救いのヒーローになりたい俺の約束   作:魔女っ子アルト姫

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自分を救え、重なる思い。

日が傾き始め、夕暮れの光が差し込む談話室。その中にいる二人の生徒、剣崎 初と蛙吹 梅雨。この二人は酷く近しい距離にあった、それは身体の距離だけではなく心の距離も同様であった。吐息と吐息が混ざり合いそうな距離の中で交わされた唇と唇、その温かさに酔いそうになる中で告げられた言葉に剣崎は動揺を隠す事が出来ずにいた。色付いた紅葉のように赤らめた表情のまま、告げられた言葉は―――剣崎から思考力を奪っていた。

 

「好きよ剣崎ちゃん。私と、ずっと一緒に居て欲しいの。何時までも」

 

その言葉と熱い吐息に酔いかけた意識が戻ってくるが、剣崎は意味が分からなかった。彼女の言葉は理解出来るが理解が追いつかなかった。自分を好いている?一緒にいて欲しい?何時までも……何も分からずまま、思わず声が出てしまった。

 

「梅雨、ちゃん……?そ、そのえっと……俺は、俺は……」

「ごめんなさいいきなりこんな事を言って、でもどうしても伝えたかったの」

 

混乱している剣崎をゆっくりと諭すような落ち着いた言葉を続けながら、彼女は剣崎に抱きついた。柔らかな感触と彼女の体温が身体に伝わっていく。思わず硬直する中で、彼女は続けていく。

 

「―――私は貴方の笑顔が好きだった、明るくて見ている私も元気になるみたいな綺麗な笑顔が大好きだった。そしてそんな貴方に私は可愛いって言われた時からかしら……胸が大きく高鳴ったの」

 

梅雨ちゃんはゆっくりと語りだしていく、如何して自分が告白するに至ったのを。それは剣崎と出会ってから剣崎が当たり前にやってきた事の積み重ねによる物だった、剣崎は誰かに元気と明るさを与える不思議な才能があったのかもしれない。そんな剣崎に徐々に惹かれていったという。

 

「でも、決定的だったのは貴方が仮面ライダーなんじゃないかって思った時からだったの。以前、貴方に私は助けてもらった、その時から仮面ライダーが頭から離れなくなって行ったの。仮面の騎士は、私の憧れになっていったの……前に緑谷ちゃん達と好きなヒーローは誰かって話をした時の事を覚えてるかしら?私、あの時貴方の事をあげようとしたの」

「お、れっ……?」

「うん」

 

ヴィランによって危機に陥った時、何処からともなく現れて自分を救い上げ、手を差し伸べてくれた救いのヒーロー。それが仮面ライダー、剣崎であった。

 

「その後、何度も何度も貴方が仮面ライダーと重なったの。知ってる?ネットには貴方の活躍が動画で上がったりしてて、それを見てたら私には剣崎ちゃんにしか見えなくなっていったの。それでもしかしたら……と思ってた」

「……」

「それでショッピングモールで私を助けてくれた時に貴方だって確信できた時、思ったの。私の憧れと私が好きな人が合致したんだって」

 

彼女は仮面ライダーとして剣崎を疑ってはいた、しかしそれと好意は全く別だったと言う。梅雨ちゃんは普段からの剣崎に惹かれていた、そして憧れと一致した時にそれが激しい好意に変貌してしまったとの事。

 

「それで前に傍にいるって約束したわよね?」

「ああっ忘れもしないよ」

「それだけじゃ、嫌なの……それじゃあ何時か剣崎ちゃんが何処か遠くに行っちゃう気がするの……」

 

抱き付いている彼女の身体が小刻みに震える。寒さゆえではない、恐怖心故だ。

 

「ただひたすらに誰かを救い続けてる、それをずっとやり続けている……。それが悪いなんて言わない、でも、感謝の気持ちと笑顔だけが報酬なんて辛すぎる……。いつか、それじゃあ剣崎ちゃんは壊れちゃう……」

「梅雨、ちゃん……」

「そんなの絶対に嫌っ……」

 

彼女が危惧するのはそれであった。確かに何も受け取らない、助けた人々の笑顔と感謝こそが真の報酬だと言えてしまう今の剣崎は正直言って歪んでしまっている。オールマイトですら何かを受け取っている、それなのに……これでは完全な自己犠牲で自己消費し続けているだけではないか。それでは何時か摩り減って無くなってしまう。それが酷く恐ろしく思えた、何時か、剣崎が誰かの為だけに動く機械の様になってしまう事を……。

 

「如何して、なの剣崎ちゃん……?どうして、貴方はそこまで他人を救い続けようとするの……!?」

「……約束だからだ。大切な人と約束した。その人が俺の光であり続けるならば、俺は救いのヒーローになるって……そういう約束なんだ、からっぽになった剣崎 初を満たしているのはその約束だけなんだ……」

 

 

「……剣崎少年……」

「オールマイト……」

 

