「おはよう剣崎ちゃん、今日からの林間合宿楽しみね」
「ああっそうだね。今日はあんまりよく眠れなかったよ、楽しみでさ」
「あらっ結構可愛い所もあるのね、膝でも貸そうかしら?」
「勘弁してくれ、皆に見られたら恥ずかしいよ。せめて二人っきりの時にしてよ」
遂に訪れた林間合宿の当日、剣崎は梅雨ちゃんと約束をして共に雄英ヘと向かっていた。互いに笑顔を向け合いながらの道すがらは空いている手を互いに少しぶつけ合いながらも、次第に絡み合って恋人つなぎへとなってそのまま向かっていく。恋人同士へとなった二人の距離は更に接近していた、言葉の距離だけではなく心の距離が限りなく零に近い物へとなっていた。
「私ったらもう剣崎ちゃんの魅力にメロメロよ?」
「ちょ、ちょっと梅雨ちゃん!?」
「そうよね、今日の分―――大好きよ剣崎ちゃん」
「……それを使って誤魔化さないでよ」
誰かに聞かれるんじゃないかとひやひやしている剣崎を尻目に耳打ちで約束である言葉を告げられると、剣崎は何も言えなくなってしまい赤くなった顔を隠すようにしながら道を急ぐように歩く速度を早める。そんな彼氏に笑みを浮かべながらその背中を追いかけて隣に立って、幸せな表情を作る梅雨ちゃん。集合場所に到着するとそのまま荷物を預けて、バスへと乗り込んでいく。
「アァン剣崎ちゃんおはよう、梅雨ちゃんもおっは~」
「おはよう泉ちゃん。今日も元気そうね」
「アァン勿論、私ってば毎日元気よん♪」
「そりゃ羨ましい事だ。鉄もおはよ」
「ああ、おはよう剣崎さん」
京水もその幼馴染である鉄も確りとバスに乗っていた。鉄はその巨体ゆえに一番後ろの席固定らしいが、本人は余り気にしていないらしい。それよりも林間合宿にワクワクを募らせているらしい。
「そう言えば、鉄ちゃんのヒーローネームってどうなるの?」
「俺はメタルヒーロー・アイアンジャイアントって名前にしたよ」
「名が体を現す。テイルマンみたいだな」
と視線を向けた先には尾白が笑っていた、どうやら悩んでいるときに尾白の名前を聞いた時にそこまで悩む必要なんてなく自分らしく分かりやすい名前がいいんだと思ったらしく純粋に分かりやすさ重視にしたらしい。それもそれでいい名前だと語り合っているうちにバスは出発していき遂に林間合宿へと向かっていく事になった。バスの中は非常ににぎやかで楽しげな雰囲気に包まれている、まるで遠足に行く子供のようだ。
「よし全員バスから降りろ」
相澤からの指示を受けて、とある崖近くの場所に停車したバス。降りてみるとそこは別段パーキングエリアという訳でもないし、景色としては森が見えるだけの高台。2組のバスも見当たらない、どういう事なのかと思っていると背後から相澤の名前を呼ぶ声がする。そちらへ向いてみると……
「煌めく眼でロックオン!!」
「キュートにキャットにスティンガー!!」
「「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!」
「今回お世話になるプロヒーロー『プッシーキャッツ』の皆さんだ」
見事なポーズを決めながらもヒーローらしい口上を述べる二人の綺麗な女性がそこに居た、そんなヒーローに剣崎も見覚えがあり名前を言おうとした瞬間、クラス一のヒーローマニアと大ファンが食いついた。
「連名事務所を構える4名一チームのヒーロー集団!!」
「山岳救助を得意とする超優秀なヒーローチームよ!!私大ファンなの!!」
「キャリアはもう12年にもなるベテランチーム―――」
とデクが言おうとした瞬間、金髪の方の女性と京水が同時に頭へと手をやった。
「心は18ッ!!!」
「緑谷ちゃん、レディに対してそんな事は言っちゃだめよぉ?」
「「心はっ!?」」
「じゅ、18!!」
「「宜しい!!」」
と何処か脅迫めいた警告が終わると京水と金髪の女性、ピクシーボブと何処か熱い握手を交わすのであった。京水もそっち系故に女性の悩みやらは普通の男以上に読み取れる、という奴だろうか……。そんな時もう一人、マンダレイが森の奥にある山を指差しながらいった。
「あんたらの宿泊施設はあの山のふもとね」
『遠っ!?』
それでは如何して態々こんな所にバスを停車させたのか、その時剣崎は常に型破りで自由な雄英の事を思い出した。そしてこの場にいるヒーローである『ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ』の一人、ピクシーボブの個性を思い出し、大きな声を張り上げた。
「全員気を付けろ、もう合宿は始まってるんだ!!!ピクシーボブから離れろ!!!」
「流石は保須市で多くの人を助けただけの事はあるわね、でも時既に遅しって奴」
瞬間、ピクシーボブが地面へと手を伸ばした時、咄嗟に隣にいた梅雨ちゃんを抱き抱えるとそのまま脚力を強化してそのまま跳躍する。地面は急に波立つとそのまま土砂崩れのように出久達を飲み込んでそのまま彼らを崖下ヘと纏めて落としていく。
「―――悪いね諸君、既に、合宿は―――始まってる」