゃってるわねぇ……此処を詰めておきたいわね」

「……剣崎、お前の指導のお陰で確かな手応えを得られたッ……!!」

「やったっ苦手な科目が全部80点オーバー!!出久君ありがと~!!」

「いいいいいい、良いんだよ麗日さんっ……!?」

「緑谷ちゃん、顔が凄い事になってるわよ」

「まあ勉強会がいい感じに利いてて安心したよ」

 

どうやら全員勉強した甲斐が確認出来るほどには良い影響が出来たらしい、その後剣崎が家でも出来るようにと復習用の物を持ってくると出久に流石剣崎君準備良すぎ!?という言葉が飛んでくるが、それにはサムズアップで答えたりした。

 

「今日は有難うね剣崎君、本当にためになったし楽しかったよ」

「うんうん苦手なところも出来るようになったしカレーも美味しかったし言うことなし!!」

「初ちゃんってば本当に先生向きかも知れないわよね!!」

「うむ、もらった復習プリントも有効に活用させてもらう」

「よしそれじゃあ今日は解散だ、お疲れ様でした!!」

『お疲れ様でした!!』

「なんか体育祭のオールマイト思い出しちゃった今」

 

と最後は笑顔と笑い声で締めくくられた勉強会、皆が帰っていく中剣崎は家を出ていき海浜公園へと向かって行く。辿り着くと梅雨ちゃんが待っていた。

 

「待たせたかな」

「いいえ、私もさっき来たところだから大丈夫よ」

 

という何処か彼氏彼女のようなやり取りをしながら、二人は夜の帳に包まれている砂浜に立ちながら海を眺めた。夜だが満天の星空の光を海は反射して満天の星空が、上と下にあるという神秘的な光景の中に立ちつくす二人。

 

「それで話って、何かな梅雨ちゃん」

「聞き難い事だけど……剣崎ちゃん、貴方が凄い無理してるように見えたの―――ご両親の話をした時に」

「―――ッ」

 

言葉に詰まる剣崎、梅雨ちゃんは返答に困っている彼を見つめながらも言葉を続ける。

 

「ずっと前にもそう思ったの。ヒーローネームを決める前にプレゼント・マイク先生とミッドナイト先生が家に来てくれた時にご両親の事も出たでしょ?その時にも貴方の青空みたいな笑顔が曇って見えたの、でも今日は特に曇って見えたわ。青空が一瞬で厚い雲に閉ざされた暗い空になったみたいに……」

 

梅雨ちゃんの言葉を聞きながら剣崎は思わず、彼女の洞察力は凄いなと素直に尊敬の意を示しながら何処か嬉しそう(寂しそう)にしながら、空を見上げ、言葉を放つ。

 

「―――やっぱり凄いね梅雨ちゃん……」

「良かったらその……話してくれないかしら……私は剣崎ちゃんの笑顔が好きだから、貴方には笑顔でいて欲しいの」

「……俺の、俺の父さんと母さんは……誰かを救う為に活動する立派な二人だよ。戦災孤児とかを救う活動をしてる……でもある時から帰って来なくなった」

「それって―――」

「―――父さんと母さんにはもう……会えないんだ、絶対に……」


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