静かに波打つ音、静寂の中にある重苦しさの中で梅雨ちゃんは俯きながら悲しそうな表情を浮かべたまま満天の星空を見つめ続けている剣崎を見つめた。父と母にはもう絶対に会えない、それはつまり―――剣崎の両親は亡くなっているという事になるのだろう……そのまま言葉を続けるように話す剣崎は力無く笑っていた。
「俺の父さんは本当に優しくてさ、俺が小さい頃は良く遊んでもらったし俺がヒーローになるって言ったら凄い嬉しそうにしてくれて好きなようにしたらいいって言ってくれた……。母さんは綺麗で温かくて、笑顔が素敵な人だった。そんな二人は良く海外出張とかで日本を離れちゃってて、一緒にいられた時間は少なかった。でもそれでも俺は幸せだった、父さんと母さんの仕事を尊敬してたし二人はその分とっても大きな愛をくれた」
そう言いながら語られていく剣崎の過去、両親は海外で活動を行って恵まれない子供達や戦災孤児などを救い続けていた。元々は二人で行っていた活動も自分が生まれてからは父一人で行っていた、家に中々帰ってこれない父に自分は寂しさを覚えながらも子供ながら仕事なんだからしょうがないと思っていた。そして帰って来た時は父は触れ合えなかった分を取り戻すかのように、いっぱい遊んだりしてくれた。
「俺がそれなりにでかくなった時にさ、母さんも父さんの仕事を手伝う事になったんだ」
「それで、剣崎ちゃんは一人暮らしを……?」
「いやその時は母さんの親戚の人が面倒とか見てくれてさ、寂しくはなかったな。暫く会えなくなってたけどちゃんと帰って来てくれてたし」
元々父と母が出会ったのもお互いに海外で活動が被ったため、そして共に活動して行くうちに惹かれあっていき結婚したとの事。そんな話を親戚から聞いたので一緒に行きたいと思う母の気持ちも理解出来た。寧ろ応援したいとさえ思った、時々恋しくもなったがそれでも我慢すれば父と母に会えた。だから気にもならなかった―――だがある時にそれが狂った。
「俺が小4の時だったかな……家に帰ると親戚が泣き崩れてたんだ、如何したんだって聞くと俺を力いっぱいに抱きしめながら、涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら言ったんだ―――父さんと母さんが死んだって」
「ッ……!!」
あの時ほど、世界から色が失われて行った事もなかった。その頃はちょうど、ヒーローに絶望しオールマイトとの誓いを立てて間も無い頃だった。
『お父さんとお母さんが……もう、帰って来れない……?そんな、訳無いよ。だってこの前出かける時、一緒に遊園地に行くって約束したもん……』
『初……ごめん、ごめん、でもお前のお父さんとお母さんは……!!!』
『お父さんと、お母さんは絶対に約束を、破ったり……っあ、ああっ……!!!!!』
―――事実を否定し、現実から目を反らしながら叫んだ。両親は嘘をつかない、約束を破った事なんてなかった。だから何かの間違い何だ、そうなんだと……しかし幾ら叫んでも親戚の涙がやむ事がなかった。そして次第に自分も理解して行った……父と母はもう、帰って来ないんだと。
「剣崎ちゃん……その、なんて言ったらいいのか……」
「難民キャンプに、現地政府と敵対する武装テロ集団が無差別テロを行ったんだってさ……そこで父さんと母さんは人を逃がす為に必死で動いた、でも―――二人は逃げられなかった。なんとか逃げようとしたらしいけど、テロリストがそれを許さない為に最後は爆弾の爆発に消えたって……」
「ッ……」
梅雨ちゃんがショックを受けたのはどのように両親を失ってしまったのか、という内容ではなく、どんどん冷たくなっていく言葉の温度、それに比例するかのように剣崎の目から色と輝きが失われていく光景だった。無表情の上に冷えた言葉に濁っていく瞳、どれ程の苦しみを味わったのかを目の前に彼を見ればよく分かる。
「遺体すら帰って来なかった……帰って来たのは父さんと母さんが持ってた家族の写真だけだった……他には何も……」
「もう、いいわよ剣崎ちゃん……」
「父さんと母さんは素晴らしい人だ、命を掛けて誰かを救おうと奔走した立派な人だ、あの人達こそ本当のヒーローだ、誇りに思って二人の分まで生きるんだ、それが二人の子供である君の役目だ」
「もういいのよ……剣崎ちゃん……!」
次第に目から流星かと見間違う程に綺麗に流れる涙が溢れだしていく、剣崎にとってどれだけ両親が大きな存在だったのか、大好きな存在だったのかよく分かる瞬間。そして梅雨ちゃんはこんな事を聞いてしまった自分が恨めしく感じられると同時に剣崎の顔を見ていられなくなっていった。それでも彼の口から言葉が止む事は無い。
「誇りに思え、立派な人……確かにそうかもな、正しくヒーローだよなぁっ自分を犠牲にして誰かを救ったんだからなぁ……!!!」
「剣崎ちゃんっ……!!!」
「俺の誇りなのは確かだよ、でも俺は、俺は……もっと父さんと母さんと一緒にいたかったんだ……それだけなんだよ……」
次第に混ざっていく嗚咽、そして遂に決壊してしまったかのように剣崎は号泣しながら片手で顔を抑えるようにしながら必死に食い縛るかのように耐える。それでも耐え切れない、もっと一緒にいたかった父と母はもういない、そんな現実が強く強く圧し掛かってくる。
「もっと一緒にいたかった……俺が、雄英に入った時も一緒に喜んで欲しかった……友達を紹介したかった……」
「もう、もういいのよ、剣崎ちゃん……!!」
零れていく言葉、それらを救い上げるかのように梅雨ちゃんはそっと彼を抱き寄せた。彼女の目からも涙が流れており、剣崎の話に心を傷めていた。自分が聞かなければ彼が抱えている傷を抉らなくて済んだかもしれないのに……という思いもあったが兎に角彼を支えたいと思って抱きしめる。
「俺は、俺はぁぁぁっっ……」
「剣崎ちゃん気持ちは分かるわ、だって誰だって家族と一緒に居たいもの……幾ら立派な人だって言われたって満たされるはずが無いもの……」
「梅雨、ちゃぁんっ……」
「だから、せめて私が、そばにいるから……剣崎ちゃんを支えるから、だから……もうそんなに苦しまないで……」
その言葉に剣崎は驚きながら彼女の顔を見た。そこにあったのは涙があるものの暖かくて優しい笑顔だった、まるで母のような物だった。そんな笑顔と彼女の優しさが自分の心を満たしていくかのように、暖かさを感じていく……。誰かに言って欲しかった言葉、両親の事を褒め称えるのではなく自分自身に言って欲しかった言葉―――傍に居る。そんな言葉を受けると剣崎は唯ひたすらに彼女に感謝の言葉を伝えながら、涙を流し続けた……悲しさの涙が枯れるまで。
「梅雨ちゃん、ごめん待たせちゃったかな」
「ううん全然待ってないわよ、それじゃあ行きましょうか」
「そうだね」
二人一緒に雄英へと登校していく姿が見られるようになったと言う。その時、剣崎と梅雨ちゃんはとてもいい笑顔をするという。