救いのヒーローになりたい俺の約束   作:魔女っ子アルト姫

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試験開幕、困惑の始まり。

あの日以来、剣崎と梅雨ちゃんは何処か親密になっていた。剣崎が抱えてしまっていた物、両親がいない故の寂しさと悲しみ、それを目の当たりにしたからか彼女は剣崎の傍にいるようになった。力になってあげたいという気持ちもあっただろうがそれ以上に、傍に居なければ何時か剣崎が崩れ去ってしまうのでは無いか、という強い強い不安があった。

 

「剣崎ちゃん、此処は如何するのかしら?」

「ああっここはこうするんだよ」

 

剣崎はクラス中からある意味完璧超人に近い印象を受けている、それこそある意味ではオールマイトに近い何かを思われている。それは彼女も同様だった、体育祭で見せつけた圧倒的な実力は確実に不利だと思わせる状況を引っくり返して勝利をもぎ取って来ている。上の万能感のような印象を持たれている。だからこそ彼女は思ったのかもしれない、彼は頼られる事には慣れているがいざという時に誰かを頼れないと。

 

「おぉ~い剣崎ぃぃ~……俺達にも教えてくれよぉ~……」

「はいはい分かった分かった、机持って来い」

「わぁ~い!!有難うケンジャキ~!!」

「ちょっと待って、それなのか俺のニックネーム!?」

 

本人の気質という事もあるだろうが、両親が居なくなってから一人暮らしをしている事もあってか自分で出来る事は自分でやらなければならないという事を強く意識しすぎていると感じた。だから、傍に立って支えて上げなければならない、と梅雨ちゃんは思った。

 

「アァン梅雨ちゃん如何したの?初ちゃんの方ばっかり見て」

「いえね、やっぱり剣崎ちゃんってモテるわねって思ったのよ。男女問わず惹きつける何かがあるみたい」

「アァンそれに付いては同感よ!!」

「ええ。泉ちゃんを見てるとよく分かるもの」

 

そしてそんな風な日々も遂に期末試験へと突入していった。剣崎たちは今日に至るまで勉強会を数回開いて集中的に勉強を行っていることもあってか筆記自体は恙無く突破する事が出来た。勉強会メンバーは試験が終わると思わず笑顔でサムズアップして、確かな手応えを感じた。その後、コスチュームを着用してでの集合が掛けられ、遂に演習試験が始まるのだと緊張した面持ちで集合場所へと集まる。

 

「あれっ鉄?」

「おおっ剣崎さん、お久しぶりです」

 

集合場所には普通科に居る筈の鉄の姿があった、彼は普通のジャージのままだが如何して此処にいるのだろうか。と質問をしようと思ったところで先生方がやって来たので一旦そこまでにしておくが、妙に先生の数が多いと呟きが起こる。

 

「では演習試験を始めていく。この試験でももちろん赤点はあるからな。林間合宿行きたきゃみっともねぇヘマはするな」

「あの相澤先生、それより前になんで鉄が此処に?」

「そうよねえぇん、鉄っちゃんは普通科な筈なのに」

「その件か。鉄 巨躯は体育祭での優秀な成績を踏まえてヒーロー科への編入が許可された。今回はそいつの個性把握テストも兼ねられている」

「へぇっ~良かったわね鉄っちゃん!」

 

と嬉しそうにする京水と笑みを浮かべる鉄、彼も彼で体育祭では3位という優秀な成績を収めている。それらを中心に調査された結果、ヒーロー科への編入が許可されたとの事。既に筆記は合格しているらしく、今回のテストで個性の把握と演習の両方を兼ねるとの事。

 

「それで諸君なら事前に情報を仕入れて何をするかを把握しているかもしれんが、その情報は無駄になった」

「えっ……ロボ無双じゃねぇの!?」

「残念ッ!諸事情があって今回から内容を変更しちゃうのさっ!!」

 

と相澤がマフラーのように巻いている特殊素材製の捕縛武器の中から勢いよく根津校長が飛び出した。試験内容の変更の理由はヴィラン活性化の傾向があるため、より実戦的な内容で対人戦闘・活動を見据えた物へと変更されたという。そしてその内容は……二人一組で教師らとガチバトルをして貰うとの事。

 

「先生達とガチバトル……!?」

「うん、大体あってるね。試験の詳しい概要は対戦相手の先生が試験場で説明するからね、それじゃあチーム分けを発表するよ~」

 

という訳で次々とチームが発表されていく。鉄は京水とペアになって剣崎は自分は一体誰になるのだろうかと思っていたのだが……結局最後まで自分の名前が呼ばれる事がなかった。