談話室を使用しようと思っていたオールマイト、その姿はヒーロー活動を行うときの筋骨隆々の姿。彼曰く"マッスルフォーム"ではなく日常的な姿である骸骨のようにガリガリに痩せている"トゥルーフォーム"の物で彼の隣にいるのは友人であり警察官である塚内と談話室前に居た。談話室が使用中だったので、他の部屋へと移ろうとした時の事、聴力が優れている二人には内部の話声が聞こえてしまい、オールマイトは顔に影を作っていた。

 

「私が、歪めてしまっていたのか……彼を」

「いや君のせいじゃない。実際、彼との約束は彼の生きる希望にもなっている。絶対に間違ってないよ」

「……それでも、彼があれほどまでに活動するようにしてしまったのは私だ……」

 

塚内はオールマイトの事情を知っているだけに、剣崎の事も校長とオールマイトから話されている人物でもある。故に剣崎の事は把握しているが……それを聞いて何故、仮面ライダーが正式なヒーローのスカウトを受けないのかも理解出来た。救いのヒーローであろうとして自分を只管に犠牲にし続ける歪んだ生き方。それはオールマイトが希望と共に与えてしまった歪みきった正義感いや、執着だった。

 

「もっと私が……」

 

塚内もどんな言葉を掛けて良いのか分からなくなって来た時であった―――

 

「何で自分も救っちゃ駄目なの!!?」

 

中から聞こえてきた声に思わず、二人は耳を立ててしまった。

 

 

「何で、何でなの!?剣崎ちゃんは何になりたいの、救いのヒーローじゃないの!?それならなんで自分の事を救っちゃ駄目なの!!?」

 

深くまでに突き刺さってくるような言葉に剣崎は言葉を失った。自分を救う、一度も考えた事もなかった。自分を犠牲してでも誰かを救う、それだけを考えるようにして活動してきた剣崎には誰かを救うという事は自分を犠牲にして他人を救う事でしかなかった。

 

「私のお父さんが言ってたの、お父さんの友達はお医者さんだけどその人も危険な所にまで出向いてけが人を治療するの。その人が一番大切にしているのは自分も救うって事って言ってた。まず、自分を救えなきゃ誰かを救えないって」

「自分を、救う……?」

「自分が死んじゃったらその後、どうやって人を救うの?出来ないでしょ、だからまず自分を助けるの!」

 

自分を助ける、そして助けて命で誰かを助けて救って行く。考えた事もなかった事だった。誰かを救う為なら自分がどんなに糾弾されようが、例え傷ついても構わない、そうして助けた命はきっと輝く。と思っていた剣崎には重く圧し掛かってくる言葉だった。

 

「……俺を助けるか……」

「助ける価値が無いなんて言わないで」

「……ッ」

 

彼女は剣崎が言おうとしている言葉が分かっているかのようにそれを止めた。家族も居ない、帰る場所は常に一人。それならばそれで誰かを救った方が良いというとしたのが彼女には分かっていたようだ。

 

「だから、私が一緒にいる……私は貴方にずっと一緒に居て欲しいの……だから―――」

 

―――自分が待っているから。自分の所に帰ってきて欲しい、自分の為にも帰ってきて欲しい。

 

「―――ッ……。梅雨ちゃん……」

「だから、お願い……」

 

言葉を失う、何を持って発せればいいのか分からなくなって来た。故に、暫しの間、沈黙が続いた。

 

「―――。落ち着いて、話をしたい。いいかな梅雨ちゃん」

「ええ勿論」

 

「俺と一緒に居てくれるの?」

「うん」

 

「ずっと?」

「ずっと、結婚を前提に付き合って欲しいの」

 

「傍に居てくれるの?」

「傍にいるんじゃないわ。ずっと一緒にいるの、それで貴方の帰る場所になる」

 

「俺は、違法自警者だよ」

「貴方は貴方よ、それに愛に理由なんて無粋よ」

 

「一緒に居てくれるって、具体的にはどんな風に居てくれるの?」

「貴方が望むがままよ」

 

「……俺、交際経験ないから苦労するよ」

「私だってそうよ?だからお互いに気遣いあって、譲り合っていきましょう」

 

「梅雨ちゃん……一つ、約束して」

「ええいいわよ」

「……普通内容を聞くもんじゃないかい?」

「剣崎ちゃんなら変な内容じゃないって分かるもの」

「たぶん変だよ、それに重い」

「大丈夫、言ってみて」

 

 

剣崎は真っ直ぐと彼女の顔を見ながら問った。

 

「その、毎日好きって言ってくれる?」

「大丈夫、毎日言うわ。大好きよ」

 

そう言うともう一度梅雨ちゃんはキスをした、それに驚く剣崎だが直ぐに目を閉じてそれを受け入れた。お互いに初めてな深いキスだった。




オール「ふふふっ青春してたな、剣崎少年と蛙吹少女」

塚内「いやぁついついニヤニヤしちゃったな。あれなら大丈夫だな剣崎君も」

オール「ああ、蛙吹少女なら安心だ。二人三脚で歩いていくだろうな」

塚内「なあ、これから飲みにいかないか?」

オール「いいなぁ行こう行こう」

あれ、梅雨ちゃん若干、愛が重い?

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