 

「……ってあの先生……俺、ボッチなんですけど……」

「ああっごめんごめん忘れてた♪」

「忘れられたっ!?」

「冗談さ冗談、剣崎君は体育祭で優秀な成績を残しているからね。特別な相手とタイマン勝負をしてもらうよ」

「タ、タイマン……!!?」

 

と剣崎のみに発表された別メニューでの試験、思わず不安に思っていると梅雨ちゃんと常闇のぺアが肩を叩いてくる。

 

「大丈夫よ剣崎ちゃん、貴方なら大丈夫。それに私達も応援しているから」

「そうだ剣崎。お前ならば大丈夫だ、真に強き者だ。寧ろプロヒーローの先生とタイマン出来るという機会が与えられたことを誇るべきだ」

「そう、かな……なんか不安だわ」

 

と励ましを受けて取り敢えず、このまま待機するように言われたので皆が次々と試験場へと向かっていく中たった一人だけ残された剣崎は少し寂しい思いをしながら待っていると一台の雄英バスが停車した。開けられた扉からは運転手が試験場まで送るから乗ってくれと言ってくる、それに乗り込むとそのまま試験場へと向かう事になった。

 

「そんじゃ頑張れよエース・ブレイド!!あとサイン有難うな、息子も喜ぶよ!!」

「いえいえ、それじゃあ有難うございました~」

 

と話相手にもなってくれた運転手に礼を言いながら降りる。そこはスタジアムのような試験場、ここで自分の試験が行われるのかと思っていると試験場の入り口から一人の男がゆっくりと歩み寄ってきた。その人物とは……

 

「また会えたな、エース・ブレイド」

「えっあっ橘さん!!?」

 

そこに居たのは人類基盤史研究所の所長でもありそこのヒーローチームの最高責任者でもある橘 朔也であった。一体如何して此処にいるのだろうか。

 

「俺は一応此処の予備の教員でもあるんだ、暇な時で良いから手を貸すという事で君の試験官をする事になった」

「えええっマジですか!?橘さんが俺の相手か……って事ですか」

「そういう事だ、では試験を説明する」

 

試験のルールは制限時間制で時間は1時間。本来は30分なのらしいが、一人な事に影響して変更されているらしい。剣崎の目的は相手に「ハンドカフス」を掛けての拘束、そして試験場からの脱出。実力差がありすぎると判断した場合には応援を呼ぶ為に逃走する事もあり。その場合には設置されているゲートを潜ると逃げ切ったという判断が下される。試験官はハンデとして体重の半分の重りを付けて行う、そして試験官をヴィランそのものだと思って対処する事。

 

「但し、君の場合は私と一対一で向き合った状態で行って貰う。その理由は……始まれば直ぐに分かる」

「……分かりました」

 

剣崎はハンドカフスを受け取ると腰に装着しながら橘と共に試験場へと入っていく。試験場はスポーツなどが行われる大人数収容可能な巨大スタジアム、ここで行われるとしたら剣崎は存分に機動力を生かすことが出来ると一先ず安心する。そしてスタジアムの中央まで来ると橘は振り向きながら言葉を放つ。

 

「―――忘れるところだった、私は君を本気で叩き潰すつもりで挑む。君も本気で挑んでくると良い」

「……了解です」

「本気だ、つまり―――ブレイドとしての力も使えという事だ」

「ブレイド、としての力……ってどういう―――」

 

聞き返そうとしたとき、橘は懐から取り出した物を見て驚愕した。そして橘はそれを腰へと装着する、それは見覚えのあるものだった。カードを入れて自動的に装着されるそれを見間違える筈が無い―――。

 

「そう、本気でだ。君の全てをぶつけて来い」

「たっ橘さんそれって……!!?」

「さあ、行こうか―――変身ッ!!

TURN UP

 

瞬時にして橘の姿が変化する、青い光の壁を通り抜けるとその姿は紅い身体へと変貌しその上から白銀の鎧を纏っている。深碧の瞳がこちらを見つめてくる、言葉を失いそうになっていた。その姿は―――仮面ライダーとしての自分に酷く似通っているのだから。

 

「さあ試験を始めよう。君も変身して掛かって来い」

「ッ―――!!!変身!!!

TURN UP

 

剣崎も思わずその言葉の重圧から身を守るかのように変身を行って、ブレイラウザーを構える。それに合わせるように橘も腰に下げている拳銃のような武器「醒銃ギャレンラウザー」を構える。

 

「ライダーバトル、開始だっ……!!」


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